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ステージ3

6 強欲の黄、新たな敵は小学生?

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 梯子を上ると、上には窓が付いている。
 恐る恐る梯子を上り終えた透は、その窓の向こうに、一人の子供が座っているのを見た。

(子供……プレイヤー12人は今日出揃った、ならアレはボスキャラ、大罪七星か?)
「ちょ、せんぱーい。つかえてるんで早く行ってくださーい」
「あ、はいはい! 今、今窓開けるから!」

 鈴蘭にせがまれ、透は急いで窓をこじ開ける。幸い鍵はかかっていなかった。
 子供は手元の紙に、ちらちらと目をやっている。この後のイベント用のカンペだろうか。
 よっ、と透が窓から入り込むと、その子供はカンペをポケットにしまった。

「えっと……初めまして」
「……」

 無言だ。人見知りなのだろうか……いや、子供ってそんなもんか。
 少しして、後ろから鈴蘭、零、マドも入ってきた。

「ねぇ透さん、あの子はどちらさんですかぁ?」
「多分だけど……大罪七星。ボス敵じゃないかな、零くん」

 子供は口をパクパクさせている。

「先輩、ここはわたしにお任せあれ! ねえ君、名前は? どうしてここにいるの?」

 対応に困っていた所、鈴蘭がそっと子供に話しかけた。

「えっと、3年A組の、橘潤タチバナジュンです!」
「潤くんかぁ。わたしはね、夜霧鈴蘭って言うんだ。こっちのお兄さんお姉さんはね……」

 あっという間に話せるようになっている。鈴蘭ちゃん凄いなあと透は思った。

「実は先生目指してたりとかするんですかねぇ」
「いや分からんぞ、案外ただのショタコンという可能性も」
「聞こえてるぞ中3ども。特にマドちゃん」

 別に先生なんて目指してないよーと鈴蘭は笑う。多分明るくて人に懐かれやすい性格ってことなのだろう。

「で、潤くん。君はアレかな、やっぱボスキャラなの?」
「うん! えっと、たしか……なんて言うんだっけ」

 潤はポケットに手を突っ込み、ガサゴソと漁っている。

「ふ……なんか必死で可愛い……」
「なあ露西、やっぱこの人ショタコンでは?」
「うーん、まあ否めないとは思うけど……本人の前で言う事では絶対に無いと思うな、マドちゃん」
「いや先輩、ちゃんと否んでくださいよ」

 とても言い逃れできない笑みだったぞ……と透が思っていると。

「えっと……あ、ちょうどいる! やったー」
「……おやぁ、潤くん準備できたみたいですよぉ?」
「みたいだね。じゃ、イベント進めなきゃだし……パーフェクトにクリアさせてもらうよ!」

 潤はポケットに手を突っ込んだままニコッと笑い、透もそれに応えるように銃を構える。

「……始まるらしいぞ、ショタコ……もとい夜霧。早く準備を」
「きみさぁ! そうやって謂れなき罵詈雑言をぶちかますの良くないと思うよ!」
「いや……謂れしかないとおも」

 後ろで鈴蘭と話していたマドの声が、突然途切れた。
 横で話していた鈴蘭、及び異常を察してすぐさま振り向いた零が見たのは、

「うっ……油断してたな……」

 腹部に大きな勾玉の突き刺さった、マドの姿だった。
 一方透は潤を見て、軽く呟く。

「なるほど、最初から、マドちゃんを吸収するのが狙いなわけだ」
「うん! カンペに『光ぞくせいの人とかみなりぞくせいの人にまが玉を投げてください』って書いてあったから」
「へー、指定あったんだ」

 ステージ1の智和は青色で、氷属性。ステージ2の真綾は緑色で、風と木。なるほど、色味が近い属性が主に選ばれているらしい。

(智和が僕も吸収しようとしてたのは……枠が空いてたから適当に選んだってことね。まあ未遂に終わったけど)

 通が考えを整理し終わるのと、マドが消滅するのは同時だった。

「まが玉こっち来た! かみなりぞくせいの人もさがしに行かなきゃだけど……とりあえずお兄ちゃんお姉ちゃんたち、勝負だ!」
「りょーかい! じゃー早速……『ゼロバレット』ッ!!」
「おっ……とっと! あぶないあぶない……」

