騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

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守護精編

48(カーティス視点)

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 友達は確かに欲しかった。

 でも、あの人たちとは友達にはなれないと思ったのだ。

 そう思っていても、彼らは後日やってきた。

「あれ? どこか行っているのか?」とジャイルズ。

「良く見ろって。ベッドに横になってるじゃないか。よう。状態はよくなってるみたいだな」とグリゼルダ。

 傷口が治ってきていると医者に言われ、もう少しで包帯が取れるところまで回復した。

「……いつもありがとう」

 仲良くなりたくは無いが、無下に出来ないカーティスは礼を言う。

「でも本当に凄いな」

「何が……?」

「どうやって気配消してんの?」

 ジャイルズの一言に、カーティスは以前自分が傷ついた理由がはっきりとわかった。

 ぼ、と火が点く様に怒りが湧き上がる。と同時に悲しさも増して、混ざり合った感情が爆発した。

「……ない」

「はい?」

「僕は気配なんて消してない!! そんなこと言われたら、僕は存在感がないって言われているみたいで悲しいんだ!! 凄い、みたいに言わないでくれ!! だから友達もできないし……。もう帰ってくれ!! もう僕のところに来ないでくれ!!」

 突然大声を出され、二人ともぽかんとしている。

 しばらくしてカーティスが、早く帰ってくれ、と力なく呟くと彼らはやっと動き出した。

 帰るのかと思いきや、グリゼルダが近寄ってきてカーティスの肩を思いっきり掴んだのだ。

「何言ってんだ!! 前髪!!」

「はひ!?」

 え!? 何で僕のほうが怒鳴られてるの!?

「あんたがそのことをコンプレックスに思っていることは薄々感じてたさ。あんたの雰囲気がそう物語ってる。でもな、それ以上に気配を消せるってことは、あんたの凄いところなんだよ。コンプレックスなんかにするな!! それがあんたの強みだろ!? 個性だろ!? なんで気づかないんだ!! アホなのか!?」

「……!!」

「それって貶してんの? それとも褒めてんの?」とジャイルズがぼそりと呟いたのを聞いたグリゼルダが「褒めてんだよ」と睨み返した。

「……僕のコンプレックスが、強み? 個性? え……?」

 ガツン、と頭を殴られたかのようだった。

 そんな風に思ったことは無かったし、そもそもそれを強みだとは思えなかった。

 僕には負の要素にしか思えなかったからだ。

「あんたに声をかけようと思っても、いつ探してもあんたいないんだよ。感覚の優れている私でさえ探せない。それって凄いことだろ?」

「それって凄いのかどうなのか……ちょっと僕にはわからない」

「凄いんだよ!! それはあんたの武器になる!! そこをもっと磨けば、あんたは凄い騎士になる!!」

 凄んで言われた言葉に、恐らく嘘はないだろう。

 凍っていた氷が、ゆっくりと溶けるように心がじーんと暖かくなった。

「……ありがとう」

 はっとしたグリゼルダがゆっくりと手を離す。

「すまない。またやってしまった……」と反省しているグリゼルダに、ジャイルズが「考えなしにすぐに行動するからだろ」と傷口に塩を塗るように指摘する。

「あ?」と眉間に皺を寄せたグリゼルダの顔が怖かった。

 ジャイルズを視線で殺せそうだ。

 仲の良さげな彼らを見て、僕はうらやましいと思った。すると、不意に言葉があふれ出す。

「ねえ、ちょっと聞いて欲しいんだ……」

 自分から何も言わないカーティスがそう言ったことに、二人は驚きを隠しつつも「……なんだ?」とジャイルズが相槌を打つ。

「あのさ、僕、ずっと存在感がなかったから、空気のように生きていた。友達が欲しくても勇気がでなかったから。ずっと一人だった。……だから、存在感のない自分が嫌だった」

 二人とも黙ってカーティスの話を聞いている。

「でも、二人が言うように、存在感がないことが凄い事だって信じてみようと思う。僕はまだ正直よく分からないけど。でも、そんな考え今までなかったから……」

 自分の嫌なところだった。存在感がないこと。でも、それが自分の強みだと、そう言えるようになりたいと思った。

 そして彼らの言葉は、僕は僕のままでいいんだ、と肯定してくれたような気がして、とても嬉しかったのだ。

「ありがとう」

 カーティスがそう言って微笑めば、安堵したように二人も微笑む。

「いいところを見つけて、それを伝えるのも友の役目だしな」

「え? 友……?」

「そうそう。もう俺らはダチだろ? 気づいたときにはそうだった、ってやつ?」とジャイルズがカーティスの肩に手を置く。

 初めて会ったときは確かに友達にはなりたくはないと思った。

 でも、彼らが友達なら、自分のことを受け入れ、そして前向きになれると思った。

 初めての友達に「ありがとう」と感謝を伝える。

 グリゼルダが「別に礼を言うことじゃない」と笑った。

 その笑みにカーティスもつられて笑う。

 それからしばらくは学校のことを中心に三人で話をした。

 実習訓練のことや座学のこと。

 入院中に学べていないことをたくさん二人から聞いた。

 入院中、三人で過ごす時間は僕にとってかけがえのない時間となった。


 ✯✯✯


「僕は、彼らが信じる僕を信じた。そしたら少しずつだけど友達も増えて、自分が嫌だった存在感のなさを強みだと思えるようになったんだ」

 少女は今気がついたかのように顔を上げた。目が、赤かった。

「……私、目が赤いから気持ち悪いって、みんなから言われて」

 カーティスは少女の瞳を覗き込んで、それから小さく笑う。

「君の目は気持ち悪くなんか無い。果物みたいで僕は可愛いと思う」

「……」

 少女はぱちくりと目をしばたかせた。

「誰がどう思うか分からないよね。それによって傷つくし、逆に嬉しくもなる。全ては考え方次第なんだ。だから、僕の言葉を信じればいいんだよ」

「でも、この目のせいで友達できないもん……」

「じゃあ、僕と友達になろうか」

「え?」

「僕の名前はカーティス。君は?」

「私の名前は、クラビス……」

「よろしくね」

 そう笑って手を伸ばせば、彼女は手を取った。

 笑い泣きのような表情を浮かべて「よろしくね」と小さく呟く。そんな彼女は小さな花のようで、儚く消えてしまいそうだ。

「死んじゃう前に、あなたに会いたかった」

「どういうこと?」

 そう問うても彼女はそれに関して何も答えない。

「グラウンドで走っているあの人に、伝えて欲しい」

「……何を?」

 一体誰のことを指しているのか僕にはわからなかったが、彼女は一言言い残して、姿を消してしまった。それはまるで風に吹かれて散ってしまった、花びらのようだった。
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