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チョコ貰えたら結婚できますか
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「おい、鶴!待てって!」
「あれここじゃなかったけ?」
いきなり大きい声で2人組の男が式場に入ってきた。
「ちげーよ、だから明日だって言ってんだろ?」
「えっそうなの?幹雄てめー早く言えよ!」
「朝からずっと言ってたわ」
「いやでも見ろよ、みんな日本人じゃね!?」
「本当だ。なに、スペインで結婚式を挙げるのは日本の流行りなの?」
「てか幹雄。俺ら場違いだ、カムバッーク!」
「お前が言うかそれ。すいません間違えました、行くぞ鶴。お前、健に怒られるなこれ」
そして男2人はそそくさと帰って行った。
「なんだあれ?」
昇がグラス片手に話しかけてきた。
「さあ?」
今の一はそんなことよりも次のタイムスリップをどうやって成功させるか考えていた。
里奈の笑顔を見ながら今度こそはと心に決め、その笑顔が自分ではなく新郎に向けられていることに気がつき少し自信をなくした。
そんな気持ちに浸ってるうちに次の写真にスライドした。
写真に写っているのは校門前でチョコを片手に大きく喜んでガッツポーズしている昇とそれを見て笑ってる一達がいた。
「あーこの時なー。俺も唯からチョコ貰えてイケるんじゃないかって思ってたのになー。」
昇が腕組みしながら首をかしげて言った。
「義理だって気づかずに卒業式迎えたけどな。」
「うるせーな、お前は結婚式迎えてんじゃねーか。」
「うっ。」
昇の言葉が胸にヒットした。
「そういえばこの頃からだったっけ?浩介と里奈が仲良くなったのって。」
「へー」
矢部 浩介。一にとって一番のライバルであって、里奈の結婚相手である。
高校は一緒だったのだがお互い話す中でもなく、初めてちゃんと話したのは大学生になってからだった。
「そういえばこの時、お前里奈からチョコ貰えたの?」
「いや。そういえばこの年だけは貰えなかった。」
「この年だけはってそれまで毎回貰ってたのか!おれはこの年だけしか貰えなかったのに!」
「知らねーよ!」
「お前チャンスいっぱいあったじゃねーか!なんで俺だけ1回なんだー!」
そう言うと昇は嫉妬心で胸ぐらを掴んできた。
その瞬間、昇から助けられるように周りが暗くなり妖精が出てきた。
「その友達が言ってるようにチャンスは腐るほどあるのにな生かせてないよな、今現在も」
嫌味っぽく微笑みながら妖精が近づいてきた。
「恵まれてるのか恵まれてないのか自分でもわからないですよ本当。」
一はそっと止まっている昇の腕からすり抜けた。
「全く、ここまでチャンスを生かせない奴はお前で2人目だ!」
「1人目の人とは仲良くなれそうですね」
一の腑抜けた態度に妖精も呆れ顔をした。
「そいつにも言ったことだけどな、本質を見極めろ。」
「本質?」
「チャンスをなぜ生かせないのか、今朝なぜ眠れなかったのか、彼女をなぜ奪えないのか」
妖精はその後も淡々と話した。
「いいか?物事には全て理由がある。 俺とこうして出会った事にも、お前が激しく後悔したっていう理由がある。」
一は頷きながら聞いていた。
「本質から目をそらしては、いくら過去へ戻ったところで何も変わらないという事だ」
「なんか、今すごいかっこいいすね」
「今も昔もこれからもかっこいい。これが本質だ。」
「次こそはビシッと決めてきます」
「まあ行ってみればわかるか。求めよさらば与えられん」
大きく深呼吸をした。
「ハレルヤーチャンス!!!ぬぉーー!!」
光が包み込んだ。
目を開けるとそこは教室だった。
なぜか浩介がクラスの前に立っていてそれをクラス全員が見ているという光景だった。
