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14話「強襲クエスト」

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ひんやりと涼しい時期になり、トモヤ達のパーティも厚手の服装をする様になってきた。まあ、そんな四人の中で一番気になる人物はと言うと…

「へっくしょーい!…さぶいわね~…」

「トレファさん、いい加減に着替えたらどうですか…?風邪ひいちゃいますよ?」

「ば、ばべよ。…この服は私のトレードマークなんだから…ぶるぶる…」

「とれーど…まーく?とやらはよく分からないが、着替えた方が良い。私の服を貸そう…」

と言って、超高級品の毛皮を取り出すイチゴ。自分の品物なのだが、なんの気兼ねもなくそれを使える精神は見事なものである。

「べ、別にいいわよ…へっくし!こんくらいの寒さ…なんて事…ずるずる~」

もう既に風邪をひいている様な感じがする。意地でもその服でいようとするトレファと、毛皮を着させようとするイチゴで取っ組み合いが始まる。

「美容の為に健康を捨てては意味が無いぞ!トレファ!」

「やめなさーい!私が肌露出を無くしたら、なんの個性もないモブになっちゃうじゃないのー!」

流石に喧嘩させるのはまずいと思ったのか、スフレもそれに割って入る。

「トレファさんは元から個性的だと思いますよ!…変態的な意味で…」

「なんですってこのぺたん娘!私の何処が変態なのよ!」

「なっ…!私はぺたん娘ではありませんよ!あります!ありますから!」

カチンときたスフレも混ざり、取っ組み合いでぎゃーぎゃー喧嘩が始まる。トモヤがいないだけでここまで騒がしくなるとは、等のトモヤ本人は知る由もないだろう。さて肝心のトモヤはと言うと、三人の為に色々とお使いしている最中であった。

「えーと…武器防具は買ったし…次は魔法の薬か…どこにあるんだっけか…」

改めて町を歩いてみると、自分はまだまだ町を知らない事に気付く。人々は思い思いに生活しており、自分の知っている場所ですら、意外な側面があったりして非常に面白い。

「あ、あのー。すみませーん。」

客の呼び込み、だろうか。メイド服を着た少女がトモヤに声をかける。

「ん?あ、はい。なんですか?」

「薬屋をやっているんですが、良かったら寄っていきませんか?」

「(お、ラッキー。)良いですよ。ちょうど薬屋に用があったので。お店はどちらにあるんですか?」

「こちらです。」

メイドに案内されて、トモヤは暗くて狭い通路を奥へ奥へと進んでいく。側面には店が何店か並んでいるが、全てシャッターがしまっている。

「なんだここ…?こんな道があったのか。」

「ご存知ないのですか?ここは闇市場と言って、夜の間だけ営業しているんですよ。」

「へ、へえー…闇市場ねえ~…」

なんかやばい人に着いてきちゃったかも…と思いつつ、路地を歩く。メイドは道の途中で立ち止まると、しまっていたシャッターをぴんと軽く指でつつく。すると。

────ガシャコン!

とシャッターが開き、奥の怪しい木造の店舗が姿を表す。ガラス製のフラスコに怪しい液体が入っていたり、なんか謎の材料が転がっていたりと、とても普通の場所では無い。

「コユト様、お客様ですよー。」

「あー…今行く~…」

気だるそうな声が奥から聞こえたかと思うと、車椅子…とでも言うべきか。椅子に車輪が着いた魔法の道具に乗ったガリガリの男がやって来る。

「はいはい、いらっしゃーい…ギルドのメンバーか…」

「あ、はい。仕事で役に立つ薬とか、ありませんか?」

「あるにはあるよー…そろそろ例の時期だしね~…フェシリア、彼にKの二段目の薬あげて~…」

「了解です。コユト様。」

メイドが棚から薬を探しているが、案外苦戦している。その間に、トモヤは店主であろう男に質問を投げかける。

「あの、例の時期ってなんです?」

「あれ、知らないの~…霜降らしの祭りって言って、この町の伝統的な祭りなんだよ~…それの役に立つ薬~…」

「霜降らしの祭り…?どんな祭りなんですか?」

「北のゼルセウス山からー…シモダマっていう魔物が降りてくるんだ~…すっげー数がいて、ほっとくと冷害とかが起こるから~…そいつらを町の皆で捕まえる祭りなんだ~…シモダマは冷却機能が高いから~…町の人は冷蔵庫として飼ったりしてる訳だー…」

「なるほど…ギルドメンバーも、それに参加するって事ですね。」

「参加するも何も~…レイドクエストだしね~…まあ、これはお祭りだからー…腕っ節に自信があれば誰でも参加できるんだ~…」

「レイドクエスト…」

Bランクになって初めてのレイドクエスト。しかも、それは近い内に開催されると言う。期待に胸を高鳴らせていると、フェシリアがビンを抱えて戻ってきた。

「お待たせしました~。寒冷耐性A+の薬です。四人分で宜しかったですよね?」

「うんうん、ありがとうー…さて、お客さん、うちの薬はね~…高いんだけど~…効果は確実なんだよ~。値も張るんだけど~…買えるかい~?」

「まあ、金は沢山持ってますから、多分買えます。」

というのも、金銭感覚は桁外れに優れた盗賊、トレファと、恐ろしい程の商才を持つ商人イチゴのコンビが、何処から持ってきたのかと言わんばかりの大金を銀行に預けているからである。

