プロポーズ大作戦2

妖精

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国立に行けたら結婚できる!?

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瀬名 一(せな はじめ)はその日、朝まで寝つけずにベッドの上に横になっていた。
ふと、時計を見るともう朝の6時だった。


寝られなかった理由は幼馴染であり片思い中の坂口 里奈(さかぐち りな)の事を考えていたからである。
そうその日は里奈の結婚式だったからだ。
しかし里奈は一と結婚するのではなく違う男と結婚するのだ。

「もうこんな時間か…」
一はそう呟くと洗面所へと向かった。
里奈は今日をもって誰かのものになってしまうんだ、幼稚園の頃から大学までずっと一緒にいたのに…そんなことを考えながら一は涙を洗い流すように顔を洗っていた。

すべての支度を終えるともう8時になっていた。

「そろそろ出るかな」 

一はそう言って部屋を出た。式場に着くとそこには加賀 昇(かが のぼる) が一を待っていた。

「お前は来ないと思ったよ」

「バカ言え、幼稚園からの付き合いだぞ?来るに決まってんだろ!」

「いや幼稚園から一緒なのに結局、今日までなーんにも出来なかったからさ」

昇の言葉がぐさりと心に刺さった。何も言い返せなかった。
昇は一が里奈の事を好きだと知っている。中学からの同級生でサッカー部を共にしてきた戦友でもあり親友だ。

「おーいお二人さーん!」

一が昇にエグいいじられ方をされ落ち込んでるのも知らずに元気いっぱいの声で井上 唯 (いのうえ ゆい) が登場した。
井上 唯は高校の頃からの同級生で里奈の大親友であり、少し天然なところがある the 明るい女の子だ。

「おっ…おー唯!もう来てたんだ」

昇が少し動揺しながら挨拶した。
そう、昇は高校の頃からずっと唯のことが好きなのである。

「なんだかんだ、一は久しぶりじゃない?」

「あーそうだな…こっち来る前に集まったとき以来だしな。」

こっちというのはスペインのことだ。里奈の結婚式はスペインで開かれる。なんとまあ贅沢な結婚式だ。


「おい、そろそろ始まるぞ。」

昇が時計を見ながら2人に呼びかけた。
「おう。」

式が始まり淡々と進んでいく。
里奈のウェディングドレス姿は本当に綺麗だった。そして里奈の幸せそうな笑顔を見る度に胸の奥に激痛が走る。その痛みを紛らわしたくシャンパンを次から次へと呑んでいた。知らぬ間に時間は過ぎていった。
そして里奈のために昇と唯が用意したスライドショーが始まった。

「さてここで新婦、里奈様のためにご友人が用意して頂いたスライドショーのお時間です!」

「これ作るのまじ大変だったなー」

昇が自慢気に話しかけてきた。
ご苦労さん。とだけ返し流していた。
そして1枚のスライドショーが映し出された。
そこには全国高校サッカーの県予選決勝敗退の時の写真が映し出されていた。

「あーこの時かー惜しかったな…」

「そうそう…どっかの誰かさんがゴールしていればな、わからなかったのにな。」

昇が笑いながらまたからかう。

「やめろよまだ引きずってんだから…。」

「悪い、悪いまだ気にしてたのか」

昇は気持ちを察したのか少し申し訳なさそうにする。
この日は今でも鮮明に覚えている。

後半30分。試合は2-0で負けていた。そこで監督は交代枠の最後の1枚として一を使った。
敗色ムード漂う中、一はピッチに入った。そして一は1点を見事に返したのだ。

「まだ行けんだろ!あと1点何が何でも取るぞ!」

キャプテンの昇がチームに鼓舞する。
マネージャーであった里奈と唯も声をからせながら応援していた。
試合会場の全員がどよめき始めた。
チームの全員もひょっとしたらひょっとするのではという雰囲気になったのだ。しかしそこから相手は一方的に引いて守る戦術に変え、シュートチャンスが減ってしまい結果2-1で負けてしまった。
その中でも1番辛かったのは一だった。
相手が引いて守る戦術に変えた後でも1度だけビックチャンスがあったのだ。
それはロスタイム最後のワンプレーだった。
コーナーキックの後、どフリーの一の元にボールが溢れたのだが一は打ち上げてしまったのだ。そこで試合終了のホイッスルが鳴った。里奈の泣いている姿を見た時は一も涙が止まらなかった。

