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ステージ3
9 校庭、1&1VS1の激戦
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「これは俺の推測ですが……今回のボス、認識を阻害する能力を持ってます」
「え……っと、つまり?」
中庭。颯一郎の語りに、透は首を傾げる。
「さっき、光が吸収されたんですけど……同じ部屋、すぐそばにいたってのに、俺は途中から全く、光の事を認識していなかった」
「……なるほど、潤くんのはそういう宿リ星、ってことね」
というか光くんやられたのか。透はちょっとびっくりした。
「多分ですけどあの能力、ボス側が誰か他人を認識しているってことに気付ければ……もしくはあの子が触れたものに触れるとかすれば、破れるんじゃないでしょうか」
「にゃるほど……何をどうすりゃいいのやら。ってかそもそも今何処にいるんだろ」
「体育館か校庭らしいです。俺は体育館に向かおうかと」
「りょーかい、そんじゃ僕は校庭だな」
それだけ話して、2人はそれぞれ動き出した。
(……潤くんが触れたもの、か。あの子に効きそうなもの……あっ)
透は何やら悪だくみでもしているのか、校庭から少し離れた方向に足を進めた。
一方その頃。
校庭では、スライムとスケルトンが大量に発生していた。
「あー、次から次に湧き出てぇ……鬱陶しいったらありゃしないですねぇっ!」
一足先に校庭へとたどり着いていたのは零。武器のトランプを四方八方投げつけて、襲い来るモンスターたちを片っ端から蹴散らしていた。
着弾地点が爆発する『爆黒カード』で固まった敵を散らし、数体だけで近づいてきたら直接カードで切り裂く。それの繰り返し。
スケルトンの放つ矢が近づいた時は、
「危ないですねぇ、『鉄壁プレート』ッ!!」
カードを数枚組合せ、シールドとして即座に展開。そして大群で迫ってきたら、
「いつの間にこんなにぃ!? まあ余裕ですねぇ、『紙輪チャクラム』ッ!!」
カード数十枚で2つの輪を作り、両手に持って周囲を全て斬り払う。
いつしか校庭には、エレメントジェムが散らばっていた。
「ふぅ、まあまあ倒したんじゃないですかぁ? ……あれぇ、もっといた気がしたんですけどぉ、こんなもんでしたっけぇ?」
スマホに来ていた通知には気付かず、首を傾げる零。違和感の原因は、彼の真後ろに立っていた。
「おつかれさま! お兄ちゃん強いねえ」
「……その声ぇ、あなたさてはさっきのぉ!」
「そーだよ! 次はボクと遊んで……ねっ!」
声の正体、橘潤はそう言って、カバンから爆弾を取り出した。
「いきなり随分なご挨拶ですねっ……『鉄壁プレート』ッ!!」
シールドを展開し、間一髪爆風を防いだ零。煙が晴れると……潤は少し遠くにいた。
「どうしたんですぅ? あんなに威勢のいい事言ってたくせにぃ」
「悪いけど、遊ばなきゃいけない相手が他にもいるんだよね! そんなにおこんないで!」
一対多なんて不利でしかないだろうに何を言ってるんだ? 零は首を傾げた。そんなに楽しいんだろうか……まあゲームだし楽しいか。
(……というかぁ、もっと気になるのはぁ……)
(他にいるというその相手ぇ、今何処にいるんですぅ?)
