騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

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守護精編

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 掛け声を合図に、一斉にクラビスがあちこちに散った。

 グラウンドのあちこちに走り去っていったクラビスたちは正直全部同じだ。

 違いがあるのかすらわからない。もはや全部同じだろ、と突っ込みたくなる。

 各々遊び始めているクラビスたちを注意深く眺めていれば、普通の幼い子どもだとふと思った。

 まあ、子どもの遊びにつき合わされていると思えば、悪くは無いか。

 そんなことを考えながら、サラはとりあえず近くの鉄棒で遊んでいるクラビスに話しかけることにした。

「なあ、あんたは一体何がしたいんだ?」

 偽者だとしてもクラビス。聞けば何か分かるかもしれない。

「鉄棒をしてるの。丁度良かった。逆上がりの仕方を教えてくれない?」

「は?」

「上手くできないの。あ、もしかしてあなたも出来ないの?」

「逆上がりぐらいできる」

 挑発を受け、カチンときたサラは鉄棒を握り、思いっきり地を蹴るように体を跳ね上がらせる。すると見事に体が回転した。

「ふん」

「すごい! どうやってするの?」

「は?……そうだな、まず鉄棒を持て」

 サラは鉄棒からひらりと降りて、クラビスに鉄棒を握らせる。

「体は支えておくから、とにかく地面を蹴って鉄棒に登ってみろ」

「うん……やってみる」

 サラはクラビスが地面を蹴ったタイミングを見計らい、体を上へ押し上げる。

 するとクラビスが地面を蹴った勢いとサラの支えによって、上手いこと体が一回転した。

「うわー!! すごい!! はじめて逆上がりができたわ!! ありがとう」

「いや。別に」

 ふと我に返ったサラは一体自分は何をしているんだろう、と頭を抱えたくなった。これではただ単に遊んでいるだけだ。

 そう思っていれば、鉄棒を握っているクラビスの手が透明になっている事に気がついた。

「消えているのか?」

 指摘されて気づいたクラビスがこくりと頷く。

「うん。やりたい事ができたから。私は消えれるの……」

「……どういう意味だ?」

「私たちはみんな願ってる事や、やりたい事があるの。だから、他の私の願いも叶えてあげて。そうしたら、あなたの探している私が見つかるかも」

 ありがとう、と呟くクラビスの姿が消えた。

「なるほど……」

 そうやって偽者を消してゆくのか。ならば案外簡単に本物が見つかるかもしれないな。

 しかしサラがグラウンドを見渡してると、かなりの人数がいることに気がついた。一人ずつ希望を叶えてゆくには、時間が足りないだろう。

 だが、悩んでいる時間などあまりない。

 とりあえず何かいい策を思いつくまで、片っ端から願いを叶えるしかない。という事で、サラは近くで鬼ごっこしているクラビスに近づくことにした。

「鬼が来たわ!! みんな逃げて!!」

「は?」

 いきなり鬼扱いされるが、望むところだ。もはや彼女たちに付き合うしかないのだから。

「鬼さんこちら~」

「待て!!」

 一目散に逃げるクラビスたちを、サラは必死に追いかけた。追いかけている中でどのクラビスを一番捕まえやすかを黙視する。

 今追いかけているクラビスは割とすばしっこくてなかなか捕まえられない。そのため他のクラビスに目標を変えることに。

 けれど駆けても駆けてもクラビスたちとの距離が縮まらないのだ。

 正直本気を出さなくても捕まえられるだろうと思っていたが、それではどうやら捕まえられないらしい。

 サラははあ、と息を吐き立ち止まる。ゆっくりと目を閉じた。

 光の力は封じられているが、先ほど走ってみて感じたのは身体能力に変化はないということだ。

 瞬発的に速く駆けることは可能だろう。

 クラビスたちも鬼が追ってこないので立ち止まっている。サラの方に近づいてはこないが、立ち止まって動かないサラにクラビスたちはどうしたのかと、顔を見合わせている。

 呼吸を整えたサラはすっと目を開けた。よし、一瞬で片を付ける。

「逃げて!!」

 目の前にいたクラビスが危険を感じて走り出したが、その反応速度では遅かった。

 突風が吹いたかのようにサラは目にもとまらぬ速さでクラビスに近づき、捕らえたのだ。

 速すぎて周りにいたクラビスたちは呆然とその光景を眺めていた。

「捕まえた」

「うわ!? 早っ!! って、わ!?」

 捕まえられたクラビスが足をひねって地面に倒れこむ。それと一緒にサラも地面に倒れこんだ。

「いてててて……」

「大丈夫か?」

「大丈夫」

 すると「大丈夫?」と他のクラビスたちが集まってきて、そしてなぜか一緒に地面に横になってゆくのだ。何をしているんだ、この子たちは。 

「あははは。楽しかった!」

「こんなにも一生懸命に走ったのは初めて!!」

「うん、楽しかった!! ねえ、そうでしょ?」

 同意を求められたサラは、特に楽しくはなかったが、とりあえず気分を害さないように「そうだな」と頷いておいく。

 クラビスたちはゆっくりと息を整えている。すると。

「ねえ、見て」

 サラの左隣りにいたクラビスが指を指した。

「空ってこんなにも青くてきれいだったんだね」

 知らなかった、とそう笑顔で言うクラビスがなぜか印象的だった。

 サラは何かを言おうと口を開いたが、言葉が見つからず口を閉じてしまった。

 そうこうしているうちに、彼女の姿は消えてゆく。

 彼女から何かを感じ取ったが、はっきりとそれが何なのかはわからない。

 するとサラの周りにいたクラビスが後を追うように一人づつ消えてゆく。

 やりたいこと、願いが叶ったということか。それが鬼ごっこだったのかどうかわからないが。

 わかったのは、一緒に複数人で遊べばそのクラビスたちは消えるということだ。

 サラは傾いてゆく太陽を眺め、そしてグラウンドで各々遊んでいるクラビスへ視線を向ける。全然減ってない。

「ねえ、遊んでくれたから、いいこと、教えてあげる」

「何だ?」

 右隣で横になっているクラビスの体がゆっくりと消えてゆく。

「私たちは彼女であって、彼女ではない。でも、彼女も彼女であって彼女ではない」

「は? どういうことだ?」

 そう問うても、クラビスは「そのうちわかる」と言い残して消えてしまった。

「私たちは彼女であって、彼女ではない……。彼女も彼女であって彼女ではない……。意味がわからない……」

 なぞかけのような発言に、すっきりとしたクラビスのあの印象的な笑み。何かが繋がりそうで、繋がらなかった。サラはただただ眉根を寄せていた。
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