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18、生い立ち

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城之崎きのさきミナ、彼女の両親と俺の両親は仲が良くてね。ミナの家はホテルや旅館を経営している城之崎グループっていう大きな会社で、うちは世界にアパートとかマンションを持っていて、その不動産経営をしてる会社なんだ。だから、若干の業種が違ったとしても、両家が友好以上の関係になればより事業を大きくしやすいと思ったんだろう」

 食事を終えて、二人でソファーに座って話をしていた。ミナさんとの関係、そして智紀の実家の事。敦美の問いに、智紀は真剣な顔で答えていた。

「だから、両親達は俺とミナを結婚させるつもりだったんだ。まあ、俺も小さい頃からそんな事を言われ続けて、何の疑いもなく彼女と結婚するんだと思ってた」

 カラン、と氷がグラスに当たって鳴る。智紀はグラスをじっと見つめていた。

「俺は将来会社を継ぐっていう親が敷いているレールの上を歩くことが当たり前だと思っていたけれど、それは当たり前じゃないってことにある時気がついた。高校に入ったぐらいかな……? あるCMを見たんだ。捨て犬や捨て猫撲滅のCMだったんだけど、それが衝撃的で今でも忘れられなくて。その時、俺も心に訴えるようなこんな広告を作りたいって思ったんだ。だから家を継ぐ気なんてなかったし、親に決められた人と結婚する気もなかった」

 敦美はじっと智紀の話を聞く。

「それに俺はミナの事を何とも思ってないし、向こうも俺の事を何とも思ってないと思ってた。俺はそんな気持ちの無い結婚なんて嫌だったし、継ぐ気もなかったから婚約を解消してもらったんだよ」

「でもそれって……智紀さん一人で解消できるものなんですか?」
「ああ。家業を継がないってことがわかったら親はかなり怒ったけど……特に父の方が。それでも時間をかけて説得した。そんな跡継ぎ問題でミナの家にも迷惑を掛けてしまうのが、両親は嫌だったんだと思う。だから解消できたっていうのもある」

「じゃあ、会社は一体誰が継ぐんですか?」
「ああ。幸運なことに、俺には優秀な弟がいるからね。弟のほうが頭の回転が速いし、俺よりも経営者に向いてる。だから弟が会社を継ぐようになった」

「弟さんは特に何も言わなかったんですか?」
「『これが兄さんの言う適材適所ってやつ?』って文句を言いたげな顔してたけど。まあ、そんなにも会社を継ぐことに関しては嫌そうじゃなかったからよかったのかな」
「そっか……」

 お酒を飲み干した敦美は、ゆっくりと空のグラスをテーブルに置いた。もう少し飲もうか迷ったが、やめた。

「婚約を解消されて……ミナさんはどうしてたんですか?」
「それはわからない。俺とミナは別に仲がよかった訳じゃないし。モデルになってる辺り、彼女も彼女なりに何か思うことがあったんだろう。でも……」

「でも?」

 智紀もグラスをテーブルに置いた。

「婚約を解消したのは……十年以上も前の話なんだけどな……。だからどうしてミナが今更そんなこと言ってるんだろうっていう気がするんだよね」
「え!? 十年以上も前の話なんですか!?」

「うん。だって俺が高校生ぐらいのときの事だからなあ……」
「だったらどうして……」

「それがわからないから、ちょっと俺も困ってるんだよね。彼女、何考えてるかわからない所があるから」
「は、はあ……」
 
 とりあえず智紀はミナになびく事はなさそうだ。初めから分かっていたことだが、それがはっきりと分かって心底安堵した。

 でも、だったらなぜ、ミナさんは元婚約者として敦美の前に現れたのか。そして敦美を智紀の女として認めないとまで言ってきたのか。

 それはミナさんに確認しなければならない。智紀のことをずっと好きである可能性も捨てきれないのだから。やはり、ミナには智紀の女と認めてもらい、彼女に智紀のことを諦めてもらうしかない。

「とりあえずは……ミナさんに智紀さんを取られる……心配は、ないですね?」
「ないよ。有り得ない」

 ぐいっとソファに押し倒される。

「俺が敦美にぞっこんなの、知ってるだろ?」
「え……あ、はい……んっ」

 優しく口付けされる。

 智紀さん、私にぞっこん、なの?

 そう言われて嬉しくなる。

「ねえ、敦美……」
「はい?」 

 頭をゆっくり撫でられる。それが気持ちいい。智紀に頭を撫でられると幸せな気分になれるから、敦美はうっとりと智紀を見上げた。

「……可愛い」

 再び唇にキスされる。吸い上げられて、甘い音が鳴る。

「敦美……可愛いよ」

 いつも以上に可愛いを連呼している気がする。それに智紀は何度も何度も角度を変えてキスしてくる。いつもと違うとろんとした目で見つめられて、敦美はどきどきした。

 ……も、もしかして智紀さん、酔ってる!? お酒、そんなにも飲んでないよね!? もしかして、お酒に弱かったのかな!?

 頬をゆっくり撫でて、智紀はにっと口角を上げた。その笑みがどことなく扇情的で、敦美の子宮がツクリと疼いた。

「ねえ、敦美……。俺が誰かに取られるとか、そんな心配しなくていいように、これからたっぷり体に教えてあげる」
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