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24話「ヴァンパイア」

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余裕綽々、優雅な姿勢を崩さない四天王ケユキ。周囲の部下は全滅し、既に相手と一体一の攻防をするより他に無くなっていた。目の前に立っているのは、テュールラグナロク最強の守護者。自分と同格のデスぺルドすら、その盾に打ち砕かれた。それでも彼女は、余裕でいなくてはならない。気合いで負けたら、おしまいだと思っているから。

「どうしたの?かかって来なさいよォ。」

「言われなくても、やってやるよ!」

────ガシャコン!

『レッドジェルドストライク︰エクスブロー』

赤い液状の球体。解き放たれたそれは、ぐんぐん加速してケユキを狙う。ケユキはそれを傘で受け止めて受け流すが、受け止め切れずに吹っ飛ばされる。

「ぐッ…!ゥ…う…!」

「…」

────ゾクゾクッ…

と。ケユキは自分の背筋が震えるのを感じた。目の前に立っているのは、一人の戦士。握っているのは盾であっても、その目的は自分の命を奪う事。

だとすれば。

『シールドバッシュ』

────ドガァァァン!!

盾での強烈な打撃。それは間違いなく、ケユキ自身に向けられたもの。ケユキは転がってそれを躱すが、その際に見てしまった。自分を本気で殺す者の目を。

「悪いが俺は…手加減してやるほど甘い奴では無いぞ。」

「この…舐めんなァ!」

『ポイズンクロー』

────ザンッ!!

毒を爪に練り込ませた斬撃。ヴァンパイアである彼女が持つ、強力な毒の一撃。だが。どんな魔物であろうと、容赦なく苦しめる毒であれ、その無敵の盾の前には無力に等しい。

────キィィィン!!

「がっ…あぐっ…!」

反射によって、爪は容赦なく少女を切り裂く。少女はふらつきながらも立ち上がり、今度こそと相手を睨み付ける。自分が持てる技は、毒の爪だけでは無い。強烈な牙。これを突き立てれば、どんなに強固な皮膚を持つ魔物でさえ、噛み付いて毒を注入しながら血を吸い出す事が出来る。盾で防がれさえしなければ、行ける。勝てる。

「ふん、やるじャない。でも、どんな強くても、結局は盾が強いだけだよね?お前自身は、盾に頼ってるだけの情けない守護者なんだよ!」

「…なるほど。俺じゃなくて、盾が強いだけって言いたい訳だな。それなら…」

────カラン。

と。トモヤはなんの躊躇いもなく、盾を後ろへ投げ捨てた。距離からしても、今から拾いに行くことは出来ない。つまり、生身一つでケユキに挑むという事だ。

「へ、へェ…盾も捨てるなんて…とことん馬鹿な奴だよォ…お前は…」

ケユキにとっては、願ってもないチャンス。寧ろ、カモがネギを背負ってくるくらい好都合だ。これなら、自分の牙を遠慮なく体に突き刺す事が出来る。そうなれば、自分の牙は相手の皮膚を食い破り、何百種類にも及ぶ毒を注ぐことが出来る。

「お前なんかには負けないって事さ。」

「こ、このォ~ッ!馬鹿にしやがッてェ!」

『デリート・ポイズン』

バッと飛び出し、生身のトモヤに向かっていくケユキ。そのまま牙を剥き出しにし、小さく伸びた牙を、トモヤの首へと突き立てる!

────ザクッ!

手応えあり。その小さな牙から、一気に毒を注入する。…が。

「…それで終わりか?」

「ふェッ!?」

だが。効いている素振りは無い。それどころか、牙で貫いたはずの首筋に痛みを感じている様子も無い。試しに血を吸おうとするが、まるで吸い出せない。

「ふー!ふーッ!?」

とすれば、どうなっているかは明白。刺さっていないのだ。トモヤの皮膚には、自分の自慢の牙は全く刺さらなかった。龍の鱗だろうと、鋼の鎧だろうと貫ける牙。でもこの皮膚は…それらより頑丈だった。

「残念だったな。…ところで、さっきから肩のあたりから煙が出てるんだが…大丈夫か?」

「はェ?…ぎャあああああああ!あついあついあつい!溶ける!溶けるゥゥゥゥ!!!!」

流石に吸血鬼。日光を浴びれば消滅してしまうだろう。どこかで見た様な転がり方で、ゴロゴロと地面を転がるケユキ。トモヤは流石に見ていられなくなり、さっきまで愛用していた傘をケユキの上にさす。

「あぢぢぢぢぢ!?あづ!あづ!…あ、あれ?熱くない…?」

「…ったく。目の前でギャーギャー騒ぐなよ…とりあえず、俺の勝ちだな。どうする?手を引くなら今回は見逃してやるが。」

「……ば、ばーかばーか!別に助けてくれなくたッて大丈夫よ!…言われなくても逃げてやるし!…今度は必ず倒してやるー!」

ケユキは傘を奪って立ち上がると、壊れた本陣をそそくさと足早に立ち去った。別に情報を聞き出す訳でも無いので殺しても良かったのだが、それは何となく癪に障るなとトモヤは思った。

「よし。これで俺達の勝ちだ。…皆、よく頑張ったな。」

これで勝利。相手の降伏、もしくは討伐を報せる信号弾を取り出して、火をつけようとする。そこで…

────ガラガラガラガラガラガラ!!

「こらー!止まりなさーい!」

「え、は…ちょ…トレファ!?」

トモヤの方から見えたのは、ベットにしがみついて踏ん張るトレファと、それを無視して激走を続けるタイヤ付きのベット。…が、真っ直ぐにこっちに向かってきているのだ。事故でも起こしたらトレファが危ない!そう思って、トモヤは急いで信号弾を横に立て置き、ロケット花火の様に自然に飛び上がらせる事にする。

「よし、トレファ!俺が受け止める!」

「と、トモヤ!?…お願いね!止めて頂戴!」

なんでここに居るの!という疑問よりも、助けて!という思いの方が大きかった。でも、トモヤならば絶対に止めてくれるだろう。安心した様子でベットにしがみつく。

────ガッ!

…ところが。がくんという衝撃と共に、何故かベットが大きくジャンプして上へと飛び上がる!平原でベットがジャンプする訳無いのだが…と思ったら、トモヤの盾が見事にジャンプ台の機能を果たしていたのだった。

「ちょちょちょ!?きゃああああああっ!?」

ふわりと。トレファの身体が宙に浮かぶ。そして。

────ヒュルルルルルルル…

ブシュッ!と。それに合わせて信号弾が上へと飛び上がる。トレファは服のフードを信号弾に引っかけられ、その弾に引っ張られたまま天空へと飛び上がっていく。

「ちょちょちょちょおおおおっ!?な、なんでこうなるのよー!!?」

「トレファァァァァァァァァァ!!!?」

…で。トモヤが空へ飛んで行ったトレファに注目している間に、ジャンプしたベットがひゅーっとトモヤの方へ落っこちてくる。上に集中していたトモヤは反応する事ができず…

「あ、やべ…」

────ズウウウウウウウウウン!!!!

と、トモヤを押し潰す。ベットはワンバウンドして、瓦礫の残骸に突撃してようやく停止する。そして、肝心のトモヤはと言うと…

「ぺ、ぺらぺら~…」

ペラッペラになって、パサッと床に倒れた。

────ドオオオオオオオン!!!

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その直後に、上空でトレファの絶叫と花火の音が聞こえた。トモヤはペラペラのまま、腕を上げて呟いた。

「たーまやー…」

と。それだけ言うとばったり倒れた。
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