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18話「Aランク昇級試験」
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────
『湖の化身』
場所︰東の村の果て シュー湖
内容︰精霊ウンディーネの討伐
報酬︰12400G
────
トモヤは誰よりも早く起きて、クエストを受注していた。メンバーは、いつもの四人。昨日とは違った引き締まった顔を見て、受付嬢、もといギルドマスターも安心した様子でそれを承諾した。
「行ってらっしゃいませ。トモヤ様。」
「…ああ。行ってくる。」
受付嬢に挨拶を済ませ、いつもの待ち合わせ場所へ赴く。大量に仕入れてくるイチゴの荷物をしまうために購入した倉庫。クエストの時や待ち合わせの時は、いつもここを使う。
「…こんなに清々しい日はいつぶりだろうな。」
昨日、スフレから励まされてからというもの、トモヤはとても気分が良かった。ちょっと恥ずかしかったのは、朝起きた時にスフレを抱きしめていた事か。いずれにしても、今の彼は幸せいっぱいで、やる気も上々だった。
「ちょっと早く来すぎたか…よし、俺が準備しておくか。」
普段から愛用している馬車を素手で引っ張り出して、それを引かせる馬の手入れもしておく。普段はトレファの仕事だが、今日ばかりは彼が全て引き受けた。
────
「ふぁぁ…今日は随分早いわね。トモヤ。」
「ああ、トレファ。おはよう。」
「おはよう。…あら。準備しておいてくれたの?」
「まあな。いつもこんな大変な事請け負ってくれてたんだなって思ったよ。」
「ふふ。お気遣いどうも。感謝してるわ。」
らしくない言葉を言って、トレファも仲間を待ち続ける。少しすると、ソロバンを背負った少女が二人の元へ歩いてくる。
「…む。今日は早いな。私が一番だと思ったのだが…」
「残念。今日は私の勝ちね。ま、かく言う私もトモヤには負けたけど。」
「なんと。トモヤの方が早かったのか。」
「へへ。今日は俺が一番早かったぞ。」
「流石だな。…そう言えば、少し気も引き締まっている様に見える。…何かあったのか?」
「ちょっと覚悟決めてきたんだ。迷いも晴れたって所だな。」
なるほどな。と頷くイチゴ。三人が集まってすぐに、スフレも皆の元へと辿り着いた。既に話すべき事は全て話し終えていたスフレもトモヤは、互いに軽く頷きあってから、馬車へと乗り込んだ。Aランクへ向けて、トモヤ達は進み出す。
────
ハルバトルソ東に存在する巨大な湖、シュー湖。湖には温水が流れていて、魔物や生物も多数生息している。その分、凶暴な魔物も成長しやすい為、人間はなかなか近付かない。今回の依頼は、そこで成長したウンディーネが雨乞いを続け、近隣の村に損害を与えている為、討伐して欲しいとの事だった。
「うひょー…すっげぇ雨…」
「この所毎日降り続いているらしい。お陰でし…し…しゅー…湖の水かさが増し、川も氾濫して人々も困っているらしいのだ。」
バケツをひっくり返したような雨。馬車の屋根に容赦なく叩き付ける雨は、視界をも悪くさせており、遠くがよく見れない程降りしきっていた。
「ふーん。んじゃ、その氾濫の原因がウンディーネって魔物なのか。」
「そうですね。ウンディーネは水を司る精霊…基本的には大人しいですが、自らが持つ聖域を汚されると、怒り狂ったように水を解き放つとか…」
「聖域?なんじゃそりゃ?」
「精霊が持つ、『自らの加護を最大限に高める場所』の事よ。人々はそこに向かって祈る事で、雨乞いの契約を行ったりするの。でも、不用意にその場所に人間が近付けば、加護の力は薄れてしまう。精霊はそれを凄く嫌っているのよ。」
「なるほどな…つまり、この雨はウンディーネが聖域を汚されて、怒ってるって訳か。だからって、倒す事無くないか?元々は人間が悪いんだろ?」
「…そうはいかないんですよ。一度精霊が怒ると、それは『落神』となります。雨乞いなどの神事に感情を挟んでしまうと上手く力が機能しなくなります。その歪んだ力が暴走して、抑えきれなくなると『落神』になるのです。こうなれば、精霊は自我を失い、力が続く限り暴走を続けるのです。そうなれば、元々の生態も壊されてしまいますから…倒すしか無くなるのです。」
「なるほどな…うーん、人間ってのは罪なもんだな…」
落神について話を聞いていると、依頼された湖へと辿り付く。水はどうどうと荒れ狂い、茶色く濁って渦巻いている。今もなお地面を浸食して蠢き、どんどん周囲の地形の形を変化させている。
「居たぞ!あれがウンディーネだ!」
湖の中心、渦巻く泥水の中央で、ふよふよと浮かぶ一つの影が見える。全身を青い水で構成した液体状の人間が、荒れ狂う荒波の如く歌を歌っている。
「あれか…!でもここからじゃ遠すぎるぞ…!」
「私に任せて。水の上でも歩ける様にしてあげる。」
トレファはそう言うと、呪文を唱え始める。すると、四人の足元に不思議なスペルがかかり、足首に巻き付いていく。
『グランドフロート』
────バチッ!
