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「俺のどこが好きなんだ?」
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雨宮はいない。
事前に俺は聞いている。
真琴はタブレットに向かっている。
俺は本を読む振りをして真琴を盗み見ている。
雨宮の奴が頼み込んできた。
めんどくせえ。
けど。
まあ。
しゃあねえか。
「なあ、真琴」
「んー?」
真琴が俺の方を向く。
「お前、俺のどこが好きなんだ? どこから好きになった?」
真琴は少し驚いたようだった。
そして答える。
「声、だよ。初めて聞いた時に好きになった」
「声? 俺の?」
真琴はうっとりとした目で話し始めた。
「うん。低くて気持ちいい声。それからねぇ、顔」
なんだこいつ。
「あと着痩せするところ。服装も好き。雰囲気とか」
「ふぅん」
見た目か。
「あとね、強くて優しくてかっこよくて気遣いができて常識があってそれから」
「もういい。黙れ」
「どうして? 好きなところ言ってるんだよ?」
俺が顔を反らしたのに、真琴の視線が追いかけてくる。
「悪かった。聞いた俺が馬鹿だった」
真琴は笑ってこう言った。
「話し方も好き。そういう言い方も好き。頭がいいところも好き。それに」
嬉しそうな顔を見て、苛立った。
「もういいって言ってるだろ」
俺は思わず大きな声で言った。
こんなこと雨宮に言えるか。
「どうして?」
俺は黙った。
「じゃあ、雪人さんは私のどこが好きなの?」
俺は真琴の目をもう一度見た。
「…目だな。真っ直ぐで、純粋で。俺はお前の目の純粋さが好きだ」
「目かぁ」
真琴は嬉しそうに笑った。
そのあと抱いたら真琴は寝た。
俺はトランクスだけを履いて椅子に座り、テーブルのビールを飲んでいる。
しばらくしたら、雨宮が帰ってきた。
「ただいまぁ」
「お疲れ」
俺はそっちを見ずに返事をした。
「真琴は?」
「寝てる」
俺に頼んでいたことを雨宮が聞いてくるんだろう。
俺はそれが嫌だと思い始めていた。
胸の中に黒い靄がかかってくる。
雨宮は遠慮なく聞いてきた。
「で? 真琴はお前のどこが好き?」
椅子に座って雨宮は俺の目の奥を見てきた。
こいつにしては珍しく真剣な顔だった。
俺は雨宮の目が見れなかった。
「まあ…声、らしい」
それ以上聞かれるのが嫌だった。
「声? どんな感じで?」
この状況だと嘘はつけねえか。
「低くて気持ちがいいらしい」
「へぇ。あとは?」
「顔だったかな」
俺は絶対こいつを見ない。
「声に顔かぁ。それはムリだなぁ」
「何がだ?」
「あとはぁ?」
雨宮が質問に答えないことにムカついたから逆に全部言ってやろうと思った。
「着痩せ、服装、雰囲気とか、話し方、言い方、あとは何だったかな、頭がいいとか? あと何かいろいろ言ってたけど忘れた」
俺は缶のビールを飲み干した。
雨宮を見ると遠くに目を移し、能面のような顔になっていた。
なんか、まずいと思ったからフォローを入れようと思った。
「あいつ、見た目しか見てねえんじゃねぇか? ガキだからな」
真琴を悪く言った。
「いいね、声と顔で真琴に好きになってもらえるなら」
雨宮の表情は完全に消えていた。
声色からも表情がない。
「何なんだ?」
「声と顔なんて、一番どうしようもないじゃん」
俺は考えた。
本当は何となくわかっていた。
雨宮は俺に成り代わりたいんだろう。
わかっていたから、こんなことはしたくなかったし、言いたくもなかった。
俺は、酔ってんのか?
