盾役として異世界転生したけど、無敵の盾で無双します

日比谷ナオキ

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30話「いきなりSランク!?」

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ヤマミタマとの死闘から数日。トモヤパーティはエリートフロア…ではなく、下の酒場で必死に皿洗いをしていた。…呑んでいるのではなく、バイトをしているのだ。

「トモヤさーん!次これお願いしまーす!」

「はいよー!…ったく…なんでこんな目に…」

原因はもちろん、イチゴが言ったあの台詞。イチゴはあの後約束通り、協力した冒険者全員に銀貨をプレゼントした。手持ちの銀貨だけでは数が足りず、金貨も全て銀貨に交換して渡してしまったのだ。

「トモヤ!こっちのじょ……ジョッキも頼む!」

「すぐ行く!…トレファ、何してんだ?」

「洗剤が足りないのよ!こっちも空だし…!」

「仕方ない、俺のを分けて…あっ!こっちも切れやがった!」

つまるところ、大金持ちから一気に一文無しに変わってしまった訳である。報酬は貰いこそしたが、それも一部を銀貨に当ててしまった為、数日食べていくだけで底を尽きてしまったのだ。主な収入であるクエスト受注にも契約金がいる為、今はそれを稼いでいる最中であった。

「くそ!ひとっ走り買ってくる!スフレ、俺の分やっといてくれ!」

「えっ!?わ、わかりました!」

────つるっ。

「あ。」

────ガシャァン!!

大慌てで皿を洗っている所で声をかけられ、ツルッと手が滑って皿を割ってしまう。すぐに奥から料理長の怒鳴り声が聞こえる。

「ゴラァァ!また割りやがったな!てめーら手伝いに来たのか邪魔しに来たのかどっちだァ!?」

「ご、ごめんなさいー!」

怒鳴り散らす料理長に謝りながら、せっせかせっせか片付けをする。大騒ぎの厨房に、ひょこっとギルドマスターが顔を出した。

「御機嫌ようです。料理長さん。」

「ああ、ギルドマスター殿。どう言ったご要件で?」

「トモヤさん達がこちらにいるとお聞きしたので。どちらにいらしているのでしょうか?」

「アイツらでしたらそこですよ。働きたいと言うて来たんで、皿洗いを任せてる所です。」

「どうもご親切に。私も失礼しますね。」

料理長と挨拶を済ませて、ソニヤはシンクへと向かう。そこでは割れた皿で指を切って慌てているスフレと、とりあえず水洗いで重ねた皿のタワーに苦戦しているトレファと、ジョッキやグラスをどこにしまえばよいか分からずに重ねて持ってしまっているイチゴがいた。

「あの、皆さんは何をなさっているのですか?」

「「「…皿洗いです!」」」

────

洗剤を求めて、トモヤは商店街をぶらつく。様々なものが並んでいるが、流石に洗い物洗剤となると、そう簡単には見つからない。

「スーパーもコンビニも無いからなぁ…専門店を見つけないといけないのは不便だ…」

仕事用の駄賃を片手に握りしめ、並んでいる店頭一つ一つを覗いていく。食べ物屋は食べ物屋。服屋は服屋と言った具合に、どの店も一極集中型の様だ。

「おい!そこのお前!」

「…ん?」

すると突然、トモヤは何者かに話しかけられる。また客引きか?と思ったら、今回は勝手が違う様だ。トモヤに声をかけたのは、トモヤと同じような黒髪の青年。歳も同じ位だろうか。

「お前、冒険者だろ。」

「ああ、まあそうですが?」

「だったらこんな奴を知らねえか?無敵の盾を背負った、最強の守護者。この町にいると聞いているんだが。」

「…無敵の盾ねえ、いやー知らないっす。」

その出で立ちで始まるような冒険者など自分しか居ないが、もしかしたら他にもそんな人がいるかも知れないってことで、トモヤは他人のフリをする。なんかめんどそうだから。

「そうか、ならいい。悪かったな。」

男はつっけんどんに言うと、ズカズカとギルドに向かって歩き出す。男のお供には小さな僧侶の少女がいて、トモヤに申し訳なさそうに謝って後に続く。

「他の街の冒険者か。…にしても、俺に何の用だろ?」

まあなんでもいいか。とその場を後にするトモヤであった。

「…無敵の盾トモヤ…奴を殺して…俺が世界一の冒険者になる…!」

「…ヤマトさん…」

少女は、目の前の覇道を目指す青年を悲しそうに見つめていた。

────

「そんな事をしなくても、ある程度の借金ならこちらで借りられますからね。」

「「「はーい…」」」

ソニヤにギルド銀行についての説明を受け終える。三人は取り越し苦労に疲れ果て、ソニヤの説明を受け終えると同時にふにゃーっと机に突っ伏す。

「ふふ。では本題に入りましょうか。あなた達のパーティですが、前回のレイドクエストで素晴らしい成果を挙げました。…そこで、あなた達四人を、一気にSランク冒険者に昇格させようと思っているのです。」

