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一章
25、戦う理由
しおりを挟む「……ん?」
眩しい……あれは……。
「それ、盗んだものじゃないのか!?」
しかし、話に聞いていたのはゴールデンパンティだ。どう見ても形が違う。
もしかして全く違うものなのだろうか。それともゴールデンパンティを腕に巻き付けているのだろうか。
マクベスは答えを明かし、力の限り剣を振り下ろした。
「ふはははは。ご名答。しかしながら変な形をしていたから、僕好みに変えさせてもらったよ」
ジンが避けた剣先が床に当たり、床材が粉砕される。破片がジンに飛んできた。
「……っ!!」
「この魔力の強さを思い知るがいい!! 無限の式神……!!」
すると蹴散らしたと思った人形が再び生み出されたではないか。それらはジンに襲い掛かってきた。
人形たちからの雪崩のように攻め立てる猛攻を、ジンは物凄い勢いで打ち返しているが、切り倒しても蹴り倒しても、埒が明かない。
何度も何度も再生されて立ち上がってくるのだ。どうやら、あのバングルを取らないことには、何度もこの人形は復活するみたいなのだ。
面倒だ。
「くそ……」
一瞬の隙を突かれ、拳を鳩尾に受けてしまった。
「ぐっ……」
よろけた所を今だ、とマクベスが声を上げる。
「取り押さえろ!! トドメを刺す!!」
「くそ!!」
ジンは人形たちに両手両足を拘束されてしまった。それにしてもあのバングルの力は凄まじい。
マクベスがゆっくりとジンの方へ歩いてくる。
「僕は……約束していたんだ。彼女の親に。僕も貴族になって……彼女との結婚を認めてもらうと……」
す、とジンの首元に刃がピタリと当てられた。皮膚が薄く切れて、じわっと血が出てくる。
彼はジンに憎悪を向けている。それは約束されていたであろう未来をジンが壊したからだろう。
きっと彼自身、身分に苦しんでいたのだろう。そして今も、苦しみもがいている。
手の届かない物は輝き、美しく見える。
それが、人でも物でも、ましてや夢でさえも。
泥臭く、意地汚く、他人を傷つけてでも、彼は求めていたのだ。
ジンはマクベスを真っ直ぐ見つめた。
「……あんた、惨めだな」
「うるさい」
「俺も、かつては惨めだった……でも、俺はお前とは違う」
「うるさい!! 何が違うっていうんだ!!」
ドス、と剣を振り下ろした。しかし、ジンには当たっていない。床に、剣先が突き刺さっているのだ。
「戦う理由だ」
魔法騎士団に入ったときから、俺自身を受け入れられ、認められることはなかった。
死神といわれ続け、クズだ、雑魚だと罵られた。
訓練中に他の訓練生にぼこぼこにやられることもあったし、魔力がないことでずっと笑われ続けてきた。
でも、俺は悲しいと思う暇もなく、来る日も来る日も訓練に励んだ。
それでも結局は何も現状は変わらなかった。
でも、俺は魔法騎士団をクビにされて、ハカセに出会った。魔力の封印を解いてもらって、力を手に入れることができた。
そしてGHOSTに入って仲間と呼べる人たちに出会えた。
俺は初め、この世界に認めてもらうために、そして、かつて約束した彼のために、自分たちは強いと証明するために行動していた。それは今も変わらない。
でも、俺が戦うのはそれだけではない。
俺は仲間や受け入れてくれている人たちと関わる中で、彼らと彼らに関わる人たちを悲しませたくないと思うようになった。大切にしたいと思うようになった。
俺は、GHOSTに入る前、言葉でも、行動でも、悲しいと思うようなことをされ続けてきた。
だから。
「俺は誰かのために剣を握りたい。お前みたいに自分の欲のために人を傷つけるようなことはしない。だから、誰かを悲しませるやつは、どんな人間であろうと、俺は許さない!」
ぶわっと黒いオーラが人形たちを跳ね除ける。
「くそ!」
マクベスが切り伏せようとするが、ジンは咄嗟に剣で弾き返して、マクベスへ一気に踏み込んだ。
「黒い煌き!!」
一瞬の黒い輝きがマクベスを貫いた。
「うわああああああ!!」
一筋の血潮が立ち、弾けるような輝きが、この空間を痺れさせる。光が霧散すれば、どさり、とマクベスは倒れ伏した。
誰かのために剣を握る。それはこの世界に認めてもらう以前に重要な事なのだ。それに、気づいた。
ジンはマクベスの腕からバングルを抜き取り、立ち上がる。
「それが――俺の戦う理由だ」
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