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ステージ4
6 大崩落、光VS碧
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2番スクリーン。怪獣との戦いを終えて、扉を開けたのは光だ。
「ったく……なんだったんだよアレ」
戦う相手が一人だけ超絶巨大な事もあってか、光は疲労困憊である。
そして扉を至極雑に開け、
「いてっ!!」
「あっ」
誰かの顔面に盛大にぶつかったらしい。
「ご、ごめんなさい。ダイジョブですか」
「ん……だいじょぶ」
普段は軽く生きている光だが、流石に人にぶつかったら謝るとかの良識は持ち合わせている。
それこそ今回は見知らぬ人だってんだから当然だ。光にしてみれば。
「……あれ、さてはあんた光?」
「え? いや、そうではあるけど何で知って……ははーん。さては今回のボス、君だね?」
光が気付くのにそこまで時間はかからなかった。
明るい色の髪に派手な服、片目は青色に光り、傍らにはさっき倒れた衝撃で取り落としたかレイピアが転がる……名前を知ってることも含め、少なくともプレイヤーではない。そう考えれば間違いなくステージのボス敵、大罪七星だ。
「だいせいかーい! あーしは鈴木碧、気軽にアオっちって呼んでー!」
「アオっちね、りょーかい」
素直に応じる。光はノリがいいのだ。
それを見て、碧はけらけらと笑う。
「わー、聞き分け爆裂いいじゃーん。ハルっちとは大違いだー」
「ハルっち……? あ、ひょっとして春ちゃん!?」
ひょっとしなくてもそうだろ、と内心思わないでもないが、光は思わずそう叫んだ。
そして、気付いた。この状況が、碧の光る片目が、何を意味するか。
「……はっはーん、さてはさっき戦った感じね?」
「またしてもだいせいかーい! もう映画イベントは終わっちゃったしっ……早速行くよっ!」
碧は取り落としていたレイピアを手に取って、その切っ先を光に突きつける。
光は咄嗟にワイヤーを飛ばし、碧のレイピアに絡める。
「へぇー、やっぱやり慣れてると上手いじゃーん!」
「そりゃどうも、俺結構ゲームは得意でねっ!」
光は左手を振り上げ、ワイヤーを引き上げる。しかし碧は即座にレイピアを引っ込める。
「そう上手くは行かないよね、なら『ワイヤーショット』ッ!!」
今度は碧に直に当てようと、ワイヤーが飛ぶ。
ジャンプ一回で軽々避けて、碧はレイピアをくるくる回し、少し光から距離を置いて着地すると同時に宝石側を向ける。
光は一瞬首を傾げた。碧がいるのは到底レイピアの届きそうにない場所だ、しかも光のワイヤーは余裕で届く。
……成程、何か仕掛けてる感じだな? 悟った光はすぐさまワイヤーを飛ばした。
「レイピア使いがそんなに距離取ってどーすんの、さっ!」
しゅるしゅると、着々と近づくそのワイヤーを前に、一方の碧はにやりと笑って、
「武器に宝石付いてたらさーあ、何かしら出てくるモンだと思わなかったあ?」
そう言って、レイピアの宝石から何か――光の目には、それは青色の光に見えた――を打ち出し、ワイヤーを弾き飛ばした。
「なっ……」
「おー、水属性ってコト? やったー、なんか別の武器もほしーなって思ってたんよねー! えーい、これでもくらーっ!!」
そうけらけらと笑いながら、碧はそれを乱射する。
(水属性なら……多分俺にはあんまり効かないよな? でも当たったら面倒だし……)
「とりあえず、『ワイヤーショット』ッ!!」
光は弱めの電気を纏わせたワイヤーを2、3本横向きに飛ばし、大きく手を動かして、さながら手前の空間全部を切り裂くが如くその弾を薙ぎ払う。
しかしワイヤーは弾を素通りし――碧にはちょっと当たった。まあまあダメージ入ったようだ――身構える暇もなく、その弾は光に命中した。
というか、かかった。主に顔に。
「痛っ……くはそんなにないな。水じゃんかコレただの」
顔にかかったので多少なりとも不快感はある様子だが、しかし属性相性もあってか大したダメージでもなく、首を傾げている。
一方の碧はというと、こうかはばつぐんだったので廊下をのたうち回っていた。雷属性だと体が痺れてしばらく動けないので。
「いっ……ったーい!! 何すんだよー光っち!」
「何って、普通に攻撃しただけだけど……?」
というか、今がチャンスっぽいぞコレ。