電撃が走ったかと思うと、そのスペル文字がピッタリと足に張り付く。トレファはそれを見ると、水面にひょいと飛び乗った。
「おおー!すげえぞトレファ!」
「でしょー?さ、これでウンディーネの元へ行きましょ。」
「はい!…と、あわわっ!?」
「大丈夫かスフレ…おおおっ!?」
つるりん。と二人の体が滑る。スフレとイチゴは、どうもこの流れる足場には慣れない様だ。
「これはダメだな…二人は岸辺から援護してくれるか?俺とトレファでウンディーネを攻撃する。」
「…不服だが、そうしよう。何かあれば私達も飛び出そう。…それで良いか?スフレ。」
「…はい。歩けないなら仕方ないですね…トモヤさん、トレファさん、気を付けて下さいね!」
「ええ。わかってるわ。…トモヤ、行くわよ。」
「…ああ!」
すいすいと、水の上をかけて行く二人。トモヤのセンスはトレファ以上で、水の上だろうと普段と変わらない動きで先へと進んでいく。
『!…ナスガケヲキイイセ』
ウンディーネは二人の人間に気付くと、歌を止めて攻撃態勢に移る。今までに感じたことの無い程の強烈な魔力。トモヤは咄嗟に警戒し、盾を構える。
『!レ散ケ砕レ流』
────ザッパァァァァァン!!
恐るべき高波。舞い上がる水は土や岩を巻き込んで、泥水へと変化していく。その強大な複合属性の攻撃は、触れるだけで樹齢何十年と立っていたであろう木々を、いとも容易く薙ぎ払っていく。
「トレファ!俺の後ろへ!」
「ええ!」
────キィィィィィン!
だが、無敵の盾はそんな攻撃には頓着しない。問答無用で高波を跳ね返し、ウンディーネの方へと波を仕向けていく。破壊力の塊。何十トンもあろうその衝撃波は、もはや水のレベルを完全に超えていた。
『破壊の歌』
だが、ウンディーネはその波をも、いとも容易く吹き飛ばした。自らが持つ破壊の音撃にて。サークル上に描かれた透明の音撃波が、トモヤのはね返した波を破壊していたのだ。破壊の音撃は留まる事を知らず、直線状の木々を吹き飛ばし、遠くの山にまで届き、そこで爆発を起こす。
「な、なんだあの攻撃…!」
「ウンディーネの歌よ。…触れれば、その振動で身体を破壊されてしまうわ。」
「そうか…でも待てよ…それをはね返せれば…」
「ええ。勝機はあるわね。」
「やっぱりな。…よし、トレファ。ある作戦を思いついたから試して貰えるか…?」
「…良いわよ。貴方の作戦なら…期待できるもの。」
「…作戦ってのは…」
トモヤはトレファに軽く耳打ちする。それを聞いてトレファは驚いたが、勝つ為にはやむ無し…と仕方なくその作戦を飲んだ。
「…決まりだな。行くぞトレファ!」
「ど、どうなっても知らないわよ!…おりゃー!」
『湖の化身』
場所︰東の村の果て シュー湖
内容︰精霊ウンディーネの討伐
報酬︰12400G
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トモヤは誰よりも早く起きて、クエストを受注していた。メンバーは、いつもの四人。昨日とは違った引き締まった顔を見て、受付嬢、もといギルドマスターも安心した様子でそれを承諾した。
「行ってらっしゃいませ。トモヤ様。」
「…ああ。行ってくる。」
受付嬢に挨拶を済ませ、いつもの待ち合わせ場所へ赴く。大量に仕入れてくるイチゴの荷物をしまうために購入した倉庫。クエストの時や待ち合わせの時は、いつもここを使う。
「…こんなに清々しい日はいつぶりだろうな。」
昨日、スフレから励まされてからというもの、トモヤはとても気分が良かった。ちょっと恥ずかしかったのは、朝起きた時にスフレを抱きしめていた事か。いずれにしても、今の彼は幸せいっぱいで、やる気も上々だった。
「ちょっと早く来すぎたか…よし、俺が準備しておくか。」
普段から愛用している馬車を素手で引っ張り出して、それを引かせる馬の手入れもしておく。普段はトレファの仕事だが、今日ばかりは彼が全て引き受けた。