零の目には、校庭の何処にも、潤以外の人間は認められなかった。ただでさえ夜中なこともそうだが、着弾地点が暗くなる闇属性の特性故か? 零に考えられる可能性はそのあたりだった。
一方、春菜は後から校庭にたどり着いた。
「さっきの眼鏡の人……龍田さんだっけ? まあ別に心配なんざしてないけど、大丈夫かな」
ぶつくさ呟きながら足を踏み入れた校庭では、スライムなどのモンスターが結構湧いていた。
「うげっ、面倒ね……まあ、端から跳ね飛ばしてけば問題なし! 『ウェッティストリーム』ッ!!」
青いオーラを纏ったトンファーを早速振り回し、近くのモンスターたちを巻き込んで振り回す。春菜の技だ。これならスケルトンの矢もついでに弾けるので安全性も高いのだ。
彼女のモンスターたちとの戦いはそれなりに早く終わった。思ってたより数が少なかったのだろうと、春菜はトンファーを下ろした……まあ実際の所、零が6割方倒したからにすぎないのだが。
(……ん? アレ確か、さっきの……)
春菜の視界の先に、人影があった。
人影は背を向けて何やら話した後、春菜の方に向き直り、小走りで近づいてきた。爆風を後にして。
「さっき音楽室にいたお姉ちゃん! やっと来てくれたんだー!」
「というとアンタ、ボスってことね……さっきの爆発は何?」
「そんなこといいでしょ、お姉ちゃんも遊ぼうよ!」
直後。春菜のトンファーが何かを弾いた。潤の能力の光弾だ。
「っ!? 何、今の……」
「さっ、こっからが本番だよ! 二人とも、さい後の七ふしぎに勝てるといいね……きゃははっ!」
そう笑いながら、潤は校庭の真ん中辺りへと走り始めた。
突然だがここから潤視点。追いかけてくる二人に、またしても湧いてきたモンスターたちが襲い掛かるのを見ながら、潤は駆けていた。
「ちょっ、待ってよ……って、そんなこと言ってる場合でもなさそうね」
「何を話してたんですかあの人ぉ……というかぁ、またしてもモンスターですかぁ?」
(あの二人、おたがいの声聞こえてないのかなあ……さっきと同じ? なんでだろ)
……まあいっか。潤は、校庭の真ん中で止まった。
(あのおじさん……社長さんだっけ? が言ってたけど、ここに立ってればいいんだよね……?)
門の方を見る。潤は、誰かの人影を見つけた。
「だれだろ、アレ……あ、さっき南校しゃにいた人かな」
「何処見てんですかぁ? 隙だらけですよボス敵さぁん!」
「えっ、お兄ちゃんモンスター全部やっつけたの!?」
振り向いた潤は、カードを構えた零と目が合った。
もとより七不思議の影響もあってモンスターの湧きやすい状況と成ったこの校庭。春菜もいるとはいえ、あまりにも早い。思ってたよりだいぶ強いな……苦虫を噛み潰したような顔をしながら、急いで光弾を張り巡らせる潤。
「『爆黒カード』ッ……流石に止められますかぁっ! さっきも似たようなことありましたねぇ」
光が炸裂し、カードから放たれる闇を打ち消した。光属性を込めた弾なのだ……元より光弾だが。
「あぶないあぶない……やっぱたくさんの人相手だと大へんだよ!」
「さっきから、アンタどこ見てんのっ! 無視されると流石にうちも傷つくんですけどっ!」
別方向。トンファーを振りかぶって、迫りくる春菜。
「あーもう、いろんなとこから来るなよー! これでもくらえ!!」
「はん、どーせ今使ってる光弾とかでしょ! 目ェ瞑ってても余裕よ……『パリィストライク』ッ!!」
春菜にとってこの時、二つほど不幸なことが起こった。
一つは、先程のウェッティストリームの効果が、雑魚散らし中に切れていたこと。
そしてもう一つ……今回放たれたのは光弾でなく、高速の爆弾だった。それも、雷属性の。
春菜はトンファーを振ろうとしていた。しかし、気付くと爆弾はトンファーの間合いの内側、春菜の目の前で炸裂したのだ。
「なっ!? これ……さては雷属性……っ!」
想定よりも大きなダメージで、春菜は動きを止めた。そう、水属性は雷属性に不利なのだ。しかもこの雷属性、所謂ヒットストップが長い……要は痺れているのだ。
「もう一人来るんだからさー、一しょにがんばるとかしなよー」
「一緒にって……誰と何をしろってゆーのよ」
「もう一人ぃ? まるで既に二人目がいるような口ぶりですねぇ……」
相変わらずお互いに気付いていなさげな二人の様子に、潤は首を傾げる。自分の能力のせいなのだが気付いていないので仕方がない。
とりあえず横二人に適当に光弾をぶつけながら、
「んで、そこの人はだれです……かっ!」
光属性の効果に、『着弾地点が明るくなる』というものがある。これまでの戦いでなんとなくそれを理解した潤は、人影目掛け光弾をぶち込んだ。
一方、人影……もとい、その正体である透は、攻撃を見てニヤリと笑った。
「……『ハイド&バレット』ッ!!」
「おー、いきなりやるねえ! ……うわっ!?」
新たな強敵の登場に目を輝かせた潤。だが、透は光弾の着弾地点よりも前方へとスライドし、銃弾の勢いで“何か”を一緒に打ち出した。
