盾役として異世界転生したけど、無敵の盾で無双します

日比谷ナオキ

文字の大きさ
上 下
77 / 82
番外編 サブストーリー

26話「最強の盾、再来」

しおりを挟む
巻きあがる煙。爆煙が空へ立ち上り、もうもうと辺りへと散漫していく。四人の魔力を集めた必殺技。それは、間違いなくアクィオンの身体へと届いていた。

…はずだった。

「今のは効いたぞ。流石はここまで魔戒共と渡り合ってきただけの事はある。」

「なっ…」

だが。アクィオンは、軽いかすり傷を作っているだけで、まるで効いている様子が無かった。あれだけの魔力だ。咄嗟の防御では、ダメージは避けられなかったはずだ。

「不思議そうな顔をしているな。…教えてやろう。我が力、紅蓮ノ獅子ムスペルヘイムを。」

「紅蓮の獅子ですって…!」

ユリネは驚いた。ムスペルヘイム。本来ならば、この世界に存在する地獄の意味を冠する名前だ。だが、アクィオンはそれを、自分の魔法であると名乗った。

「我が魔力は人の体内では抑えきれぬ程の力を持っていてな。溢れ切った魔力は我が周りへと漂い、紅蓮の獅子として、我が鎧へと転じているのだよ。」

アクィオンはそう言うと、手を腰の高さ程にまで持ってきて、そっと開いた。すると、彼の背後に、炎で作り上げられた獅子が浮かび上がったのだ。

「そ…そんな…まさか…!」

それを見て、ユリネは膝を落とす。目の前に立っているこの男が、そんなレベルに達する程の魔力を持っていたとは。いくら常人を脱した自分達でも、とても敵う相手には思えない。

「そしてこの炎は、逆に攻撃に転じる際に使用する事も可能だ。その意味がわかるか?」

言うなれば、死刑宣告。自分達四人よりも、遥かに上の魔力を持った者が、そう放つのだ。そうとるより他に無いだろう。

「み、皆さん!攻撃が来ます!」

「ええっ!わかってるわよ!」

────ポンポン!

トレファが持ち味の神速を活かして、高速で魔法陣を組み上げる。四属性の中で、一番アクィオンに有利なのが彼女だ。

『アクアヴェール』

────ドッパァァァッ!

巨大な水の壁。それは人知でどうこう出来るレベルよりも遥かに上であり、もはや魔法の域を出て、禁術レベルにまで達していた。

しかし。

「無意味だ。そんな水で…!」

────ゴォゥッ!

紅蓮の獅子が放たれる。炎は怒涛の勢いで流れる水を一瞬で突き破り、トレファ達の方へと押し寄せていく。

「しまった…!」

「喰らい尽くせ!紅蓮の獅子!」

────キィィィィン!

だが。

その時だった。


3人の耳によく聞きなれた、ある音が鳴り響いた。

「えっ…!」

「あっ…!」

「…!」

紅蓮の獅子はその牙を翻し、怒涛の勢いでアクィオンの方へと迫っていく。アクィオンは驚いてその炎を振り払ったが、炎の先には、信じられない人物が立っていた。

「ば、馬鹿な…貴様は…!」

「悪いな、皆。俺がいない間に、色々と面倒な事になっちまったみたいだな。」

懐かしい声が。3人の耳に届く。とても大きく、頼もしく、力強い言葉。誰よりも近くで戦い、そばで過ごした彼が。今帰ってきた。

「トモヤさん!」

スフレは嬉しくて、状況も忘れてトモヤへと抱きつく。トモヤは振り返る事無く、そっとスフレの事を撫でて、呟いた。

「一旦引くぞ。今の俺達じゃ、あいつには勝てない。」

「えっ…!?」



『防衛術式:深霧逃賽』



トモヤの口から放たれた驚くべき言葉とほぼ同時に、盾からは煙が放たれ、濃霧のごとく変化してトモヤ達の姿が消える。

「…逃げたか。厄介な事になったな。まさかあの男が着くことになるとは。」

アクィオンはさも忌々しそうに呟き、開けられた穴を見下ろした。

「…これは、あれを利用する事もあるかもしれまいて。」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...