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「ふぁぁ…今日は随分早いわね。トモヤ。」
「ああ、トレファ。おはよう。」
「おはよう。…あら。準備しておいてくれたの?」
「まあな。いつもこんな大変な事請け負ってくれてたんだなって思ったよ。」
「ふふ。お気遣いどうも。感謝してるわ。」
らしくない言葉を言って、トレファも仲間を待ち続ける。少しすると、ソロバンを背負った少女が二人の元へ歩いてくる。
「…む。今日は早いな。私が一番だと思ったのだが…」
「残念。今日は私の勝ちね。ま、かく言う私もトモヤには負けたけど。」
「なんと。トモヤの方が早かったのか。」
「へへ。今日は俺が一番早かったぞ。」
「流石だな。…そう言えば、少し気も引き締まっている様に見える。…何かあったのか?」
「ちょっと覚悟決めてきたんだ。迷いも晴れたって所だな。」
なるほどな。と頷くイチゴ。三人が集まってすぐに、スフレも皆の元へと辿り着いた。既に話すべき事は全て話し終えていたスフレもトモヤは、互いに軽く頷きあってから、馬車へと乗り込んだ。Aランクへ向けて、トモヤ達は進み出す。
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ハルバトルソ東に存在する巨大な湖、シュー湖。湖には温水が流れていて、魔物や生物も多数生息している。その分、凶暴な魔物も成長しやすい為、人間はなかなか近付かない。今回の依頼は、そこで成長したウンディーネが雨乞いを続け、近隣の村に損害を与えている為、討伐して欲しいとの事だった。
「うひょー…すっげぇ雨…」
「この所毎日降り続いているらしい。お陰でし…し…しゅー…湖の水かさが増し、川も氾濫して人々も困っているらしいのだ。」
バケツをひっくり返したような雨。馬車の屋根に容赦なく叩き付ける雨は、視界をも悪くさせており、遠くがよく見れない程降りしきっていた。
「ふーん。んじゃ、その氾濫の原因がウンディーネって魔物なのか。」
「そうですね。ウンディーネは水を司る精霊…基本的には大人しいですが、自らが持つ聖域を汚されると、怒り狂ったように水を解き放つとか…」
「聖域?なんじゃそりゃ?」
「精霊が持つ、『自らの加護を最大限に高める場所』の事よ。人々はそこに向かって祈る事で、雨乞いの契約を行ったりするの。でも、不用意にその場所に人間が近付けば、加護の力は薄れてしまう。精霊はそれを凄く嫌っているのよ。」
「なるほどな…つまり、この雨はウンディーネが聖域を汚されて、怒ってるって訳か。だからって、倒す事無くないか?元々は人間が悪いんだろ?」
「…そうはいかないんですよ。一度精霊が怒ると、それは『落神』となります。雨乞いなどの神事に感情を挟んでしまうと上手く力が機能しなくなります。その歪んだ力が暴走して、抑えきれなくなると『落神』になるのです。こうなれば、精霊は自我を失い、力が続く限り暴走を続けるのです。そうなれば、元々の生態も壊されてしまいますから…倒すしか無くなるのです。」
「なるほどな…うーん、人間ってのは罪なもんだな…」
落神について話を聞いていると、依頼された湖へと辿り付く。水はどうどうと荒れ狂い、茶色く濁って渦巻いている。今もなお地面を浸食して蠢き、どんどん周囲の地形の形を変化させている。
「居たぞ!あれがウンディーネだ!」
湖の中心、渦巻く泥水の中央で、ふよふよと浮かぶ一つの影が見える。全身を青い水で構成した液体状の人間が、荒れ狂う荒波の如く歌を歌っている。
「あれか…!でもここからじゃ遠すぎるぞ…!」
「私に任せて。水の上でも歩ける様にしてあげる。」
トレファはそう言うと、呪文を唱え始める。すると、四人の足元に不思議なスペルがかかり、足首に巻き付いていく。
『グランドフロート』
────バチッ!