「矢部 浩介です。よろしくお願いします」
「はい拍手だね!」
担任の言葉とともにクラス全員からの拍手が飛び交う。
「はいよろしく!じゃあ席は、瀬名の隣に座ってくれ」
「はい」
(えーよりによって俺の隣かよ)
「よろしく」
「おっ、よろしく」
(てかなんで席隣だったのに全然覚えてないんだっけ)
昼休みに入り里奈と唯、そして昇が席の周りに集まってきた。
「お昼食べいくよ」
(あぁそうだった、高校時代はクラス変わっても4人で昼飯食べてたな)
「おう」
いつもの屋上に向かおうと席を立った時、里奈は立ち止まった。
「ねっ!矢部くんも一緒にお昼どうかな?」
里奈は元気よく隣の浩介に話しかけた。
昔から里奈は気遣いができるというか優しいというか独りの子を見ると話しかけてあげるような女の子だった。
「あっ、僕はいいよ。昼ごはん持ってきてないからこれから売店行かなきゃいけないし」
「そっか!」
里奈は少し寂しそうな顔をして歩き始めた。
(そうだ。浩介は高校時代、転校して俺らのクラスに入ってきたけど最後までクラスに馴染めずに卒業したんだっけ。でも里奈とだけは話してたな)
屋上へ上がる階段の途中で里奈がふと気付いたかのように言った。
「あ、でも矢部くん転校初日だから売店の場所わからないよね」
「そうだな」
「ちょっと教えてくる!」
(まずい、きっとこれが仲良くなるきっかけだ)
「俺が行くよ、席隣だし」
「えっいいの?じゃあタローお願い」
そう言って、一は浩介のところへ向かった。
めんどくさいがなんとかこれできっかけを消せた。自分は卑怯者だなとつくづく思う。まるで大罪を犯したくらい良心が痛んだ。
クラスに着くとまだ浩介がいた。
「あのさ売店わからないよな?教えるよ」
「えっ、でも悪いよ」
一瞬言うか迷った。ここで里奈が気を遣ったと言えば少なからずなんらかの意識はするだろう。自分の中の良心がこれでいいのかと、卑怯者のままでいいのかと。
「別にいいよ、そのくらい。それに里奈に頼まれただけだから」
言ってしまった。
さっきのきっかけを消したことがこれで帳消しになったとは思ってない。
「そっかあの人か!それじゃあお願いします」
申し訳なさそうな顔をする浩介を連れ出して売店を教えた。とくに途中で何を話すわけでもなかった。
「じゃあここだから」
「うん、ありがとう。あの彼女にもよろしく言っといて」
「ああ、、、。あと里奈が少し寂しそうにしてたから今度はちゃんと誘い受けろよ」
「うん、わかった!優しい人なんだね!あの人も瀬名くんも」
「やめろよ」
少し照れた。
だかそんなことよりもやはり浩介とは真正面から勝負しないといけないと感じた。
役目を遂げた後すぐに屋上に向かった。
しかし途中で女子生徒に呼び止められた。
「はじめ!」
振り返って見るとそこには隣のクラスの吉川 三奈美(きっかわ みなみ) がいた。
「三奈美か」
「よかった!探し回ったんだよ。はいこれ!」
そう言っていきなり紙袋を渡してきた。
「なにこれ?」
「何ってチョコだよチョコ!まあ義理だけどね~」
(思い出した。このチョコは義理なんかじゃない。本当は本命でこれをきっかけに三奈美と1年くらい付き合ったんだ)
「うーん、ありがとう後でいただきます」
「絶対食べてよ放課後までに!感想聞きたいから!」
「おう」
そう言って照れ臭そうに三奈美は走り去って行った。
屋上に着くと喜んでいる昇がいた。
「おぉ!はじめくん!見てくれよ唯がついに俺に本命チョコをくれたんだよ」
「本命ちゃうわ!狙ってた先輩に渡そうとしたんだけど彼女いたから渡せなかったの!それであんたが欲しいって言ったんでしょ!」
まあそんなとこだろうなと一は昼飯を食べようと座った。
「あれ、一!お前その紙袋なに?」
「あっ、これ?」