 透の銃撃をさっと避けて、潤はカバンに手を突っ込み、何かを取り出し、

「これでもくらえ! どりゃー!」

 透の方へと投げつける。普通に手で投げているとは到底思えないほどのスピードで。

(はっやぁ! こんなん避けらんないって! 成程そーゆー能力ね……てかなんだアレ)

 ドーン。理解する間もなく、閃光とともに爆発が起こり、透は壁を突き破って飛んで行った。壁に空いた大穴からは北校舎が覗く。

「えええ!? ちょっ、露西先輩っ!?」
「気ぃ取られてる場合じゃなさそうですねぇ、私たちも行きますよ鈴蘭さん。『爆黒カード』ッ!!」

 零は一枚カードを取り出し、潤に向けて飛ばす。闇を纏ったカードは、先程校庭で透に使ったものと同じ、爆発するタイプだ。

「トランプ? はやいね、とりあえずガード!」

 潤は負けじと手を広げる。すると、掌の真ん前に、5個ほどの光の弾が出現し、潤を守るように広がった。
 カードは光の弾と衝突し、真っ黒な爆発を起こし、消えた。

「光ぃ? 成程ぉ、吸収ってそーゆーことですかぁ」
「そだよ! じゃ次はボクの番ね! これでも……くらえ!」

 今度はカバンに手を突っ込み、さっき透に投げたものと同じ“何か”を取り出し、零目掛けて投げつける。今回も、とても速く。
 形はまるで爆弾のようですねぇ、なんてことを思いながら、零はとりあえず防御姿勢を取ろうとしていた。その時、

「零くん、危ない! 『スター・テイル』ッ!!」

 咄嗟に零の前に割って入った鈴蘭は、右手で投げたヨーヨーの紐を左手の人差し指で引っ掛け、引き上げたヨーヨーを爆弾に当てた。ヨーヨーの勢いによって爆弾は勢いよく上昇、命中した天井を爆風で吹き飛ばした。

「えー! そんなのアリ? マジかぁー……」
「正直ちょっと胸が痛むけど……わたしの本気、魅せてあげる! 『ツーハンド・インサイド・ループ』ッ!!」

 左手にもヨーヨーを取り出し、両手で潤の方に毒を飛ばす鈴蘭。
 潤も光の弾でヨーヨーを一発ずつはじき返していくが、毒液まではなんとかできなかったか、少し喰らってしまう。

(どくかぁ……ぜったいダメージ入るよね、コレ。このまま鈴蘭お姉ちゃんとたたかってても意味ないし、かみなりぞくせいの人をたおすのが一番だよね。なら!)

 潤はカバンに手を突っ込み、北校舎めがけ爆弾を投げつけた。

「……? 潤くん、あなた何して」
「音楽室だよ! ホラ、七ふしぎの話! かみなりぞくせいの人もいるはずだもんね。じゃ!」
「ちょ、じゃって君……」

 止めようとする鈴蘭を遮るように爆音が響く。さっき潤が投げた奴が、どうやら北校舎の外壁に風穴を開けたらしい。驚いて口をつぐんだ鈴蘭にむけて、突然潤は声をかけた。

「あっ、そーだ。お姉ちゃんたちには、七ふしぎののこりの話を教えてあげるよ! 校庭と体育館の二つだよ、色々あるからがんばってさがしてね!」

 それだけ言うと潤は、北校舎の方へと跳んで行った。
 鈴蘭は唖然とし、零は何か考え込んでいた。

「見た所ぉ、どうやら爆弾はぁ、カバンの中からしか取り出せないようですねぇ」
「みたいだね、零くん……しかし聞いた? 今の……の七不思議だなんて、わたし知らないよ」
「私もですよぉ。たったの3年で随分とまあ変わるもんですねぇ」

 潤が飛び出ていった穴から、景色をじっと眺める鈴蘭。

「どうしましたぁ、鈴蘭さん?」
「普通に考えて、潤くんを追うべきなんだろうけど……なんか不思議な予感がするんだ、わたし。先に七不思議の方を見ておこうよ」
「……それもそうですねぇ。じゃ私は校庭を見に行きますかぁ」
「りょーかい! とするとわたしは体育館か」

 少々疑問は抱きつつ、鈴蘭と零も南校舎4階を後にした。
 ……一方その頃透はというと、

「目ェ……チカチカする……」

 中庭の真ん中にある池――正式名称は観察池――に浮いていた。
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