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「どんなデートしたの?」
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「ねぇ、貞信とはどんなデートしたの?」
ちょっと俺の素朴な疑問を真琴にぶつけてみた。
真琴は俺の顔を見たあと、どこか遠くを見ながら話しだした。
「んー、ないかな?」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
雪人も真琴を見た。
「あー、1回だけあるかな? 初めてのデート」
「どこ行ったの?」
「ホテルー」
それ、デートじゃないよね?
雪人も眉毛が動いた。
「初めてのデートでホテルに行って、そしたらプロポーズされたー。男の人と付き合ったことなかったから、そういうものかと思って。ふつーに嬉しかったかな?」
もろ、体じゃん。
真琴が可哀想だと思ったから、顔に出たかもしんない。
雪人も下を見た。
「んで、結婚したかな」
「結婚してからは?」
「んー」
真琴はうつむいてまた顔を上げた。
「デートもないし、外食もしたことないかな。食事は作ってくれてたから、そんなものかと思って。で、雪人さんと挨拶してから、あの人急にいろいろ怒るようになって」
「俺か?」
雪人がびっくりしてる。
「うん。まあ、今でこそ言うけど、びっくりするくらい雪人さんが私の好みだったから」
雪人はすっと顔を反らした。
「あんまりにも絡んでくるから、腹が立って大喧嘩して。危うく殺されるところで。それから」
少し、真琴が黙った。
「帰らなくなったかな。帰らなくなってきて3ヶ月くらいして。興信所に頼んだら女の人が6人もいて」
あいつ。
「さすがにちょっとつらくなって。三輪さんに頼んで呼び出してもらって、離婚して」
「すぐ雪人と会ったのか?」
「ううん。仕事で宮内組に行くようになってから、何回か見てて。天竜町をウロウロしてたら出会って」
「もういいだろ」
雪人がうつむいたまま言った。
逃げんな、雪人。
俺は少し雪人の横顔を睨んだ。
それから、真琴の方を向いて微笑む。
真琴はこっちを見てくれなかった。
「またすぐホテル行ったの?」
「ううん。飽きられたら嫌だったし、好きになってほしかったから、喫茶店で話して、私でよかったら付き合ってくださいって言って。LINE交換して」
「何回目でホテル行ったの?」
「んー、3回目に会ったときかな」
「どっちから誘ったの?」
「おい」
雪人が声を出したけど、真琴は逆に雪人をたしなめた。
「いいじゃない、今更だし。私から誘ったんだー。ホテルで抱きしめあったときに呼び捨てで呼んでくださいって言ったら、初めて呼び捨てにしてくれたんだよ」
「そんなことまで話すな」
雪人は小声だ。
俺はさらに聞く。
「すぐプロポーズされた?」
「ううん、全然。というか、私から連絡しないと連絡くれなかったぐらいだよ? あんまり好かれてないのかなと思ったりしてた」
「それは…そんなことはなかったんだが」
雪人、悩んでたのかぁ?
「会ったときはすごく優しいし、気遣ってくれるし、それだけで嬉しかったかな。10回くらいデートしてから、私の方からプロポーズしたんだよ?」
クソッって思ったけど、俺は声に出さない。
「へぇ」
平常心、平常心。
「いろいろデートしたなー。ぶらぶら街を歩いたり。本屋さんに行ったり。ご飯食べたり。公園行ったり。すごく楽しくて幸せで。でも、田村と違って私を追いかけてくれないから、自信がなくて」
俺の平常心が崩されていく。
ムカついてきた。
でも。
声には出してやらないからな。
「結婚してからは?」
「やっぱりデートしたよ? 手を繋いで。私、そういうのが本当になくてよくわからなかったんだけど、雪人さんといるとドキドキして」
「もうやめろ。帰るぞ」
雪人が真琴の手を引っ張って、立ち上がった。
「うん」
真琴も頷いて立ち上がる。
俺も、
「ふーん」
と言って、立ち上がる。
いいなぁ雪人。
惚れられたのかぁ。
好みかぁ。
まぁ確かに。
貞信と雪人じゃ違いすぎるよねぇ。
どうしても聞かずにはいられなかったから、真琴の背中に聞いてみた。
「俺は? 俺は全然好みじゃないのか?」
真琴が振り返る。
目を見た。
「髭が薄いから、好みだよ?」
俺は少しだけ微笑んだ。
俺は泣きそうになりながら、真琴の左手と指を絡めて歩く。
ちょっと俺の素朴な疑問を真琴にぶつけてみた。
真琴は俺の顔を見たあと、どこか遠くを見ながら話しだした。
「んー、ないかな?」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
雪人も真琴を見た。
「あー、1回だけあるかな? 初めてのデート」
「どこ行ったの?」
「ホテルー」
それ、デートじゃないよね?
