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21話「初陣」

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────
トモヤ
職業︰ギルド軍師
Lv72(守護者から引き継ぎ)
会得したスキル︰陣形魔法 味方強化の術 信号弾花火

────


その頃。スフレ達はとりあえず先のテーブルでトモヤの帰還を待ち続けていた。カツァル達も、交流がてらに同じ席で会話していた。

「うっふふぅぅ…スフレちゃんはぁ…どんな魔法が得意なのぉぉ?」

「え、えっと、私は炎魔法が得意です!でも……他の魔法は少し苦手…ですね。」

「あらぁそうなのぉぉ?勿体ないわね~…他の属性の魔法が使えればぁ~…貴女はもぉぉっと伸びるわよぉ?」

「えっ…ほ、本当ですか?…でも、私、他の魔法は何度挑戦しても駄目で…」

「うっふふぅ…可愛いわね~…じゃあぁぁ…お姉さんが教えて…ア・ゲ・ル♡」

さわりさわり、と変態チックにスフレの身体を触りまくるレーバ。決して性的嗜好は無いらしいが、当然卑猥な行為であるので。

────ごちん!

「あぴぇ~…」

と、カツァルに分厚い本でぶっ叩かれる。頭の上でお星様をチカチカさせながら、机にぶっ倒れる。

「やめろと言っているだろう。お前は我がパーティの評判を地の底に落とすつもりか。」

「ひどいわぁん…私はぁ…ただ可愛い子を愛でてただけなのにぃん…」

「…それをやめろと言っているんだ。次はレイピアで串刺しにされるのがお好みか?」

「うぅぅう~…!カツァルの意地わるぅ~…」

ぐでーっとテーブルに伏せるレーバ。カツァルはふんと軽く息を漏らすと、トレファとの雑談に戻る。

「さて、聞きたい事があると言ったな。なんだ?」

「ええ、貴方達の仲間、あと一人いるらしいんですわね。そのお方がどんな人なのか、知りたいわ。」

「…アルテマか。分かった、話そう…」

アルティメート=アルテマ。カツァルが最初に拾った仲間の僧侶で、初めて共に戦った時は、回復魔法のプロだったらしい。だが困った事に、彼女は一日のうち20時間近く眠っている。と言うのも、起きている間はものっそいテキパキ動き、困っている人がいれば傷を癒したりと、4時間だけフルパワーで活動するのである。その分のエネルギーを20時間で補給しているらしいのだが、真相は不明。

「不思議な人物ね…寝ている間は何をしても起きないのかしら?」

「その通りだ。以前起こそうとしたことがあったのだが…その時は寝相で蹴り飛ばされ…私は全治1週間の大怪我を負ってしまった…」

そう言って、ちらりと自分の頭を見せる。蹴り飛ばされたのか、その部分だけ若干薄くなっているのがトレファにも分かった。

「お気の毒ね…でもどうして、そんな人をパーティに置いているのかしら?彼女への思い入れ?」

「…そうかもしれないな。思い入れと言うよりは…」

そこまで語った所で、顔を赤くしたトモヤがふらふらっと酒場に戻ってくる。なんか少し顔が赤いので、仲間達は心配して彼の元へ駆け寄る。

「大丈夫ですかトモヤさん!顔が赤いですよ…!」

契約の副作用か何かだと思い、必死にトモヤの顔が赤い原因を考えるスフレ。

「い、いや、大丈夫。ギルド軍師になれたことに、心から興奮してるんだ。」

自分をここまで慕ってくれる仲間達の前で、キスされました~なんて言えるわけなく。というか、言ってしまったら何故か仲間達から袋叩きにされるビジョンが既にトモヤには浮かんでいた。何故か。