(あ、やばい。里奈の前でこれを見せて勘違いされたら困る)
「いやこれは、なんでもないよ」
「怪しいな、ちょっと見せろ!」
「よせよせ見るな本当なんでもないから」
紙袋を昇から取られないようにしていると不注意で紙袋から中身を落としてしまった。
「おまえ、、、これ!チョコじゃねーか!」
「昇おまえ、どんだけ~」
「誰から貰ったか吐け裏切り者!」
「いや義理だよ義理!義理なら別に誰でもいいだろ」
まだ隠し通せる、そう一瞬考えていた。
「吉川 三奈美か」
「えっ、なんで!?」
「いや裏に手紙が貼ってあるから」
(終わった。里奈の前で見られたくなかった。)
「ふーん、タロー今年は本命もらえたんだね」
「いや、これは違う!」
「何が違うの?隣のクラスの吉川さんでしょ?いいじゃん可愛いし良かったじゃん」
「何だよ、それ」
「別に」
屋上は不穏な空気に包まれた。
そして昇は自分がした事に気付き1人動揺していた。
放課後、過去と同じように三奈美に呼び出された。
そして告白をされた。
「もし良かったらでいいんだけど」
いつもの男勝りな三奈美ではなく照れていて女の子らしく可愛かった。
過去の自分はこのギャップにやられOKしてしまった。
でもそれではいけない。自分が過去に戻ってきたのは、、、。
「ごめん、好きな人がいるんだ」
「そ、、、そっか」
「本当ごめん」
「ううん、いいよ!ちゃんと答えてくれて良かったし。それじゃあ」
そう言って逃げてくようにその場から去って行く三奈美は泣いていた。
これで良かった。過去の自分は付き合っていたにも関わらず里奈のことを忘れられなかった。それを悟られ最後は三奈美にフラれた。
これで彼女を大きく裏切らないで済む。
(これで良かったんだ)
大きくため息をついたら白く残りそれを見てまたさらにため息をついた。
そして堪らなく里奈に会いたくなった。
里奈にこの気持ちを伝えたくなった。
そして一は走り出した。
放課後、1人で里奈は教室にいた。
昨日徹夜して作ったチョコレートを鞄から出してため息をついていた。
「あ、、、」
浩介が教室に入って来た。
「あ、矢部くん」
「あっ、えっーと」
「名前だよね?私、坂口 里奈」
「坂口さん。あのさっきは購買の、ありがとう」
「あーーうん。ちゃんとタロー教えてくれた?」
「タロー?あっ、瀬名くんの事?うん!ちゃんと教えてくれたよ」
「そっか!もしタローになんかされたら言ってね!その時は殴ってやるから!」
「はは、仲良いんだね瀬名くんと」
「うーんそんなんじゃないよ!腐れ縁ってやつ?」
「腐れ縁?そんなに前からずっと一緒にいるんだね」
里奈はまたため息をした。
「そっ、こんなに前からいるのにね。なーんにもわかってないんだよ」
「ん?どうかしたの?」
「あっ、そうだ!矢部くん!転校祝いって言ったら変だけど、これあげるよ」
里奈は鞄から一にあげるはずだったチョコレートを渡した。
「えっ、これ?」
「うーん義理で渡すはずだった人が本命貰っちゃってたから余っちゃったの」
「いいの本当に?」
「うん!自分で食べるのもアレだし」
「そっか、ありがとう!」
「里奈~まだいた!一緒に帰ろ~」
唯と昇が教室に迎えに来た。
「じゃあ私帰るね!また明日!」
「あれ、一どうした?」
「知らないあんなやつ」
里奈から出る不機嫌なオーラに唯と昇は失笑した。
3人が下駄箱まで着くと一が待っていた。
「おっ、はじめ待ってたのか」
「おう」
里奈は黙ったまま一をスルーして帰ろうとした。
「あのさ!」
里奈は一の大きい声に反応して足を止めた。
「おれ、断ったから。三奈美とは付き合わないから」
「そっ。別にそんなこと報告しなくてもいいんだけど。行こっ唯!」
里奈は強がってゆいを引っ張って立ち去ろうとした。
「だから!他に好きな人がいるから!」