雪人も眉毛が動いた。
「初めてのデートでホテルに行って、そしたらプロポーズされたー。男の人と付き合ったことなかったから、そういうものかと思って。ふつーに嬉しかったかな?」
もろ、体じゃん。
真琴が可哀想だと思ったから、顔に出たかもしんない。
雪人も下を見た。
「んで、結婚したかな」
「結婚してからは?」
「んー」
真琴はうつむいてまた顔を上げた。
「デートもないし、外食もしたことないかな。食事は作ってくれてたから、そんなものかと思って。で、雪人さんと挨拶してから、あの人急にいろいろ怒るようになって」
「俺か?」
雪人がびっくりしてる。
「うん。まあ、今でこそ言うけど、びっくりするくらい雪人さんが私の好みだったから」
雪人はすっと顔を反らした。
「あんまりにも絡んでくるから、腹が立って大喧嘩して。危うく殺されるところで。それから」
少し、真琴が黙った。
「帰らなくなったかな。帰らなくなってきて3ヶ月くらいして。興信所に頼んだら女の人が6人もいて」
あいつ。
「さすがにちょっとつらくなって。三輪さんに頼んで呼び出してもらって、離婚して」
「すぐ雪人と会ったのか?」
「ううん。仕事で宮内組に行くようになってから、何回か見てて。天竜町をウロウロしてたら出会って」
「もういいだろ」
雪人がうつむいたまま言った。
逃げんな、雪人。
俺は少し雪人の横顔を睨んだ。
それから、真琴の方を向いて微笑む。
真琴はこっちを見てくれなかった。
「またすぐホテル行ったの?」
「ううん。飽きられたら嫌だったし、好きになってほしかったから、喫茶店で話して、私でよかったら付き合ってくださいって言って。LINE交換して」
「何回目でホテル行ったの?」
「んー、3回目に会ったときかな」
「どっちから誘ったの?」
「おい」
雪人が声を出したけど、真琴は逆に雪人をたしなめた。
「いいじゃない、今更だし。私から誘ったんだー。ホテルで抱きしめあったときに呼び捨てで呼んでくださいって言ったら、初めて呼び捨てにしてくれたんだよ」
「そんなことまで話すな」
雪人は小声だ。
俺はさらに聞く。
「すぐプロポーズされた?」
「ううん、全然。というか、私から連絡しないと連絡くれなかったぐらいだよ? あんまり好かれてないのかなと思ったりしてた」
「それは…そんなことはなかったんだが」
雪人、悩んでたのかぁ?
「会ったときはすごく優しいし、気遣ってくれるし、それだけで嬉しかったかな。10回くらいデートしてから、私の方からプロポーズしたんだよ?」
クソッって思ったけど、俺は声に出さない。
「へぇ」
平常心、平常心。
「いろいろデートしたなー。ぶらぶら街を歩いたり。本屋さんに行ったり。ご飯食べたり。公園行ったり。すごく楽しくて幸せで。でも、田村と違って私を追いかけてくれないから、自信がなくて」
俺の平常心が崩されていく。
ムカついてきた。
でも。
声には出してやらないからな。
「結婚してからは?」
「やっぱりデートしたよ? 手を繋いで。私、そういうのが本当になくてよくわからなかったんだけど、雪人さんといるとドキドキして」
「もうやめろ。帰るぞ」
雪人が真琴の手を引っ張って、立ち上がった。
「うん」
真琴も頷いて立ち上がる。
俺も、
「ふーん」
と言って、立ち上がる。
いいなぁ雪人。
惚れられたのかぁ。
好みかぁ。
まぁ確かに。
貞信と雪人じゃ違いすぎるよねぇ。
どうしても聞かずにはいられなかったから、真琴の背中に聞いてみた。
「俺は? 俺は全然好みじゃないのか?」
真琴が振り返る。
目を見た。
「髭が薄いから、好みだよ?」
俺は少しだけ微笑んだ。
俺は泣きそうになりながら、真琴の左手と指を絡めて歩く。
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