電撃が走ったかと思うと、そのスペル文字がピッタリと足に張り付く。トレファはそれを見ると、水面にひょいと飛び乗った。
「おおー!すげえぞトレファ!」
「でしょー?さ、これでウンディーネの元へ行きましょ。」
「はい!…と、あわわっ!?」
「大丈夫かスフレ…おおおっ!?」
つるりん。と二人の体が滑る。スフレとイチゴは、どうもこの流れる足場には慣れない様だ。
「これはダメだな…二人は岸辺から援護してくれるか?俺とトレファでウンディーネを攻撃する。」
「…不服だが、そうしよう。何かあれば私達も飛び出そう。…それで良いか?スフレ。」
「…はい。歩けないなら仕方ないですね…トモヤさん、トレファさん、気を付けて下さいね!」
「ええ。わかってるわ。…トモヤ、行くわよ。」
「…ああ!」
すいすいと、水の上をかけて行く二人。トモヤのセンスはトレファ以上で、水の上だろうと普段と変わらない動きで先へと進んでいく。
『!…ナスガケヲキイイセ』
ウンディーネは二人の人間に気付くと、歌を止めて攻撃態勢に移る。今までに感じたことの無い程の強烈な魔力。トモヤは咄嗟に警戒し、盾を構える。
『!レ散ケ砕レ流』
────ザッパァァァァァン!!
恐るべき高波。舞い上がる水は土や岩を巻き込んで、泥水へと変化していく。その強大な複合属性の攻撃は、触れるだけで樹齢何十年と立っていたであろう木々を、いとも容易く薙ぎ払っていく。
「トレファ!俺の後ろへ!」
「ええ!」
────キィィィィィン!
だが、無敵の盾はそんな攻撃には頓着しない。問答無用で高波を跳ね返し、ウンディーネの方へと波を仕向けていく。破壊力の塊。何十トンもあろうその衝撃波は、もはや水のレベルを完全に超えていた。
『破壊の歌』
だが、ウンディーネはその波をも、いとも容易く吹き飛ばした。自らが持つ破壊の音撃にて。サークル上に描かれた透明の音撃波が、トモヤのはね返した波を破壊していたのだ。破壊の音撃は留まる事を知らず、直線状の木々を吹き飛ばし、遠くの山にまで届き、そこで爆発を起こす。
「な、なんだあの攻撃…!」
「ウンディーネの歌よ。…触れれば、その振動で身体を破壊されてしまうわ。」
「そうか…でも待てよ…それをはね返せれば…」
「ええ。勝機はあるわね。」
「やっぱりな。…よし、トレファ。ある作戦を思いついたから試して貰えるか…?」
「…良いわよ。貴方の作戦なら…期待できるもの。」
「…作戦ってのは…」
トモヤはトレファに軽く耳打ちする。それを聞いてトレファは驚いたが、勝つ為にはやむ無し…と仕方なくその作戦を飲んだ。
「…決まりだな。行くぞトレファ!」
「ど、どうなっても知らないわよ!…おりゃー!」
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