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一章
26、帰還
しおりを挟むジンは急いで保管庫へ向かった。
檻が破壊されて、物が散乱し、人が血まみれになって倒れている酷い状態の保管庫では、セドリックが必死になって何かを探していた。きっとハカセのパンティだろう。
「セドリック、ハカセの盗まれたものあったぞ!!」
「ほんとうか!? いや、ここにはねえなって思ってたんだよ!! あってよかったぜ。このまま帰ったらさすがにこってり絞られる……」
「そうだな……。何するか分からないもんな、あの人」
「で、どこにあったんだ?」
「ああ、あのレガーロのお頭が持ってたんだ。……でも正直この形の方がいいと思わないか?」
「確かにな……ゴールデンパンティよりもまし」
「フィオナは? それと虹蛇はどうなった?」
「ああ、フィオナは気絶しちまって、虹蛇はきちんとハカセのところに送り届けたぜ」
「気絶!? どうして?」
「ああ……蛙が苦手だったんだよ。なのに俺がそれを知らずに持たせちまったから、気を失ってしまった」
「そ、そんなに嫌だったんだな……」
「可愛かったのによ、蛙。可愛いあいつを嫌いだなんて、フィオナは変わってるよな」
「……」
蛙が可愛いと思えるセドリックも十分変わっていると思う。
でも確かにセドリックの言う通り、別の意味でフィオナはどこか普通の人とは違うような気がする。レガーロのアジトで異常なほどの無表情を見たからだろうか。
まあ、普通の人間なんてこの世界にはいないのだろう。何を普通と定義するのも人それぞれだし。その定義から外れれば簡単に異常になる。
「セドリック、早く帰ろうか」
「ああ、そうだな」
セドリックがフィオナ同様、壁を使ってゲートを開いていれば。
「不当売買で取り締まる!! 動くな!!」
いきなり魔法騎士団が保管庫に現れた。
「うわ、マジか!! セドリック、まだか?」
「もうちょっとだ……!!」
「分かった。じゃあ少し、時間を稼ぐ!!」
ジンが剣を引き抜き、斬りかかる。魔法騎士も剣を引き抜き応戦してきた。この保管庫にいる魔法騎士はこの男一人だけだ。
とりあえず気を失わせる……!!
ジンは巧みな剣さばきで相手を圧倒する。防戦一方の魔法騎士。その男の表情は苦々しい。
「くそ……!!」
焦った途端、相手に隙が生まれた。ジンは甲冑の隙間を狙って剣の柄で殴る。
「ふんっ!!」
「ぐはっ……」
強烈な一撃が入り、よろけた魔法騎士はその場に倒れ込んだ。
「おい、繋がったぞ!! 急げ!!」
「おう、ありがとう!」
ジンがゲートへ飛び込もうとしたが、セドリックがどこかを注視している。
「……ん? おい、あれって……」
セドリックの見つめる方へジンも視線を向けたが、一体何がいるというのだろうか。何もいない。
「セドリック? 早くしないと他の魔法騎士が来るぞ!?」
「え……あ、ああ……」
後ろ髪引かれるような様子のセドリックだったが、ジンは急かす。魔法騎士が来る前に、二人は無事にゲートをくぐった。
♦♦♦
「お帰り。みんなよくやったわね!」
ハカセが満面の笑みで迎えてくれたが、ジンもセドリックも襲い掛かってくるような抱擁からは逃れた。
ハカセの両手はスカッと空を掻くが、不服そうな顔を浮かべることなく自分自身を抱きしめた。そしてなぜかくねくね体をくねらせている。
キモイ。
「あなたたちお疲れ様。依頼されていた蛇の返却も終わったし、私のゴールデンパンティも無事に戻ってきたし。めでたし、めでたしね!」
ジンたちは帰ってきて早々にハカセに渡したが、しかしながら腕にはそれがついていない。
「やっぱり、バングルじゃなくて下着にしてんのかな?」
「……そうなんじゃね? 今洗濯でもしてんじゃねえの?」
「よく分かったわね。今除菌中よ。でも、使用済みパンティを盗むなんて、物好きもいるものよね? そう思わない?」
「……」
使用済みパンティって事は……。
ジンは想像しようとしたが、ぞぞぞっと鳥肌が立った。
考えないようにしよう。うん、それがいい。
「そういえば、フィオナは……?」
「ああ、レオに運んでもらったんだが……」
「フィオナちゃんならまだ自分の部屋で寝てるんじゃない? でも、彼女が気を失うなんて意外ね。一体何があったの?」
「ああ……それは」
セドリックが何か言いかけたが、鳩が乱入してきたことで会話は中断された。
「あら、どうしたの? ルルちゃん」
その鳩は以前にタナブの森で伝令として飛んできたルルちゃんだ。彼女は「ポロッポー」とハカセの肩に止まって、何か耳打ちしている。
ハカセは鳩語もわかるのだろうか。すごいな……。
「何ですって!?」
ハカセは一人驚嘆している。
「何かあったのか?」
ジンの問いに、ハカセは顔を真っ青にしてその場にいる全員に告げた。
「レミちゃんが、捕まったわ」
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