スライドショーに映されていたのはその後に撮った集合写真だった。
里奈と唯は顔をクシャらせながら泣いている。
もしあの時、俺がゴールを決めて全国に行けたら…彼女の泣いている顔を笑顔に変えることができていたら結婚できていたのかもしれない。
もう一度戻れるならあの時に戻ってゴールを決めたい。彼女を笑顔にしてあげたい。

「もう一度…もう一度!!!」

思わず一がそう呟いた時だった。
とつぜん、一の周りから光と音が消え去った。一瞬、停電なのかとも思ったがスクリーンの映像はそのままだった。

「なんだこれ」

するとふいに背後から人の声が聞こえてきた。


「オスカー・ワイルドを知っているか」

声の持ち主は妙な格好をした中年男だった。

「イギリスの作家、オスカー・ワイルドはこう言っている。『男女の間では友情は不可能だ。情熱と敵意と崇拝と愛はあるが、友情はない。』と…。オマエたちは男女でありながら、最初から最後まで友情という関係以外が不可能だった。」

キョトンとした表情で立っている一を、ジロジロ見ながら言った。

「この期に及んでもまだ諦めきれずにいる。違うかね?」

「あの、なんですか?」

そう言った一を手で制すると男はこう言った。

「お前の言いたいことはわかっている。できることならあの頃に戻って人生をやり直し、彼女を自分のものにしたいんだろ」

「まあ…はい」

「ではそうしなさい。キミは過去に戻り、あの写真が撮影されるまでの時間悔いのないようにやり直す」

「やり直すって…」

一は少し困った顔をしながら周囲を見回し、会場の誰一人動かないことに少し怯えていた。

「あの、なんかのテレビのドッキリですか?あなた有名人か何かですか?」

「私は妖精だ」

「妖精ってフェアリーの?」

「いかにも」

少しめんどくさくなってきた一はふざけながら言った。

「では~妖精さん~過去に戻してくーださい!」

妖精は一が持っているシャンパンをとって飲み干すと耳元で囁いた。

「呪文を唱えろ。『ハレルヤ~チャンス』ってな」

「りょーかいしました~フェアリ~」

一は全く信じておらず妖精の言葉を受け流した。

「求めよ!さらば与えられん」

笑いながら一は呪文を口にした。

「ハレルヤ~チャンス~」

「もっとしっかり言え!」

「ハレルヤ~チャンス!」

「ポーズ付けて言えよ!」

本当に面倒くさくなったので少し真面目になり声を上げながら叫んだ。」

「ハレルヤ~チャンス!!」

その途端、まばゆい光が一を包み込みどこかに勢いよく飛んでいく感じがした。
一は眩しくて目を閉じた。


目を開けるとまず見えたのは結婚式場でも妖精の姿でもなくとても広いピッチと大観衆だった。
太陽の眩しさで少し目を半開きにする形にはなったが確実にそこにはピッチがあった。

「ええー!!なにこれ?」

一は辺りを見回すとそこには高校時代のチームメートがピッチでサッカーをしていた。

「タロ!監督が呼んでる!!」

とても大きくて聴き慣れている声が聞こえてきた。その声の持ち主は里奈だった。

「里奈…。なんで?」
里奈は一の元に駆け寄ってきた。

「ほらタロー、はやく行きなよ!」

「え、いや。なにこれ」

状況が飲み込めない。落ち着いてまず深呼吸をした。

「なにって、ふざけてるの?ほら早く!」

まさかと考えながらとりあえずここは成り行きに任せることに決めた。
しかし一は飲み込むのが早い方だった。
時間が経つにつれてこれが県予選決勝の舞台で試合中だってことと本当に過去に戻ってきたことに気づいた。
一は監督の元に急いで行った。
そして監督から交代の知らせを受け準備をした。ユニフォーム姿になると一は再び深呼吸をして自分を落ち着かせていた。

