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地下都市編
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しおりを挟む包帯を引きちぎり、サラは正面からスカルを見た。
「あんたは、ここの守護精なのか……?」
「知ラ、ナイ」
ぽろぽろと、黒い涙が溢れだす。
「ミンナ、ミンナ、一緒……」
サラは直感した。
今視たのは恐らく彼女の記憶だろう。光の愛娘が影響しやすいということは、干渉しやすいということなのだろうか。
そしてこの聖域に入る前に出くわした亡霊は、恐らく守護精と共にいた最後の少女だったのではないか。
守護精を救ってほしい、この都市を救ってほしい、その願いがこの都市にとどまっていたのかもしれない。
それが、もしかしたら、幻覚として、私たちに見せていたものなのかもしれない。
過去の美しかったこの世界を、知って欲しかったのかもしれない。
そして、その想いをサラたちに伝えようとしていたのかもしれない。
サラは握る剣に力を込める。
守るのはなにも人だけではない。
想い、も。
精霊、も。
「一緒に浄化しよう」
「一緒、浄化……」
スカルの涙は溢れて止まらない。
「あんたは一人でよく頑張った」
あの闇の中、守れるものは自分一人だと、そう自分に言い聞かせ、どんなに苦しくても辛くても、人々を守ろうとした。
誰も助けに来ない中、ずっと、待っていたのだ。
ずっと、耐えていたのだ。
この都市に光が宿る、その時まで。
大丈夫だ。
今、救うよ。
「助けに来るのが遅くなって、すまないな」
「アリガ……トウ」
光と、希望を。
今、この世界を、照らせ。
サラの握っている剣が光りだす。
体も同時に光り始めて熱くなる。
まるで光脈が暴れだしているかのように体の芯から熱い。
エネルギーの高ぶりが最高潮に達した時、カッと目を開いた。
「闇に染まりし者たちに光の祝福を――!!」
まばゆい光が二人を覆い、この空間を覆い、神殿から都市全体を覆う。
ざあああああ、と光と共に、黒いもやが一掃されてゆく。体を蝕んでいた重たい空気も。
「あ……」
サラは気づいた。
剣を掴んでいたスカルの手はいつの間にか、サラの剣を握る手に添えられている。
その手は傷だらけの細い手。
どれだけ苦労していたのかが目に見えてわかる。
サラは両手で握っていた手を片方だけ離して、その手の上に添えた。
力がそそがれているのが感じられた。
この都市を、守護精を、一人で浄化しているのではない。二人で、しているのだ。
サラに流れ込んでくる力がどんどん増してゆく。そして放っている光の力が増大してゆく。
やがて、目の前に現れたのは禍々しい存在のスカルではなく、芯の強そうな美しい守護精。
「あなた……光の愛娘なのね」
「ああ、そうだ。……やっぱり、あんたは守護精だったんだな」
「そう。絶望から、私を救ってくれてありがとう。一緒にこの都市を浄化してくれて、ありがとう」
「まだ、完全には浄化できていない」
「ええ。でも、もう大丈夫。外には祈祷師さんたちも一緒に浄化してくれているから」
守護精が言うように、確かに神殿の外で祈祷師たちが一緒に浄化をしてくれている。
その光の力の流れを感じる事が出来る。
「本当にありがとう。もう一度、美しい都市に――」
守護精が、そうほほ笑んだ直後、守護精の胸を背後から黒い手が貫いた。
「あがっ……」
「な……!」
途端に黒い手から凄まじいほどの闇エネルギーが放たれ、それは黒い煙となってニ人を覆った。
たった今浄化したはずのこの空間が闇に埋め尽くされる。
美しく儚い神殿が消えゆき、それと同時に守護精の顔が歪んでゆく。
「あ……ああ……あああ……ああああああああああ!」
「やめろおおおおおお!」
サラも負けじと浄化しようとするが、闇の力はそれ以上だった。
「死ね」
竜巻のような強烈な闇エネルギーが守護精とサラを襲い、二人を引き裂いた。
「守護精!!」
「お願い……この世界を、守って」
目の前にいた守護精が苦しみの表情を浮かべ、煙に呑み込まれるように消えてしまった。
抵抗していた力がなくなった途端、突風が吹き荒れ、気を失っていたウィルソンたちや他の騎士たちはこの場から弾き飛ばされてしまった。
サラは咄嗟に剣を床に突き刺し、吹き飛ばされないように踏み止まる。
「く……」
ザ、ザ……。
サラは近づいてくる足音の方へ目を向けた。
この禍々しい気配。
間違いない、奴だ。
そう、黒いもやから姿を見せたのは、闇に溶けてしまいそうな程黒い色調の服装に包まれたノヴァだった。
「世界は繋がった……」
ノヴァは恍惚とした笑みを称え、独言る。
「貴様ああああ……!」
守護精も、この都市も、光に包まれるはずだったのに。
希望を取り戻すはずだったのに。闇に再び堕ちてしまった。
なぜ、このタイミングで……!
サラは剣を振りかざすが。
「時はきた。……だが、お前を殺すのは、ここではない」
「どういう意味だっ!」
ふい、と手を払うような仕草をすれば、強烈な闇エネルギーがサラにぶつかる。
「な……!」
「待っているぞ、闇の深淵で」
抗うことの出来ない力で、遠くへ、遠くへ、サラは弾き飛ばされてしまった。
✯✯✯
弾き飛ばされた騎士や撤退し遅れた祈祷師たちが、地下都市へ続くトンネルの前の地面で倒れていた。
サラはゆっくりと起き上がる。
「いたたた……」
ふと前を見れば、トンネルの向こう側に黒く渦巻く世界が見える。
今いる場所とは違う、そんな世界に見えた。あそこが、異界なのかもしれない。
「トンネルを封鎖したのにどうして壊れたんだ! おい! あんたら離れろ!」
「もう一度封鎖する!」
近くで倒れている騎士たちに大きな声をかけた西都市の騎士が、特殊技で再びトンネルを潰し始めると、どんどん道が消えてゆく。
『待っているぞ、闇の深淵で』
サラは駆けだしていた。
今、行かなければ。
二度と姉さんを救えないような気がする。
誰かが止めようと叫ぶ声を背に、崩れゆく瓦礫を避けてサラは黒い穴へ飛び込んだ。
この道だけが、繋がっているのだ。
姉さんの待つ――いや、ノヴァの待つ、異界へ。
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