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一章
18、作戦会議
しおりを挟む「……やっぱりそうなの」
アジトに潜入し、そこであったことをハカセに話す。
「ええ。盗まれた物の場所が特定できない以上、闇市に潜入する必要があるわ」
フィオナがコーヒーを啜った。
そのコーヒーはモニカが一人ずつに出しているもので、ジンのところに置かれたコーヒーを見て、ジンはモニカを見上げる。
「はい、どうぞ。たぁんとお飲み♪」
「え、あ……あの」
「ん? ジン君、どうかしたのぉ?」
にこにこ微笑んでいるモニカに、何も言えないジンは頭を下げた。
「い、いや……ありがとうございます」
「うん♪ どう致しまして」
るんるんとモニカは受付に戻っていった。
そのモニカが入れてくれたコーヒーをもう一度見たが、これは一体どう飲めばいいんだ、とジンは頭を悩ませる。
なみなみ注がれているコーヒーは持ち上げることが困難なぐらい入っている。しかも、なぜかそのコーヒーの中から、マッチョな男が飛び出ているのだ。どうなってんだ。しかもそいつは自身の筋肉を見せびらかすようにポーズを取っている。
ちょっとこれ、本当にどうやって飲めばいいんだ。そもそも飲めるのか?
コーヒー色をしている男はコーヒーから出来ているのだろう。でも、物凄く飲みにくい……。
他の人のコーヒーを見てみたが、可愛い動物や花が浮き出ていた。
どうして俺だけ、マッチョなんだ……。
「なあ、これって……何」
羊の顔が浮かんでいるコーヒーを手に持つセドリックに問う。
「モニカさんの遊び心だろ」
「そうよ。ジン君。コーヒー上にこういう形を作ることによって、カップ以上に内容量を入れられるのよ。それに、場が和むでしょ?」と急遽呼び出しされたエルメスがコーヒーを啜っている。彼女のコーヒーからは蔦が這ってたくさんの葉が茂っていた。
普通に飲めるのか。驚いたぜ。
「頂きます……」
恐る恐るカップを手に持ち、こぼれないように一口啜れば、そのマッチョが目の前でポーズを変えた。お尻をこちらに突き出すようにして、大臀筋をきゅっと引き締める。
思わずジンは、ぶはっと噴出してしまった。
「うわ、汚ねえ!!」
「はいはい。コーヒーでテーブルを汚さないで頂戴。今大事な話をしているところでしょ」
ハカセが手を叩けば、どこからともなく雑巾がやってきて、テーブルを綺麗に拭き上げる。
「す、すいません」
くそ、このコーヒーめ!! こっちにお尻を向けるな!! 飲みにくいだろ!!
ジンが一人悪戦苦闘している横で、闇市への潜入の話がどんどん進んでいく。
「闇市に入るためには通行証が必要と言ったわよね。それはみんな持ってるかしら?」
ジンとフィオナ、セドリックが頷く。
「その通行証があれば、どの扉も闇市に入れるゲートになるわ。ただし、それは買い手の参加者の場合だけ。参加者は決められた会場にしか入れない仕組みになっているから、潜入するなら売り手として入らないと、盗まれた物の場所へは行けないでしょう」
エルメスが手をかざせば、テーブルに会場の映像が映り込む。
このテーブルはハカセが開発したもので、映したい映像が映るようになっている。エルメスは記憶の中にある闇市会場のイメージをこのテーブル上に映していた。
「売り手の入り口はこの国にいくつかあって、そこからしか入れないの。ここからだと一番近いのは隣町のインカテンカの指定マンホール」
「マンホール……」
映像にマンホールが映し出された。ただの変哲もないマンホールだが、そこが売り手の通り道なのだろう。
「ここに通行証をかざせば審査会場へ飛べる。もちろん売り手として潜入するなら、何か価値のあるものを出品しなければならないわ。それも審査があるから適当なものじゃダメ」
「エルメスさん何か売れそうな物は持ってないのか?」
ジンの問いかけに、「残念ながら今はないわ」とエルメスは首を振る。
「最近噂に聞けば、なんだかインチキ臭い物を出品しているみたいだから評判があんまり良くないのよね……。そういう時に出品しても、たとえいい物だとしても良い値がつかないし。まあ、買い手にとっては安く手の入れられるからいいんでしょうけど」
「だから売る物があったとしても今のタイミングでは出品したくないわ」とエルメスは困った顔を見せる。
「自分の都合かい!」と思わずジンは突っ込んだ。「当たり前でしょう」とさらりと答えるエルメスはさすがといったところか。
すると。
「いい案がある」
手を挙げたのはセドリックだった。
何か出品できるものがあるのだろうか。いや、でも彼がそんな高価なものを持っているとは考えにくい。
「セドリック、お前、何を出品するつもりだよ?」
「大丈夫だ。心配するな。出品しても回収すればいいだけの話だろ」
「いや、まあ、そうだけど」
「じゃあ、それはセドリック君に任せるとして。潜入決行は審査が終わるぎりぎりのタイミング。つまり、闇市が開始される三十分前よ」
「どうしてその時間に行くんだ? もっと余裕をもって行けばいいんじゃないのか?」
「ジン君。いい質問ね。早ければいいってもんじゃないのよ。早すぎると帰らされるし、ちょうどその時間が審査官の人数が減り、警備も会場側へ移動するから逆に侵入しやすくなるのよ。多少事を荒立てたって気付かれないわ」
「なるほどな。じゃあ、決行は明後日の午前十一時半だな」
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