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23話「それぞれの戦い」

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その頃。終わりの見えない戦いを前に、地上騎兵達の士気が着実に下がって来ているのが、イチゴには見えていた。いくら骸兵を倒しても、奥から奥から敵が攻め続けてきていたからだ。

「頑張れ皆!時期に敵の攻撃は弱まるぞ!」

ソロバンを振り回し、あちらこちらへ指示を出す。地上騎兵部隊の疲弊をなるべく減らし、長期的に持ちこたえさせているが、彼らは普通の一般兵士。流石に長期戦となれば疲労は蓄積されていく。兵士の中に一人、倒れて動けなくなった者がいた。

「アサギさん!こいつはもう限界だ!退却させてくれ!」

「…仕方ない。犠牲は最小にせねば。左部隊、後方へ!中央部隊と右部隊も少しずつ後方へ下がれ!」

イチゴは皆を後ろへ下げながら、自分は大きく前へ出る。山道から本陣へと向かっていく骸兵達を、ソロバンで薙ぎ払っていく。

「うおおおおおおおっ!!」

────ガッ!グシャッ!

流石は元騎士団長。商人になろうと、その身体こなしは微塵も衰えていない。…しかし、商人に転生した事で、根本的な力が、大幅に衰えてしまっていた。

「(くっ…凄い衝撃だ…!)」

自分が打ち込む衝撃で、じんじんと腕が痛む。一撃入れる度に、自分の身体が技に追いつかず、破壊されていくのがわかる。肉が、骨が、悲鳴を上げ、少しずつ身体が動かなくなっていく。エルフの肉体を持つ少女は、ついに力尽きてその場に崩れた。

「はぁ…はぁ…!」

「カタカタカタカタカタカタ!」

────ブンッ!

空を切る骸骨の斬撃。紙一重にそれを躱して、イチゴは発勁で相手の頭蓋骨を吹き飛ばす!

「はぁ…はぁ…くっ…!」

しかし。白骨の群れは止まる事を知らない。必死に距離を置くが、イチゴは徐々に追い詰められていく。

「…!アサギさん!」

地上騎兵の兵士達はイチゴを守ろうと前へ出るが、骸兵達に阻まれる。隊列を乱さない為に、イチゴは必死に声を上げる。

「来るな!私に構っていては、お前達が死ぬ事になるぞ!」

「でも…!」

「大丈夫だ!…さあ、早く位置につけ!」

そう。犠牲を出す訳にはいかない。隊長として。皆を守るのは義務であり、使命なのだ。あの日、自分のせいで散っていった仲間達の為にも…!

「カタカタカタ!」

「くっ…!」

鈍い斬撃。それでも、今の彼女を殺すには十分な太刀筋だった。だが、その斬撃は繰り出される前に、吹き飛ばされてカランと地面に落ちた。

「グオオオッ!!」

「どら…ごん…?」

「待たせたな。イチゴ。ここからは、私も手を貸そう!」

斬撃を弾いたのは、黒光りする外殻を持ったドラゴン。そして、それに跨るのは、金色の鎧を身にまとった男。

「…ラクレス!」

おお!と味方側からも歓声が上がる。小さな希望が見え始めた所で、ラクレスは一声、大きな声を上げる。

「お前達!こんな少女ですら必死で戦っているのだ。大の男がどうした!終わりが見えないだけで、勝てない、無理だと嘆くのか!違うだろう!活路が見えるまで戦い抜く、それが戦の道理というものだろうが!」

威圧的な怒号。しかしそれは、地上騎兵達の心に深く刺さった。無限に等しい髑髏の軍団。それは紛うことなき恐怖だろう。だが、ラクレスはこう言っている。だからどうした。無限に湧くと言うなら、無限に倒すまで。お前達は力負けしていない。気力の問題だと。

「そうだ…!俺達はまだ動ける!戦える!」

「…確かに…!ならば…すべき事は一つ…!」


「「「ここで戦い、あの町を守る!」」」

「…それでこそだ。」

ラクレスはそう言うと、ヘラにイチゴを乗せて、自分は竜から降りた。彼の手には巨大な槍が握られ、押し寄せる白骨の群れを反射で写していた。

「イチゴ。ヘラを操ってみせろ。結果次第では、お前に竜騎士になる為の特訓をさせてやる。」

「…!…分かった。やって見せよう…!」

「…期待しているぞ。…全軍!あの骨共を打ち砕け!」

「「「「おおおおおおおおっ!!!」」」」



────


その頃。トレファはと言うと、暇そーにスフレ達の裏でのんびりしていた。というのも、敵が全然登って来ないのである。たまに魔法部隊が撃ち落とし損ねた敵が降りてくるのだが、それは一瞬でレーバが消し飛ばしてしまう為、トレファのやる事が本当に何も無いのだ。

「ここの警戒解いて、地上騎兵の方に加担させた方が良いかしら…」

と、隣にいる爆睡僧侶、アルティメート=アルテマに話かける。寝ているので返事は無いが。彼女は睡眠に関しては意固地な部分があり、ベットから引き剥がそうとすれば蹴り飛ばし、寝巻きを脱がせようとすると禁断の呪法を使い出して相手を呪い、布団に移すと寝相でお気に入りのベットに戻る程。仕方ないので、ベットに車輪を付けて、ゴロゴロとここまで運んできたのである。

「って…貴女は聞いてないわよね…こんなにドンパチやってるのに、幸せ者ですこと…」

────カツン。

と。何処からか飛んできた小石が、ベットの車輪に当たる。そのショックでベットは少しずつカラカラと動き出し、

────ガラガラガラガラッ!!