里奈は目を丸くして振り返った。
「他に好きな人がいるから付き合えないって言った」
「そう。それで?その他の人って、、、誰?」
里奈の頬が夕焼けのせいか少し赤く、そしてニヤケているように見えた。
「それは、、、」
その時、写真部の生徒が話しかけて来た。
「あーそこの4人!ちょっと写真撮らせて!バレンタイン、青春している生徒を撮らせて欲しいんだ!」
「いや、ちょっ、、、」
「さっ、寄って寄って!ハイチーズ!」
シャッター音が鳴ると同時にまた光が包み込む。
目を開け、ゆっくりとスライドショーに目を向ける。
そこには前と変わらずガッツポーズしている昇が大きく写っていた。
少し変わったとすれば頬を赤くして上機嫌な笑顔の里奈の姿だった。
「そういえばこの日だよな!浩介と初めて会ったの」
「そうだな」
「まさか里奈と結婚するとはなー」
「でも浩介から聞いたけどこの頃から里奈のことちょっといいなーって思ってたらしいよ」
唯がニヤニヤしながら話に入って来た。
すると辺りが暗くなり咳払いをしながら妖精が現れた。
「俺の忠告を覚えてるか?」
「はい?」
「本質を見極めろだ」
「そうでしたっけ?」
「今回のお前のやり方は決して間違ってはいなかった、俺はそう評価している」
「でも結局2人を近づけてしまいました」
「一見遠周りに見えても1番の近道だってこともあるだろ?
「はい」
「まあ、今回の件がそれに該当するかは置いといて」
「それじゃあ意味ないじゃないですか!」
「得てして人間というものは相手を蹴落としたり出しぬいたりするものだ。だかお前は最終的にはそれをしなかった」
「いやしようと思ったんですけど、良心が痛んだんです」
「いや、偽善者に徹する良心があったと言うことだ」
「嬉しくねー」
「そんな心配すんな、彼女の中ではお前の価値は着実に上昇している。」
「まあそれが結婚に繋がるから全く別の話だが」
「えっー」
妖精は微笑みながら指を鳴らし消えて行った。
「あれここじゃなかったけ?」
いきなり大きい声で2人組の男が式場に入ってきた。
「ちげーよ、だから明日だって言ってんだろ?」
「えっそうなの?幹雄てめー早く言えよ!」
「朝からずっと言ってたわ」
「いやでも見ろよ、みんな日本人じゃね!?」
「本当だ。なに、スペインで結婚式を挙げるのは日本の流行りなの?」
「てか幹雄。俺ら場違いだ、カムバッーク!」
「お前が言うかそれ。すいません間違えました、行くぞ鶴。お前、健に怒られるなこれ」
そして男2人はそそくさと帰って行った。
「なんだあれ?」
昇がグラス片手に話しかけてきた。
「さあ?」
今の一はそんなことよりも次のタイムスリップをどうやって成功させるか考えていた。
里奈の笑顔を見ながら今度こそはと心に決め、その笑顔が自分ではなく新郎に向けられていることに気がつき少し自信をなくした。
そんな気持ちに浸ってるうちに次の写真にスライドした。
写真に写っているのは校門前でチョコを片手に大きく喜んでガッツポーズしている昇とそれを見て笑ってる一達がいた。
「あーこの時なー。俺も唯からチョコ貰えてイケるんじゃないかって思ってたのになー。」
昇が腕組みしながら首をかしげて言った。
「義理だって気づかずに卒業式迎えたけどな。」
「うるせーな、お前は結婚式迎えてんじゃねーか。」
「うっ。」
昇の言葉が胸にヒットした。
「そういえばこの頃からだったっけ?浩介と里奈が仲良くなったのって。」
「へー」
矢部 浩介。一にとって一番のライバルであって、里奈の結婚相手である。
高校は一緒だったのだがお互い話す中でもなく、初めてちゃんと話したのは大学生になってからだった。
「そういえばこの時、お前里奈からチョコ貰えたの?」
「いや。そういえばこの年だけは貰えなかった。」
