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1話「初めての仲間」

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次の瞬間、世界は大きく変化していた。暗闇が消え、視界は光を取り戻し、空は青く大地は白く。まさに自分が生きていた頃に、全てが戻っていく。違うのは、その景色。その光景。前の世界では見れなかった綺麗な、清々しい空気。何処までも広がる草原に、目の前に広がる大きな、何処か古風の町。

「おお!遂に来たぞ!異世界!」

河部智也、もとい彼は、ついに異世界へと足を踏み入れた。手に握られているのは、巨大な盾。服装はローブで、とても動きやすいデザインだ。

「さて、異世界に来たらやっぱり、宿を探さないとだよな!いざ、宿探しの旅へ出発~!」

盾を背中に背負い、巨大な門をくぐり抜けて行く。門を抜けると、そこはまさに中世時代宜しく、剣と魔法の理想の町が広がっていた。街を行き交う質素な格好の人々、たまに通る馬車や幻想的な噴水が見事にそれらとマッチしていて、智也はウキウキと心浮かれていた。

「おおおおー!すっげえ!RPGそのまんまだ…!」

右を見れば、武器を打ち込んでいる鍛冶屋。左を見れば、回復アイテム等を売っている薬屋。そして前には、この町最大の建物のギルド。まさに冒険者達の理想の町だ。

「とりあえず、ギルドに行ってみるか!」

うきうきとした心持ちのまま、この世界のお仕事を手に入れる為、智也は歩き出す。…が。

────ガタガタン!

「な、なんだ?」

隣の路地裏から、物騒な物音が聞こえる。智也は野次馬気分でその路地裏に近付いてみると、そこでとんでもない事件が起こっていたのだった。

「おうおう、姉ちゃん俺達と一緒に来ないか?」

「っす!綺麗だし可愛いし、最高っす!」

「ひぃ…こ、困ります…」

薄汚い野郎二人に、つば付きとんがり帽子を被った魔法使いの少女が襲われている。周りの人は気付いてこそいるが、男の握っている巨大な斧や、その強面な顔に怯えて近付けない。その光景を見た瞬間に智也はカッと怒りに襲われ、背中の盾を抜き取っていた。

「まあそう言うなって。一緒に来たら楽しい事してやるから、な?」

「っす!兄貴のナンパテクは最高っすよ!今まで連れ込めた女は一人もいな…」

「るせーぞカス!さあ行こうぜ姉ちゃん。」

ガシッと少女の腕を掴む野郎A。

「ひ…い、嫌です…!」

「あぁん?別に良いだろうが!それとも、俺の言う事が聞けねえってのか!?」

怒りっぽい性格なのか、男は拳を振り上げて少女を威嚇する。少女は怯えきって、涙目で震えてしまっている。

「おい、待てよ。」

「あ?」

ガシッと。力強く男の腕を手のひらで締め付ける。智也は真っ直ぐに男を睨みつけ、ツレの男がその視線にびくりと肩をすくめる。

「嫌がってる少女を無理矢理連れてくなんて、男のする事か?」

「うぜぇんだよカス!第一、誰だよてめえ!人の事に一々手出ししてくんじゃねぇ!」

野郎Aは智也の腕を振り払うと、背中に背負っているハンドアックスを握りしめる。鉄製の凶器で、相手の頭をかち割るには最適の武器。生身の人間が喰らえば、重傷は免れないだろう。

「やるのか?なら俺も容赦はしない。」

対して智也は、あらゆる攻撃を反射する無敵の盾。どんな攻撃だろうと、受け止めれば彼の勝ちだ。反射するという事は、衝撃がそのまま跳ね返るという事。即ち、触れた部分に強烈な衝撃を加え、その上で相手に大ダメージを与える事になる。

「げひゃひゃひゃひゃ!そんなふざけた盾で俺を倒せると思ってんのか?ぐひゃーひゃひゃひゃ!」

けたけたと笑う野郎A。智也が盾しか持っていないからこそ、ふざけているのだと確信している。しかし智也は真剣だ。こんな屑に負けるわけが無いと。既に心の中で確信しているからだ。

「ああ、倒せるとも。ほら、かかってこいよ。」

だが油断は禁物。あくまでも防御に特化した武器。相手からの攻撃を受けなければ、反射の力が発動しないからだ。つまり、彼が最初に取る行動は挑発。攻撃を誘い出せば、後は智也の勝ちだ。

「舐めやがってクソガキィィィ!!死ねオラァ!!!」

────ビュン!

