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ステージ5
6 発想、ゲームだからこそ
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「……で、キング。この後どこに向かえって言うんです?」
堤防道路で車を走らせ、鈴蘭は隣の席の裕貴に声だけを掛けた。
「どこって……あー、そういやあんまし考えてなかったな」
「えぇ……あなた本当にボス敵の自覚があるんですか?」
「自覚、ねぇ」
そう言うと、裕貴はけらけらと笑った。
「……何がおかしいって言うんです」
「連れ回しといて何だけど、自覚を言うならお前こそどうなんだ、って話よリリィ。ボスを倒したら図書カードでも貰えるんじゃなかったか?」
「……まあ、それはそうですけど」
今更すぎるが鈴蘭は気付いた。せっかく隣にいるんだから、こっちから倒すこともできるのだ。なんせここはゲームの世界、物理的にやり合うわけではないのだから。
「だからお前はちょろいんだよ、リリィ」
「んなコト言われましたって……」
この場合、ちょろさとはまた別のベクトルの話なんじゃないのかしら、と思いはしたが。
特に何の反論を出来るというわけでもないので、鈴蘭は膨れた。
沈黙が流れる中、車の前方、上空に橋が見えた。
「……そうだ。あの橋に移るとかどうです?」
「移るぅ?」
何を言っているんだと、裕貴はきょとんとした。
「ここからあの橋……星降大橋に行くには、それこそさっきの橋の辺りまで戻んないと無理だぞ」
「でもですよ? 少なくとも音無さんと龍田先輩は、わたしらがこっち来てるって知ってるでしょ? だったらまさか星降大橋になんざ、この短時間で辿り着きようはずもない! 良い感じに撹乱になるんじゃないかなあ、って」
本当は、別のアイデアもあるのだが――鈴蘭はそちらに関しては、上手い事口を閉ざしていた。
「完全にボス側の思考でやってるじゃねーか……いや、だからだなリリィ。俺様は理由じゃなくて、上に渡る方法について聞いてるんであって……」
「ゲームなんでね、こーすんですよっ! 『ロング・スリーパー』ッ!!」
話に少しもついていけない裕貴をよそに、鈴蘭はハンドルから右手を離し、ヨーヨーを構え――前の戦いで破れたフロントガラスの跡地から、上空へと飛ばした。
そのヨーヨーはしばらく直進、橋の少し上で空転し――その後、落下して橋桁に引っかかった。
「よーし! あとは車を引き上げれば……」
「なあリリィ。ロングスリーパーってこんな技じゃないと思うんだが??」
「いいでしょ別に。わたしがそうだと思えばそうなの」
「随分とまた極端な……」
――変わったな、コイツ。
裕貴はうっすら、そんな事を思った。
「……で、この車をどうやって引き上げるって?」
「そりゃあホラ……えい!」
そう言って鈴蘭は、右手の指に巻かれたヨーヨーの糸を、左手で思いっきり引っ張った。
すると、ヨーヨーの糸が一気に巻き取られ――鈴蘭が足をハンドルに引っ掛けていたので、車も一気に橋へと上昇したのである。
「えぇ……」
「ま、こういうことだって当然可能なわけですわ」
「す、すげえなリリィ」
宙に浮かんだ車の中、流石に困惑が勝る裕貴だった。
そしてその三秒後、車は橋へと着地したのである。
さて。
ここで裕貴にとって、二つ大きな誤算が生じていた。
というのも――前話を読破済みの聡明なる読者諸兄なら分かるだろうが、颯一郎たちは連絡を入れていないのだ。裕貴と鈴蘭が、堤防道路に向かったことを。
そしてもう一つの誤算はというと、こちらは鈴蘭が意識的に仕込んだもの。
仮に連絡が行っていたとして――普通に考えて大きな道を通る車の方が多いに決まっているのだ。
というわけで星降大橋、裕貴たちから見て右側。
そこから一枚トランプが飛んできたことに、二人はまだ気づいていなかった。
「……うあっ」
「どうしたリリィ、いきなりブレーキ掛けて」
「い、いやぁ? ペダルを踏んじゃいませんよわたし」
