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11話「騎士として」

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騎士として、主君の為に尽くせよ。そう教えてきた。自分も教えられた。どんなにドジを踏んでも、失敗しても、この国は自分を拾ってくれた。だから、その恩義をここで返す。これがたとえ、最後の仕事になるとしても。

「今こそ、剣を握れ、王国の騎士達よ!我が国を救うべく立ち上がった英雄、トモヤに続くのだ!」

「「「うおおおおおおおおおおおー!!!!」」」

騎兵隊の士気が上がり、一気に攻撃陣形を作り上げる。目指すはあの龍ただ一匹。最強の盾トモヤと連携し、巨龍を叩き潰す。

「行くぞ!」

「グオオオオオオオオオッ!!」

息を吸い込み、口内に魔力を蓄積させる。標的を捉えると、それに向かってそれを一気に吐き出す!

『ガイアブレス』

────ガラガラガラッ!!

岩か、土か、あるいは地面そのものか。茶色く汚れた、土のレーザーを吐き出す。獲物を岩と衝撃波で殺し、土で味付けをして喰らう。ゾルマディオスの得意技だ。土のブレスは真っ直ぐにトモヤに向かって行くが、トモヤは決してひるまない。

「はね返せ!」

────キィィィィィン!

女神テューリエの神器、無敵の盾。自らの何倍もある岩石であれ、その手にかかればなんて事は無い。土のブレスを跳ね返し、ゾルマディオスは顔面に思い切りブレスを浴びて横転する。

「記憶解放!」

トモヤは飛び上がり、盾を倒れたゾルマディオスへと向ける。

『雷龍の鉄槌︰エクスブロー』

バチバチと盾に電撃が集まったかと思うと、それを一気に放出する。

────ズガァァァァン!

稲妻のごとき雷撃。叩き落とされた何億ボルトにも登る電撃が、地龍へと襲い掛かる!電気に強い土に覆われた土龍でさえ、強化された電撃は凌ぎきれない。バチバチと迸る電撃に身体が壊され、身動きが取れなくなる。

「アサギーっ!今だーっ!」

「…ああ!全軍、奴を叩け!」

トモヤに渡された剣を引き抜き、騎馬隊と共に攻撃を繰り出す。統率された軍隊の動き。一片の曇りもない、見事な忠誠心。アサギはこの日まで、自分が駄目だから、王国騎士団は廃れていくものだと思い込んでいた。だが、それは違った。ただ、皆臆病なだけで…本当は、廃れてなんかいなかった。

「(そうだ…廃れていたのは某の心…!某が騎士団長失格だとしても…皆はついて来てくれていた…!)」

────ジャキィィィン!

「だから…私も報いよう!勇気ある王国騎士団の為に!」

振り抜かれた剣。確かにあの日、自分は皆を守れなかった。騎士団長として、本当に情け無かった。でも、今回は違う。あの時とは、心持ちも何もかも。

「絶対に…勝つ!」

「グゥゥオォォッ!」

騎士団の攻撃を受けてなお、必死に立ち上がろうとするゾルマディオス。もはや執念だが、その執念も、今のアサギの前には無力だ。

「王国騎士団長として…!貴様を討つ!」

トモヤから渡された剣に、光が宿り始める。アサギは馬に乗ったまま、それをゆっくりと横に構える。

「民は国の為に 国は民の為に 我は皆の為に!」

『トゥハイフリズスキャルヴ』

────斬ッ!

清々しいまでの斬撃音。砕けた土片がパラパラと宙を舞い、剣についた真紅の血がポタポタとそれを彩る。赤と茶のコントラストを奏でながら、走者はゆっくりとその剣を鞘に納める。

────カチン。

「グオオオオオオオオオッ!!!?!?」

ぐらりぐらりと。バランスを崩したゾルマディオスは、ゆっくりと。まるで世界自体が遅れているかの様に、その場に倒れた。その長い長い時間の中で、アサギは確かに、嬉しそうに微笑んでいた。自分が、民を守ったのだと。

────ズズーン…

もう、それから土龍は動かなかった。アサギの斬撃が、見事にトドメを刺したようである。



────


「本当に感謝している。皆、よくぞ戦ってくれた。某は本当に…」

「もうそのセリフ、32回目ですよ!」

「そうね。ちょっと聞き飽きたわ。」

ゾルマディオスを倒し、兵士達が後始末に呼ばれている最中。アサギは三人を自室へ招き入れ、ひたすら感謝の気持ちを伝えていた。トレファとスフレは療養がてら、ベットに座っている。

「そ、そんなに言っていたか…すまない。」

なんて、照れくさそうに頬をポリポリかく。トモヤはと言うと、兵士達と一緒に土龍の死体を後始末へ向かっている。

「でも、最後は本当にかっこよかったですよ!剣でズバーンってやって!まさに騎士様ですよね!」

「ええ。それは同感ね。ちょっとドジなのかしらって思ったけど、普通に惚れちゃったわ。」

「はは、ありがとう。…でも、この稼業ともこれでお別れだ。」

「えっ?どうしてですか?土龍を倒したじゃないですか?」

アサギは軽くため息をつくと、語った。この前の魔物討伐戦以来、兵士達が本気になっていないのではないかと不安になった事。そしてそれは自分のせいである事。そして、先日王国から直々に退職する様に言われた事。退職手続き中に土龍が現れたと噂が流れたので、騒動を収めるまでは仮で騎士団長になっていたのだ。

「…そう…だったんですか…」

「ああ。某はこれで終わりだ。後は、後輩達が全て引き受けてくれよう。…もし、冒険者としてそちらのギ…ぎる…どに行く事があれば、その時は某にも声をかけてはくれまいか?」

「…はい!勿論です!良いですよね、トレファさん!」

「ええ。その時は歓迎するわ。きっとトモヤも、貴方が来たら喜ぶと思うわ。」

「…ありがとう。…幸せものだな…私は…」

ぽたぽたと涙を零す。まだ会って半日だと言うのに、歓迎までしてくれると言う。こんな素敵な仲間がいるトモヤが少し羨ましかった。

「あっ、だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。…さて、某もそろそろ行かなくてはならない。トモヤが戻ってきたら、表門へ向かってくれ。最後に、報酬を渡さないとだからな。」

「…わかりました。…アサギさん、本当にありがとうございました!」

「…こちらこそ、ありがとう。」


────


それから三人は、身支度を済ませて正門へと向かった。既に日も沈み、夜になっているが、明日までには辿り着くだろう。正門へと辿り着くと、アサギが一人で三人を待っていた。

「…来たか。これが報酬だ。受け取ってくれ。」

そう言うと、小さな宝石を幾つかトモヤに手渡す。

「…これは?」

「我が国に伝わる魔宝の石だ。…アクアマリン、ルビー、メキライトの三種類がある。売ればそれなりの価値になるだろう。」

「…わかった。有難く頂戴しておく。」

「…ではこれで。…達者でな。」

「…ああ。お前も、元気でな。」

二頭の馬は、するりとすれ違うと、門が閉まってそれぞれを隔てた。もう二度と、会う事は無いのかもしれない。
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