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26話「トレファさんのお悩み」
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その翌日。トレファは一人でのんびり町を散歩しえいた。というのも、スフレは賢者になる為にお勉強をしていて、イチゴは竜騎士になるべくラクレスと特訓に向かっているからだった。トモヤを誘ってやろうかと思ったが、トモヤはトモヤで軍師として色々とやる事があるらしい。
「はぁ~…皆生真面目ねえ。まだAランクなんだから、最上級職になんてならなくても良いのに…」
盗賊である彼女は、それより上のランクが存在しない。元々戦闘向きではない為仕方は無いが、実はそれはイチゴも同じである。とはいえ、彼女には王国騎士としてのアドバンテージがある。つまるところ、最初から素質はあったのだろう。
「…でもよく考えたら、この状況ってまずいんじゃ無いかしら?…もしスフレとイチゴが本当に最上級職になったとしたら…私は置いてけぼり…」
置いてけぼり所か、周回遅れにされる事にようやく気付くトレファ。このままではまずい。アリとキリギリス状態だ。今怠けていては、後で必ず自分がお荷物になってしまう。
「のおぉぉーっ!それだけは嫌ー!」
今までなんとなーく役に立てて無いんじゃ無いかなという自覚はあったが、今回は本気でまずい。自分も何かしなければ!と思い、急いで町にある転職の館へと足を運ぶ。
「ここね…よし!突入ー!」
転職の館。どんなに小さな国でも、必ず一つはある建物だ。ここで職業を決めたり、変更したりする事が出来る。国によって規模はまちまちだが、ハルバトルソは人の行き来が活発な事もあり、その規模は間違いなく最大級だ。
「いらっしゃいませ。就職をご希望ですか?それとも、転職をご希望ですか?」
「転職でお願いするわ。」
「了解致しました。…冒険者様のようですね。血羽のペンを提出して頂ければ、手続きは直ぐに済みますが、いががなさいますか?」
「はいはい、持ってきてるわよ。」
ぽんっと、トレファは自分の血を染み込ませた羽根ペンを受付さんに渡す。このペンは冒険者全員に渡されるもので、よく本人確認に使われる。ただ、あまり大量の血を保管はできないので、定期的に補充する必要がある。
「ありがとうございます。では、そちらで5分ほどお待ち頂けますか?」
「ええ。」
トレファは待合用の椅子に座って、ぼんやりと天井を見上げる。もし、これで自分が最上級職になれなかったら?皆に置いていかれたら…?
「…ああ…私、本当についていけるのかしら…」
知らなかった。仲間に出会うまで、こんな心配はした事無かったから。今まで一人で生きてきて、呑気に過ごしていたから。こんなに怖い事は、生まれて初めてだ。
「トレファ様~、窓口までお越しください~」
受付の声を聞いて、ドキドキしながら立ち上がる。ガチガチに緊張したまま、受付の元へと歩く。
「こちらがトレファ様の能力値と、適正のある職業一覧になります。」
一枚の紙を受け取る。そこには、誰でもなれる様な簡単な職業から、トモヤの様な最上級職までずらりと一覧が並んでいる。自分のなれる職業には〇を、なれない職業には斜線が書かれている簡単なものだ。
「最上級職は…全部だめ…そんな…!?」
「トレファ様は、バランスの良い伸び方をされていますが、全体的に数値が低いのです。素早さは天才的ですが、他のステータスが少し不足しているのです。」
「うぅ…数値が低いってそんな…」
トレファのステータスは、言わば「足の早い魔法戦士」の様な状態になっている。攻撃と魔法を両立させながら戦うその様はまさに万能とも言える魔法戦士だが、剣術も魔法も中途半端で器用貧乏な場面が多く、最上級職と比べると、1、2本劣ってしまう。
「魔法戦士ならオススメ出来ますが、如何なさいますか?」
「…いえ、やっぱり、今のままで良いわ…中途半端では、駄目なのよ。」
「…そうですか?では、今回は転職は無しと?」
「ええ。これ、手続き料ね。調べてくれてありがとう。」
トレファは明らかに値段が釣り合っていない金貨を一枚ぽんと置くと、落ち込んだ様子でとぼとぼと館を後にした。