「Sランク…ですか!?私達が…!?」

「そ、そんな大した活躍、してないわよねぇ?」

「そ、そうだな。皆の協力があってこそだし…」

三人はなんとも受け入れ難い様子だったが、既にSランクに上がっても当然だと言った様子で、ソニヤは語り始めた。

「参考までに申しますが…ヤマミタマはSSランク。Sランクの冒険者が何人か束になって、撃退がやっとなのです。それを、あなた達四人はBランクの冒険者達と共に、誰一人犠牲者を出さずに討伐した。…これがどれだけすごい事か…言わなくてもわかりますよね?」

嬉しそうにニコニコ笑うソニヤ。確かに、桁外れの戦績だろう。これで何も追加報酬無しとなれば、そのギルドの労働環境を疑わざるを得ない。

「…ええ。わかったわ。ギルドマスターさん。トモヤとも話をしたいから、今は保留…で良いかしら?」

「構いませんよ。その気になったらいつでも申して下さい。手続き致しますよ。」

かくして、トモヤ達パーティは実質Sランク冒険者へと成り上がった。三人が歓喜で包まれていたが、それは突然の訪問者によって破壊される。

────バーン!

と、ギルドの扉が開かれる。

「たのもー!」

「あ、あの…お…お邪魔します…」

やってきたのは、先程トモヤと出会った青年と小さな僧侶。青年は訝しげに店内を見回してから、カウンターに居る受付嬢(ソニヤではない)に話しかけた。

「おう、姉ちゃん。ここに無敵の盾を背負った冒険者がいるって聞いたんだが、どいつだ?」

「は、はい…トモヤ様の事ですね。トモヤ様がどうかなさいましたか?」

「そいつに用がある。いるなら出してくれ。」

「は、はい!」

受付嬢は怯えたようにエリートフロアへトモヤを探しに行く。まあ当然ながら、出かけているので上にトモヤがいる訳もなく。

「申し訳ございません…外出中です…」

「なんだと!…ちぃ!じゃあ写真とか無いか?そいつの顔を覚えておく。」

「こ、こちらです!」

魔力によって撮影された、念写の画像。そこには、見事にピースサインを作ったトモヤがくっきりと写っていた。それを見て、青年はふるふる震える。

「あ、あの野郎!騙しやがったな!ぶっ殺す!」

「あ、あの…ヤマトさん…」

「行くぞカルメア!あの野郎をぶちのめす!」

と、出て行こうとした所で、ギルドに居る冒険者達に取り囲まれる。出口は既に塞がれ、脱出する事が出来ない。スフレ達も、ヤマトと呼ばれた青年を取り囲んでいた。ただ困った事に、トレファはナイフを、イチゴはソロバンを、スフレは魔道本を部屋に置いてきてしまった為、ろくに戦える状態では無い。

「あ?何の真似だよ!どけよモブ共が!」

「悪いなアンちゃん。仲間を殺すなんて言われて、それを黙って見逃せるほど、冒険者は甘くないんだよ。」

近くで飲んだくれていた野郎が答える。その通りだ。冒険者達は、仲間との団結を良しとする。その仲間を傷付けるという事は、冒険者全員を敵に回すのも同義だ。

「ちぃ!ゴミ共が!そんなら、全員殺してやるよ!」

「やめて…下さい!ヤマトさん…!」

「どけカルメア!てめえから殺すぞ!」

「ひぃ…ぃ…」

すらり。と背中の剣を抜く青年。こちらの数は10人以上。対して、ヤマトは一人。明らかに勝機のない戦いだが、ヤマトは余裕そうにそれを眺めている。

「さあ、どいつから死にたい?かかって来いよ。」

「調子に乗んな!」

と、ハンドアックスを構えて飲んだくれの男が切りかかる!…その刃が触れるか否かの所で、ぴしゃりと騒ぎを遮る声が聞こえた。

「やめないか!ここは神聖なテュールラグナロクの敷居だぞ。ここでの争いなど、言語道断だ。」

と、一括。大男のハンドアックスは空中でピタリと止まり、男は声のした方をくるりと向く。エリートフロアからカツカツと降りてくる足音。レイピアを腰に携えた戦士、トマス=カツァルだ。

「カツァルさん…!」

「ほう?面白そうな奴が出て来たじゃないか。Aランクの冒険者か?」

「その通りだ。…トミジマ=ヤマト。お前の悪行はよく耳にしている。我がギルドに来たら、私が直々に始末してやろうと考えていた所だ。…私と決闘を行わないか?」

決闘。タイマンを張り、勝負をつけるという事だ。ヤマトはニヤリと笑みを浮かべると、チャキンと剣を背中にしまい直した。

「面白い。俺とタメを張ろうって事か。良いぜ。その面拝めねえくらい、ズタズタにしてやるよ。」

「…決まりだな。では外へ行こう。決闘中は他のものには手出ししない。それで良いな。」

「ああ。俺も無駄な殺しは嫌いなもんでな。」

ヤマトとカツァルは、双方の同意の上で外へ出る。ギルドメンバー達が固唾を呑む中、カツァルと突然の来訪者の、戦いが幕を開ける!
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