盾役として異世界転生したけど、無敵の盾で無双します

日比谷ナオキ

文字の大きさ
上 下
48 / 82

47話「守護者と新魔王」

しおりを挟む
「さあ、始めようぜ。」

土煙が晴れ、ゆっくりと向かい合う二人の猛者。全てを決める頂上決戦が、今幕を開ける。

「はっはっは。ここまで来れたことは褒めて遣わすわ。でも人間、あなたは私達には勝てない。何故かわかるかしら?」

「分かりたくもないな。いや、理由があったとしても、覆してやるよ。」

トモヤはそう言うと、盾を構えて前へ出る。魔王もまた、余裕そうに歩きながらトモヤを迎え撃つ。ピタリと、空気が静止したかと思うと、その次の瞬間から凄まじい猛攻が繰り広げられた。


────ドガアアアアアン!!!!


一瞬。認識できるか出来ないかの一瞬の内に、凄まじい爆発が当たりを包み込む。その威力は冒険者達の誰もが経験した事の無い、恐怖の攻撃だった。それでもトモヤはそれを受け流し、怒涛の反撃を繰り出す。

────ズガアアアアン!!

攻撃。攻撃。攻撃。無限に連なる連鎖にも思える攻撃が、何十分も撃ち込まれる。闇の魔王。そして無敵の盾を持つトモヤ。互いのレベルは、共に世界最強。勾配する実力は互いの力を打ち消し合い、その戦いを長引かせる。

「はぁ…はぁ…」

「…」

体力勝負となれば、トモヤも負けてはいない。だが、魔王は魔界を統治する王。そのステータスは、全ての魔物よりも遥かに高い。人間と比べるなど、最早おこがましいレベルだろう。

────ガシャコン!

『シャイニングブレード︰エクスブロー』

────カアアアアアアアッ!!!

スフレとイチゴの合わせ技。一人で再現するため、少しだけ威力は落ちるが、それでもあの巨大な魔物の装甲を打ち砕いた光の斬撃。半端な威力ではないはずだ。

「弱いわね。」

────斬ッ!!

だが。魔王はそれを片手で受け止めた。ぷすぷすと煙が巻上がるが、皮膚が少し焦げただけで全くダメージは通っていない。

「くっ…!」

「はっ!」

────カッ!

閃光が瞬く。

────ドスッ!

「がっ…!」

貫かれる肩。黒い閃光が後ろへ飛び交い、地面を抉って消滅する。トモヤの鋼鉄の体をも貫く破壊の魔力。それがどれほどのものか、砕かれ、どす黒く変色した地面が見事に物語っていた。

「ぐぅ…ぅ…!」

────ドスドスドスッ!!

「がぁっ!?」

手も足も出ない。無数の閃光が何度も何度も身体を貫き、そこから血が吹き出していく。生命とは脆いもので、弱れば弱るほど、動く事が出来なくなる。既にトモヤに、立ち上がるほどの力は無い。だが魔王は手を緩めない。彼が人類の希望であるなら、徹底的に叩き潰さねばならない。

「ぐ…ぁ…っ…!」

「もう十分に痛め付けたわね。…さてトモヤ。ひとつ問おうかしら。アナタはこの世界に来て…楽しかったかしら?」

「何を…言って……」

「…貴方のその歪な力、どうせ女神のものでしょう。私はアナタを転生者だと睨んでいるのよ。違うかしら?」

「……」

違わない。確かにトモヤは、女神の力を手に入れて、この世界に転生した。

「だと思った。…楽しいでしょうね。努力もしないで、楽に力を手に入れて、皆からキャーキャー言われて、持ち上げられて。…ああ、本当に羨ましいわ。人間に生まれるというのは。」

サリィはひとつ、ため息をついた。何もかもを知っているかの様な口調で、再びトモヤへと語りかける。

「ねえ知ってる?トモヤ、私も転生者なのよ。アナタと同じ世界から来た…ね。」

「…嘘だ…異世界転生は正しい心の者しか…」

「ええ。私は正しかった。でもね、生まれた先が狂っていたのよ。魔界の王、魔王ですって。笑っちゃうわよね。生まれた時から、他人に忌み嫌われる存在にならなくちゃいけないなんて。生まれた時から悪と呼ばれ、人々に恨まれ…そんな所に生まれて、心が歪まないとでも思うのかしら。お気楽な女神様。」