“何か”はそれなりに大きい物なのか大した速度は出ず、潤の手元にストっと落ちた。そして、ソレは潤の視界に入ってしまった。
「えっ……うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
先程の光弾の爆発の明かりで微かに見えたソレは、まるで人の頭のような形状であった。そのことに潤はまず驚愕した。
次の瞬間、全体像が見えてしまう。
その造形は妙にリアルで、しかしおよそ命と呼べそうなものは感じられない。不気味の谷のど真ん中をストレートでぶち抜いた、マネキンの……しかも、生首。
この段階で潤の中の感情は、完全に恐怖に相成った。
「……まあ、そうなるよね。夜中にこの子を見ちゃったら!」
マドちゃんの受け売りだけどね、と、透は口角を上げた。
そう。少なくともマドと零の代では七不思議にランクインしていた、烏羽小トップクラスの特急呪物。
七不思議#7、“案山子の明美”……潤に投げ渡されたのは、つまるところソレである。
「えっ、何! 何何なんなの!?!?」
その生首を、潤は思わず取り落とす……そしてそれこそが、透の狙いであった。
(颯一くんの情報から判断するに……潤くんの宿リ星が解除されるのは、潤くんが触れていたものに、他の誰かが触れたとき! 光くんは微かにしか見えなかったらしいが、それは解除されたまさにその瞬間吸収されたから……だと、したら!)
「……『真空バレット』ッ!!」
宙を舞う生首を、真空をつくって引き寄せ……そして、透は手に取った。
それまで、零及び春菜は、潤が突然叫びだしたことを、至極不思議に思っていた。
人の頭らしき何かを持っている……真夜中なこともあり、彼と彼女に分かったのはそこまでだった。
しかし透が明美をキャッチした瞬間。
二人の瞳に、彼が映った。
「露西さん!? なんでアンタ……いつの間に!?」
「透さん!? なーんだぁ、無事だったんですねぇ」
……一方、透はというと。
「……あっこれアレだな。僕側気付きようがないな」
「え……っと、つまり?」
中庭。颯一郎の語りに、透は首を傾げる。
「さっき、光が吸収されたんですけど……同じ部屋、すぐそばにいたってのに、俺は途中から全く、光の事を認識していなかった」
「……なるほど、潤くんのはそういう宿リ星、ってことね」
というか光くんやられたのか。透はちょっとびっくりした。
「多分ですけどあの能力、ボス側が誰か他人を認識しているってことに気付ければ……もしくはあの子が触れたものに触れるとかすれば、破れるんじゃないでしょうか」
「にゃるほど……何をどうすりゃいいのやら。ってかそもそも今何処にいるんだろ」
「体育館か校庭らしいです。俺は体育館に向かおうかと」
「りょーかい、そんじゃ僕は校庭だな」
それだけ話して、2人はそれぞれ動き出した。
(……潤くんが触れたもの、か。あの子に効きそうなもの……あっ)
透は何やら悪だくみでもしているのか、校庭から少し離れた方向に足を進めた。
一方その頃。
校庭では、スライムとスケルトンが大量に発生していた。
「あー、次から次に湧き出てぇ……鬱陶しいったらありゃしないですねぇっ!」
一足先に校庭へとたどり着いていたのは零。武器のトランプを四方八方投げつけて、襲い来るモンスターたちを片っ端から蹴散らしていた。
着弾地点が爆発する『爆黒カード』で固まった敵を散らし、数体だけで近づいてきたら直接カードで切り裂く。それの繰り返し。
スケルトンの放つ矢が近づいた時は、
「危ないですねぇ、『鉄壁プレート』ッ!!」
カードを数枚組合せ、シールドとして即座に展開。そして大群で迫ってきたら、
「いつの間にこんなにぃ!? まあ余裕ですねぇ、『紙輪チャクラム』ッ!!」
カード数十枚で2つの輪を作り、両手に持って周囲を全て斬り払う。
いつしか校庭には、エレメントジェムが散らばっていた。
「ふぅ、まあまあ倒したんじゃないですかぁ? ……あれぇ、もっといた気がしたんですけどぉ、こんなもんでしたっけぇ?」
スマホに来ていた通知には気付かず、首を傾げる零。違和感の原因は、彼の真後ろに立っていた。
「おつかれさま! お兄ちゃん強いねえ」
「……その声ぇ、あなたさてはさっきのぉ!」
「そーだよ! 次はボクと遊んで……ねっ!」
声の正体、橘潤はそう言って、カバンから爆弾を取り出した。
「いきなり随分なご挨拶ですねっ……『鉄壁プレート』ッ!!」
シールドを展開し、間一髪爆風を防いだ零。煙が晴れると……潤は少し遠くにいた。
「どうしたんですぅ? あんなに威勢のいい事言ってたくせにぃ」
「悪いけど、遊ばなきゃいけない相手が他にもいるんだよね! そんなにおこんないで!」
一対多なんて不利でしかないだろうに何を言ってるんだ? 零は首を傾げた。そんなに楽しいんだろうか……まあゲームだし楽しいか。
(……というかぁ、もっと気になるのはぁ……)
(他にいるというその相手ぇ、今何処にいるんですぅ?)