気持ちわざとらしいかな、と言い終わってから気にする鈴蘭。
彼女は既に、何が起きたか察しが付いていた。なんせステージ3、烏羽小学校でのゲームで、彼とは出会っていたのだから。
もう一人は、これまでの対戦相手からして自明。分かりきった答えの確認のため、彼女は愉しげに右を向く。
「おいリリィ! 横っ……車がいるぞ!」
「ついにラスト一台、ですね……今までどこで油売ってたんですか、露西先輩!」
「『影縫ショット』ッ!! さーてぇ、アレがボス敵さんの車ですよねぇ!」
「そうね。そんでここからは久方ぶりに僕の出番っ!」
一方もう一台、カードを飛ばした零の視線に合わせ、透は運転席横の窓から腕を伸ばし、
「『ゼロ・バレット』ッ!!」
無属性の攻撃には、他の属性を薄める効果がある。そしてそれは、プレイヤーが扱える属性に限った話ではない。
ステージ2で真綾のスローエリアを打ち消したように、無属性の必殺技たるゼロ・バレットならば、いわゆる特殊能力の類は何でも消滅させられるのだ。
「つまり……狙いは車体っ! この雑なカーチェイス、そろそろ終わりにさせてもらうよ!」
一方、その弾丸が迫りくる裕貴の車。
「……ハッ! 車動かせリリィ! アレが当たったら面倒なことになるっ……」
「えぇ。わたしもソレが狙いです」
というか動かせないから止まってんですよと付け加え、鈴蘭はハンドルから手を離し、ふふっと笑う。
まさか作戦だったってのか!? なんて言おうと裕貴が口を開いた頃には、既に車体を衝撃が襲っていた。
「ふうっ……零くん、確認頼むよ!」
「了解ですよぉ……よっとぉ」
透がブレーキを踏むと同時に、零はドアを開け、飛び降りる。
開いてるのか閉じてるのかイマイチ分からないその瞳には、確かに、
「……大成功ぉ! あの車ぁ、バッチリ丸見えですよぉ透さぁん!」
裕貴たちの乗る、フロントガラスに大穴が空いたその車が、はっきりと映っていた。
「ハッ、特殊能力を打ち消す必殺技ねぇ……仕方ねぇ、教習タイムはここまでだなぁ、リリィ!」
「えぇ……じゃ、ここからはっ!」
鈴蘭の返事を待たず、裕貴は拳に炎を纏い振りかぶる。
それにヨーヨーを的確に当てて弾き返し、鈴蘭は後ろ手で運転席のドアを開け、一飛びで後方――つまり透と零のいる方へと降り立った。
「おかえり鈴蘭ちゃん。運転どうだった?」
「実技通過は間違いなしですね。じゃあ先輩、零くん、行きますよっ!」
そう言うと鈴蘭は、車から出てきた裕貴に向けてヨーヨーを構える。
応えるように、裕貴も拳を握る。
「さぁて……俺様、本気出させてもらうぜ……ん?」
しかし、様子がおかしい。
裕貴は空を見上げ、硬直した。
「どうした……バグですかねぇ?」
「分かんないけど……チャンスですよ零くん、先輩! 早速仕掛けましょ!」
「そうだね! じゃあ僕らからっ……」
とりあえず気にしない事にして、透は銃を構え、それに続くように零もカードを手に取った。そして、
「『爆黒カード』ォッ!!」
まず仕掛けたのは零。
そのカードは裕貴の眼前で炸裂、彼の周囲を闇が覆った。
「なっ、何が起こったぁ!?」
「闇属性の目眩ましですよぉ! 次ぃ、透さぁん!」
「オッケー! じゃ、折角だし今浮かんだ新技でっ……」
そう言うと透は、銃口を上に向け引き金を引く。
「『インビジブルバレッツ』ッ!!」
放たれた光弾は空中で分裂し、四方八方に飛び散る。
そして、変幻自在に軌道を変えて、明滅しながら裕貴に降り注いだ。
「見えにくい弾をオールレンジでばらまくってのは強そうだなって! 視界がゼロな今の裕貴さんなら、避けるのはもっと至難の業だろうね!」
「ですね……あっ、でもキングの能力って確か!」
「……鈴蘭さぁん?」
零は少しきょとんとし、直後察しが付いたか頭を抱える。
視界を奪われたはずの裕貴は、しかしその拳のメリケンサックをぶん回し、光弾を打ち消し始めたのだ。
「さっきのは油断してたがっ……これならどうって事ねえなぁ!」
「……あぁ、そういえば彼言ってましたねぇ! 未来予知とかってぇ!」
