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一章
23、力の差
しおりを挟む『おい、サム……やめろって』
『でも……!!』
『くそが、邪魔くせえな!!』
サムはヘンリーに力一杯振り払われてしまって、バランスを崩して背中から倒れてしまった。追い打ちをかけるように無防備なサムをイアンが足蹴にする。
『うっ……!!』
頭に血が上った俺は、
『おい!! やめろよ!!』
イアンのその足を思いっきり強く蹴り上げた。するとごきっと嫌な音を立てて、イアンは抱え込むように床に転がった。
魔力は無くても、蹴りや殴打の威力は誰よりもあるとジンは自負している。
『痛ってえ!! くそぉ……!! 痛てえよ……!!』
『このくずが……!!』
ヘンリーが殴りかかろうとすると。
『おい、これは一体何の騒ぎだ?』
団長のガンツが食堂に颯爽と現れた。誰か報告したのだろう。
ジンたちの周りには人だかりができており、ガンツはその人だかりをかき分けるように近づいてきた。
『うわ、やべっ!! おい、ずらがるぞ……!!』
イアンに手を貸して、ヘンリーたちはその場を立ち去ろうとするが。
『……おい、待て。イアン、ヘンリー、お前たち、もめ事を起こすな』
注意された瞬間、彼らの表情が変わった。
『団長、違うんです。こいつが、いきなり蹴ってきて……!! イアンが足を怪我しちまったんすよ……!』
なんと、ヘンリーがジンを犯人に仕立て上げようとしてきたのだ。
こいつ……!!
『何? 本当か?』
ジンに確認するように問うが、サムが隣から異を唱える。
『違います。ヘンリーさんがジン君の食事の中に砂を入れてて……それを僕が止めたら、僕は弾き飛ばされて。ジン君は僕を守ろうとしてくれたんです』
ガンツは両方共を見たが、どちらの言い分が正しいのかを精査することはなかった。深いため息をつき、この場にいる全員に注意喚起する。
『いいか、お前たちの任務での活躍は誉れ高きものだ。それを汚すようなことは自らするものじゃない。自分たちの行動に誇りを持て』
そしてガンツは四人を見て強い口調で言い放つ。
『いいか、お前たちは、次、騒動を起こしたら謹慎処分にするぞ』
『わかりました』
反省の色を見せた四人を確認したガンツは、野次馬を散らし、食堂から出て行った。
団長のいないところで、イアンとヘンリーはジンたちにちょっかいを出してくることが多かった。それは謹慎処分にされたくないからだ。
しかし今回、それが見つかってしまい、注意されて不機嫌になったイアンとヘンリーは、立ち去り際にジンに耳打ちした。
『悔しかったら俺たちよりも強くなってみろよ。まあ、無理だろうな~』
フンッと鼻で笑う彼らに、ジンはぐっと拳を握った。
あいつら、自分が俺たちよりも強いからってこんなことしやがって。今に見てろよ……!!
『大丈夫か?』
俺はサムに手を差し伸べる。
『大丈夫……ありがとう』
『いや、サムこそ、ありがとう。お前、意外にはっきりと言うよな』
『ちゃんと言い返さないと。ジン君が悪いわけじゃないのに』
『……そうだな、でも、俺はお前がああ言ってくれて嬉しかった。だから、それだけで十分だ。……なあ』
『何?』
『二人で、頑張ろうな』
『うん……! 英雄になろうね』
そう、誓い合った。
この現状を、いつかは変えられると信じて。
そして、彼は俺よりも一足先に任務に向った。そこで、命を落としてしまったのだ。
だから。
俺は、俺のために。
そして、夢半ばで命を落としてしまった彼のために。
前へ、進むのだ。
そして、証明する。
「俺たちは、強い……!!」
ヘンリーへ突っ込んでいくジンの速さがさらに上がる。
金切り声を上げながら叩き落された針は、もはやヘンリーを守ってはいない。
ヘンリーは恐怖に滲んだ表情を浮かべながら、剣を構えた。しかしその手は震えていた。攻撃を掻い潜られて、もうなす術が無いのだ。
「や、やめろ……!! く、くるな……!!」
「黒い煌き!!」
バチバチっと剣身が黒く輝く。その刃は火花を飛び散らせながら、ヘンリーとその後ろにいるイアンに迫った。
一瞬の黒い煌めきが二人を貫く。
「うああああ!!」
切り伏せられた二人は、力なく倒れ込んだ。斬撃の余波が広がって、窓ガラスが激しく粉砕されてゆく。周辺へ飛び散ったガラスは黒い火花とともにその場を輝かせた。
それはまるでジンの力の解放を、祝福しているかのようだった。
ゆっくりと立ち上がったジンは、振り返って二人を見下ろした。彼らはこんなはずじゃない、とでも言いたげな目でこちらを見上げている。
クズだ。死神だ。俺はそう罵られて、笑われた来た。
でもそれは、俺に魔力が無いからだった。
でも、今は違う。
剣を鞘に戻し、ジンはフッと鼻で笑ってやった。
「見たか、これが俺の本当の実力だ」
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