element square ~星降プロローグ

灯猫いくみん

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ステージ5

3 白熱、カーチェイスと未来予知

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「よーっしリリィ、教習はやめだ、こっからは純然たるカーチェイスだっ! 一気にアクセル踏み込めっ!」
「ちょ、ンなコト急に言われましてもっ……」
「へぇ、俺様両手がフリーだからいつでもお前を攻撃できるわけだが」
「……やりますよ、ったくもう!」

 フロントガラスを叩き割られたその車は、少しして猛スピードで逃げ出した。

「へっ、そっちがその気なら……更間、東城、どっちか遠距離攻撃できるか!?」
「うーん……やろうと思えばって感じ? 俺も炎里も」
「そっか、いい返事! じゃあ早速っ!」

 一方の我夢もアクセルを踏み込み、一気にその車目掛けて突っ走る。
 2台の車は大通りを盛大に走り出した。

「追う側は俺らだ……頼むぞどっちか!」
「りょーかい、そんなら早速ボクがっ! 『フレアツイスト』ッ!!」

 炎里は窓から体を乗り出し、ダガーを十字に組み合わせ、前方の車目掛けて勢いよく投げ飛ばした。

「おっ、早速後ろから飛んできたな」

 一方前方の車内にて、助手席の裕貴は後ろを振り向くこともせずそんなことを呟いた。

「え、何を見て……止まります?」
「いいや、ンなコトしたら捕まんのがオチ! そのままアクセル踏んどけよっ!」
「……はいはい!」

 もう知らんとばかりに、先程通りにアクセルを踏む鈴蘭。
 一方の裕貴は、窓を全開にして少し目を瞑り……

「3、2、1……今ッ!」

 手に装備したメリケンサックを窓の外に向け、勢いよく拳を振るう。
 すると拳はちょうどその瞬間、狙いすましたように飛んできたダガーに命中。
 勢いを失ったそのダガーを、裕貴はひょいっと拾った。

「なっ……今の、どうやって……!? ボクの攻撃をあんなに手軽にキャッチなんて……」
「ちょうど窓目掛けて投げれる炎里も十分凄いけど、にしたって何なんだアイツ!?」

 後方車内の後部座席にて驚愕する炎里と柳海。
 一方運転席の我夢はと言えば、何かに納得したようにため息をついた。

「はー、成程ぉ? そういや坂田の奴、未来予知だのなんだのって言ってたが……そういうことか」
「え? 我夢さん、何か分かったの?」
「一応な、更間。コレはあくまで俺の推測だが……」

 一方前方車両にて。
 裕貴は突然後部を見て、目を細めた。

「……鈴蘭、気持ちスピード緩めて」
「へ? あ、はい……よいしょ」
「……今っ!」

 そう言うと突然、裕貴は天高く炎里のダガーを投げ上げるではないか。

「あーっ! ボクの武器に何すんだー!」
「……成程っ! 更間、とりあえず窓の外に手を出せ!」
「え? 分かったけど……」

 我夢が何を意図して言っているのか分からず、首を傾げつつも炎里は素直に手を出す。
 すると、伸ばしたその手にすっぽり収まるように、投げ上げられたダガーがすっと落ちてきた。

「……ええええっ!?!?!?!?」
「ははーん、やっぱりな! アイツ未来予知とか言ってたが、実際は軌道が見えてんだろーぜ!」
「軌道……物がこれからどう動くかってのが見えてるって事か?」
「そうだ! なんせゲームだかんな、物理エンジン積んでる以上動き方は決まってる! そいつを見るってんなら不可能な話じゃあない!」

 我夢の推測は大正解である。
 今の裕貴の目には、物の未来の軌道が残像のような形で映るのだ。

「……おっ、向こうも気づいたらしいな!」

 そして裕貴はまた、顔を前に向けたまま何かを見て、即座に振り向いた。

「何に……?」
「言ってる場合かリリィ、アクセルベタ踏みしろっ!」
「わっかりましたよもう!」

 急激にスピードを上げたその車の背後。
 ギリギリ届かなかった氷の欠片が、地面にポトリと落下し、その辺りが凍り付いた。

「はぁ……やっぱり見えているってわけですね」
「何かしたって対策済み、と。ほら、コレ返すぞ」
「どーも」

 ため息を吐く柳海に、彼の剣を我夢が手渡す。
 車の中は狭いので多少難儀しつつも柳海は受け取る。

「むぎゅ……狭いよ」
「悪い、炎里……ったく、それにしてもどーやって攻撃したもんか」

 実際何が起きたのかというと。
 柳海の技には『欠き氷柱』という、剣に多量の氷を付着させ巨大化する技がある。
 それのチャージ中に運転席の我夢に手渡し、ある程度巨大化した状態で彼に振らせることで、前方の車まで氷の欠片を飛ばそうという魂胆だったが……実際の所はというとご覧の有様なわけである。