「そう、そうだよ零くん! キングは多分、物の移動する場所とかが見えてる! 視界には関係ないんだ!」
「そうだね……でも、なればこその新技ってわけよ」
透は軽く笑った。
そもそも視界ゼロ、軌道が見えてるとはいえそれは数秒前のもの。ラグがある状態で四方八方、複雑怪奇極まりない軌道で襲い来るその弾丸――しかも透の攻撃と言う事で例の如くデバフ効果付き――をよりにもよってメリケンサックで全て弾き落とすなんざ、到底不可能な事で。
「ふっ、はっ、よっと……あっ今普通に喰らったぁ! 何だコレ畜生めんどくせえなぁ!」
奮闘しながらも、裕貴は露骨にご機嫌斜めである。
よく見るとメリケンサックが纏う炎もほんのり薄まっている。透の攻撃は効いてきているらしい。
だが、その姿に何か引っかかるものを感じていた人がいる。鈴蘭だ。
「ったく……あ、そろそろだな」
だから、裕貴が突如後ろに下がった時、微かにそう呟いていたことにただ一人気付いたのも、鈴蘭だった。
「え!? いきなりどうしたんだあの人!?」
「でもぉ、チャンスっぽいですよぉ! 今のうちに裕貴さんに追撃しましょう!」
そう言うと、透と零は逃げ出した裕貴の方へと駆け寄る。
そして出遅れた鈴蘭は上空に目をやり、何が起こるかを即座に察知した。
「危ない先輩っ、零くん! えっと……特にトリックとかじゃない奴ッ!!」
鈴蘭は咄嗟にヨーヨーをもう一つ取り出し投擲、投げ縄の如く先を行く二人に巻き付け、強引に引っ張った。
これが新技・特にトリックとかじゃない奴である。
「うわあっ!? いきなり何すんのさ鈴蘭ちゃんっ!」
「コレ毒とか入る感じですよねぇ……一体どうしたって言うんですぅ?」
思い思いに文句を言う二人だが、次の瞬間……彼らのいたちょうどその場所、とんでもない異常事態が降ってきた。
「――ぁぁあああ゛あ゛ぐえっ!!!」
呻き声をあげるそれは、傍から見れば隕石のようで、しかしながら隕石としてはあまりにも華美で。
まあつまるところ、さっき颯一郎に吹っ飛ばされた美琴だった。
「「「……えっ何でぇ!?」」」
三人の声が、綺麗にハモった。
堤防道路で車を走らせ、鈴蘭は隣の席の裕貴に声だけを掛けた。
「どこって……あー、そういやあんまし考えてなかったな」
「えぇ……あなた本当にボス敵の自覚があるんですか?」
「自覚、ねぇ」
そう言うと、裕貴はけらけらと笑った。
「……何がおかしいって言うんです」
「連れ回しといて何だけど、自覚を言うならお前こそどうなんだ、って話よリリィ。ボスを倒したら図書カードでも貰えるんじゃなかったか?」
「……まあ、それはそうですけど」
今更すぎるが鈴蘭は気付いた。せっかく隣にいるんだから、こっちから倒すこともできるのだ。なんせここはゲームの世界、物理的にやり合うわけではないのだから。
「だからお前はちょろいんだよ、リリィ」
「んなコト言われましたって……」
この場合、ちょろさとはまた別のベクトルの話なんじゃないのかしら、と思いはしたが。
特に何の反論を出来るというわけでもないので、鈴蘭は膨れた。
沈黙が流れる中、車の前方、上空に橋が見えた。
「……そうだ。あの橋に移るとかどうです?」
「移るぅ?」
何を言っているんだと、裕貴はきょとんとした。
「ここからあの橋……星降大橋に行くには、それこそさっきの橋の辺りまで戻んないと無理だぞ」
「でもですよ? 少なくとも音無さんと龍田先輩は、わたしらがこっち来てるって知ってるでしょ? だったらまさか星降大橋になんざ、この短時間で辿り着きようはずもない! 良い感じに撹乱になるんじゃないかなあ、って」
本当は、別のアイデアもあるのだが――鈴蘭はそちらに関しては、上手い事口を閉ざしていた。
「完全にボス側の思考でやってるじゃねーか……いや、だからだなリリィ。俺様は理由じゃなくて、上に渡る方法について聞いてるんであって……」
「ゲームなんでね、こーすんですよっ! 『ロング・スリーパー』ッ!!」