零の目には、校庭の何処にも、潤以外の人間は認められなかった。ただでさえ夜中なこともそうだが、着弾地点が暗くなる闇属性の特性故か? 零に考えられる可能性はそのあたりだった。
一方、春菜は後から校庭にたどり着いた。
「さっきの眼鏡の人……龍田さんだっけ? まあ別に心配なんざしてないけど、大丈夫かな」
ぶつくさ呟きながら足を踏み入れた校庭では、スライムなどのモンスターが結構湧いていた。
「うげっ、面倒ね……まあ、端から跳ね飛ばしてけば問題なし! 『ウェッティストリーム』ッ!!」
青いオーラを纏ったトンファーを早速振り回し、近くのモンスターたちを巻き込んで振り回す。春菜の技だ。これならスケルトンの矢もついでに弾けるので安全性も高いのだ。
彼女のモンスターたちとの戦いはそれなりに早く終わった。思ってたより数が少なかったのだろうと、春菜はトンファーを下ろした……まあ実際の所、零が6割方倒したからにすぎないのだが。
(……ん? アレ確か、さっきの……)
春菜の視界の先に、人影があった。
人影は背を向けて何やら話した後、春菜の方に向き直り、小走りで近づいてきた。爆風を後にして。
「さっき音楽室にいたお姉ちゃん! やっと来てくれたんだー!」
「というとアンタ、ボスってことね……さっきの爆発は何?」
「そんなこといいでしょ、お姉ちゃんも遊ぼうよ!」
直後。春菜のトンファーが何かを弾いた。潤の能力の光弾だ。
「っ!? 何、今の……」
「さっ、こっからが本番だよ! 二人とも、さい後の七ふしぎに勝てるといいね……きゃははっ!」
そう笑いながら、潤は校庭の真ん中辺りへと走り始めた。
突然だがここから潤視点。追いかけてくる二人に、またしても湧いてきたモンスターたちが襲い掛かるのを見ながら、潤は駆けていた。
「ちょっ、待ってよ……って、そんなこと言ってる場合でもなさそうね」
「何を話してたんですかあの人ぉ……というかぁ、またしてもモンスターですかぁ?」
(あの二人、おたがいの声聞こえてないのかなあ……さっきと同じ? なんでだろ)
……まあいっか。潤は、校庭の真ん中で止まった。
(あのおじさん……社長さんだっけ? が言ってたけど、ここに立ってればいいんだよね……?)
