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一章
28、救出大作戦
しおりを挟む全ての者の進入を拒むかのような巨大な塀。
天へと突き抜ける建物、存在自体が威厳を放つロレアル城は目の前に聳え立っていた。
ジンとセドリックは塀の上に立ち、巡回している魔法騎士を見下ろす。
「いいか、ジン。作戦通りにな」
「おう。目的はレミの奪還。邪魔する奴らは俺が叩く!」
「……あんまり戦闘するなよ? ちゃんとこそこそ移動しろ。団長レベルの魔法騎士が一気に現れたらマズイからな。まぁ、陽動はまかせておけ」
「任せた! うまくやれよ」
「もちろん」
魔法騎士たちがちょうど視界から消えた時。
「よしチャンスだ……我呼びし、友。我の声に応えよ」
セドリックが獣を召喚し始める。魔法陣が宙に現れて、不気味に光りだす。そこからバチバチバチと火花が飛び散れば。
「……いでよ、ガリレオ!!」
名を呼ばれて、ぬっと魔法陣から現れたのは、獅子のような屈強な体に、鷲のような頭で鋭い眼をもつ獣――グリフォンだった。戦の狼煙を上げるように、甲高い声で高らかに鳴いた。
「一暴れしてもらうぞ?」
そっと撫でれば、嬉しそうにガリレオが翼を広げる。
「もう一体……いでよ、レオ!!」
もう一体、魔法陣から現れたのは、美しい白銀の狼――フェンリルだ。
「レオ、レミを頼んだぞ」
セドリックがレオの頭を優しく撫でれば、「ワフッ」と頷いている。可愛い。するとジンの横にやってきて、ちょこんとお座りをした。
「じゃあ、レオ、よろしくな」
ジンはレオの頭を撫でてやる。
以前から撫でたかったレオの頭。想像以上に毛質は柔らかくて、気持ちいい。この毛に埋もれたら最高に気持ちいいだろうな、と思いつつジンは執拗に撫で続ける。
「いいか、必要以上に戦闘はするな。レオが攻撃対象になるからな、怪我させるなよ。それと、あんまりモフモフすんな。お前の手の脂が付く」
「……はいはい」
すると、獣が現れたことに気がついたのか、魔法騎士が集まってきた。
「おい!! 魔物だ!! グリフォンだ!!」
「上へ報告しろ!!」
「魔物じゃねえけどな」と鼻で笑うセドリックはガリレオの背に乗る。
「よし、行くぞ!!」
「おう、作戦開始だ!」
ガリレオが飛び立った。
攻撃魔法を避けながら、魔法騎士へ業火を吹き出す。魔法騎士にはぎりぎりで当たらないような炎は、魔法騎士たちの警戒心を強め注意を引く。
ジンはそれを確認した後に、塀の上を駆けた。魔法騎士たちの進む方向とは逆だ。もちろん高い塀の上を男が走っているとは思わない。みなグリフォンに目線は釘付けなのだ。
ひとしきり魔法騎士たちが移動していった後、ジンは誰もいない庭へ塀から飛び降る。暗いため都合がいい。ジンは裏口を探し出し、扉を蹴破って中へ入った。
厨房になっているその場所には誰もいなかった。ジンはレオに誘導されるように、城内を駆けていく。
セドリックに言われた通り、こそこそと移動するなんて出来ない。もはや堂々と移動したいのだ。レオもそれを察しているのか、大胆に城内を猛スピードで駆け抜ける。それにこっちの方が断然早く目的地に着けるだろう。
しかしながら城内にも魔法騎士が警備のためにいるわけで、そんな移動していれば簡単に見つかる訳だ。
「おい!! 侵入者だ!!」
「捕まえろ!!」
わらわらと魔法騎士が目の前を立ち塞がる。
一人一人の相手をしている暇はない。セドリックがどれぐらい時間を稼いでくれるのか分からないため、早々にレミを救出しこの城から出なければ。
「退いてもらう!!」
ジンは素早く剣を引き抜き、隙だらけの胴体へ流れるように一撃を打ち込んだ。
「黒い煌き!!」
「ぐあああっ!?」
煌めく黒い一閃が魔法騎士を襲った。それと同時に衝撃で窓ガラスが粉々に砕け散る。
「うわ、派手にやっちゃったな……」
セドリックに怒られるかも、そんなことを考えながら、ジンは横たわっている魔法騎士を見下ろした。
それにしても魔法騎士の手応えがなさ過ぎる。以前、ヘンリーが言っていたように、魔法騎士達全体の強さが下がっているのかもしれない。
すると。
「ワフワフッ!!」
立ち止まるな、早く行くぞ、とレオが急かす。
「おう、すまん。急ごう」
呆気なく倒れた魔法騎士の横を通り過ぎて、ジンはそのままレオの後を追った。
♦♦♦
豪華絢爛な調度品に囲まれた執務室。執務机に向かっているのはがっしりとした肉体の男――ハドランテス王だ。
山積みになっている書類に目を通している時に、ドアのノック音が響いた。
「夜分遅くに失礼します、国王」
「なんだ、今忙しい。手短に話せ」
「は! 敷地内に魔物の出現を認めました。それと侵入者と見られる男を発見。今、魔法騎士で対応しております!」
ハドランテスの持っている羽根ペンがボキッと折れた。恐ろしい形相に、報告に来た魔法騎士が震え上がる。
「ガンツをその場に向かわせろ! 魔物は駆除、侵入者はこの城から逃がすな、殺しても構わん!! 容赦するな!!」
「は!!」
魔法騎士は慌ててガンツの元へ向かった。その背をハドランテスは一瞥する。
最近は魔物が増え、魔法騎士の人手が足りないのに。しかも強い魔法騎士の数が圧倒的に少ないのが痛い。
「……ジェイク、なぜお前は死んだんだ」
ハドランテスは、はあ、と深い深いため息をついた。
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