「……ってかさ、問題はこれからなんじゃない?」
「え、どういうことだ更間……あー、そういう!」

 我夢たちの車は、裕貴たちの車を追っている。
 そして裕貴の車に届かなかった氷の欠片は地面に落ちて凍り付き……ちょうど今、我夢の車がその上を差し掛かった所である。

「……っぶねぇ!」

 急ブレーキをかける我夢だが、しかし氷の上ではブレーキなんぞ利かない。
 その車は盛大にスリップし、180度回転してから中央分離帯の手前スレスレで停止した。どちらかというと衝突に近い停止であった。

「うわあっ!」
「うぎゃっ」
「ッ痛ぁ……乗り上げちまったか、クソっ」

 後部座席の2人が悲鳴をあげる。車が傾き、扉に叩きつけられたのだ。
 運転席のドアを開けた我夢は、左側の後輪が中央分離帯に盛大に乗り上げているのを見た。

「うっわぁ……後ろ大変なことになってますけど」
「気にすんな、よくあるこった。ンなコトより、ちょっとUターンしてみろ」
「よくあっちゃマズいんでは……?」

 言われるがまま分離帯の空いたところから、反対車線に移る鈴蘭。
 裕貴に促されるまま、大通りを逆向きに進んでいく。

「……で、なんでわざわざこっちに? キング的には、とりあえず逃げきれればOKなワケでしょう?」
「社長に言われたのを思い出したっ……俺様はあの炎の子……さらーまとかいうハンネだったか」
「炎里ちゃんハンネそんななんだ……で、炎里ちゃんがどうしたんです?」
「炎属性を吸収しろ、って言われててな」

 鈴蘭が驚く間もなく、車は既に我夢達の横に。
 そして180度反転した我夢の車の、その左側後部座席に座っていた炎里は……ちょうど、鈴蘭の真横にいた。

「この隙を見逃すような奴にゃ、星裏のキングは務まらない……ってのっ!」
「え、アレって……うわっ」

 そして勾玉が飛び……炎里が消滅した。

「っ……炎里!」
「悪いなりゅみっ! ところでついでにガイアっ、こいつをお返しするぜっ!」
「お返しってまさかっ……うへぁあっ!?」

 鈴蘭の鼻先スレスレを、我夢の武器である斧が通過していった。
 そして斧は……我夢が慌てて避けたので、当然車内を通過して、少し離れた路上に刺さり。
 裕貴たちの車は、そのまま通過していった。

「……っぶねぇ……」
「ちょ、戸隠さん胸撫で下ろしてる場合か! 早くアイツら追わないと」
「んなこと言ったって、いったん車どーにかしねーとだろーがよ……ったく、ボスキャラだからって好き勝手しおってからに」
「……じゃあ俺が行く!」
「ちょ、東城お前っ……」

 我夢の制止を気にも留めずに車を飛び出す柳海……だが。

「……あれ、見えない……?」
「……やっぱりな」

 柳海の目には、つい先程まですぐ近くにいたはずの、裕貴の車が映らなかった。

「坂田の奴言ってたろ? 『一番近い車に乗ってる奴しか見えない』って」
「ああ、そういやそんなこと言ってたっけ……車から降りることは、即ちゲームから降りることってわけだな」
「お、上手いこと言うな。つまるところ俺らは……とりあえずこの車をどーにかしないとな」
「……そうだな」

 はあ、っとため息を吐いた柳海の顔に、我夢はどことなく陰りをおぼえた。

「なーんか、落ち込んでるように見えるが?」
「……別に。俺が奥にいたとはいえ、やろうと思えばアイツの攻撃は防げたよな、とは」
「ほーん。相席の申し出と言い、よっぽど大事なんだな、更間の事」
「……まあ」

 ははーん、分かりやすい思春期男子だこと。
 高校を出て以来縁遠かった濃厚な青春の気配に、我夢はほくそ笑んだ。

「……ところでコレ、多分更間の奴普通に聞いてるが」
「いや、俺特段変な事言ってないけど……あ」

 先程の肯定がそういう意味も含まれるものだと、柳海はようやく自覚した。

「……斧拾ってくるから、車なんとかしといて」
「やれやれ……しょうがねぇなぁ」

 少し怒ったような調子で、大通りの方へと柳海は歩き出した。
 それを照れ隠しと本人の前で看破するほど、我夢は野暮な男ではなかった。

「……にしてもどーすっかねこの車。結構重いし」
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