「…はぁ~…私って中途半端なのね…情けないわ…スフレちゃんにあれだけ師事しておいて、私が今更このザマなんて…」
中途半端では駄目。自分だけの個性を持っていなければ、必ず役たたずになる。例えば仮に魔法戦士になったとして。剣術ではイチゴに敵うはずが無い。彼女は生前からの剣術を鍛えている。今更自分がどうこうして追い付けるレベルじゃない。そして魔法。魔法ではスフレには到底追い付ける気がしない。聞いた話では複合魔法を既に成功させているとか。賢者である彼女に魔法で挑むなど愚の骨頂だ。守備面は元から絶望的だ。当然挑むものでは無いが、そこにはトモヤがいる。どんなによい防御魔法を覚えたって、トモヤには敵わない。
「ああ…私ってなんて駄目なのかしら…」
すとんとベンチに座って、軽くため息をつく。公園をかけて行く子供達を見てから、また視線を下へと落とす。
「もし、そこのあなた。どうしたのですか?」
「…?」
知らない声に話しかけられて、トレファは軽く視線を上げる。彼女の目の前には、白いふわふわの髪を携えた、一人の女性が立っていた。
「あ、いえ、ご心配無く。なんでもないの。」
「…そうですか?私はてっきり、あなたがいきなりそこの子供達を襲うんじゃ無いかって心配で…」
それを聞いたトレファはカチーンと来る。
「なんですって!私がそこら辺の子供達にまで手を出すような女に見えたのかしら!?」
「え、ええ。だって、そんなにふしだらな格好をしていらしてるでしょう?」
「…ぐぬぬ…こ、これはファッションでしてよ!大体、破廉恥な格好だって言うなら貴女も同じようなものじゃないの!」
そう言って、相手の服装を指摘するトレファ。確かにこの女性も、かなり露出したデザインの服を着ている。トレファの事を言えた義理では無いだろう。
「な…こ、これは踊り子の正装ですよ!あなたの着ているそれとは違うんでございますよ!」
「おんなじようなものじゃない!…踊り子?そんな職業あったのかしら?」
「…知らないのでございますか?東の大陸、アルベラールでは有名な職業でございますのに。」
アルベラールの噂は、トレファも聞いた事がある。独自の文化を持ち得ており、不思議な詠唱を行う魔法や、独創的な農作など、魅力的な話が多い。中でも、島全てが金で作られた黄金の島がある話は有名で、数多の人々がその島を求めて渡来したりすると言う。
「アルベラール出身なのね。踊り子なんて聞いた事無いけれど、どんな職業なのかしら?」
トレファは聞いたことも無い職業に興味津々だった。先程変態扱いされた事はもう忘れているらしい。
「最上級職です。踊りで仲間を鼓舞したり、街の人々の前で踊りを披露したり…大人気な職なのですよ。」
「ええっ!?さ、最上級職…!?たかだか踊りなのに…?」
「ふっふっふ。たかが踊り、されど踊りです。踊りとは流動、生の息吹。全身で生命を表現する流れとなるのです。その力は見事なものなのですよ。冒険者パーティでも重宝されるのですよ。」
「踊り子が…?踊ってるだけでどうして人気になるのかしら?」
「言いましたですよね。鼓舞する力を持つと。生命の流れを操る力は、味方を強化したり、敵を弱らせたり、その場の力を自分達の方に流れ寄せられるのでございますよ。」
「…!」
トレファはそれを聞いた瞬間に、身体を何かに貫かれた様な感覚に襲われた。力でも、魔法でも、防御でも無い新たな力。これならば、自分も役に立てるかもしれないと。
「…それ、私でもなれるかしら?」
「そうでございますね~…踊りを馬鹿にしている様な人ではなれないのではありませんか?」
「前言撤回するわ。そんな力が使えるなら、踊りもバカには出来ないわね。…どうすれば、なれるかわかる?」
「そうでございますね…踊りができる人に師事して貰って、免許皆伝すれば、踊り子になれるでございますよ。」
「ふーん。…なら、私の事、あなたが踊り子にしてくれない?お礼なら、いくらでもするわ。」
「あなたがですか?…ふーむ。どうしましょうか。」
白い髪の女性は、値踏みするようにトレファを眺める。トレファの切羽詰まった様子に気付いたのか、女性は軽く息をつくと、顔を見つめた。