加速して坂道を一気に滑り降り始める!

「えっ!?ちょ、ちょっと!止まって!止まりなさーい!」

それには流石のトレファもびっくり。急加速してどんどん斜面を下るベットを、大急ぎで追いかける。岩場を飛び越え、草木をすり抜け、ベットは下へ下へと駆け下りていく!

「もう!なんなのよあれー!」

トレファの必死の叫びも虚しく、ベットは一気に下の方へと降りて、ついに行方がわからなくなってしまった。

────

その頃。スフレはレーバの指示のもと、必死に敵を撃ち落としていた。彼女は火炎魔法しか使えないので、そればかりを打ち出していたが、そこである問題点に直面する。

────ゴオオオオッ!

「キエエエッ!」

「あ、あれ?炎魔法が効きません…!」

「あらぁぁん。アレはアクアバードねぇぇん。その名の通り、水の属性を持つ鳥で、炎を無効化する能力を持ってるのぉぉぉん。困ったわねぇぇ。」

「そ、そんな…!レーバさん、倒していただけませんか…?」

「んー…まあ、私が倒してもよいけどぉぉん。それで良いのかしらぁぁぁん?今は私が倒してあげられるけどぉ…貴女のパーティになった時に、炎が効かない敵が出たらどうするのん?困るのは貴女じゃなぁぁい?」

「…そうですけど…私は…」

「それに、貴女の仲間も困るんじゃなぁい?お荷物を引き連れて冒険するなんて…ねぇ?」

「私はお荷物なんかじゃ…!」

「お荷物でしょぉぉう?私達ウィザードは攻撃魔法しか出来ない。その攻撃魔法が通じなかったら、何の役にも立てないじゃなぁぁい?」

「っ…」

その通りだった。魔法が通じない相手がいるなら、普通は魔法の属性を変える。しかし普段は、その役割をトモヤが担っていた。だからこそそれに甘えて、鍛錬を怠ってしまったのだ。自分は炎さえあれば、トモヤについていけるはずだと。

「悔しいわよねぇ。だったらぁ…見せてみなさぁい?その、悔しさとぉ…想いを力に変えてぇ…」

「悔しさと…想いを…!」

その言葉を聞いて、スフレはやっと思い知った。どうして、自分がAランクになれたのか。それはトモヤのお陰だと思っていたけれど。違う。確かに、トモヤに任せっきりな事も多々あった。けれど。

「私だって……私だって…!」

自分はお荷物では無い。互いに助け合った…仲間だから。こんな所で、困っている必要は無い。自分も、隣に並ぶんだ。

────パラパラパラパラパラッ!

「おおおっ!?」

レーバがびっくりして叫ぶ。スフレの持っている魔道の本が、一気にページを捲って魔力を集めていく。それは、今まで見てきた炎の魔法の詠唱とは、まるっきり違ったスペルが書かれていた。

「私だって…仲間です!」

複合魔法ミックススペル

炎が生まれ。そして、その周囲を氷の礫が多い始める。燃え盛る火炎と、溶け落ちる氷の見事なまでのマジックパレード。お互いがお互いに干渉し合い、見事なまでのエネルギーを生み出している。

複合魔法ミックススペル!?…それじゃあぁ…まさかスフレちゃんってぇぇ…賢者ぁぁっ!?」

「はあああああああああっ!!!」

『ダイヤモンドブレイザー』

────ドドドドドドドドシュッ!!!!

氷と炎の複合された刃は、空を飛びながら光の弾丸へと姿を変える。光の弾丸が敵を撃ち、貫き、暴れ回りながら、アクアバードどころか、周囲の魔物もも巻き込んで、ズタズタに切り裂いて消滅させる。

「や、やったやった!やりましたよ!レーバさん!」

「…ええ。見事なものねぇ…」

まさか、彼女が賢者だとは。レーバはその事実に驚いていたが、今は彼女を褒めるべきだと驚きを隠しておく。彼女もそうだが、こんな才能を見抜いたトモヤに、完全に感服したレーバであった。

「お陰で魔法が使えました!本当にありがとうございます!」

「お礼は良いのよぉぉん。頑張ったのは貴女だしぃぃん。」

ぽんぽんと、帽子越しにスフレを撫でる。末恐ろしい後輩が来たものだと、レーバは少し恐怖していた。

「えへへ~…トモヤさんも、見ててくれましたでしょうか…」

「さあねぇん~。でも、後で教えたら喜ぶと思うわよぉぉん。」

「…そうですよね!終わったら、教えに行きます!」

ふふっと笑い合う二人。空中から攻め込む魔物はもういない。地上をイチゴとラクレスが攻め落とすのも、時間の問題だろう。着実に勝ちへと近付く中で、トモヤはついに、敵に王手を入れようとしていた。
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