話に少しもついていけない裕貴をよそに、鈴蘭はハンドルから右手を離し、ヨーヨーを構え――前の戦いで破れたフロントガラスの跡地から、上空へと飛ばした。
そのヨーヨーはしばらく直進、橋の少し上で空転し――その後、落下して橋桁に引っかかった。
「よーし! あとは車を引き上げれば……」
「なあリリィ。ロングスリーパーってこんな技じゃないと思うんだが??」
「いいでしょ別に。わたしがそうだと思えばそうなの」
「随分とまた極端な……」
――変わったな、コイツ。
裕貴はうっすら、そんな事を思った。
「……で、この車をどうやって引き上げるって?」
「そりゃあホラ……えい!」
そう言って鈴蘭は、右手の指に巻かれたヨーヨーの糸を、左手で思いっきり引っ張った。
すると、ヨーヨーの糸が一気に巻き取られ――鈴蘭が足をハンドルに引っ掛けていたので、車も一気に橋へと上昇したのである。
「えぇ……」
「ま、こういうことだって当然可能なわけですわ」
「す、すげえなリリィ」
宙に浮かんだ車の中、流石に困惑が勝る裕貴だった。
そしてその三秒後、車は橋へと着地したのである。
さて。
ここで裕貴にとって、二つ大きな誤算が生じていた。
というのも――前話を読破済みの聡明なる読者諸兄なら分かるだろうが、颯一郎たちは連絡を入れていないのだ。裕貴と鈴蘭が、堤防道路に向かったことを。
そしてもう一つの誤算はというと、こちらは鈴蘭が意識的に仕込んだもの。
仮に連絡が行っていたとして――普通に考えて大きな道を通る車の方が多いに決まっているのだ。
というわけで星降大橋、裕貴たちから見て右側。
そこから一枚トランプが飛んできたことに、二人はまだ気づいていなかった。
「……うあっ」
「どうしたリリィ、いきなりブレーキ掛けて」
「い、いやぁ? ペダルを踏んじゃいませんよわたし」
気持ちわざとらしいかな、と言い終わってから気にする鈴蘭。
彼女は既に、何が起きたか察しが付いていた。なんせステージ3、烏羽小学校でのゲームで、彼とは出会っていたのだから。
もう一人は、これまでの対戦相手からして自明。分かりきった答えの確認のため、彼女は愉しげに右を向く。
「おいリリィ! 横っ……車がいるぞ!」
「ついにラスト一台、ですね……今までどこで油売ってたんですか、露西先輩!」
「『影縫ショット』ッ!! さーてぇ、アレがボス敵さんの車ですよねぇ!」
「そうね。そんでここからは久方ぶりに僕の出番っ!」
一方もう一台、カードを飛ばした零の視線に合わせ、透は運転席横の窓から腕を伸ばし、
「『ゼロ・バレット』ッ!!」
無属性の攻撃には、他の属性を薄める効果がある。そしてそれは、プレイヤーが扱える属性に限った話ではない。
ステージ2で真綾のスローエリアを打ち消したように、無属性の必殺技たるゼロ・バレットならば、いわゆる特殊能力の類は何でも消滅させられるのだ。
「つまり……狙いは車体っ! この雑なカーチェイス、そろそろ終わりにさせてもらうよ!」
一方、その弾丸が迫りくる裕貴の車。
「……ハッ! 車動かせリリィ! アレが当たったら面倒なことになるっ……」
「えぇ。わたしもソレが狙いです」
というか動かせないから止まってんですよと付け加え、鈴蘭はハンドルから手を離し、ふふっと笑う。
まさか作戦だったってのか!? なんて言おうと裕貴が口を開いた頃には、既に車体を衝撃が襲っていた。
「ふうっ……零くん、確認頼むよ!」
「了解ですよぉ……よっとぉ」
透がブレーキを踏むと同時に、零はドアを開け、飛び降りる。
開いてるのか閉じてるのかイマイチ分からないその瞳には、確かに、
「……大成功ぉ! あの車ぁ、バッチリ丸見えですよぉ透さぁん!」
裕貴たちの乗る、フロントガラスに大穴が空いたその車が、はっきりと映っていた。
「ハッ、特殊能力を打ち消す必殺技ねぇ……仕方ねぇ、教習タイムはここまでだなぁ、リリィ!」
「えぇ……じゃ、ここからはっ!」
鈴蘭の返事を待たず、裕貴は拳に炎を纏い振りかぶる。
それにヨーヨーを的確に当てて弾き返し、鈴蘭は後ろ手で運転席のドアを開け、一飛びで後方――つまり透と零のいる方へと降り立った。
