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16話「ギルドと魔王軍」

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「ほらしっかりしろ。鎧は脱げたぞ。」

「ぐぅ…助かった…」

中から出て来たのは、トモヤと同じく黒髪の男。当たり障りの無い普通の顔だが、どこか狡猾そうで、どこか間の抜けた感じがする。

「ったく…敵に助けを乞うなんて騎士の風上にも置けないぞ…」

「だ、黙れ…死にたくなかったんだ…」

「はぁ…まあその辺りは悪役っぽくて良いけどさ。そんで、デスぺルド…だっけ?助けてやったんだし、色々と尋問させて貰おうか?」

「…ぐぬ…よかろう。我が剣のサビにならなかっただけ有難いと思え。」

「どの口が言うか…とりあえず座れ。」

「こうか?」

どかっと座るデスぺルド。すると、トモヤは捕縛用に渡されていた縄をそのまま身体に縛り付ける。これでもかと言う程ギチギチに縛り上げ、完璧に拘束する。

「よし。では話をしよう。とりあえず、お前は魔王の配下で…四天王なんだよな?」

「…そうだ。我は尊大なる魔王様の配下、デスぺルド。…しかし大したものだ。四天王であるこの我を一蹴するとは。」

「…どうやら本当みたいだな。にしても、こんなのが四天王とか、魔王様も先が思いやられるな…案外弱っちぃかもしんないな、魔王。」

「なんだとぉぅ!魔王様はっ!貴様なぞ足元にも及ばぬくらいお強いぞ!お前など、魔王様からしたら自分の膝の上を這うセアカゴケグモの様なものだ!」

「(…いや、それ結構やばくないか…?)…まあ、魔王が強いのは分かった。他にも聞きたいんだが、答えてくれるよな?」

「…これ以上の情報の漏えいは…しかし…」

「まあ、答えないなら良いんだ。その時は…」

トモヤは盾を構え、じっくりとデスぺルドを見下ろす。盾の中央、宝石の部分から、ゆっくりと実体化する刃が現れる。

「お前の剣で死んでもらうだけだけどな。」

「ひぃぃぃっ!?しゃっ!喋りまフゥ!それだけは許して下さい!」


────


「あっ!居ました!トモヤさーん!」

「ん?ああ、スフレ。」

スフレが見つけたのは、床に散らばっている何かと、それを見下ろしているトモヤ。スフレ達が近寄る頃には、デスぺルドは既に話を終えて、トモヤによって開放されていたのだった。

「良かった!無事だったんですね!」

「そりゃあな。俺がシモダマ程度に負ける訳無いだろ。」

「だから言ったでしょ。無事だって。」

「……トモヤ、その鎧片はなんだ?」

「ん?ああ、これはな…」

デスぺルドについて説明する。飛んだお笑い草野郎だったが、その話を聞き終えるとイチゴはふるふると震える。

「そうか…この男が…」

「どした?そのマヌケ男を知ってるのか?」

「…ああ。私がまだ騎士団長だった頃…Sランクの魔物が街へ攻めてきたと話したな。その時、Sランクの魔物に跨っていたのが、あの騎士だったのだ…私は奴に挑んだが…負けてしまった…」

「…えっ!?あのおマヌケ野郎が…!?う、うーん…どうにもおかしい気がする…」

「まあでも、トモヤさんが追い返したなら安心ですね!四天王ですらトモヤさんがあしらえるなら、魔王討伐なんてもうすぐそこですよ!ね!」

「ええそうね。…魔王を倒すなんて漠然とした目標だったけど、やっと実感が湧いてきたわ。」

「……そうだな。…トモヤ、次あの男と会った時は…私に戦わせてくれないか?りべ…りべん…りべんじまっ…ちをしたいのだ。」

「ああ。構わないぜ。今のイチゴなら、きっと倒せる。(…最も、あのおマヌケ男がイチゴに勝てるビジョンが浮かばないのだが…)」

「ありがとう。…このソロバンで倒してみせる。」

…やっぱり、負けるかもしれない。なんて思うトモヤであった。強敵を打ち倒し、晴れ晴れとした気分の中、トモヤはギルドへと戻るのだった…


────

「そう言えばトモヤさん、魔王軍の幹部を倒したんですよね。何か情報とか聞けませんでしたか?」

「ああ。もちろん聞いておいた。あのマヌケ…じゃなくて、デスぺルドによると…」

魔王軍。この世界にはばかる魔物達の頂点に君臨する魔王を筆頭に構成される軍団で、団員は魔王、そしてその配下の四天王が、主な幹部である。魔王の目的である「新世界の確立」の為に活動している…とは言っても、魔王の行動に左右される魔物は極一部しかおらず、基本的に魔物達は自由気ままに過ごしている。デスぺルド曰く、魔王もそんなに争いは好きでは無いので、なるべく人間と戦わずに「新世界」を作りたいと願っている。呑気に暮らしたいから、魔物を討伐するギルドにも、あまり干渉はしてこないらしい。ただ、次世代の魔王は好戦的との事で、そこは気を付けろ、との事。

「…次世代の魔王か…確かに好戦的な王が座に君臨すれば、一挙に攻撃を仕掛けて来る事もおかしくはないぞ…」

「ひぃ…じ、じゃあ…本格的に魔王軍と戦うってことですか…!」

「まだそう決まったわけじゃないわ。でも、充分に考慮できるわね。警戒はするに越したことはないわね。」

「トレファの言う通りだ。俺達は襲撃に備えて準備をしておくだけだ。」

トモヤ達が緊張した雰囲気のままで居ると、ひょこっと受付嬢さんが隣から顔を覗かせた。

「あのー、トモヤさん?少し良いですか?」

「…あ、はい。なんですか?」

「ギルド長からお話があるので、来て貰えますか?」

「ギルド長が…?わかりました。それじゃ、三人とも少し待っててくれ。…くれぐれも、喧嘩しないようにな。」

「「「…はい…」」」

前回ぶっ壊したテーブルに、多額の損害費を支払ったのは言うまでもない。いくら商才のあるイチゴがいるとはいえ、毎度毎度これでは流石にお金が足りない。

「ではトモヤさん、参りましょうか。」

「…はい。」

ギルド長とはどんな人物なのか。どんな話をするのか。ちょびっと気になりながら、トモヤは受付嬢についていく。
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