「ボール蹴るのとか何年ぶりだよ、大丈夫かな」
一が考えている横に里奈がスッと立ち言った。

「信じてるよタロー、あと2点絶対取り返してきてね!」

タロー…。里奈が俺につけたあだ名だ。幼稚園の頃、里奈は漢字で書かれた俺の名前 『瀬名 一』を読めず、瀬名の名と一をカタカナと勘違いしてタローと呼んだのが始まりだった。それ以来ずっと里奈からはタローと呼ばれている。

監督の指示を聞いてピッチに入った。

「2点なんかじゃ終わらせねーよ…ハットトリック狙ってやるよ」

小さな声で独り言を言っているといきなりボールがきた。
だが一はうまくトラップをして前を向く。
昇がこちらを見ながら手を挙げている。
しかし一は無視をしてドリブルをし始めた。
なぜなら過去このドリブル突破からのシュートでゴールをしたのだ。
1人をフェイントでかわすとシュートをした。

過去通りボールはゴールネットを揺らした。
歓声が湧く。あの時と同じように胸が熱くなった。

「まだ行けんだろ!あと1点何が何でも取るぞ!」

昇がチームに鼓舞する。

「昇、俺が次も点取ってやるよ」

「いつもと違って今日は頼もしいな」

今の一には自信しかなかった。
そしてチームは一を攻撃の中心にしてシュートを打ち続けた。

しかし点は動かなかった。
そして迎えたロスタイム。
一のトラウマになっているあの場面がもう一度目の前で再現された。
過去と同じように一の元にボールが溢れた。
どうする?打つか?心の中で一は少し迷った。そして一はボール上手くトラップしてシュートフェイントをして一人かわした。

「ここだ!」

一は力強くボールを蹴った。ボールはゴールへと一直線で飛んで行く。
しかし、キーパーの好セーブで弾かれてしまった。
一瞬、すべて終わったと悟った。
だが、キーパーが弾いたボールに昇が詰めていた。ボールがゴールネットを大きく揺らした。
その時、ホイッスルが鳴り響いて試合終了を知らせた。昇が叫びながらチームメートと抱き合っている。
一は何が起きたのかわからず呆然と立ち尽くしているとチームメートから祝福を受け終わった昇が走ってきた。

「誰が決めるってー?」

昇は一の背中を叩いて喝を入れた。

「まだ、勝ったわけじゃない。」

「だな。」

そして時間が経ち、延長戦も動かず試合はPK戦へ。
一まで順調に両チーム決めていった。
そして第4キッカーの一に順番は回ってきた。一は今までで一番緊張していた。

「タロー、お願い。」

里奈の声は一には最早届かずにいた。
一は深呼吸し気持ちを落ち着かせるふりをしていた。心臓は胸をぶち破って来そうなほど飛び出だしそうだった。
一はホイッスルがなるとすぐさま蹴った。
ボールはキーパーの逆へと突き刺さりゴールネットを揺らした。

「よっしゃああー」

一は子供みたいにガッツポーズをして喜んだ。俺はここで終われない。全国に行って最高の舞台で里奈に告白するため。
そして相手チームも決め昇の番が来た。

「昇頼むぞ。」

「余裕だこんなもん」

昇の声はセリフとは裏腹に緊張で震え上がっていた。誰もが昇なら大丈夫だろうと信じていた。しかし昇の蹴ったボールはゴールより遥か上に打ち上がった。

そして試合終了のホイッスルが鳴り響く。
昇はその場で座り込んだ。
チームメートの何人かが泣いていた。
もちろんマネージャーの里奈と唯も泣いていた。

「昇…」
一は只々、昇を眺めていることしかできなかった。
その後、ロッカールームに帰ると監督からの言葉を聞いてチーム全員が泣き崩れていた。
結局、過去に戻ったところで負けるという結果は同じだったのだ。
いや、むしろ前回よりひどい過去になってしまった。一が苦しむ代わりに昇が苦しむ未来にしてしまったからだ。
里奈もやり直す前よりもっと泣いているように見えた。
数十分後、やっと泣き止んでロッカールームで1人片付けをしている里奈の元に一は駆け寄った。