そう思った光は、碧の近くにもう一度、さっきよりもしっかりと狙いをつけてワイヤーを飛ばす。的が動かないから楽なのだ。
ワイヤーが当たる。やっぱりちょっと電気が流れて、碧がうめく。
「うぇっ」
「じゃっあー、早速『ボルテックスパーク』……」
ボルテックスパーク。ワイヤーを通じ、強めに電気を飛ばす技。
折角ワイヤーなんだから、導線として電気を通すのが安牌ってもんだが……しかし、光には一つ、大きな誤算があった。
「……ッ!?」
彼は今、濡れていた。さっきの水の弾のせいで。
element squareにおいては――現実世界のソレと同じように――水は電気を通す。
例えばスマホのプラグ接続部分が濡れた状態で充電しない方がいいと言われている理由。例えば刑事ドラマなんかで浴槽にドライヤーを入れて起こす殺人事件。
要するに光の体に、こんな感じの現象が起こったのだ。
つまるところ、漏電である。床にもちょっと電流が走り、光は痺れて倒れこむ。
「っづぁ゛……自分の攻撃でダメージ喰らうとか、聞いてないんだけど」
「そーゆーもんでしょお? 電気は危ないって、あーしもよく聞くし」
「それは……まあ、そうだね」
それなりに気合を入れて構えていたせいか、碧が立ち上がった時も、未だ光は倒れたままだ。
しかし彼女、何を思ったか光の下へ歩み寄った。レイピアを後ろに回し、軽くスキップしながら。
「そーいえばだけどさぁ、光っちってモテるっしょ」
「どーしたのさ藪から棒に。ま、付き合ってたことはある……気はする、かな」
「煮え切らなすぎてウケるんですけどー」
いきなり何を言い出したんだこの子は。光は痺れたまま首を傾げた。
「んー……なーんかさー、ハルっちの……お姉ちゃん? と似てる感じがするってゆーか……?」
「……え、何の話してんの?」
いやあちょっと気になってさぁ、と、目をしっかり合わせて碧は笑う。
光の瞳の内側を、彼自身忘れていた記憶を、のぞき込むように。
「なんとなくだけどさー、光っちとハルっちが並んでるとこ思い浮かべたら、なんだろ、様になってる……的なー?」
「あー、分かる分かる。春ちゃん可愛いし俺イケメンだし、まさに釣り合ってるっつーの?」
「自分で言うってどーなの?」
なんて言って碧は苦笑いする。
さっき『今世紀最強最カワのモデル』とか言いながらギャルピを決めていたこの人にそんなこと言う権利があるのかどうかについては議論の余地があるが、それを記すにはこの余白は狭すぎる。
「……っていうか、春ちゃんにお姉ちゃんいるってマジ? 初耳なんだけど」
「え、マジよー? さっきハルっち、いたっつってたしー?」
「……“いた”?」
「そーそー、あーしの勘さっきも当たったみたいでさー? なーんかハルっち青ざめてたー」
光の脳裏に、4月のいつかの光景が浮かぶ。
姉さんのことも覚えてないの? 誹るような春菜の瞳。
(……ひょっとして、そういうこと? 春ちゃんが俺の事嫌ってるのは……)
俺が、春ちゃんのお姉ちゃんと……
「んー? どしたの光っち」
「いや、マジで微塵も心当たりがねーなって……」
やっぱり何も出てこない。
どーりで春菜も怒るわけだと、光は頭を掻いた。
……あれ、もう動くじゃん。
「ところで話はもう終わりでいいよね……もっかいこっちから行くよっ!」
「終わりって……うわあっ!?」
その場で跳ね起きて、光は勢いよく両手からワイヤーを飛ばし、上に向かって振り上げる。
さっきの漏電が怖すぎるので電気こそ流さぬが、細い糸ってのは高速で動かせば色々切れるものなのだ。
無論このゲームは全年齢対象なのでグロ表現的なのは一切ないが、しかし碧は床を切り刻みながら迫ってくるその糸を避けるのに精一杯である。
「もー! 何いきなり本気出してくれちゃってんのー!」
「いいっしょ別に、そもそもこーゆーゲームだってのっ! さ、そっちもかかってきなよ!」
「そーね、じゃ遠慮なく!」
そう言うと碧は一気に飛び退いて、シアター側からエスカレーターの方に遠ざかり、レイピアの宝石側を構える。
そして水の弾を勢いよく乱射し始めた。
「また濡らそうったってそうはいかないよ!」
「知ってるってのー! あーしはとりあえず光っち、あんたをぼこせればいーんですぅー!」
啖呵を切る碧は光のワイヤーをかいくぐり。
そして光は、飛んでくる水の弾をワイヤーで、床や壁ごと切り弾く。
(属性相性、武器のリーチ……これは流石に俺の勝ちっしょ!)