「この年だけはってそれまで毎回貰ってたのか!おれはこの年だけしか貰えなかったのに!」
「知らねーよ!」
「お前チャンスいっぱいあったじゃねーか!なんで俺だけ1回なんだー!」
そう言うと昇は嫉妬心で胸ぐらを掴んできた。
その瞬間、昇から助けられるように周りが暗くなり妖精が出てきた。
「その友達が言ってるようにチャンスは腐るほどあるのにな生かせてないよな、今現在も」
嫌味っぽく微笑みながら妖精が近づいてきた。
「恵まれてるのか恵まれてないのか自分でもわからないですよ本当。」
一はそっと止まっている昇の腕からすり抜けた。
「全く、ここまでチャンスを生かせない奴はお前で2人目だ!」
「1人目の人とは仲良くなれそうですね」
一の腑抜けた態度に妖精も呆れ顔をした。
「そいつにも言ったことだけどな、本質を見極めろ。」
「本質?」
「チャンスをなぜ生かせないのか、今朝なぜ眠れなかったのか、彼女をなぜ奪えないのか」
妖精はその後も淡々と話した。
「いいか?物事には全て理由がある。 俺とこうして出会った事にも、お前が激しく後悔したっていう理由がある。」
一は頷きながら聞いていた。
「本質から目をそらしては、いくら過去へ戻ったところで何も変わらないという事だ」
「なんか、今すごいかっこいいすね」
「今も昔もこれからもかっこいい。これが本質だ。」
「次こそはビシッと決めてきます」
「まあ行ってみればわかるか。求めよさらば与えられん」
大きく深呼吸をした。
「ハレルヤーチャンス!!!ぬぉーー!!」
光が包み込んだ。
目を開けるとそこは教室だった。
なぜか浩介がクラスの前に立っていてそれをクラス全員が見ているという光景だった。
「矢部 浩介です。よろしくお願いします」
「はい拍手だね!」
担任の言葉とともにクラス全員からの拍手が飛び交う。
「はいよろしく!じゃあ席は、瀬名の隣に座ってくれ」
「はい」
(えーよりによって俺の隣かよ)
「よろしく」
「おっ、よろしく」
(てかなんで席隣だったのに全然覚えてないんだっけ)
昼休みに入り里奈と唯、そして昇が席の周りに集まってきた。
「お昼食べいくよ」
(あぁそうだった、高校時代はクラス変わっても4人で昼飯食べてたな)
「おう」
いつもの屋上に向かおうと席を立った時、里奈は立ち止まった。
「ねっ!矢部くんも一緒にお昼どうかな?」
里奈は元気よく隣の浩介に話しかけた。
昔から里奈は気遣いができるというか優しいというか独りの子を見ると話しかけてあげるような女の子だった。
「あっ、僕はいいよ。昼ごはん持ってきてないからこれから売店行かなきゃいけないし」
「そっか!」
里奈は少し寂しそうな顔をして歩き始めた。
(そうだ。浩介は高校時代、転校して俺らのクラスに入ってきたけど最後までクラスに馴染めずに卒業したんだっけ。でも里奈とだけは話してたな)
屋上へ上がる階段の途中で里奈がふと気付いたかのように言った。
「あ、でも矢部くん転校初日だから売店の場所わからないよね」
「そうだな」
「ちょっと教えてくる!」
(まずい、きっとこれが仲良くなるきっかけだ)
「俺が行くよ、席隣だし」
「えっいいの?じゃあタローお願い」
そう言って、一は浩介のところへ向かった。
めんどくさいがなんとかこれできっかけを消せた。自分は卑怯者だなとつくづく思う。まるで大罪を犯したくらい良心が痛んだ。
クラスに着くとまだ浩介がいた。
「あのさ売店わからないよな?教えるよ」
「えっ、でも悪いよ」
一瞬言うか迷った。ここで里奈が気を遣ったと言えば少なからずなんらかの意識はするだろう。自分の中の良心がこれでいいのかと、卑怯者のままでいいのかと。
「別にいいよ、そのくらい。それに里奈に頼まれただけだから」
言ってしまった。
さっきのきっかけを消したことがこれで帳消しになったとは思ってない。
