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44話「新魔王襲来」

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ふざけた出だしを乗り越え、ようやく本題へと移る二人。互いに緊張感を抱え、ゆっくりとテーブルに向かい合う。世界の命運を決める運命の瞬間。ここで協定が結ばれれば、世界は改めて真の平和を手に入れることが出来るだろう。とは言ってもお互いに既に協定は飲み込むつもり。だとすれば、もうほとんど平和を手にしたも同然である。

「…私達魔王軍の進言、請け負って頂けるか?」

「勿論だとも。俺達も殺し合いがしたい訳じゃ無いしな。喜んで受け入れよう。」

だからこそ、二人の会話はスムーズに進み、魔王はトモヤとも親しげに言葉に躱す間柄になっていた。これなら、魔王軍とも簡単に仲良くなれるだろう。冒険者達は、希望と期待を胸に、その一部始終を見つめていた。…だが。

「…よし。ではこの紙にサインをしてほしい。これさえあれば、人間達も安心してくれるからな。」

「わかった。…これで、本当に平和を築けるのだな…」

目の前に置かれた用紙。これにサインするだけで、何百年と続いてきた負の連鎖は終了する。魔物達も。人間に恨みを抱いている者達はいるだろう。だが、人間側もまた、その手の者達を納得させた上で、ここに来ているのだろう。だとすれば。

「…待ちなさいよ。クソ親父。」

「なっ…!?」

「その声は…サリィ!?」

とすんと。気配も無く二人を隔てるテーブルにコツンとハイヒールを置く少女。かかとの部分で紙を引き裂いており、サインが書けなくなっていた。

「だ、誰だっ…!」

「…貴方がトモヤね。初めまして。私は魔界を統治する魔界の王!魔王サリィ様よ!」

「魔王…っ?ど、どういうことだ…!?」

「…私の娘だ。次世代の魔王として君臨する予定だったのだが…今回の条約を決めるまでは王座につかぬ様にしてきたのだ。」

何故王座につかせなかったのか。トモヤには直ぐにわかった。デスぺルドが語っていた好戦的な次世代の魔王。それがこの娘であると言うことが何となく繋がったからだ。もし、この娘が魔王の座に付けば人類と魔界はどうなるのか。言わなくてもわかるだろう。

「黙ってなさいクソ親父。魔王はこの私よ。…さてトモヤ。私は平和条約を結ぶなんて甘い事はしない。私は既に全軍侵攻を始めたわ。もうあと数時間もすれば、この町に辿り着くんじゃ無いかしら?」

「なっ…!何を馬鹿な事を…!そんな事をすれば、魔物達は打ち滅ぼされるぞ!」

「うるさいのよクソ親父。…平和だなんだ。そんな事言って、今の立場に甘んじるつもり?魔物だけが不当に押し潰される世界がお望みで?」

「違う!そうではない!それは女神の意思だ!我々は平和を望まねばならないのだ!人類と協定を結び…共に生きていく!それがさらなる発展に繋がるのではないか!」

「今更遅いわよ。魔物達は復讐に飢えてる。この大陸を支配して、このまま人類を攻めて落として私が魔物達の平和の世界を手に入れる!」

「く…っ…トモヤ、すまないが、冒険者達に伝えてくれ。…協定は中止だ、魔物達が責めてくる…と。」

魔王は心底辛そうに、トモヤに向かって協定を中止する旨を伝える。トモヤは戸惑ったが、このまま何も言わないままでは、ハルバトルソは攻め落とされてしまう。席を立ち、皆の元へと向かおうとする。

「待ちなさいトモヤ。…貴方はこの街のリーダーてでしょうし…1度だけチャンスをあげる。魔王軍が到着したら、表門に来なさい。そこで、私達と戦うか、降伏するか。決めなさい。降伏すれば、殺さないでおいてあげるわよ。」

「……わかった。」

降伏する。それが何を意味するのかは、明白だった。人間は全て根絶やしにされ、この町は滅ぼされるだろう。だからこそ、道はひとつしかなかった。魔王に抗い、魔王軍を討ち滅ぼす。そうするより他に、仕方が無かった。

「トモヤさーん!どうしたんですか!?」

「ああ、スフレ。皆…実はな。…」

トモヤは全てを話した。魔王自身は、平和の為に協力してくれるという事。そして、その娘であるサリィが、魔王軍を既にこの町に向けて進めてしまっていること。仲間達は、それに畏怖した。勝ち目のない戦いが、目の前に広がっていたからだ。

「…逃げ出したかったら、町の人達と一緒に逃げてくれ。俺は戦うことを強いたりはしない。」

冒険者達は、怯えていた。しかし、もう逃げようだなんて、考える事はしなかった。勝ち目のない強敵でも立ち向かう。もうその決意は、揺らがなかった。

「ふふ。どうやら、仲間達も私達と同じ考えなようだぞ。トモヤ。」

「そうみたいね。ならどうするか…トモヤはもう分かってるんじゃ無いかしら?」

「ですね!トモヤさん、皆に指示をお願いします!」

「…ああ。…皆……勝つぞ!」



「「「「「おおおーーっ!!!!」」」」」
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