「里奈…その、ごめん。全国に行かせてやれなくて。」

「えっ…?」

一がいきなり謝ってくるものだから里奈は少し動揺した。

「俺が3点とるとか言って1点止まりだったし、里奈が信じてくれてたのに期待に応えられなくて」

一がうつむきながら言うと里奈が笑顔で言った。

「負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる」

「え?」

「タローがこの前貸してくれた漫画で言ってたじゃん。」

「この負けはね、次に勝つために必要な負けなのだよ。それがサッカー以外の事でもいつか生かされるのだよ。」

「誰のモノマネだよ。それ。」

「カントク~」

「わっかんねー」
(辛い時はいつもと言っていいほどこの里奈の明るさに助けれていた。)

「あーほら、そろそろみんなのところ行くよ?集合写真撮るとか言ってたし!」

「あぁ」

里奈が荷物を持ち部屋から出ようした時、ーはふと思った。
もしかしたら今がチャンスなのではと。

「ちょっ、里奈ちょっと待って!」

里奈が面倒くさそうにこっちを向いた。

「なにぃ~もう急いでんだからね」

「いやぁ~あのさっ!俺たちもう長い付き合いな訳でございますよね?」

ーは緊張して少し変な日本語になっていた。

「んで、なに?」

「何て言いますか、本当はもっと前に言わなきゃいけなかったんですけどぉー」

「だから何!?もう早くしてよ~!」

「うんっ!俺かなり前からさっ!」

ーが肝心な言葉を言おうとしたその時、監督がロッカールームに入ってきた。

「お前ら何してるだよー!とっとと外に出るだよー!」

最悪のタイミングだった。
里奈はブスッとした顔でこちらを見た。
「ほらぁタローのせいで怒られた~」

と言って早々と部屋を出た。

2人は集合写真を撮る場所まで行くとみんなが待ちくたびれていた。

「おせぇーよ!お前らがイチャイチャしてたからもう30分もここで待ってたよ!」

昇を筆頭にチームメート達がヤジを飛ばす。
ごめんごめんと2人で謝りながら集合写真を撮る位置に立った。
一は昇の横に立つとポーズをとりながら話しかけた。

「昇、ごめんな。お前が辛い思いをする未来にして」

昇は笑いながら一を見て

「何言ってんの?」
とだけ返して同じようにポーズをとった。
その時、カメラのフラッシュの閃光が一を包み込んだ。
一瞬、眩しくて目をつぶった。
そして目を再び開けると披露宴会場にいた。

「えっ、あれ?」

目の前のスクリーンではスライドショーがやっていて、あの時の集合写真が映っていた。
(夢だったのか…?)
寝不足のせいで立ったまま寝ていたのかもしれない。
その時、昇が後ろから話しかけてきた。

「一、ごめんなあの時…。」

「え…?」

「PK決めてれば俺が全国行けたのによ。」

過去は変わっていた。

「どうなってんだよ…」

その時、再び光と音が止まった。

「彼女の笑顔のために友達を傷つけるなんて人間とは随分と悲しい生き物だとは思わないか?」

妖精が後ろから優しい声で話しかけてきた。

「いや、まさかこんな結末になるとは思わなかったので」

妖精は待ってましたと言わんばかりの勢いで顔を近づけてきた。

「でた!人間はすぐ自分の不都合なことがあると、「まさか」や「偶然」という言葉に頼ろうとする悪い癖がある。お前を見てるとあいつを思い出すよ。」

「あいつ…って誰のことですか?」

「まあその話今はいい。それよりなぜ彼女に気持ちをぶつけなかった!?」

「いや、シチュエーションが。」

はあ、と妖精は大きくため息を吐いた。

「シチュエーション??何でタイミングやキッカケに頼ろうとすんだよ!この信号が変わったら告白しよう、この車が通り過ぎたら言おう、二人きりになったら気持ちを伝えよう、そんな小さなことにこだわってるから、大きな幸せが掴めないんだよ。」

すいませんとしか一は返せなかった。
妖精は少し言いすぎたと思った。

「だがまあ、まだチャンスはある」

一は子供のような目で妖精を見た。

「え、じゃあもう一度戻してもらえるんですか!」

「いや、同じ写真には二度戻れない」

「じゃあダメじゃないですか!」

一はがっかりした後、妖精の言葉の意味に気づいた。

「ん、まてよ。同じ写真には二度戻れないなら違う写真なら…」

妖精は一を見つめながら少し微笑み指を鳴らし消えた。

そして周りは再び明るくなり止まっていた時間も動き出した。
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