4 / 33
一章
3、GHOST
しおりを挟む「他に必要な薬は?」
「いや、もう充分よ。ありがとう。エルメスちゃん」
「いいのよ」
「う……ううん……」
目を開けたら先ほども見た白衣の男と、もう一人、片目を隠している艶やかな紫色の髪の毛の女性が立っていた。波打つ髪の毛は胸のあたりまで伸びているが、ジンの視線は鱗のような光沢で所々輝く腕や首にいく。この女性は竜人族なのだろうか?
「目が覚めた?」
白衣の男が覗き込んできた。ドギツイ化粧は目に毒だ。
「……離れろ」
手で押し退ければ、白衣の男は素直に下がった。
「はいはい。でも、よかったわ。これで安心ね。……もう、君が怪我なんてするから!」
「あんたが怪我させたんだろ」
ジンが白衣の男を睨むように見遣る。
「あ、私の事はハカセって呼んで♥」
「は、はあ?」
「それに隣にいる彼女は薬屋のエルメスちゃんよ。これからお世話になるから。覚えておきましょ」
「初めまして。よろしくね」
エルメスはニコッと笑顔を作る。その笑みは多くの男性を虜にしてしまいそうな程の極上の笑みだった。
よくよく見れば、エルメスは体のラインがはっきりとわかる服を着ていた。豊満な胸にくびれた腰、そこからのお尻の曲線美は誰もが唸る。それにスリットからチラッと見える足も実にセクシーだ。
別段興味のないジンでさえ目を奪われてしまう程、彼女の体のラインもバランスも見事だったのだ。
「は、はあ……どうも。というかここはどこ。それに、このイレズミは何」
「え? ハカセ、何も教えてないの?」とエルメスが困ったようにハカセに問う。
「やだ♥ これから教えるつもりだったのよ。だって私のコト、いきなり襲おうとしてくるから♥」
くねくね体をくねらせるハカセに、「……キモい」とジンは突っ込む。
「キモいなんて失礼しちゃうわ! もうっ」
「……早く説明してくれって」
何なんだ、この人は。
「まあ、そうね……。ふざけ過ぎたわ。じゃあ、事の成り行きを説明しましょうか。あ、その前に。ぶっ倒れていたあなたを運んだ子がいるんだけど、その子はまた紹介するわ」
「……はあ」
「で、ちょっとその子にお仕事でタナブの森に行ってもらってたのよ。そしたら気絶していたあなたを見つけて、ここまで運んでくれたってわけ」
「なあ、その場にはケルベロスはいなかったか!?」
「え? それは聞いていないし、知らないわ。あなたが倒れていたとだけしか聞いていないのよ。だから気になるならその事は直接その子に聞いて。私は運ばれて来たあなたの状態を診て、そしてちょいちょいっと体を改造させてもらっただけなの♥ ンフッ♥」
「は? 改造?」
だからこんな変なイレズミが入っているのか?
「お、俺の体に一体何をしたんだよ!!」
鬼気迫るジンの表情を見たハカセは、「うそだぴょーん!」とウサギの真似をして変な顔をこちらに向けた。
「……な、何がうそだぴょーんだ!! 真面目に答えろ!!」
「えー……わかりやすいブラックジョークじゃない。そんなにも怒らなくてもいいじゃない。そう思うわない? エルメスちゃん」
「いや、私には茶化す意味がわからないわ。もっと現実を突きつけて心をボッキリと折るべきだと思うのだけど」と笑うエルメスの笑顔が極悪だ。
「やだ、エルメスちゃん怖い」
こいつら、やばい気しかしない……。
警戒するジンに、真面目腐ったような顔をしてハカセが向き合った。
「本当の事を言うと、あなたは魔力が封印されていたのよ」
「は? 封印?」
初耳だ。
「ええ。それもかなり厳重に。誰が何の目的でそうしたのかはちょっとわからなかったけれど、魔力がないとこの世界で生きていくことが難しいと思ったから、勝手に封印を解かせてもらったわ。そしたらあなたの体にそのイレズミが浮き出てきたってわけ。あなた、どうやら相当強力な魔力があるみたいね」
「……」
ジンは自分の両手を見つめる。手のひらには黒い円のような模様が入っていた。体の奥底から、今まで感じたことのない力の存在を感じる。
もしかして、これが……俺の魔力。
ぐっと拳を握る。
「力の使い方はそのうちわかるようになるわ。で、ここからが本題なの」
「え?」
「私たちは慈善事業をしてるの。まあ簡単に言うと困っている人を助ける何でも屋的な? 戦力のある人がいないから、あなたに私たちの組織に是非入って欲しいと思って、あなたの魔力の封印を解いたの。どう?」
