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番外編 サブストーリー

23話「バベルの塔」

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「えーっ!ユリネさんが一人であの男の人を倒したんですか!?」

「凄いじゃないユリネちゃん!もしかして、魔法少女になれたとか!?」

と、ワイワイ囃し立てる仲間達。三人は気を取り戻してから、事の経緯をアルケリオ達から聞いたのだ。

「……」

イチゴもそれを聞いた時は大変嬉しそうであったが、今彼女はそれとは他に気になる事があった。

「うん、そうなの。私、魔法少女になれたんだ!」

「(おかしいな…ユリネはあんな喋り方だったか…?)」

アルケリオが感じていた違和感。そして、今イチゴが感じている疑問。それは彼女の喋り方だ。イチゴから見た彼女は、本来もう少し謙虚な雰囲気が漂う少女であった。しかし今は、抑揚を付けてはきはきと話している。少し違和感があるのだ。

────

『…失礼ですが、ユリネ様は記憶喪失だったのでは御座いませんか?』

「…気付かれちゃった。実は私は、記憶が無いの。正確には、物心付いた頃には、もう魔物が側にいた。最初から平和な世界に、私は生まれたの。それより前の記憶なんて無い。なんで武術の心得があるのかなんて知らない。けど、皆が普通に接してくれるから、私は『ユリネ』で居ることができた。」

『…やはり。ユリネ様、率直に言わせて貰いましょう。貴女こそが、この世界にあるべき本来の「魔法少女」です。』

「そうなんだ。…いや、何となく気付いていたわ。何もかも、タイミングが良すぎたもの。記憶を失うタイミングも。アクィオンに襲われた時も。どうして洗脳されてしまったのかも。全部わかったわ。」

『…左様ですか。では、貴女はこの時代の流れを受け入れると。』

「ええ。…その方が、きっと『ユリネ』のためにもなる。私は、私なりにこの子を支えるわ。」

『承知致しました。…どうか、正しい道を進ませてあげて下さい。』

────

「ユリネ」と、「ユリネの中の意識」。その二つの人格が、彼女の中に生まれていたのだ。だからこそ、話し方に違和感があった。だが、それを知るのはユリネと、本来の契約者たるアルケリオのみ。

「そういうわけだから、次はアクィオン達との決戦に備えて、特訓をしておこうかなって思ったの。」

「うんうん、それが良いですね!明日から、特訓していきましょうか!」

和気藹々と談話が進み、少しずつ月日は流れていく。スフレ達は自分達の魔法少女の力をそれぞれ伸ばしながら、決戦の日へと備えた。

────

そして、運命の日。スフレ達は特訓を終え、アクィオンの討伐へと向かう事を決意した。魔戒を操り、魔物達を苦しめる傍若無人な暴君。それを今、魔法少女達が追い払う時が来たのだ。

「いよいよ決戦ですね。…皆さん、準備は良いですか?」

「もちろんよ。さっさと終わらせて、街でスイーツでも食べたいわね。」

「トレファは気楽だな。…だが、私も準備万端だ。」

「私とアルケリオも準備万端だよ。いつでも行ける感じ。」

仲間達もそれぞれ意気込み、決戦への用意は周到と見える。ユリネの口調は、幼げのある本来の「ユリネ」と、「魔法少女の意思」とが融合し合った話し方になっている。

「では、行きましょうか!アクィオンの城へ!」


────


スジンが上空から城を見下ろすと、無数の敵がうじゃうじゃと城の周囲をおおっている。アクィオンに対抗する敵、と言うよりは、アクィオンの城の兵士だろう。柱全てが壊された事もあり、警戒態勢を敷いているのだろう。

「す、すごい数ね…大丈夫かしら…?」

「なに、奴らは数のうちには入らないさ。なあ、スジン。」

スジンはぐるる!と鳴いて答える。竜騎士のスキル、覇天によって、格下の相手は身動きすら取れなくなる。ならば、倒すべき相手は城の中にいる猛者と、アクィオンのみだ。

「じゃあ、私達はお城の中に特攻する感じかな?」

「そうなるわね。スフレちゃん、門前の敵は任せるわよ。私とユリネで、親玉を探し当てるわ。」

「お願いします!」

城の形は、古代文明を彷彿とさせるバベルの塔そのもの。天へと届くようなこの巨大な城の何処かに、アクィオンが潜んでいるはずだ。

「作戦は決まったな。よし、決行だ!」

「ええ!」

「うん!」

「はい!」


こうして、魔法少女達とアクィオンとの戦いが幕を開けた。
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