「おかえり鈴蘭ちゃん。運転どうだった?」
「実技通過は間違いなしですね。じゃあ先輩、零くん、行きますよっ!」
そう言うと鈴蘭は、車から出てきた裕貴に向けてヨーヨーを構える。
応えるように、裕貴も拳を握る。
「さぁて……俺様、本気出させてもらうぜ……ん?」
しかし、様子がおかしい。
裕貴は空を見上げ、硬直した。
「どうした……バグですかねぇ?」
「分かんないけど……チャンスですよ零くん、先輩! 早速仕掛けましょ!」
「そうだね! じゃあ僕らからっ……」
とりあえず気にしない事にして、透は銃を構え、それに続くように零もカードを手に取った。そして、
「『爆黒カード』ォッ!!」
まず仕掛けたのは零。
そのカードは裕貴の眼前で炸裂、彼の周囲を闇が覆った。
「なっ、何が起こったぁ!?」
「闇属性の目眩ましですよぉ! 次ぃ、透さぁん!」
「オッケー! じゃ、折角だし今浮かんだ新技でっ……」
そう言うと透は、銃口を上に向け引き金を引く。
「『インビジブルバレッツ』ッ!!」
放たれた光弾は空中で分裂し、四方八方に飛び散る。
そして、変幻自在に軌道を変えて、明滅しながら裕貴に降り注いだ。
「見えにくい弾をオールレンジでばらまくってのは強そうだなって! 視界がゼロな今の裕貴さんなら、避けるのはもっと至難の業だろうね!」
「ですね……あっ、でもキングの能力って確か!」
「……鈴蘭さぁん?」
零は少しきょとんとし、直後察しが付いたか頭を抱える。
視界を奪われたはずの裕貴は、しかしその拳のメリケンサックをぶん回し、光弾を打ち消し始めたのだ。
「さっきのは油断してたがっ……これならどうって事ねえなぁ!」
「……あぁ、そういえば彼言ってましたねぇ! 未来予知とかってぇ!」
「そう、そうだよ零くん! キングは多分、物の移動する場所とかが見えてる! 視界には関係ないんだ!」
「そうだね……でも、なればこその新技ってわけよ」
透は軽く笑った。
そもそも視界ゼロ、軌道が見えてるとはいえそれは数秒前のもの。ラグがある状態で四方八方、複雑怪奇極まりない軌道で襲い来るその弾丸――しかも透の攻撃と言う事で例の如くデバフ効果付き――をよりにもよってメリケンサックで全て弾き落とすなんざ、到底不可能な事で。
「ふっ、はっ、よっと……あっ今普通に喰らったぁ! 何だコレ畜生めんどくせえなぁ!」
奮闘しながらも、裕貴は露骨にご機嫌斜めである。
よく見るとメリケンサックが纏う炎もほんのり薄まっている。透の攻撃は効いてきているらしい。
だが、その姿に何か引っかかるものを感じていた人がいる。鈴蘭だ。
「ったく……あ、そろそろだな」
だから、裕貴が突如後ろに下がった時、微かにそう呟いていたことにただ一人気付いたのも、鈴蘭だった。
「え!? いきなりどうしたんだあの人!?」
「でもぉ、チャンスっぽいですよぉ! 今のうちに裕貴さんに追撃しましょう!」
そう言うと、透と零は逃げ出した裕貴の方へと駆け寄る。
そして出遅れた鈴蘭は上空に目をやり、何が起こるかを即座に察知した。
「危ない先輩っ、零くん! えっと……特にトリックとかじゃない奴ッ!!」
鈴蘭は咄嗟にヨーヨーをもう一つ取り出し投擲、投げ縄の如く先を行く二人に巻き付け、強引に引っ張った。
これが新技・特にトリックとかじゃない奴である。
「うわあっ!? いきなり何すんのさ鈴蘭ちゃんっ!」
「コレ毒とか入る感じですよねぇ……一体どうしたって言うんですぅ?」
思い思いに文句を言う二人だが、次の瞬間……彼らのいたちょうどその場所、とんでもない異常事態が降ってきた。
「――ぁぁあああ゛あ゛ぐえっ!!!」
呻き声をあげるそれは、傍から見れば隕石のようで、しかしながら隕石としてはあまりにも華美で。
まあつまるところ、さっき颯一郎に吹っ飛ばされた美琴だった。
「「「……えっ何でぇ!?」」」
三人の声が、綺麗にハモった。
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