「良いですよ。私が貴女を一人前の踊り子にしてあさしあげます。鍛錬は厳しいですけど、ついて来る事ができますか?」
「あったりまえよ。修行でもダンスでも何でも来い!」
「ふふ。これは期待できる新人でございますね。では、早速参りましょうか。」
トレファは踊り子の女性と共に、自らも仲間の役に立つために、特訓を始めたのだった。
「はぁ~…皆生真面目ねえ。まだAランクなんだから、最上級職になんてならなくても良いのに…」
盗賊である彼女は、それより上のランクが存在しない。元々戦闘向きではない為仕方は無いが、実はそれはイチゴも同じである。とはいえ、彼女には王国騎士としてのアドバンテージがある。つまるところ、最初から素質はあったのだろう。
「…でもよく考えたら、この状況ってまずいんじゃ無いかしら?…もしスフレとイチゴが本当に最上級職になったとしたら…私は置いてけぼり…」
置いてけぼり所か、周回遅れにされる事にようやく気付くトレファ。このままではまずい。アリとキリギリス状態だ。今怠けていては、後で必ず自分がお荷物になってしまう。
「のおぉぉーっ!それだけは嫌ー!」
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「ここね…よし!突入ー!」
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「いらっしゃいませ。就職をご希望ですか?それとも、転職をご希望ですか?」
「転職でお願いするわ。」
「了解致しました。…冒険者様のようですね。血羽のペンを提出して頂ければ、手続きは直ぐに済みますが、いががなさいますか?」
「はいはい、持ってきてるわよ。」
ぽんっと、トレファは自分の血を染み込ませた羽根ペンを受付さんに渡す。このペンは冒険者全員に渡されるもので、よく本人確認に使われる。ただ、あまり大量の血を保管はできないので、定期的に補充する必要がある。
「ありがとうございます。では、そちらで5分ほどお待ち頂けますか?」
「ええ。」
トレファは待合用の椅子に座って、ぼんやりと天井を見上げる。もし、これで自分が最上級職になれなかったら?皆に置いていかれたら…?
「…ああ…私、本当についていけるのかしら…」
知らなかった。仲間に出会うまで、こんな心配はした事無かったから。今まで一人で生きてきて、呑気に過ごしていたから。こんなに怖い事は、生まれて初めてだ。
「トレファ様~、窓口までお越しください~」
受付の声を聞いて、ドキドキしながら立ち上がる。ガチガチに緊張したまま、受付の元へと歩く。
「こちらがトレファ様の能力値と、適正のある職業一覧になります。」
一枚の紙を受け取る。そこには、誰でもなれる様な簡単な職業から、トモヤの様な最上級職までずらりと一覧が並んでいる。自分のなれる職業には〇を、なれない職業には斜線が書かれている簡単なものだ。
「最上級職は…全部だめ…そんな…!?」
「トレファ様は、バランスの良い伸び方をされていますが、全体的に数値が低いのです。素早さは天才的ですが、他のステータスが少し不足しているのです。」
「うぅ…数値が低いってそんな…」
トレファのステータスは、言わば「足の早い魔法戦士」の様な状態になっている。攻撃と魔法を両立させながら戦うその様はまさに万能とも言える魔法戦士だが、剣術も魔法も中途半端で器用貧乏な場面が多く、最上級職と比べると、1、2本劣ってしまう。
「魔法戦士ならオススメ出来ますが、如何なさいますか?」
「…いえ、やっぱり、今のままで良いわ…中途半端では、駄目なのよ。」
「…そうですか?では、今回は転職は無しと?」
「ええ。これ、手続き料ね。調べてくれてありがとう。」
トレファは明らかに値段が釣り合っていない金貨を一枚ぽんと置くと、落ち込んだ様子でとぼとぼと館を後にした。
「…はぁ~…私って中途半端なのね…情けないわ…スフレちゃんにあれだけ師事しておいて、私が今更このザマなんて…」