なーんてことを考えていた光だが、しかし彼ら二人の戦いは割とすぐに終わりを迎えた。
彼らの立っていたグレキネ4階の床。それが、突如として崩落したのである。
「「えっ……ええええ!?!?」」
二人は重力に引かれ、思わずユニゾンする。
そう、このゲームは壁とかにも耐久値が設定されており、光がさっきから散々ぶん回していたワイヤーの威力でとうとう崩壊したのだ。
「落ちるぅぅー!! 何してんのさ光っちー!」
「言うほど俺のせいかなあ!? ……俺のせいだな」
この建物の3階は映写機とかが置かれているフロアとなっており、2階の各スクリーンに映し出す形となっている。
星降市中心部に建っている分敷地が狭いので縦方向にぎゅっとしているのだ。
……閑話休題。さっきの光のワイヤーは割とえげつない伸び方をしており、3階の床にもちょびっとダメージが入っていた。
ということで。
「よっ……とぉおわぁぁぁ!?」
「ちょっ、光っち! 2連続で床抜けるとかあんたマジで何やらかしてんのぉ!?」
二人が落下した衝撃で、またしても床が抜けたのだった。
どすん。大きな音と土煙が舞う。
「痛っ……ったああー!!」
「ゴメンてアオっち……まさかこんなことになるだなんて思ってなかったんだよ俺は……あ」
2階にはシアターの他に、1階と繋がるテラスがある。そこは先程、炎里と柳海が鬼と戦っていた場所。
というわけでそこには、
「ちょっ、いきなり何事ー!?」
「おい待て炎里っ、敵とかだったらどうすんだ……」
物音を聞きつけて慌ててやってきた炎里と柳海。
……ついでに、6番スクリーンの出口近くにいたせいで、崩落に巻き込まれ碧の下敷きになっている、哀れなマドがいた。
「ん……あーっ、誰か踏んでんじゃーん。ごめーん」
人を下敷きにしといてソレは軽すぎやしねーかと思わないでもないが、しかし崩落の原因は自分にしかないので、とりあえず光は黙って立ち上がることにした。
……ちなみに3階の映写機が軒並みぶっ壊れたので、5~8番シアターにいた面々は、脱出済みのマド以外出れなくなったわけだが。
まあそれは別のお話。
「ったく……なんだったんだよアレ」
戦う相手が一人だけ超絶巨大な事もあってか、光は疲労困憊である。
そして扉を至極雑に開け、
「いてっ!!」
「あっ」
誰かの顔面に盛大にぶつかったらしい。
「ご、ごめんなさい。ダイジョブですか」
「ん……だいじょぶ」
普段は軽く生きている光だが、流石に人にぶつかったら謝るとかの良識は持ち合わせている。
それこそ今回は見知らぬ人だってんだから当然だ。光にしてみれば。
「……あれ、さてはあんた光?」
「え? いや、そうではあるけど何で知って……ははーん。さては今回のボス、君だね?」
光が気付くのにそこまで時間はかからなかった。
明るい色の髪に派手な服、片目は青色に光り、傍らにはさっき倒れた衝撃で取り落としたかレイピアが転がる……名前を知ってることも含め、少なくともプレイヤーではない。そう考えれば間違いなくステージのボス敵、大罪七星だ。
「だいせいかーい! あーしは鈴木碧、気軽にアオっちって呼んでー!」
「アオっちね、りょーかい」
素直に応じる。光はノリがいいのだ。
それを見て、碧はけらけらと笑う。
「わー、聞き分け爆裂いいじゃーん。ハルっちとは大違いだー」
「ハルっち……? あ、ひょっとして春ちゃん!?」
ひょっとしなくてもそうだろ、と内心思わないでもないが、光は思わずそう叫んだ。
そして、気付いた。この状況が、碧の光る片目が、何を意味するか。
「……はっはーん、さてはさっき戦った感じね?」
「またしてもだいせいかーい! もう映画イベントは終わっちゃったしっ……早速行くよっ!」
碧は取り落としていたレイピアを手に取って、その切っ先を光に突きつける。
光は咄嗟にワイヤーを飛ばし、碧のレイピアに絡める。
「へぇー、やっぱやり慣れてると上手いじゃーん!」
「そりゃどうも、俺結構ゲームは得意でねっ!」
光は左手を振り上げ、ワイヤーを引き上げる。しかし碧は即座にレイピアを引っ込める。
「そう上手くは行かないよね、なら『ワイヤーショット』ッ!!」
今度は碧に直に当てようと、ワイヤーが飛ぶ。
ジャンプ一回で軽々避けて、碧はレイピアをくるくる回し、少し光から距離を置いて着地すると同時に宝石側を向ける。
