188 / 201
守護精編
45
しおりを挟む掛け声を合図に、一斉にクラビスがあちこちに散った。
グラウンドのあちこちに走り去っていったクラビスたちは正直全部同じだ。
違いがあるのかすらわからない。もはや全部同じだろ、と突っ込みたくなる。
各々遊び始めているクラビスたちを注意深く眺めていれば、普通の幼い子どもだとふと思った。
まあ、子どもの遊びにつき合わされていると思えば、悪くは無いか。
そんなことを考えながら、サラはとりあえず近くの鉄棒で遊んでいるクラビスに話しかけることにした。
「なあ、あんたは一体何がしたいんだ?」
偽者だとしてもクラビス。聞けば何か分かるかもしれない。
「鉄棒をしてるの。丁度良かった。逆上がりの仕方を教えてくれない?」
「は?」
「上手くできないの。あ、もしかしてあなたも出来ないの?」
「逆上がりぐらいできる」
挑発を受け、カチンときたサラは鉄棒を握り、思いっきり地を蹴るように体を跳ね上がらせる。すると見事に体が回転した。
「ふん」
「すごい! どうやってするの?」
「は?……そうだな、まず鉄棒を持て」
サラは鉄棒からひらりと降りて、クラビスに鉄棒を握らせる。
「体は支えておくから、とにかく地面を蹴って鉄棒に登ってみろ」
「うん……やってみる」
サラはクラビスが地面を蹴ったタイミングを見計らい、体を上へ押し上げる。
するとクラビスが地面を蹴った勢いとサラの支えによって、上手いこと体が一回転した。
「うわー!! すごい!! はじめて逆上がりができたわ!! ありがとう」
「いや。別に」
ふと我に返ったサラは一体自分は何をしているんだろう、と頭を抱えたくなった。これではただ単に遊んでいるだけだ。
そう思っていれば、鉄棒を握っているクラビスの手が透明になっている事に気がついた。
「消えているのか?」
指摘されて気づいたクラビスがこくりと頷く。
「うん。やりたい事ができたから。私は消えれるの……」
「……どういう意味だ?」
「私たちはみんな願ってる事や、やりたい事があるの。だから、他の私の願いも叶えてあげて。そうしたら、あなたの探している私が見つかるかも」
ありがとう、と呟くクラビスの姿が消えた。
「なるほど……」
そうやって偽者を消してゆくのか。ならば案外簡単に本物が見つかるかもしれないな。
しかしサラがグラウンドを見渡してると、かなりの人数がいることに気がついた。一人ずつ希望を叶えてゆくには、時間が足りないだろう。
だが、悩んでいる時間などあまりない。
とりあえず何かいい策を思いつくまで、片っ端から願いを叶えるしかない。という事で、サラは近くで鬼ごっこしているクラビスに近づくことにした。
「鬼が来たわ!! みんな逃げて!!」
「は?」
いきなり鬼扱いされるが、望むところだ。もはや彼女たちに付き合うしかないのだから。
「鬼さんこちら~」
「待て!!」
一目散に逃げるクラビスたちを、サラは必死に追いかけた。追いかけている中でどのクラビスを一番捕まえやすかを黙視する。
今追いかけているクラビスは割とすばしっこくてなかなか捕まえられない。そのため他のクラビスに目標を変えることに。
けれど駆けても駆けてもクラビスたちとの距離が縮まらないのだ。
正直本気を出さなくても捕まえられるだろうと思っていたが、それではどうやら捕まえられないらしい。
サラははあ、と息を吐き立ち止まる。ゆっくりと目を閉じた。
光の力は封じられているが、先ほど走ってみて感じたのは身体能力に変化はないということだ。
瞬発的に速く駆けることは可能だろう。
クラビスたちも鬼が追ってこないので立ち止まっている。サラの方に近づいてはこないが、立ち止まって動かないサラにクラビスたちはどうしたのかと、顔を見合わせている。
呼吸を整えたサラはすっと目を開けた。よし、一瞬で片を付ける。
「逃げて!!」
目の前にいたクラビスが危険を感じて走り出したが、その反応速度では遅かった。
突風が吹いたかのようにサラは目にもとまらぬ速さでクラビスに近づき、捕らえたのだ。
速すぎて周りにいたクラビスたちは呆然とその光景を眺めていた。
「捕まえた」
「うわ!? 早っ!! って、わ!?」
捕まえられたクラビスが足をひねって地面に倒れこむ。それと一緒にサラも地面に倒れこんだ。
「いてててて……」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
すると「大丈夫?」と他のクラビスたちが集まってきて、そしてなぜか一緒に地面に横になってゆくのだ。何をしているんだ、この子たちは。
「あははは。楽しかった!」
「こんなにも一生懸命に走ったのは初めて!!」
「うん、楽しかった!! ねえ、そうでしょ?」
同意を求められたサラは、特に楽しくはなかったが、とりあえず気分を害さないように「そうだな」と頷いておいく。
クラビスたちはゆっくりと息を整えている。すると。
「ねえ、見て」
サラの左隣りにいたクラビスが指を指した。
「空ってこんなにも青くてきれいだったんだね」
知らなかった、とそう笑顔で言うクラビスがなぜか印象的だった。
サラは何かを言おうと口を開いたが、言葉が見つからず口を閉じてしまった。
そうこうしているうちに、彼女の姿は消えてゆく。
彼女から何かを感じ取ったが、はっきりとそれが何なのかはわからない。
するとサラの周りにいたクラビスが後を追うように一人づつ消えてゆく。
やりたいこと、願いが叶ったということか。それが鬼ごっこだったのかどうかわからないが。
わかったのは、一緒に複数人で遊べばそのクラビスたちは消えるということだ。
サラは傾いてゆく太陽を眺め、そしてグラウンドで各々遊んでいるクラビスへ視線を向ける。全然減ってない。
「ねえ、遊んでくれたから、いいこと、教えてあげる」
「何だ?」
右隣で横になっているクラビスの体がゆっくりと消えてゆく。
「私たちは彼女であって、彼女ではない。でも、彼女も彼女であって彼女ではない」
「は? どういうことだ?」
そう問うても、クラビスは「そのうちわかる」と言い残して消えてしまった。
「私たちは彼女であって、彼女ではない……。彼女も彼女であって彼女ではない……。意味がわからない……」
なぞかけのような発言に、すっきりとしたクラビスのあの印象的な笑み。何かが繋がりそうで、繋がらなかった。サラはただただ眉根を寄せていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。
『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~
川嶋マサヒロ
ファンタジー
ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。
かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。
それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。
現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。
引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。
あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。
そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。
イラストは
ジュエルセイバーFREE 様です。
URL:http://www.jewel-s.jp/

スキル【レベル転生】でダンジョン無双
世界るい
ファンタジー
六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。
そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。
そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。
小説家になろう、カクヨムにて同時掲載
カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】
なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

魔法学院の階級外魔術師
浅葱 繚
ファンタジー
魔力の色によって使える魔法が決まる世界。魔法学院に入学した主人公ルーシッド・リムピッドの魔力の色は何と『無色』。色が無いゆえに一切の魔法が使えないルーシッド。しかし、実は無色の魔力には彼女だけが知っているある秘密があって…
魔法が絶対の世界は、たった一人の魔術師によって大きく動き出す。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる