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39話「お宝争奪戦」

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それから。四人は海鮮料理を平らげ、ダンジョンに向かう船へと乗り込んでいた。大砲が積み込まれた如何にも大航海時代風の船で、羅針盤や紙製の地図など、ロマン溢れる雰囲気の作りになっている。

「そう言えば、イチゴさん。スジンちゃんはどうしたんですか?馬車に乗ってた時から見てませんが…」

「ああ、スジンは置いて来た。だ…だ…だんじょん…は基本的に地下に生成されているだろう。だから、空を飛ぶ竜とは相性が悪いんだ。」

「はは~。納得です。…竜がいなくても竜騎士なんでしょうか…」

「うむ。まあそこはあまり気にするな。」

「了解です~」

実はイチゴもラクレスに全く同じ質問をしていたのは内緒。船は荒波に揉まれ押され、ゆっくりと北に海里を進めて行く。

「おぇぇ…気持ち悪いわ…」

「おいおい、大丈夫か…?」

船べりに乗って、ゲロゲロと何かを海にぶちまけるトレファ。の、背中をさすさす摩っているトモヤ。四人の中で、船酔いしたのは彼女だけの様だ。水の上は歩けたのに船の上はダメとはどういう原理なのか。

「うぷっ…酔い止めの薬とか無いかしら…」

「フェシリア達の店には売ってなかったな。…そもそも開発されて無いんじゃないか?」

「そ、そうよね~…げげ~…」

一応、トモヤの元いた世界にはそういう類いの薬はあるが、トモヤはそんな薬の成分表まで一々読んじゃいないし、材料があったところで製法が分からない。よって考えるだけ無駄である。

「…そういや、海も流れなんだし、踊りで制圧出来たりしないのか?」

「やっても良いけど…強引に流れを引き寄せれば、その分何処か他の場所が割を食うのよね…なるべく自然に合わせた方が良いのよ…げろげろ……」

どぽどぽと汚い擬音と共に吐瀉物を海に撒き散らしまくるトレファ。どうしようも無いか…とトモヤが諦めかけたその時、ある名案がトモヤの頭に浮かぶ。

「そうだトレファ。ちょっとじっとしててくれるか?」

「ええ…?良いわよ…?うげ…」

「よし、そのままそのまま…」

トレファの身体を起こして、じーっと顔を覗き込むトモヤ。突然の急接近に、トレファは思わず顔を赤らめてしまう。

「えっ、ど、どうしたのトモヤ…?」

「じっとしててな。」

すっと、首元に手を当てるトモヤ。周りには誰もいない。荒れ狂う波の音だけが辺りに谺響するばかりで、すっかり二人きりの空間が出来上がっていた。そのあまりにもラブドラマ的な空間に、トレファは益々混乱してくる。

「ちょ、ちょっと…何をする気…!?」

今にもゆだってしまいそうなくらい、顔を赤くするトレファ。トモヤはゆっくりと顔を近付けて…

────ちょん。

と、トレファの額を指でつついた。すると、トレファは吐き気がすうっと引いてきて、途端に気分が良くなり始めた。顔を真っ赤にしたまま、自分の変化に驚く。

「えっ…!?ど、どうなってるのかしら…?」

「補助魔法でトレファの状態変化を少し弄ってみたんだ。効果あったみたいだな。」

「状態変化を…?」

「ステータスワップって言う守護術式だ。下がっているステータスを逆に上昇状態にする事が出来るんだ。トレファは今酔っているから、使ったら逆に良くなるんじゃ無いかって思ってな。どうだ?もう酔ったりしないだろ?」

「…ええ。さっきまで酔ってたのが嘘みたい…」

トレファは軽く動いてみるが、酔う所かいつもより早く動くことすらできる。

「良かった。困ったらまた呼んでくれよ。守護術式なら何度でも使えるからな。」

「ありがとう。またお願いするわ。…」

トレファは自分の事について考えていた。酔っている時、トモヤに背中を触られていたのに特に何も不快な思いはしなかったし、顔を近付けられても嫌どころか満更でもない感じで彼を見てしまっていた。つまるところ、自分はトモヤにホの字なんではないかと、考えてしまっていたからだ。

「(私がトモヤを…?…あ、有り得なくは無いわね…トモヤってなんだかんだイケてるし…)」

否定しようとすればするだけ、肯定になってしまっているトレファだった。

────

「ヤロー共!突撃だー!」

「サーイエッサー!」

と、大声を上げながら洞窟へと突撃していくサラ海賊団。人数的な兵士の量を考えれば、その辺の小国と大差ないが、恐るべきはその団結力と判断力。緊迫した状況が常に続く航海。海賊として成功を収めるには、卓越した状況判断力が必要不可欠となる。例えばそう。

────ザンッ!

「ぐああーっ!」

仲間の一人が、ダンジョンの魔物に切り裂かれ、重傷を負う。すると。

「トバリを下げろ!タカサゴ、カバーだ!」

「うい!」

サラが素早く指示を出し、控えの海賊兵とその場を入れ替える。海賊達は陣形を保ったまま、入り組んだダンジョンを凄まじいペースで突破していく。

「よしお前ら!その調子だ!」

「「おー!」」

勇猛果敢。そして強力。サラの海賊部隊は恐れる事を知らぬ獣のように、地下へ地下へとなだれ込んでいく。…で、その後ろを悠々と歩くのが、トモヤ達のパーティ。罠や魔物は全て海賊団が引き受けてしまっているため、ほとんど散歩と変わりない。

「なあ、本当に良いのか…?調査するのが仕事なんだろ?」

「良いのよ。彼女らだって、その気になれば私達を盾に出来たでしょうし。それでも先に進むってことは、盾にしても良いですよって言ってるようなものじゃない。利用しない手は無いわ。」

とんでもない持論に唖然とするメンバー一員だったが、まあお陰様でどんどん進めてる訳だから文句は言わない事にする。ひとしきり進んだ所で、突如目の前の海賊達の足がピタリと止まる。

「あれ?止まったぞ?」

「どうしたんでしょうか…?」

スフレが気になってぴょんぴょんジャンプするが、背の高い海賊達の男の背中は飛び越せない。そこで、背の高いイチゴがぐっと背伸びして、海賊達の先頭列の方を見据える。

「…どうやら、水が溜まっていて奥に進めない様だ。海に繋がっている可能性もあるぞ。」

「水か…参ったな。俺達だけで進もうにも、どこに繋がってるか分からない水には飛び込めないし…」

「…そうだ!トモヤさん、私の魔法なら奥へ進めますよ!」

「…スフレの魔法で?」

────

という訳で。一旦先頭を海賊達と代わり、スフレが皆の前に立つ。右手に風の魔力を。左手に水の魔力を集めて、目の前でパチンと交差させる。

『ウォーターベール』

────ポヨヨン!

と。トモヤ達四人を、大きな泡のベールが包み込む。正円を描いたその泡は、スフレの意思に合わせて自由自在に動き、その形を変化させていく。転がりながら動く事も可能だ。

「おおー!すげぇ。これなら水中に入っても大丈夫そうだな。」

「でしょう!では早速行きましょう!」

────ゴロゴロ…

ざぷん。という音と共に、泡はゆっくりと水の中へ沈んでいく。ベールは破れることなく、少しずつ水の中を進んでいく。

「やるな!おい!誰かあれできる奴いないか?」

「無理ですよ姉貴…あの人賢者ですぜ…」

「えっ!?賢者!?ウィザードだと思ってたのに!」

「複合魔法を使えるのは賢者だけですぜ…」

「ぐぬー!悔しいがここで待つしか無いか…!」

と、サラが諦めてどすっと岩場に座ったその時。

────ゴゴゴゴゴッ…

ザバー!っと、突然水面が吹き上がる。水面が爆発したかと思うと、トモヤ達が入った泡が飛び上がり、天上にぶつかって破裂する。トモヤ達4人は、そのまま振り落とされて水面にドボーンと落っこちる。

「わっ!?お、おい!?大丈夫か!?」

「…だ、大丈夫です~…」

「…どうやら海流があるみたいね…一筋縄では進めないわよ…」

ずぶ濡れになった衣装のまま、水面から上がってくるトレファ。すると突然、海賊の男達が色めき立つ。なんだろう?と思って自分を見ると、元から薄手だった服が更に透け、とんでもない事になっていた。

「きゃあっ!見ないでよ変態~!」

ポイポイと、器用に盗賊時代に使っていたナイフを投げまくる。とすんとすんと見事に男達を貫き、ついでにトモヤも額をぶち抜かれた。

────

「…すまなかった。ウチのメンバーが…」

「いいわよもう…男なんて皆ケダモノでしょ。」

諦め切った様子で、持参した水着に着替えるトレファ。スフレもイチゴも服がビシャビシャになっていたので、ひとまず水着に着替えていた。トモヤはと言うと、そもそも替えの服を持っていなかったので、そのまま。

「しかし海流か~、これは水が引くまで待つしか無さそうだな。なあなあ、トモヤとか言ったっけ。ここで私達と手を組まないか?宝を見つけたら、分け前はやるからさ。」

「ん?ああ、別に良いぞ。俺達もその方が楽だしな。…トレファ、それで良いか?」

「…ええ。構わないわ。」

「じゃあ決まりだ。改めてよろしくな。」

「ああ。よろしく!…ところで、この水をどうにか突破出来ないか…トモヤは何か考えたか?」

「いや。正直お手上げだ。大人しく待った方が得策だとは思う。」

「だよなー。よし、ヤロー共!一旦休憩だ!水が引くまで休むぞ!」

「サーイエッサー!」

海賊達はそれを聞くなり、各自自由にのんびりし始める。切り替えの速さは大したものである。トモヤは感心しながら、自分も警戒態勢を解いて軽く一息つく。

「水が引くまで待つ…ですか。んー…暇ですね…」

「なら、水浴びでもしてこないか?せっかく水着を新調したのだからな。」

「名案です!トレファさんも一緒に泳ぎましょうよ!」

「良いわよ。私の泳ぎ、見せて上げる。」

トレファは先の騒動もすっかり忘れ、三人で遊ぶ事に集中する事に決めたようだ。三人の少女達は、水辺で水を掛け合ったり、泳いだりして、思い思いに楽しんでいる。これがビーチだったらどんなに素敵な光景か…と思いながら、トモヤはそれを眺めているのだった。

「あいつら…その気になれば何処でも遊べそうだな…」

なんて呟いて、でも微笑ましそうにそれを見ているのだった。
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