雨宮はテーブルに顔を埋めながら、言う。
「俺のことは微塵もなしか。俺はお前にはなれないか?」
俺は、思い上がっていたかもしれない。
こいつのことを可哀想だと思った。
最近は、雨宮が真琴に傷つけられるのが見てられなかった。
胸が、痛かった。
仕方がないから、俺は嫌々ながらも声を絞り出した。
「服装くらいならなんとかなるんじゃないか? あと髪型とか」
一瞬の間があってから、雨宮が俺を見て言った。
「それ、いいねぇ。お前いいヤツだなぁ」
雨宮は狂った目で笑った。
事前に俺は聞いている。
真琴はタブレットに向かっている。
俺は本を読む振りをして真琴を盗み見ている。
雨宮の奴が頼み込んできた。
めんどくせえ。
けど。
まあ。
しゃあねえか。
「なあ、真琴」
「んー?」
真琴が俺の方を向く。
「お前、俺のどこが好きなんだ? どこから好きになった?」
真琴は少し驚いたようだった。
そして答える。
「声、だよ。初めて聞いた時に好きになった」
「声? 俺の?」
真琴はうっとりとした目で話し始めた。
「うん。低くて気持ちいい声。それからねぇ、顔」
なんだこいつ。
「あと着痩せするところ。服装も好き。雰囲気とか」
「ふぅん」
見た目か。
「あとね、強くて優しくてかっこよくて気遣いができて常識があってそれから」
「もういい。黙れ」
「どうして? 好きなところ言ってるんだよ?」
俺が顔を反らしたのに、真琴の視線が追いかけてくる。
「悪かった。聞いた俺が馬鹿だった」
真琴は笑ってこう言った。
「話し方も好き。そういう言い方も好き。頭がいいところも好き。それに」
嬉しそうな顔を見て、苛立った。
「もういいって言ってるだろ」
俺は思わず大きな声で言った。
こんなこと雨宮に言えるか。
「どうして?」
俺は黙った。
「じゃあ、雪人さんは私のどこが好きなの?」
俺は真琴の目をもう一度見た。
「…目だな。真っ直ぐで、純粋で。俺はお前の目の純粋さが好きだ」
「目かぁ」
真琴は嬉しそうに笑った。
そのあと抱いたら真琴は寝た。
俺はトランクスだけを履いて椅子に座り、テーブルのビールを飲んでいる。
しばらくしたら、雨宮が帰ってきた。
「ただいまぁ」
「お疲れ」
俺はそっちを見ずに返事をした。
「真琴は?」
「寝てる」
俺に頼んでいたことを雨宮が聞いてくるんだろう。
俺はそれが嫌だと思い始めていた。
胸の中に黒い靄がかかってくる。
雨宮は遠慮なく聞いてきた。
「で? 真琴はお前のどこが好き?」
椅子に座って雨宮は俺の目の奥を見てきた。
こいつにしては珍しく真剣な顔だった。
俺は雨宮の目が見れなかった。
「まあ…声、らしい」
それ以上聞かれるのが嫌だった。
「声? どんな感じで?」
この状況だと嘘はつけねえか。
「低くて気持ちがいいらしい」
「へぇ。あとは?」
「顔だったかな」
俺は絶対こいつを見ない。
「声に顔かぁ。それはムリだなぁ」
「何がだ?」
「あとはぁ?」
雨宮が質問に答えないことにムカついたから逆に全部言ってやろうと思った。
「着痩せ、服装、雰囲気とか、話し方、言い方、あとは何だったかな、頭がいいとか? あと何かいろいろ言ってたけど忘れた」
俺は缶のビールを飲み干した。
雨宮を見ると遠くに目を移し、能面のような顔になっていた。
なんか、まずいと思ったからフォローを入れようと思った。
「あいつ、見た目しか見てねえんじゃねぇか? ガキだからな」
真琴を悪く言った。
「いいね、声と顔で真琴に好きになってもらえるなら」
雨宮の表情は完全に消えていた。
声色からも表情がない。
「何なんだ?」
「声と顔なんて、一番どうしようもないじゃん」
俺は考えた。
本当は何となくわかっていた。
雨宮は俺に成り代わりたいんだろう。
わかっていたから、こんなことはしたくなかったし、言いたくもなかった。
俺は、酔ってんのか?
雨宮はテーブルに顔を埋めながら、言う。
「俺のことは微塵もなしか。俺はお前にはなれないか?」
俺は、思い上がっていたかもしれない。
こいつのことを可哀想だと思った。
最近は、雨宮が真琴に傷つけられるのが見てられなかった。
胸が、痛かった。
仕方がないから、俺は嫌々ながらも声を絞り出した。
「服装くらいならなんとかなるんじゃないか? あと髪型とか」
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