と。ハンドアックスが振り下ろされる。しかし智也は、それを素早く盾で受け止める。その瞬間。

────キィィン!

凄まじい衝撃。それと共に、反射の衝撃を受けたハンドアックスが空を舞う。それと同時に、切り付けられた男は身体を切り裂かれたかのように白目を向いて、その場にばったりと倒れてしまう。

「(お、おぉぉ…!すげぇぇっ!本当に反射した…!)」

「っす!?あ、兄貴ィィッ!大丈夫っすか!?」

兄貴分の男は既に体力が限界を迎えており、気絶してそのまま動けないでいる。

「ふん、他愛もない…」

相手を威嚇するために、わざとそれっぽい台詞を吐いておく。野郎Bは倒れた兄貴分を背負って、せっせかせっせか路地裏の奥へと逃げて行った。

「…ふー。やっと行ったか。君、大丈夫だった?」

「は、はい…大丈夫です…ありがとうございました…」

路地裏の壁でふるふる震えていたので、智也は手を貸して少女を立たせる。周りの人々も智也の勇気に感動し、絶賛の視線を向けていた。

「良かった。それじゃ俺はこれで。今度は絡まれないように気を付けろよ。」

盾を背中に背負い直し、智也は歩き出す。しかし、数歩歩いた所で、なんか妙な違和感を感じて後ろを振り返る。 

「…!……」

「(ん?どうしたんだ…?)」

少女は相変わらず同じ地点にいる。とすれば、智也の勘違いだろう。再びギルドへと向かって歩き出す。また少し歩いたところで、智也はまたも後ろを振り返る。

「…!……」

「(なんもない…よな?)」

智也は気付いていない。後ろの魔法使いの少女が、何か言いたそうに一定の距離を保っている事に。

「…あ、あの…あの…」

「(…?空耳かな?)」

「あ……あのっ!!」

ぼそぼそと話していた少女が、いきなりのビックボイス。町中に大きく響いて、ちょっと不安でそわそわしていた智也の心にもどきーんと刺さる。

「ぎゃーっ!?び、び、びっくりしたー!って、君だったのか。どうした?なんか忘れ物?」

「い、いえ!そうではなくて…あの…私をその…な、仲間に入れて貰えませんか…!?」

「仲間…俺は良いけど、やめた方がいいぞ?俺ってまだ、この世界についてなんにも分からないし、まだ定職にも着いてないぞ。」



事実、智也はまだこの世界について何もわかっていない。ただ、人間と魔王が対立している事。それしか教わっていないのだ。更に言うと、資金もゼロに等しい。女神からコインを数枚貰ったのだが、価値としては食べ物一つと交換で全て使い果たす程。

「そ、それでしたら…私がご案内します!ですから…えっと…仲間にして貰えませんか…!?」

「…うーん。どうしよう…」

流石に智也も、これは迷う。仲間にする…と言っても行動を共にする訳だから、多少の迷惑は免れられない。しばらく考えて、断ろうと決断した瞬間、ちらりと少女の顔が智也の瞳にくっきり映りこんだ。

「(断られてしまったら…どうしましょう…)」

ぐすん。と涙目をしている少女。ウェーブのかかったさらりとしたロングの黒髪に、吸い寄せられる様な漆黒の瞳。そして、綺麗な白い肌に、ほんのりと染まった赤い頬。断るとなると、この綺麗な子を困らせてしまうのではないか…と更に苦悩にあけくれた。

「決めた。一緒に行こう。その序に、この街の事を教えてくれないか?」

「…はい!勿論です!ご案内させて頂きます!…私の名前は、ミクス=スフレと申します。よろしくお願いしますね!」

「ああ、よろしく。俺はカワベ=トモヤ…で良いんだな。トモヤって呼んでくれ。」

「はい。わかりました!トモヤさん!」

初めての仲間ができて、トモヤは少し喜びに満ちてきた。果たしてこれから、トモヤはどんな風にこの町を、この世界を救うのだろうか。
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