「なるほど!そうでしたか!それなら安心ですね。良かったぁ~」

ほっと安心して、力が抜けるスフレ。へにょりと彼女がトモヤに寄りかかりかけた所で、突然…

────ウウウゥゥゥゥ…

あまり聞きたくはない、低く重いサイレン音。何事かと思って皆が音のする方を見ると、大慌てで1階からギルドマスターが登ってきた。

「はぁはぁ…皆さん!出撃準備をお願いします!北方より、魔王軍と思わしき軍勢が襲来!至急対処に向かって下さい!」

おっ。と、何かを予感させる皆。一同の視線が、一気にトモヤに集まる。期待と不安が入り交じる視線に、トモヤ自身も軽く気圧される。

「…トモヤさん、初陣ですね!頑張りましょう!」

「…ああ。」

────

『緊急 魔王軍襲来』
場所︰ハルバトルソ北西 イセマ山脈
内容︰魔王軍の排除、または撤退
報酬︰未定
軍隊︰ハルバトルソ町兵団

────

集められた兵士達。Aランクの冒険者達が、イセマ山脈に立てられた陣地に集合していた。トモヤは軍師として、本陣に建てられた小さなテントで、作戦を練り込んでいた。

「トモヤ。我々はお前の指示に従う。生殺与奪の権限は、ほとんどお前が握っていると言っても過言では無い。…その事をよく考えた上で、戦略を練ってほしい。」

カツァル達Aランク冒険者は、軍隊の中でも指折りの将兵。今回の軍隊の殆どは、一般冒険者や、普通の町兵士。上手く駆使しなければ、魔物相手でも大多数の犠牲が出る。

「…わかってる。この辺りの地図は無いか?」

「これが山道の地図だ。地上騎兵ファランクス、地上部隊が通れる道はここだ。」

カツァルが示した地図は、狭い山道が幾重にも別れる迷宮の様な山脈。地上を進行するには、少し不得手な地形かもしれない。空を通るのも一手だが、上空は山に吹き付ける乱気流があり、高度まで飛ぶ事ができない。

「…よし。今回は防衛戦だ。地上騎兵を前に置いて、なるべく道を塞ぐ。町への進行を少しでも食い止める。」

「了解した。…スフレとレーバが率いる魔法部隊はどうする?後方から騎兵部隊を支援するか?」

「いや。魔法部隊は空中への警戒だ。最速で山へと登り、上空から攻め込む魔物に警戒しろ。それと、魔法部隊は近接が不得手になりがちだ。そこをトレファと地上部隊でカバーする。」

「…ふむ。トモヤ、それでは地上が手薄になるのではないか?」

「いや。地上にはイチゴがいる。あいつなら、俺より上手く地上部隊を指揮できるだろう。」

イチゴと聞いて、流石のカツァルも動揺の色を隠せない。

「…なに?あの商人がか?一体どう言う理由があって…?」

「話してなかったな。あいつは元々騎士団長だったんだよ。それも、あのシュテンゲルベルグ城下、ヨシュガルドを警護する騎士団のな。」

「なん…だと…!…そこまでの者がどうして商人に…」

「ま、色々あったんだよ。とりあえず、作戦は以上だ。何か異議はあるか?」

「いや。特には。私とラクレスは、本陣の警護に当たれば良いのだな?」

「ああ。…ただ、ちょいとラクレスを借りたい。作戦の為に必要なんだ。良いか?」

「無論だ。」

「よし。それじゃあこれで決まりだ。相手が撤退するまでの長期戦になるだろうが、頑張るように皆に伝えてくれ。俺は開戦の狼煙を上げる。」

「承知した。…健闘を祈る。」

「…ああ。」

作戦決定。トモヤとカツァルは、互いの仲間達に作戦を伝えていく。それぞれが配置に着くと、トモヤは遠くの山を見据える。魔物達の軍勢。果たしてそれがどれ程の強敵なのか。今こそ、確かめる時だ。

「…よし。始めよう。」

ボッと。手に持った信号弾の花火に火をつける。爆竹のような形の筒に付いた導火線が縮み始める。

────ヒュルルルルルルッ…

信号弾は空高く跳ね上がり、誰の目にも止まるような高度まで、煙を撒き散らしながら舞い上がる。やがて空中で静止したかと思うと…

────ドオオオオオン!!!

真紅の花火が青空に打ち上がる。これより、開戦。トモヤ率いるハルバトルソ町兵団と、魔王軍。戦いの火蓋が、切って落とされた。

「…さあ、勝負だ!」
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