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一章
12、モフモフの威力
しおりを挟む「我呼びし、友。我の声に応えよ」
セドリックが召喚し始める。魔法陣が宙に現れて、不気味に光りだす。そこからバチバチバチと火花が飛び散れば。
「……いでよ、レオ!!」
名を呼ばれて、ぬっと魔法陣から現れたのは、美しい白銀の狼――フェンリルだった。爪は引っかかれたらひとたまりも無いだろうという程鋭い。
しかし、ところどころ青く変色している毛並みは物凄く柔らかそうで、顔を埋めてみたいと思ってしまう。
そんな欲望に逆らえないジンはついつい手を伸ばす。すると「触んじゃねえ!!」とセドリックに叩かれてしまった。
「痛った!? な、何するんだよ……!」
「何するんだよ、はこっちのセリフだ。汚ねえ男を触った手で、俺のレオの毛を触るんじゃねえ!! 汚れが付くだろうが!!」
「うっわ、ひっど……!! 潔癖症かよ……!!」
くそ、触ってみたい。
そう思っていれば、ちゃっかりフィオナは手を洗ってきていた。そしてハンカチで手を綺麗に拭いた上でレオを触っている。やられた。
撫でられているレオも嬉しいのか、尻尾をぶんぶん左右に振っているではないか。しかも今さっきまでは無表情だったのに、レオを撫でているフィオナのその表情は柔らかい。モフモフの威力は半端ないようだ。
「フィオナもあんまり触んじゃねえぞ」
「わかった」
フィオナが撫で終わったところで、ジンも手を洗ってきた。今か今かと待っていれば、セドリックがイヤリングの匂いを嗅がせた。
「よし、レオ。この匂いを辿れ」
するとしばらくクンクン匂いを嗅いだかと思えば、耳をピンッと立ててレオは事務所を出て行ってしまった。
「おい、行くぞ!!」
「わかった」
レオに続く形でセドリックとフィオナが駆けていく。
「え、俺、まだ撫でてないんだけど!?」
嘘だろ、おい!!
置いて行かれた俺は急いで彼らの後を追いかけた。
♦♦♦
GHOSTの事務所の場所は、石造りの家が立ち並ぶ一角にある。地下にある事務所から階段を上りきれば、その町――ラティスへと出ることができる。ラティスは人の往来が少ない、閑静な町だ。そのためGHOSTにとっては都合がいい。
そんなラティスにある家々のベランダや玄関には植木や花が飾られており、情緒豊かに町を彩っている。そんな風景は町行く人々の心を癒しているのだ。
ラティスの町を外れ、レオは猛スピードで隣町の商人の町として知られるインカテンカへとやってきた。
カラフルなテントが道の両端を占領しており、荷台に積まれた果物や野菜がたくさん売られている。他にも武器屋や防具屋など、さまざまな店が軒を連ねていた。店主たちが「うちの店を見ていって~」と高らかに声を上げている。
ごった返す人を掻き分け、レオは真っ直ぐ町の奥へと進む。商店街を抜けて、住宅街へ入ってゆく。するとピタリと足を止めた。
「ここだな……!!」
じっとレオが見つめる先には、階段状のような土壁の家が佇んでいた。その入り口付近には、蜘蛛のような紋章の旗が風にゆらめいていた。間違いない。
「レオ、よくやったぞ」
セドリックが頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振る。いいな、俺も触りたい。そんな事を思いながら、一行がその建物に入ろうとすると。
なんと銃弾がレオに向かって飛んできたではないか。
「レオ!!」
すかさずジンは剣を引き抜き、カアアン、と弾を弓を弾いたが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。
「蜘蛛の罠」
何十、何百という銃声が鳴り響く。その弾は三人と一匹を狙い撃とうと迫ってくる。広範囲の攻撃は逃げる場所がない。
ジンは息を吐き、集中力を高めた。黒いオーラがジンを包む。後コンマ数秒で銃弾が自分たちに到達しそうな時、ジンが動いた。
超高速で頭上の銃弾を弾き叩く。リズミカルなその音は音楽でも奏でているのではないかというほどで、彼の動きはまるで流星のようだった。
スタッと地面に舞い降りたジンは、ゆっくりと立ち上がる。自分たちに降りかかる銃弾を見事に弾き、ジン達のいる場所には銃弾が落ちなかった。
「へえ、なかなかやるな。……でも、甘ぇな」
何処からともなく声がすると思えば、矢から糸のようなものが放射状に噴射され、ジン達を絡め取った。その糸は粘着質で動けば動くほど体に張り付いて来る。
男のハンターがレオの前に姿を見せて、そっとその毛並みに触れた。
「いい毛並みだな。これなら高く売れそうだぜ」
ハンターはニッと笑みを浮かべて短剣を抜き取ったと思えば、レオにそれを振り下ろした。
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