「どうって……」
ジンは視線を落とした。
魔法騎士団をクビになって、行き場を失っている俺に、手を差し伸べてくれるのは、信用できないような男。でも、俺の魔力の封印を解いてくれて(正直本当かどうかは怪しいし、別に頼んでない)、俺を必要だと言ってくれている。
夢は父さんのような魔法騎士だった。でも、今の俺は――。
期待と不安を込めた瞳でこちらを見つめるハカセに、まっすぐに見つめ返した。
「俺は、俺を捨てたこの世界に俺を認めさせたい。でも、ただ単にこの目覚めた力で復讐するだけじゃ面白くない。あいつらが捨てた人間が価値のある男だったんだって、わからせてやりたいんだ!!」
「なるほどね。そのためには、功績が必要、よね?」
頷く俺に、ハカセがニッと笑う。
「なら、決まりね」
するとパチンとハカセが手を叩くと、契約書が目の前に現れた。
「じゃあ、そこにサインを」と指示されて、俺は何の疑いもなく自分の名前を書き込む。すると契約書が燃え、ジンの人差し指にリングとなって収まる。そのリングは黒とシルバーの二色だ。
「その指輪は目印よ。人によって形が違うのだけれど、そのうち見た瞬間、直感で仲間だとわかるようになるわ」
ハカセが手を差し出す。はまっている指輪は細くて波打っていた。確かに形が違うようだ。ジンも手を差し伸べて握手した。すると言葉には言い表せないような安堵感が胸に広がる。
これが、仲間の印。
「ようこそ、犯罪者集団――GHOSTへ」
にこっと笑うハカセの言葉に、ジンは眉根を寄せた。
「え? 犯罪者集団??」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。


迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

「異端者だ」と追放された三十路男、実は転生最強【魔術師】!〜魔術の廃れた千年後を、美少女教え子とともにやり直す〜
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
アデル・オルラド、30歳。
彼は、22歳の頃に、前世の記憶を取り戻した。
約1000年前、アデルは『魔術学』の権威ある教授だったのだ。
現代において『魔術』は完全に廃れていた。
『魔術』とは、魔術式や魔術サークルなどを駆使して発動する魔法の一種だ。
血筋が大きく影響する『属性魔法』とは違い、その構造式や紋様を正確に理解していれば、所持魔力がなくとも使うことができる。
そのため1000年前においては、日常生活から戦闘、ものづくりまで広く使われていたのだが……
どういうわけか現代では、学問として指導されることもなくなり、『劣化魔法』『雑用魔法』扱い。
『属性魔法』のみが隆盛を迎えていた。
そんななか、記憶を取り戻したアデルは1000年前の『喪失魔術』を活かして、一度は王立第一魔法学校の教授にまで上り詰める。
しかし、『魔術学』の隆盛を恐れた他の教授の陰謀により、地位を追われ、王都をも追放されてしまったのだ。
「今後、魔術を使えば、お前の知人にも危害が及ぶ」
と脅されて、魔術の使用も禁じられたアデル。
所持魔力は0。
属性魔法をいっさい使えない彼に、なかなか働き口は見つからず、田舎の学校でブラック労働に従事していたが……
低級ダンジョンに突如として現れた高ランクの魔物・ヒュドラを倒すため、久方ぶりに魔術を使ったところ、人生の歯車が再び動き出した。
かつて研究室生として指導をしていた生徒、リーナ・リナルディが、彼のもとを訪れたのだ。
「ずっと探しておりました、先生」
追放から五年。
成長した彼女は、王立魔法学校の理事にまでなっていた。
そして、彼女は言う。
「先生を連れ戻しに来ました。あなたには再度、王立第一魔法学校の講師になっていただきたいのです」
、と。
こうしてアデルは今度こそ『魔術学』を再興するために、再び魔法学校へと舞い戻る。
次々と成果を上げて成りあがるアデル。
前回彼を追放した『属性魔法』の教授陣は、再びアデルを貶めんと画策するが……
むしろ『魔術学』の有用性と、アデルの実力を世に知らしめることとなるのであった。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる