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一章
22、力の差
しおりを挟む下から切り上げようと迫ってくるヘンリーの剣身は、ジンの前身を引き裂かんと煌く。ジンは迎え撃つようにその剣を叩き弾き、隙の出来たわき腹へ蹴りを入れた。
蹴ったところがぐうっと思いっきりへこめば、足からの衝撃をヘンリーの体が吸収できなくて、勢いそのままで体は宙を舞った。
すると隙を突くように刺突を繰りしてきたイアン。ジンは剣先を弾くが、喉を掻っ切ろうと追撃が打ち込まれる。その攻撃を避けるように頭を後ろへ下げ、その勢いでバク転しながらイアンの手を蹴り上げた。
「ぐあっ」
見事に剣が弾き飛んだイアンは丸腰になったが、体勢を低くして短く唸る。
「目覚める獣」
突如、目の前から消えたイアン。背後に気配を感じてジンは咄嗟に振り向きながら剣で攻撃を防ぐ。目の前には獣の皮をまとったイアンが強靭な爪でジンを狙っていた。
ぐぐぐ、と物凄い力で押されているが、剣と爪の力比べは拮抗しているように見えた。
「ハッ。俺の攻撃を避けれるかな?」
イアンが剣を弾いて、少し距離を取ったかと思えば、超高速でジンに襲い掛かる。彼の姿は目では捉えられないほど、俊敏だ。頭へ首へ胴へ足へ。縦横無尽にジンの体全身をイアンの爪がズタズタに切り裂いてゆく――が。
「な、何……!?」
切れていると思ったものは布だった。目の前に立つジンは無傷。
「どういうことだ……?」
それは一瞬の攻防だったが、その中でもイアンは無数の攻撃を打ち込んだはずなのだ。なのに、平然とした顔で立っているとは。
どうやらジンは全ての攻撃を見切って避け、避けきれない攻撃は剣で弾いていたのだ。魔力を使いすぎて息が上がっているイアンは、成す術なく棒立ちになっている。
「その攻撃で終わりか?」
ギッとイアンを睨めば、黒いオーラがジンの体を覆う。
「ひいっ」
ジンの剣がイアンの胴を貫こうとした直後。
「そうはさせねえ!!」
キイイン、と剣のぶつかる音がジンの耳を劈いた。ヘンリーが間に割って入ったのだ。
「黒いオーラとは、マジで死神じゃねえかよ、ジン。どうしてそんなにも魔力があるのかは知らねえが、お前はここで死ぬんだ!! 俺の手によってな! 死針の監獄!!」
突然、ジンの両足が串刺され、四方八方から腕ほどの太さの針がジンを狙う。それは目にも留まらぬ速さ。身動きの取れないジンは針の餌食だ。
「死ね!!」
ジンは力の限りヘンリーを押し退け、足の針を引き抜き取ってヘンリーへ投げる。ヘンリーはその針は避けるが、他の針はジンを一直線に狙い打つ。ジンは避ける暇もない。
グシャ、と針がジンを捕らえて貫通した。と思いきや。
「いない、だと!?」
針の中心はもぬけの殻だ。いつの間にか針地獄の背後へ移動していたのだ。なんというスピードか。
しかし、負けじとヘンリーは手をかざして針を頭上から落とす。猛スピードでジンを狙い落ちる針は雨の如く。
しかしジンは針を避けながらヘンリーへと迫る。その体が残像でしか確認できない。
「くそ! させねえ!!」
身の危機を感じたヘンリーは、手を下から振り上げて、針を自身の体の前に生み出した。そしてそれは真正面からジンを串刺そうと発射される。
あっという間に肉薄する針はジンの行く手を阻もうとするが、ジンはそれを猛スピードで叩き落としながら前進してゆく。まるで後退などしない弾丸のようだ。
俺は前へ進む。
あんたらを、叩き潰してでも。
そして、彼のためにも。
――あれは、入団してから間もない頃だった。
『こいつ、入団試験成績最下位だってよ』
『しょべえな! あははは! 黒髪だからだろ? だって魔力ねえもんな~』
他の新人達は先に任務へ行っていたが、俺が初めて任務に行くまでは暫く期間があった。それは俺に出来る簡単な任務が無かったからだ。
来る日も来る日も訓練を積み重ねた。
ある日。
『ねえ、僕も一緒に訓練してもいいかな?』
『お前……誰だっけ?』
『僕は……サム』
もじもじしている彼は見たことなかった。他の団員に興味がないっていうのもあったし、黒髪のジンと仲良くしようと思う人も、この魔法騎士団にはいなかったからだ。
ちらりと盗み見れば、彼の髪の毛は黒かった。恐らく彼もジンと同じように黒髪差別を受けている新人なのだろう。
『いいけど』
『よかった……! ねえ、ずっと君に聞きたいことがあったんだ。どうして、いつもそんなにも堂々としていられるの?』
『俺はジンだ。……そんなの決まってるだろ。いつか、俺は英雄になるからだ。そして周りの人間をあっと言わせてやるのさ』
そう言ってジンは剣を空へ突き上げる。太陽の光に剣先が輝いて、俺を未来へ導いてくれる、そんな気がしたのだ。
『そっか……。そうだね。僕もなれるかな?』
『なれるだろ。夢は叶えるためにあるんだぜ? だから、サム、お前も一緒に頑張ろうぜ』
『うん……! よろしくね』
『ああ、よろしく』
そして二人で一緒にいる事が増えた。
任務を与えられるまで、一緒に訓練して、訓練して、訓練した。サムは仲間、というよりも同志といった方がしっくりときた。
『はあ、疲れた。サム、昼ご飯にしようぜ』
『うん、そうだね』
食堂に入れば他の騎士達がいた。ジンとサムを見るや否や、ひそひそと話しだす。
『今回は新人の中に死神は二人か……』
『早く脱退したらいいのにな』
『隊はまだどこに入るか決まってないらしいな』
『うちじゃないといいけど』
ジンとサムは無視して席に付く。するとヘンリーとイアンが二人の席に近づいて来た。
彼らは先輩で、そこそこに魔法騎士団の中では成績を収めていた。だからか横柄な態度をよく取っているのだ。
『クズが一緒に行動してるな。人数が増えてもクズはクズなのにな』
『俺らから君たち死神たちに、餞別を送ってやるよ』
そう言いながらヘンリーがジンの食器の中に砂を入れ始める。俺はぐっと堪えた。
もめ事を起こす騎士は謹慎処分にされ、任務には当分つけなくなる。
だから、任務に早く出たい俺は、ぐっと拳を握って耐えていた。
しかし。
『やめて下さい!!』
彼の手を阻止するように掴んだのは、いつもは臆病なサムだったのだ。
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