「そっかあの人か!それじゃあお願いします」
申し訳なさそうな顔をする浩介を連れ出して売店を教えた。とくに途中で何を話すわけでもなかった。
「じゃあここだから」
「うん、ありがとう。あの彼女にもよろしく言っといて」
「ああ、、、。あと里奈が少し寂しそうにしてたから今度はちゃんと誘い受けろよ」
「うん、わかった!優しい人なんだね!あの人も瀬名くんも」
「やめろよ」
少し照れた。
だかそんなことよりもやはり浩介とは真正面から勝負しないといけないと感じた。
役目を遂げた後すぐに屋上に向かった。
しかし途中で女子生徒に呼び止められた。
「はじめ!」
振り返って見るとそこには隣のクラスの吉川 三奈美(きっかわ みなみ) がいた。
「三奈美か」
「よかった!探し回ったんだよ。はいこれ!」
そう言っていきなり紙袋を渡してきた。
「なにこれ?」
「何ってチョコだよチョコ!まあ義理だけどね~」
(思い出した。このチョコは義理なんかじゃない。本当は本命でこれをきっかけに三奈美と1年くらい付き合ったんだ)
「うーん、ありがとう後でいただきます」
「絶対食べてよ放課後までに!感想聞きたいから!」
「おう」
そう言って照れ臭そうに三奈美は走り去って行った。
屋上に着くと喜んでいる昇がいた。
「おぉ!はじめくん!見てくれよ唯がついに俺に本命チョコをくれたんだよ」
「本命ちゃうわ!狙ってた先輩に渡そうとしたんだけど彼女いたから渡せなかったの!それであんたが欲しいって言ったんでしょ!」
まあそんなとこだろうなと一は昼飯を食べようと座った。
「あれ、一!お前その紙袋なに?」
「あっ、これ?」
(あ、やばい。里奈の前でこれを見せて勘違いされたら困る)
「いやこれは、なんでもないよ」
「怪しいな、ちょっと見せろ!」
「よせよせ見るな本当なんでもないから」
紙袋を昇から取られないようにしていると不注意で紙袋から中身を落としてしまった。
「おまえ、、、これ!チョコじゃねーか!」
「昇おまえ、どんだけ~」
「誰から貰ったか吐け裏切り者!」
「いや義理だよ義理!義理なら別に誰でもいいだろ」
まだ隠し通せる、そう一瞬考えていた。
「吉川 三奈美か」
「えっ、なんで!?」
「いや裏に手紙が貼ってあるから」
(終わった。里奈の前で見られたくなかった。)
「ふーん、タロー今年は本命もらえたんだね」
「いや、これは違う!」
「何が違うの?隣のクラスの吉川さんでしょ?いいじゃん可愛いし良かったじゃん」
「何だよ、それ」
「別に」
屋上は不穏な空気に包まれた。
そして昇は自分がした事に気付き1人動揺していた。
放課後、過去と同じように三奈美に呼び出された。
そして告白をされた。
「もし良かったらでいいんだけど」
いつもの男勝りな三奈美ではなく照れていて女の子らしく可愛かった。
過去の自分はこのギャップにやられOKしてしまった。
でもそれではいけない。自分が過去に戻ってきたのは、、、。
「ごめん、好きな人がいるんだ」
「そ、、、そっか」
「本当ごめん」
「ううん、いいよ!ちゃんと答えてくれて良かったし。それじゃあ」
そう言って逃げてくようにその場から去って行く三奈美は泣いていた。
これで良かった。過去の自分は付き合っていたにも関わらず里奈のことを忘れられなかった。それを悟られ最後は三奈美にフラれた。
これで彼女を大きく裏切らないで済む。
(これで良かったんだ)
大きくため息をついたら白く残りそれを見てまたさらにため息をついた。
そして堪らなく里奈に会いたくなった。
里奈にこの気持ちを伝えたくなった。
そして一は走り出した。
放課後、1人で里奈は教室にいた。
昨日徹夜して作ったチョコレートを鞄から出してため息をついていた。
「あ、、、」
浩介が教室に入って来た。