「よしきたー…ではお買い上げ~。フェシリア、代金貰ってきて~…」

「はい!…えーと、4点で8800Gになります。今すぐお支払いしますか?」

「え、あ、はい。…8800Gね…はいこれ。」

ドサッと置かれたのは、この国の最高価値を持つ銀貨の山。正直、トモヤはまだこの国の金については詳しくない。払えればそれでオッケー、というのが現状だ。

「えーと、お預かりが1…えええっ!?こ、こんなに出されなくても大丈夫ですよ!?」

「え、そ、そうなの?何枚いる?10枚くらい?」

「1枚でもお釣りが出ますよ!この銀貨、1枚で10万Gなんですから!もう少し、安い硬貨はありませんか?」

「そ、そっか…ならこっちでどうだ?」

そう言って取り出したのは、純金のメダル。この大陸で一番高価な硬貨だ。この町だけでなく、この大陸1の貨幣ともなれば、当然値段も半端無くなる。フェシリアはそれを見るなり、うーんと卒倒してしまう。

「あっ!だ、大丈夫か!?」

「いーのいーの~…気にしないで~…この銀貨1枚貰っておくよ~…次来た時の代金もこれで引いとくから、またいつでも来てくれよ~い…」

「わ、わかりました。ではこれで。」

「ほいほい、今後ともご贔屓にー…」

店主に見送られ、トモヤは再び表路地へと歩き出す。

────

「はぁ…はぁ…私達…なんで争ってたのかしら…」

「わかりません…けど…凄く無駄な時間を過ごした気がします…」

「某も…同感だ…なんの為の口論だったのか…」

三人とも、ぐったりとテーブルに突っ伏している。トレファが暴れるせいで毛皮はボロボロだし、イチゴが無理に詰め寄ったせいで椅子も壊れてるし、スフレが無理に前のめったせいで机も大きくヒビが入っている。

「…とりあえず…ごめんなさいね…私が大人しく毛皮を着ておけば良かったわ…」

「いや…某こそ、無理に着せようとしてすまない…」

「いいのよ…私を思っての事でしょう…それと、スフレちゃんもぺたん娘なんて言ってごめんなさい…」

「大丈夫…です…私も、カッとなりすぎました…」

三人ともボロボロだが、なんとなく友情らしきものが固くなっているのは確かだった。

「ただいまー…うおっ!?ど、どうなってんだこれ!?魔物にでも襲われたのか…!?」

「あ…トモヤさん、おかえりなさい…ちょっと喧嘩してしまいまして…あはは…」

「見ての通りだ…止められなくて不甲斐ない…」

机に突っ伏したまま、うだうだと事情を説明する三人。女同士とは恐ろしいなぁと思いつつ、トモヤは買ってきた品物を並べていく。

「ま、まあ無事で何よりだ。それよりほら。見てくれ!今度のレイドクエストで役に立つ薬だってさ!」

「薬…?そう言えば、そんな匂いがするわね。」

「どんなお薬なんですか?」

「寒冷耐性A+…とか言ってたな。」

「寒冷耐性…なるほど。霜降らしのお祭りね。ギルドだと、レイドクエスト扱いになるのかしら。」

「おお、トレファも知ってるのか。俺も店主に話を聞いただけなんだけど…具体的にはどんなんなんだ?」

「そうね…めっちゃ沢山シモダマが来る…とだけ言っておきましょうか…実際に行なってみると分かるわ…」

考えただけでも寒気がする!と言ったように顔を青くするトレファ。

「…そんなにやばいのか…霜降らし…」

「ええ、とてつもなくやばいわ…」

────ピンポンパンポーン!

すると、突然ギルド館内に放送が流れる。ザザっとノイズが走ったかと思うと、マイクを通した受付嬢の声が聞こえてきた。

『えー、冒険者の皆様に報告です。只今から、霜降らしの祭りが開催されます。シモダマの襲来予定時刻は本日15時です。レイドクエスト参加希望者は、14時までに登録を済ませ、襲撃に備えて下さい。』

「…お、来たな。…これ買っちゃったし、皆で挑んでみないか?報酬も多いらしいしな。」

「私は勿論良いですよ!なんたって、トモヤさんの仲間ですから!」

「ふふ。私も構わないわ。シモダマって可愛いしね。たくさん捕まえるわよ~」

「某も、参戦しよう。今は商人だから役には立てんかもしれないが…まあ、気合いでか…か…か…カバー…しよう!」

四人とも、充分にやる気満々だ。

「よし、決まりだな。それじゃあ行こうぜ!霜降らしの祭り!」

「「「おー!!」」」


────

『レイドクエスト 霜降らしの祭り』

場所︰ハルバトルソ町内
内容︰シモダマの殲滅
報酬︰討伐数に応じて変化
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