光は一瞬首を傾げた。碧がいるのは到底レイピアの届きそうにない場所だ、しかも光のワイヤーは余裕で届く。
……成程、何か仕掛けてる感じだな? 悟った光はすぐさまワイヤーを飛ばした。
「レイピア使いがそんなに距離取ってどーすんの、さっ!」
しゅるしゅると、着々と近づくそのワイヤーを前に、一方の碧はにやりと笑って、
「武器に宝石付いてたらさーあ、何かしら出てくるモンだと思わなかったあ?」
そう言って、レイピアの宝石から何か――光の目には、それは青色の光に見えた――を打ち出し、ワイヤーを弾き飛ばした。
「なっ……」
「おー、水属性ってコト? やったー、なんか別の武器もほしーなって思ってたんよねー! えーい、これでもくらーっ!!」
そうけらけらと笑いながら、碧はそれを乱射する。
(水属性なら……多分俺にはあんまり効かないよな? でも当たったら面倒だし……)
「とりあえず、『ワイヤーショット』ッ!!」
光は弱めの電気を纏わせたワイヤーを2、3本横向きに飛ばし、大きく手を動かして、さながら手前の空間全部を切り裂くが如くその弾を薙ぎ払う。
しかしワイヤーは弾を素通りし――碧にはちょっと当たった。まあまあダメージ入ったようだ――身構える暇もなく、その弾は光に命中した。
というか、かかった。主に顔に。
「痛っ……くはそんなにないな。水じゃんかコレただの」
顔にかかったので多少なりとも不快感はある様子だが、しかし属性相性もあってか大したダメージでもなく、首を傾げている。
一方の碧はというと、こうかはばつぐんだったので廊下をのたうち回っていた。雷属性だと体が痺れてしばらく動けないので。
「いっ……ったーい!! 何すんだよー光っち!」
「何って、普通に攻撃しただけだけど……?」
というか、今がチャンスっぽいぞコレ。
そう思った光は、碧の近くにもう一度、さっきよりもしっかりと狙いをつけてワイヤーを飛ばす。的が動かないから楽なのだ。
ワイヤーが当たる。やっぱりちょっと電気が流れて、碧がうめく。
「うぇっ」
「じゃっあー、早速『ボルテックスパーク』……」
ボルテックスパーク。ワイヤーを通じ、強めに電気を飛ばす技。
折角ワイヤーなんだから、導線として電気を通すのが安牌ってもんだが……しかし、光には一つ、大きな誤算があった。
「……ッ!?」
彼は今、濡れていた。さっきの水の弾のせいで。
element squareにおいては――現実世界のソレと同じように――水は電気を通す。
例えばスマホのプラグ接続部分が濡れた状態で充電しない方がいいと言われている理由。例えば刑事ドラマなんかで浴槽にドライヤーを入れて起こす殺人事件。
要するに光の体に、こんな感じの現象が起こったのだ。
つまるところ、漏電である。床にもちょっと電流が走り、光は痺れて倒れこむ。
「っづぁ゛……自分の攻撃でダメージ喰らうとか、聞いてないんだけど」
「そーゆーもんでしょお? 電気は危ないって、あーしもよく聞くし」
「それは……まあ、そうだね」
それなりに気合を入れて構えていたせいか、碧が立ち上がった時も、未だ光は倒れたままだ。
しかし彼女、何を思ったか光の下へ歩み寄った。レイピアを後ろに回し、軽くスキップしながら。
「そーいえばだけどさぁ、光っちってモテるっしょ」
「どーしたのさ藪から棒に。ま、付き合ってたことはある……気はする、かな」
「煮え切らなすぎてウケるんですけどー」
いきなり何を言い出したんだこの子は。光は痺れたまま首を傾げた。
「んー……なーんかさー、ハルっちの……お姉ちゃん? と似てる感じがするってゆーか……?」
「……え、何の話してんの?」
いやあちょっと気になってさぁ、と、目をしっかり合わせて碧は笑う。
光の瞳の内側を、彼自身忘れていた記憶を、のぞき込むように。
「なんとなくだけどさー、光っちとハルっちが並んでるとこ思い浮かべたら、なんだろ、様になってる……的なー?」
「あー、分かる分かる。春ちゃん可愛いし俺イケメンだし、まさに釣り合ってるっつーの?」
「自分で言うってどーなの?」
なんて言って碧は苦笑いする。
さっき『今世紀最強最カワのモデル』とか言いながらギャルピを決めていたこの人にそんなこと言う権利があるのかどうかについては議論の余地があるが、それを記すにはこの余白は狭すぎる。