「あ、矢部くん」
「あっ、えっーと」
「名前だよね?私、坂口 里奈」
「坂口さん。あのさっきは購買の、ありがとう」
「あーーうん。ちゃんとタロー教えてくれた?」
「タロー?あっ、瀬名くんの事?うん!ちゃんと教えてくれたよ」
「そっか!もしタローになんかされたら言ってね!その時は殴ってやるから!」
「はは、仲良いんだね瀬名くんと」
「うーんそんなんじゃないよ!腐れ縁ってやつ?」
「腐れ縁?そんなに前からずっと一緒にいるんだね」
里奈はまたため息をした。
「そっ、こんなに前からいるのにね。なーんにもわかってないんだよ」
「ん?どうかしたの?」
「あっ、そうだ!矢部くん!転校祝いって言ったら変だけど、これあげるよ」
里奈は鞄から一にあげるはずだったチョコレートを渡した。
「えっ、これ?」
「うーん義理で渡すはずだった人が本命貰っちゃってたから余っちゃったの」
「いいの本当に?」
「うん!自分で食べるのもアレだし」
「そっか、ありがとう!」
「里奈~まだいた!一緒に帰ろ~」
唯と昇が教室に迎えに来た。
「じゃあ私帰るね!また明日!」
「あれ、一どうした?」
「知らないあんなやつ」
里奈から出る不機嫌なオーラに唯と昇は失笑した。
3人が下駄箱まで着くと一が待っていた。
「おっ、はじめ待ってたのか」
「おう」
里奈は黙ったまま一をスルーして帰ろうとした。
「あのさ!」
里奈は一の大きい声に反応して足を止めた。
「おれ、断ったから。三奈美とは付き合わないから」
「そっ。別にそんなこと報告しなくてもいいんだけど。行こっ唯!」
里奈は強がってゆいを引っ張って立ち去ろうとした。
「だから!他に好きな人がいるから!」
里奈は目を丸くして振り返った。
「他に好きな人がいるから付き合えないって言った」
「そう。それで?その他の人って、、、誰?」
里奈の頬が夕焼けのせいか少し赤く、そしてニヤケているように見えた。
「それは、、、」
その時、写真部の生徒が話しかけて来た。
「あーそこの4人!ちょっと写真撮らせて!バレンタイン、青春している生徒を撮らせて欲しいんだ!」
「いや、ちょっ、、、」
「さっ、寄って寄って!ハイチーズ!」
シャッター音が鳴ると同時にまた光が包み込む。
目を開け、ゆっくりとスライドショーに目を向ける。
そこには前と変わらずガッツポーズしている昇が大きく写っていた。
少し変わったとすれば頬を赤くして上機嫌な笑顔の里奈の姿だった。
「そういえばこの日だよな!浩介と初めて会ったの」
「そうだな」
「まさか里奈と結婚するとはなー」
「でも浩介から聞いたけどこの頃から里奈のことちょっといいなーって思ってたらしいよ」
唯がニヤニヤしながら話に入って来た。
すると辺りが暗くなり咳払いをしながら妖精が現れた。
「俺の忠告を覚えてるか?」
「はい?」
「本質を見極めろだ」
「そうでしたっけ?」
「今回のお前のやり方は決して間違ってはいなかった、俺はそう評価している」
「でも結局2人を近づけてしまいました」
「一見遠周りに見えても1番の近道だってこともあるだろ?
「はい」
「まあ、今回の件がそれに該当するかは置いといて」
「それじゃあ意味ないじゃないですか!」
「得てして人間というものは相手を蹴落としたり出しぬいたりするものだ。だかお前は最終的にはそれをしなかった」
「いやしようと思ったんですけど、良心が痛んだんです」
「いや、偽善者に徹する良心があったと言うことだ」
「嬉しくねー」
「そんな心配すんな、彼女の中ではお前の価値は着実に上昇している。」
「まあそれが結婚に繋がるから全く別の話だが」
「えっー」
妖精は微笑みながら指を鳴らし消えて行った。
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