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20話「誕生 ギルド軍師」

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それから、トモヤはギルドで大歓声を浴びた。ギルド内で、1年ぶりのAランク冒険者が誕生したからだ。という訳で、なんだかんだ宴会が始まり、いつも通りトモヤ達もぐでーっと呑み明かしていた。

「そう言えばトモヤ、私が見た限りではトレファとトモヤの位置がすり替わった様に見えたのだが…あれはどういう魔法なのだ?」

「ああ、あれは守護術式って言って、守護者だけが使える味方を守るための魔法なんだ。俺が使ったのはキャスリングって言って、チェスのルールの一つだな。」

「ちぇす…?なんだそれは?」

「チェスってのは…」

チェスについて、基礎からイチゴに説明するトモヤ。

「…って所だ。分かったか?」

「す、すまない…カタ…かたかな…ばかりで全く着いていけぬ…」

「…まあ、細かいルールはトレファにでも聞いてくれ。基本的に王を取られたら負けだから、王を取られないようにする。だから、その為に部下が持っている能力。それがキャスリングだ。王と自分の位置を入れ替えて、王をより防御の硬い場所で守る。本当は色々条件があるが…俺の場合は普通に場所を入れ替えるだけだな。」

「なるほど…それがトモヤの魔法か。便利なものだな。瞬間移動の様なものだろう。」

「…そうだな。だが、事前に互いの同意を得ていなければ、余計に不利になるだけだ。使い所は慎重になるんだ。」

「そうなるな。…軍師となれば、そういう場面も増えるのでは無いか?」

「その通りだ。イチゴは、本当に戦闘については鋭いな。元武士と言うだけはあるか。」

「はは。トモヤに褒められると嬉しいぞ。」

そう言って、顔を赤らめるイチゴ。普段から戦術や世界の情勢についてなど、厳しい事を語り合う仲のトモヤとしては、彼女の恥ずかしがる姿は物珍しく見えた。

「トモヤさーん!イチゴさーん!そろそろエリートフロアの説明があるらしいですよ!一緒に行きましょう!」

「あ、おう。よし、行こうぜイチゴ。」

「うむ。」

────

エリートフロア。Aランク以上の冒険者のみが入る事ができる上級者専用のクエスト受注場だ。酒場の2階に立っており、基本的には、レイドクエストの受注や、外国同士の紛争の抑圧、魔王軍との全面的な交戦等に向かう際に使われる。Aランク以上という事もあり、使用者は皆気品に溢れ、酒場自体も、1階の騒然とした場とは対照的で、高級なグラスや清楚なバーテンダーなど、完全に貴族仕様になっている。

「わぁ…すっごい綺麗ですね…」

「だな…と、とりあえず、座るか…」

四人は慣れない場所に緊張しながら、ひとまず席に着く。1階とは何もかも違う為、四人とも戸惑って動くに動けないらしい。しばらくシーンとしていると、見兼ねた冒険者が四人の元へと向かう。

「…突然失礼。お前達はトモヤ御一行か?」

「え?ああ、はい。新入りです。」

と、トモヤに話しかけたのは、鮮やかな金髪の青年。引き締まった身体は歴戦の勇士そのもので、正に上級者、と言うべき存在感を放っていた。真紅のマント、涼しげな格好からして、貴族だろう。

「やはり。…我が名はトマス=カツァル。ギルドマスター、ハルバトル=ソニヤ様から、エリートフロアを使用するメンバーを紹介しろとのご通達があった。私としても、これから共に過ごす仲間をお前達にも紹介したい。来てもらえないだろうか。」

貴族風の男はそう言うと、ぴたりとトモヤの前に立ち止まった。それから1ミリも動かず、静かに返事を待っている。

「もちろん行こう。…軍師として、仲間の事は知っておきたい。」

「…承知した。では参ろう。着いてきてくれ。」

カツァルはそう言うと、悠然とした態度でフロアを歩き出す。トモヤ達もそれに習って、ひょこひょこと彼の後を追いかける。

────

「ユリ・ヤタ・リアスムクル…」

左側のテーブルに一人、何やら奇っ怪な呪文を唱えながら魔法を唱えている人物が居た。誰かと思ってトモヤがちらっと見ると、すぐにカツァルは説明した。

「彼女は東の魔術師、レーバだ。あんななりだが、一応我がパーティのメンバーだ。少し変わった所はあるが…実力は確かだ。信用していい。」

「凄い魔力ですね…私とは比べ物にならないくらいです…」

と、スフレが呟くのとほぼ同時に、突然レーバがビクッと顔を上げて、ちらりとトモヤ達の方を見る。カツァルが警戒した頃にはもう遅く、レーバは一瞬の内にスフレの目前へと歩み寄った。

「ひっ…!?」

「あっはぁぁぁ…初めましてぇぇ…アナタ、新人さん?」

「あ、は、はい!ミクス=スフレと申しますです!」

「うふふふふ…スフレちゃんね…よろしくぅ…可愛いわねぇ…それにぃぃ…素質もある…うぅん…最高ぉぉっ…」

するとそのまま、べったりとスフレの身体を撫で回す。変な奴を通り越してもはや変態チックだが、それでも確かに、実力はあるらしい。

────ぺしん!