そう言うと、サリィはトモヤの瞳の中を見据える。彼女が語りかけているのは、トモヤ自身と、その奥に潜んでいる女神。

「そうだトモヤ。私が転生させられた理由、教えてあげようかしら?」

「そんなこと…聞く必要は…」

「必要はあるのよ。トモヤ。アナタを転生させたテューリエ。彼女は私になんて言ったと思う?…『正義の心を持つ者達を救済するために、必要悪を作らないといけないのです。あなたは、その必要悪である魔物の王になってもらいたいのです。』…よ。」

「…そん…な…!?」

ありえない話だが。テューリエは、確かに正しい者を救う為に、この世界に彼等を転生させていた。彼等の目的は、「正しい事をする」だろう。そして、現にトモヤは正義の使者として、冒険者達の台頭に立っている。だが、それは仮初の正義だった。

「必要悪ですって。笑わせるわよね。…人間からしたらバケモノでも…私からしたら大切な仲間なのよ。家族なのよ。それを身勝手に人間に殺されて、馬鹿な親父がヘラヘラ笑ってそれを見過ごそうだなんて。可笑しいにも程があるじゃない!」

「っ…だけど…魔物もまた、沢山の人間を殺した!身勝手なのはお互い様だ!…だから…協定を結ぶ事にしたんじゃないか!」

「ふーん。女神様から必要悪だと断言された私達魔物が…?何がお互い様よ。悪として生み出されて、悪として倒される。私達はお話のキャラクターでは無いのよ!魔物も生きている!だから…こんな狂った世界を支配して…私の世界に塗り替えてやるの!魔物が苦しまずに生きていける世界を!」

彼女も、根底は優しい人物だった。大切な仲間が苦しんでいるから、どうにか助けたいと願っていた。そして、やはり魔王だ。彼女は、自分勝手な様に思えるけれど、しっかり魔物の事を考えている。そして、やっぱり、心の底では、平和を願っている。狂った形でも、平和を手に入れようとしている。

「…だったら…尚更…倒れられ無いな…」

「…まだ立ち上がるのかしら?…勝ち目は無いのに。」

「当たり前だ…俺だって…お前だって…結局平和が欲しいんだろ。だったらお前を認めさせて…平和な世界を手に入れる…!」

「…強がりを。消えろッ!」

────カッ!

────キィィン!

しかし。そのレーザーはトモヤに届く事無く、虚空へとかき消された。引き裂いたのは、魔剣ドゥリンダナ。この世界へと生み出された、もう一人の「勇者」。彼もまた、魔王の元へと辿り着いていた。

「あら、アナタは…ディアナの使者ね。」

「んな事はどうでもいい。さっさと始めるぞ!」

「短気ね。そんなんだから、破壊に目をつけられるのよ。」

────ブォン!

返事よりも早く、ドゥリンダナの斬撃が空を斬る。誰よりも早く、力強い攻撃が、幾重にも重なって魔王へと迫っていく。

「甘い甘い。」

だが。魔王はそれを余裕で躱すと、ヤマトを倒すべく、腕に魔力を集めて行く。単純な暴力。言うなれば、拳に魔法でブーストをかけている。

「はああっ!」

「遅い。」

────ドゥッ!!

…と。拳がヤマトに打ち付けられる。ヤマトは血を吐き出しながら、ドサッとその場に倒れ込む。渾身の一撃。恐ろしい程の衝撃が身体を走り、ヤマトは激痛に悶え苦しむ。

「全く。…」

「…くっ…はぁ…はぁ…」

だが。その間に、トモヤは何とか立ち上がった。諦めない。たとえ勝ち目がゼロだとしても、最後まで足掻き続けてみせる。そう決めたのだから。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...