門の方を見る。潤は、誰かの人影を見つけた。
「だれだろ、アレ……あ、さっき南校しゃにいた人かな」
「何処見てんですかぁ? 隙だらけですよボス敵さぁん!」
「えっ、お兄ちゃんモンスター全部やっつけたの!?」
振り向いた潤は、カードを構えた零と目が合った。
もとより七不思議の影響もあってモンスターの湧きやすい状況と成ったこの校庭。春菜もいるとはいえ、あまりにも早い。思ってたよりだいぶ強いな……苦虫を噛み潰したような顔をしながら、急いで光弾を張り巡らせる潤。
「『爆黒カード』ッ……流石に止められますかぁっ! さっきも似たようなことありましたねぇ」
光が炸裂し、カードから放たれる闇を打ち消した。光属性を込めた弾なのだ……元より光弾だが。
「あぶないあぶない……やっぱたくさんの人相手だと大へんだよ!」
「さっきから、アンタどこ見てんのっ! 無視されると流石にうちも傷つくんですけどっ!」
別方向。トンファーを振りかぶって、迫りくる春菜。
「あーもう、いろんなとこから来るなよー! これでもくらえ!!」
「はん、どーせ今使ってる光弾とかでしょ! 目ェ瞑ってても余裕よ……『パリィストライク』ッ!!」
春菜にとってこの時、二つほど不幸なことが起こった。
一つは、先程のウェッティストリームの効果が、雑魚散らし中に切れていたこと。
そしてもう一つ……今回放たれたのは光弾でなく、高速の爆弾だった。それも、雷属性の。
春菜はトンファーを振ろうとしていた。しかし、気付くと爆弾はトンファーの間合いの内側、春菜の目の前で炸裂したのだ。
「なっ!? これ……さては雷属性……っ!」
想定よりも大きなダメージで、春菜は動きを止めた。そう、水属性は雷属性に不利なのだ。しかもこの雷属性、所謂ヒットストップが長い……要は痺れているのだ。
「もう一人来るんだからさー、一しょにがんばるとかしなよー」
「一緒にって……誰と何をしろってゆーのよ」
「もう一人ぃ? まるで既に二人目がいるような口ぶりですねぇ……」
相変わらずお互いに気付いていなさげな二人の様子に、潤は首を傾げる。自分の能力のせいなのだが気付いていないので仕方がない。
とりあえず横二人に適当に光弾をぶつけながら、
「んで、そこの人はだれです……かっ!」
光属性の効果に、『着弾地点が明るくなる』というものがある。これまでの戦いでなんとなくそれを理解した潤は、人影目掛け光弾をぶち込んだ。
一方、人影……もとい、その正体である透は、攻撃を見てニヤリと笑った。
「……『ハイド&バレット』ッ!!」
「おー、いきなりやるねえ! ……うわっ!?」
新たな強敵の登場に目を輝かせた潤。だが、透は光弾の着弾地点よりも前方へとスライドし、銃弾の勢いで“何か”を一緒に打ち出した。
“何か”はそれなりに大きい物なのか大した速度は出ず、潤の手元にストっと落ちた。そして、ソレは潤の視界に入ってしまった。
「えっ……うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
先程の光弾の爆発の明かりで微かに見えたソレは、まるで人の頭のような形状であった。そのことに潤はまず驚愕した。
次の瞬間、全体像が見えてしまう。
その造形は妙にリアルで、しかしおよそ命と呼べそうなものは感じられない。不気味の谷のど真ん中をストレートでぶち抜いた、マネキンの……しかも、生首。
この段階で潤の中の感情は、完全に恐怖に相成った。
「……まあ、そうなるよね。夜中にこの子を見ちゃったら!」
マドちゃんの受け売りだけどね、と、透は口角を上げた。
そう。少なくともマドと零の代では七不思議にランクインしていた、烏羽小トップクラスの特急呪物。
七不思議#7、“案山子の明美”……潤に投げ渡されたのは、つまるところソレである。
「えっ、何! 何何なんなの!?!?」
その生首を、潤は思わず取り落とす……そしてそれこそが、透の狙いであった。
(颯一くんの情報から判断するに……潤くんの宿リ星が解除されるのは、潤くんが触れていたものに、他の誰かが触れたとき! 光くんは微かにしか見えなかったらしいが、それは解除されたまさにその瞬間吸収されたから……だと、したら!)
「……『真空バレット』ッ!!」
宙を舞う生首を、真空をつくって引き寄せ……そして、透は手に取った。
それまで、零及び春菜は、潤が突然叫びだしたことを、至極不思議に思っていた。
人の頭らしき何かを持っている……真夜中なこともあり、彼と彼女に分かったのはそこまでだった。
しかし透が明美をキャッチした瞬間。
二人の瞳に、彼が映った。
「露西さん!? なんでアンタ……いつの間に!?」
「透さん!? なーんだぁ、無事だったんですねぇ」
……一方、透はというと。
「……あっこれアレだな。僕側気付きようがないな」
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