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34、飛び散る火花

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「やあ、智紀。久しぶり」

 インターホンに映る人物に顔をしかめる。

「裕紀……なんでここに?」
「お姫様を連れてきたんだけど。開けてくれない?」

 お姫様抱っこされているのは眠っている敦美だ。

「敦美!!」

 ミナに連れて行かれたときから居ても立っても居られなくなったが、どこに行くにしても場所がわからなかったため、智紀は大人しく自宅で敦美の帰りを待っていた。

 通話を切られた直後から、敦美の身に何もないことを祈っていたし、どうにもできない自分に苛立った。それに裕紀と一緒にいると思えば、嫉妬で狂ってしまいそうだった。

 裕紀とは何もなかったのか。なぜ彼女は眠っているのか。なぜ裕紀が連れて帰ってきたのか。聞きたいことは山ほどある。

 裕紀を部屋に通せば、裕紀は敦美をソファに寝かせた。

「彼女、疲れて寝ちゃったから。そっとしてあげて」
「……で? なんでここがわかったわけ? それに裕紀がここに来た理由は? 敦美を送るのはミナでもよかった筈だけど? ねえ、敦美には何もしてないよね?」

 不機嫌な智紀に、裕紀は笑う。

「ここはうちの会社の所有物件だからね。入居者なんてすぐに調べればわかるよ。ていうかそもそも智紀にここのマンションの情報教えたの俺だし。さすがに敦美ちゃんの住居は知らないから、ここに連れて来たってわけ」
「……そうだったね」

 以前、会社近くの賃貸を借りようと思ったときに、いい賃貸がないか裕紀に相談したことがあった。それを覚えているとは。記憶力のいい奴め。

「俺がここに来た理由は、単刀直入に言うね。彼女、俺に譲ってくれない?」
「は? 彼女はモノじゃない」

「そんな事は知ってる。あのさ……俺に寄って来る女はさ、俺のことを調べて知った上で近寄って来る奴が多いんだ。だから、ほとんど俺の顔と金にしか興味ないし、俺自身を見てくれないわけ。だから、敦美ちゃんのことも初めは警戒したよ。でも、彼女は俺のことなんて興味ないし、智紀のことを凄く大切に思ってる。羨ましいって、誰かのことを初めてそう思った」

 裕紀は智紀を真っ直ぐに見つめた。その瞳には闘志が燃えている。

「俺は、俺自身を、彼女に真っ直ぐ見て欲しいって思ったんだ。だから、彼女じゃなきゃダメなんだ」

「別の人を探せよ」
「探しても無理。俺のいる世界にはいない」

「だめ。譲るわけないだろ。というかそもそも敦美は俺を好きなの。裕紀に興味ないのは当たり前だろう」
「ふーん……じゃあさ、勝負しようよ。俺とお前、どっちが彼女にふさわしいのか。デート対決でもして、選んでもらおうか」
「は? 何を言っているの? そんなの」

 俺に決まってるだろ。

 そう言いたかったが、口をつぐむ。

 もし、敦美が裕紀を選んだら、俺は諦めなければいけないのか? やっと手に入れたのに? そんなの取られたくないに決まってる。

 でも。

 彼を選んだ場合、裕紀は中村コーポレーションの次期社長だ。金銭面に関しても、将来何かにつけて困る事は無いだろう。頭もいいし性格はまあ、悪くはないと思う。

 敦美の幸せを一番に考えた時、俺はどういう行動を取るべきなんだろう。彼女の幸せは、一体何だ。それが、俺の自惚れであってはいけない。

 でも、俺は敦美を愛している。

「そんなの?」
「やる意味ないだろうけど、まあいいよ。……でも、敦美には絶対に手は出さないって約束して」

「……わかったよ。手は出さない。俺だって正攻法でいきたいからね」
「何でもいいけど。まあでも裕紀には、俺が敦美に愛されてるって思い知らせてあげよう」

 ムッと裕紀が口を尖らせる。

「俺にだってチャンスぐらいはあるだろ? 智紀とは違う所を見せつけてやる」
「いや、普通はこの時点でチャンスなんて無いだろ。だって敦美は俺の彼女だよ?」

「略奪愛って聞いたことないの?……まあいいけど。じゃあ、日程は敦美ちゃんに後日連絡するから」

 どうやら裕紀は引き下がる気がないらしい。

「はあ……分かった。裕紀、お前には負けないからな。せいぜい頑張りなさい。てかいつの間に連絡先交換したんだよ」
「内緒」

 智紀と裕紀の間にバチバチッと火花が飛び散る。

「俺だって負けないよ。敦美ちゃんを最高に喜ばせてみせる」

 敦美の知らないところで事件が勃発したのだった。
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