「のぉぅ!?」

「…アホかお前は。新人が怖がっているだろうが。もう少し真面目に接しろ。」

「だってぇぇ…こんな素敵な子が来たのよぉぉ?カツァルももっと愛でたらいいのにぃ…」

「バカモノ。後輩であっても、同じAランクの同期だぞ。対等な立場で話しかけぬか。」

「生真面目ねぇぇ…スフレちゃぁん、後でまたお話しましょうねぇぇ~…」

「は、はい!また後で!」

呆れながら、カツァルは先へと進む。今度は、ピカピカの純金の鎧に身を包んだ、ピッカピカに輝く騎士の男を発見した。細身なカツァルとは違い、かなり大柄だ。

「カツァル。それが噂の軍師殿か。」

「そうとも。…紹介しよう。こちらはラクレス。我がパーティで、竜騎士として活躍している。」

「竜騎士…と言うと、あの最高クラスのジョブの事か…?」

と、イチゴが訊ねる。元騎手として、竜騎士の噂はかねがね聞いていた。地上最強の生き物、ドラゴンに跨り、数多の戦場を縦横無尽に駆け巡る最強の兵士。ドラゴンを手懐ける難易度、それを維持する難しさから、その称号を得ることすら至難の業と呼ばれる。

「その通りだ。…そこのエルフ、商人にしては良い目付きをしている。…お前ならば、なれるかもしれぬぞ。竜騎士に。」

「私が…?」

「(え?…いや、イチゴは魔法職の方が向いてる素質があったと思ってたけど…違うのか…?)」

「ああ。…もしその気があれば、私が鍛えてやろう。…カツァル、レーバとアルテマは紹介したのか?」

「レーバは紹介した。…アルテマはまだだが…あいつ、まだ『寝ている』のか?」

「…やはりそうか。ではまたの機会にしておけ。」

「そうしよう。…私の仲間は一応これで全員だ。トモヤ、これから宜しく頼む。」

すっと、親睦の証に握手を求めるカツァル。トモヤは快く承諾し、ガシッとその手を握る。

「ああ、よろしく。」

二人は互いに、これからの仲間に期待を寄せていた。正義の名の元に戦う者同士、なにか通じるものがあったのだろう。

「すみませーん!トモヤさんはいますかー!」

と、静寂をぶっ壊して、ドタバタと下から一人の女性が走り込んでくる。ギルドマスター、ハルバトル=ソニヤだ。ぜーぜー息を切らしながら、トモヤの元へとやってくる。

「あ、はい。俺ですけど…」

「ギルド軍師としての契約をするのを忘れていました!ちょっと来て貰えますか!」

「わかりました。すぐ行きm⑅…」

トモヤが言うが早いか、ソニヤはがしっとトモヤの腕を掴んで、下へと連れ去っていく。その慌ただしさに、その場にいた誰もが唖然としていた。

────

「…さて、突然お連れして申し訳ありません。本来は、ギルドに帰還してすぐにするべき事だったのですが…」

ぜーぜーと、息を整えながら書類に何かを書き込んでいくソニヤ。トモヤは唖然としたまま、この前座った椅子に座らされている。

「いや、別に大丈夫ですよ。…何をするんです?」

「ギルド軍師は、我がギルドの総本山を操る強大な力。その力を授ける儀式を執り行うのです。」

「なるほど…じゃあ…この儀式が終わったら、俺は本当の意味でギルド軍師になるのですね。」

「…その通りです。…最後に、もう一度だけ問います。…このギルドを背負う、覚悟は出来ましたか?」

トモヤは一瞬、答えに詰まった。でも、最初から結論は決まっていた。目を閉じれば、彼女の言葉が浮かんでくるから。ゆっくりと目を見開いて、言葉を紡ぐ。

「…もちろん。とっくに出来てますよ。」

「…しかと、受け取りました。貴方を信じて、この力を授けます。…目を閉じて下さい。」

トモヤは、言われた通りに目を閉じる。少しの間、静寂が流れたかと思うと、小さな音が部屋にこだまする。

────チュッ…

「(……えっ!?は?え!?受付嬢さん何してんの…!?額に柔らかいものが…まさか…!?)」

そっと離れると、目を開けて良いと指示するソニヤ。トモヤが目を開けると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてるソニヤがいた。トモヤは気付いていないが、彼の額には小さな、ギルドのマークである剣の印が刻まれていた。

「これで儀式は終わりです。…このギルドを、よろしくお願いしますね。」

「……は、はい…」

何をされたのか。トモヤもそれを考えると気恥ずかしくなって、顔を赤くする。二人ともしばらく黙り込んでいたが、ソニヤはなんとか言葉を紡ぐ。

「ギルド軍師への転職…おめでとうございます!」

「…はっ!は、はい!頑張りますです!」

動転して、思わず変な言葉を口走ってしまうトモヤ。不思議な契約だが、トモヤはこうして、ギルド軍師として確立した。軍師となった彼に、この先どんな戦いが待ち受けているのだろうか。
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