「……っていうか、春ちゃんにお姉ちゃんいるってマジ? 初耳なんだけど」
「え、マジよー? さっきハルっち、いたっつってたしー?」
「……“いた”?」
「そーそー、あーしの勘さっきも当たったみたいでさー? なーんかハルっち青ざめてたー」
光の脳裏に、4月のいつかの光景が浮かぶ。
姉さんのことも覚えてないの? 誹るような春菜の瞳。
(……ひょっとして、そういうこと? 春ちゃんが俺の事嫌ってるのは……)
俺が、春ちゃんのお姉ちゃんと……
「んー? どしたの光っち」
「いや、マジで微塵も心当たりがねーなって……」
やっぱり何も出てこない。
どーりで春菜も怒るわけだと、光は頭を掻いた。
……あれ、もう動くじゃん。
「ところで話はもう終わりでいいよね……もっかいこっちから行くよっ!」
「終わりって……うわあっ!?」
その場で跳ね起きて、光は勢いよく両手からワイヤーを飛ばし、上に向かって振り上げる。
さっきの漏電が怖すぎるので電気こそ流さぬが、細い糸ってのは高速で動かせば色々切れるものなのだ。
無論このゲームは全年齢対象なのでグロ表現的なのは一切ないが、しかし碧は床を切り刻みながら迫ってくるその糸を避けるのに精一杯である。
「もー! 何いきなり本気出してくれちゃってんのー!」
「いいっしょ別に、そもそもこーゆーゲームだってのっ! さ、そっちもかかってきなよ!」
「そーね、じゃ遠慮なく!」
そう言うと碧は一気に飛び退いて、シアター側からエスカレーターの方に遠ざかり、レイピアの宝石側を構える。
そして水の弾を勢いよく乱射し始めた。
「また濡らそうったってそうはいかないよ!」
「知ってるってのー! あーしはとりあえず光っち、あんたをぼこせればいーんですぅー!」
啖呵を切る碧は光のワイヤーをかいくぐり。
そして光は、飛んでくる水の弾をワイヤーで、床や壁ごと切り弾く。
(属性相性、武器のリーチ……これは流石に俺の勝ちっしょ!)
なーんてことを考えていた光だが、しかし彼ら二人の戦いは割とすぐに終わりを迎えた。
彼らの立っていたグレキネ4階の床。それが、突如として崩落したのである。
「「えっ……ええええ!?!?」」
二人は重力に引かれ、思わずユニゾンする。
そう、このゲームは壁とかにも耐久値が設定されており、光がさっきから散々ぶん回していたワイヤーの威力でとうとう崩壊したのだ。
「落ちるぅぅー!! 何してんのさ光っちー!」
「言うほど俺のせいかなあ!? ……俺のせいだな」
この建物の3階は映写機とかが置かれているフロアとなっており、2階の各スクリーンに映し出す形となっている。
星降市中心部に建っている分敷地が狭いので縦方向にぎゅっとしているのだ。
……閑話休題。さっきの光のワイヤーは割とえげつない伸び方をしており、3階の床にもちょびっとダメージが入っていた。
ということで。
「よっ……とぉおわぁぁぁ!?」
「ちょっ、光っち! 2連続で床抜けるとかあんたマジで何やらかしてんのぉ!?」
二人が落下した衝撃で、またしても床が抜けたのだった。
どすん。大きな音と土煙が舞う。
「痛っ……ったああー!!」
「ゴメンてアオっち……まさかこんなことになるだなんて思ってなかったんだよ俺は……あ」
2階にはシアターの他に、1階と繋がるテラスがある。そこは先程、炎里と柳海が鬼と戦っていた場所。
というわけでそこには、
「ちょっ、いきなり何事ー!?」
「おい待て炎里っ、敵とかだったらどうすんだ……」
物音を聞きつけて慌ててやってきた炎里と柳海。
……ついでに、6番スクリーンの出口近くにいたせいで、崩落に巻き込まれ碧の下敷きになっている、哀れなマドがいた。
「ん……あーっ、誰か踏んでんじゃーん。ごめーん」
人を下敷きにしといてソレは軽すぎやしねーかと思わないでもないが、しかし崩落の原因は自分にしかないので、とりあえず光は黙って立ち上がることにした。
……ちなみに3階の映写機が軒並みぶっ壊れたので、5~8番シアターにいた面々は、脱出済みのマド以外出れなくなったわけだが。
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