中途半端では駄目。自分だけの個性を持っていなければ、必ず役たたずになる。例えば仮に魔法戦士になったとして。剣術ではイチゴに敵うはずが無い。彼女は生前からの剣術を鍛えている。今更自分がどうこうして追い付けるレベルじゃない。そして魔法。魔法ではスフレには到底追い付ける気がしない。聞いた話では複合魔法を既に成功させているとか。賢者である彼女に魔法で挑むなど愚の骨頂だ。守備面は元から絶望的だ。当然挑むものでは無いが、そこにはトモヤがいる。どんなによい防御魔法を覚えたって、トモヤには敵わない。
「ああ…私ってなんて駄目なのかしら…」
すとんとベンチに座って、軽くため息をつく。公園をかけて行く子供達を見てから、また視線を下へと落とす。
「もし、そこのあなた。どうしたのですか?」
「…?」
知らない声に話しかけられて、トレファは軽く視線を上げる。彼女の目の前には、白いふわふわの髪を携えた、一人の女性が立っていた。
「あ、いえ、ご心配無く。なんでもないの。」
「…そうですか?私はてっきり、あなたがいきなりそこの子供達を襲うんじゃ無いかって心配で…」
それを聞いたトレファはカチーンと来る。
「なんですって!私がそこら辺の子供達にまで手を出すような女に見えたのかしら!?」
「え、ええ。だって、そんなにふしだらな格好をしていらしてるでしょう?」
「…ぐぬぬ…こ、これはファッションでしてよ!大体、破廉恥な格好だって言うなら貴女も同じようなものじゃないの!」
そう言って、相手の服装を指摘するトレファ。確かにこの女性も、かなり露出したデザインの服を着ている。トレファの事を言えた義理では無いだろう。
「な…こ、これは踊り子の正装ですよ!あなたの着ているそれとは違うんでございますよ!」
「おんなじようなものじゃない!…踊り子?そんな職業あったのかしら?」
「…知らないのでございますか?東の大陸、アルベラールでは有名な職業でございますのに。」
アルベラールの噂は、トレファも聞いた事がある。独自の文化を持ち得ており、不思議な詠唱を行う魔法や、独創的な農作など、魅力的な話が多い。中でも、島全てが金で作られた黄金の島がある話は有名で、数多の人々がその島を求めて渡来したりすると言う。
「アルベラール出身なのね。踊り子なんて聞いた事無いけれど、どんな職業なのかしら?」
トレファは聞いたことも無い職業に興味津々だった。先程変態扱いされた事はもう忘れているらしい。
「最上級職です。踊りで仲間を鼓舞したり、街の人々の前で踊りを披露したり…大人気な職なのですよ。」
「ええっ!?さ、最上級職…!?たかだか踊りなのに…?」
「ふっふっふ。たかが踊り、されど踊りです。踊りとは流動、生の息吹。全身で生命を表現する流れとなるのです。その力は見事なものなのですよ。冒険者パーティでも重宝されるのですよ。」
「踊り子が…?踊ってるだけでどうして人気になるのかしら?」
「言いましたですよね。鼓舞する力を持つと。生命の流れを操る力は、味方を強化したり、敵を弱らせたり、その場の力を自分達の方に流れ寄せられるのでございますよ。」
「…!」
トレファはそれを聞いた瞬間に、身体を何かに貫かれた様な感覚に襲われた。力でも、魔法でも、防御でも無い新たな力。これならば、自分も役に立てるかもしれないと。
「…それ、私でもなれるかしら?」
「そうでございますね~…踊りを馬鹿にしている様な人ではなれないのではありませんか?」
「前言撤回するわ。そんな力が使えるなら、踊りもバカには出来ないわね。…どうすれば、なれるかわかる?」
「そうでございますね…踊りができる人に師事して貰って、免許皆伝すれば、踊り子になれるでございますよ。」
「ふーん。…なら、私の事、あなたが踊り子にしてくれない?お礼なら、いくらでもするわ。」
「あなたがですか?…ふーむ。どうしましょうか。」
白い髪の女性は、値踏みするようにトレファを眺める。トレファの切羽詰まった様子に気付いたのか、女性は軽く息をつくと、顔を見つめた。
「良いですよ。私が貴女を一人前の踊り子にしてあさしあげます。鍛錬は厳しいですけど、ついて来る事ができますか?」
「あったりまえよ。修行でもダンスでも何でも来い!」
「ふふ。これは期待できる新人でございますね。では、早速参りましょうか。」
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