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守護精編
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しおりを挟む「月光の刃!!」
ヴィクターの背後からまばゆい刃が迸る。
その光に反応したスカルがヴィクターを守るように盾になって霧散した。
「一体何体スカルがいるんだ……?」
ごぽごぽ、と泡がヴィクターの視界を遮り、サラはその泡の中から飛び出してヴィクターへ斬り伏せた。
首を落とす勢いだったが、見えない何かに阻まれるように軌道が逸れ、何かに足を掴まれて体が回転した。
視界が回転したせいで、スカルの突進を避けきれなかった。
「おわ!」
猛スピードで吹っ飛ばされていくが、途中で体勢を整えて壁へ着地。
サラは真正面を見つめる。
ヴィクターの周りの水が動いているようで、ヴィクター自身が歪んで見える。
ヴィクターを中心にスカルが何体いるのか分からないし、そもそもスカルではなくて回りにあるのはただの水かもしれない。
それに上官は二人とも意識を失っている。
どう攻撃すべきか。
真正面からの攻撃は防がれる。
水中だからスピードもでない。
水中だからこそ、敵は水を自由に操れる。
スカルは正直言って見えない。
おまけに周りは薄暗い。
ふと上を見上げれば、建物が頭上に存在していることを思い出す。
「そうか……!」
サラはゆっくりと息を吸い、神経を研ぎ澄ませた。
光脈のエネルギーを感じ、体の表面から光がじんわり溢れ出す。
緊張のボルテージが最高潮に達した時、カッと目を見開いて剣を高速で振るった。
斬撃が迸る。
けれどそれはヴィクターの方ではなく、頭上へ。
斬撃が建物を襲撃し、壁や屋根が崩れて岩のように落ちてくる。
地面にどんどん堆積してゆく中で、スカルはビクターを守るように瓦礫を振り払った。
ヴィクターが瓦礫に気をとられている。今だ。
「瞬刻の煌!!」
サラは瓦礫を踏み台にして水中を縦横無尽に駆けた。
光が幾筋も見えたとき、スカルが光に弾かれ霧散。ヴィクターへ刃が一直線の美しい軌道を描く。
ごす、と手ごたえがあった。
けれど。
ヴィクターへ突き刺さったかに見えた剣先は、逸れて近くの瓦礫に突き刺さってしまっていたのだ。
「何……!?」
別段驚く様子も無いヴィクターは隙を突いてサラの脇を剣で貫いた。
「う……」
「水は、僕のお友達だから」
ヴィクターが手をぐっと握るしぐさをした途端、サラの首が急に絞まった。
身動きが取れないように手足も何かに強く握られている。
「ゴホ……」
抵抗できないことをいいことに、ヴィクターはサラの急所を狙って刃を突き刺す。刃先の歪んだ刃がサラの体をえぐった。
「あぐ……」
何度も何度も突き刺され、口から血があふれ出す。
首も絞められて息が出来ない。くそ、一体どうすれば……。
「愛されるって何」
耳を疑う質問をされ、サラは混乱した。
いきなり守護精みたいなことを言い出したのだ。
いや、本当にそう言ったのかどうか怪しい。
もしかして守護精が問うた内容が走馬灯のようにフラッシュバックしたのかもしれない。
「愛がみたいの」というユーフェミアの顔が思い浮かぶ。そうかこれはフラッシュバックだ。
愛し、愛されるとは――。
頭に思い浮かぶのは、過去闇から守ってくれた姉や、心配し、そして未来への勇気をくれた父。ずっと一緒にいてくれているアルグランド。
正直愛と言うのは考えてもわからない。
ならば、感じたことを口にするだけだ。
サラはゆっくりと口を動かした。
「誰かを……大切に……思う……こと、だ」
そうか。
これが私なりの答えだ。
それをユーフェミアに伝えよう。
サラの言葉を聞いたヴィクターの表情がぐにゃっと歪んだ。
そして怒りに任せてサラへ再び剣を突き刺す。
「う……」
一体、何なんだ……。くそ……このままでは死んでしまう。何とかしないと。
朦朧とする中で、何か光のような粉のようなものが水中に浮かんでいるのが見えた。それはヴィクターの周りを浮遊している。
これは、一体何だ……?
はっとして何かに気づいたサラは、上官の方をちらりと見る。
その粉はキャサリンの茨から、少しづつ出ているようだ。
ヴィクターは気づいていない。きっとこれは何かの策なのだろう。
「死ね!!」
突き刺してもなかなか死なないサラに、ヴィクターが止めといわんばかりに首を斬りおとそうと剣を大きく振り上げた、その時。
「茨の紫水晶」
声とともに、浮遊していた光が一瞬にして結晶のような茨となり、ヴィクターを捉えた。
注意が逸れたのか、サラの拘束が緩まった。サラは機を逃さず自由に。
「くそ、邪魔だ」
ヴィクターが上から下へ手を動かせば、収まったかと思われた瓦礫の落下が再び始まった。
キャサリンの方へ目掛けて落ち、動くことが出来ないキャサリンはそのまま瓦礫の下敷きに。
「上官!!」
「いけ! 止めを刺せ!」
野太い声が発せられて、サラは反射的に動いた。
「天空の月明」
踊るようにヴィクターへ一閃を打ち込んで駆け抜ける。
サラの背後で一筋の光の柱が立った。
「ああああああああああああああああああ!」
空へと突き抜ける光の柱は雲を割り、天へ昇る。
光に包まれて消えてゆくヴィクターの顔は、どことなく悲しそうだった。
✯✯✯
闇の使者が消え去って、南都市全体を覆っていた水がなくなり、空に浮かんでいた建物は全て地面に建っている。
街の姿は元に戻ったが、建物などは倒壊しており、荒れ果ててしまっている。
しかも闇染めされたときのように、街は黒ずんでいた。
聖域も元の状態には戻っているが、所々崩れていた。
南都市の被害は尋常なく大きかった。
ブリジットとキャサリンが瓦礫の下敷きになっていたので、丁度南長の指示で応援に来てくれた騎士たちと共に退かし、救出作業を開始した。
彼らの意識はあったが、急いで病院へ運ばれることになった。
そしてサラはユーフェミアから承諾を得るため、聖域に戻っていた。
ユーフェミアが現れるまで、サラは自身で傷の手当てをしていた。
傷口を見てみれば、明らかに以前よりも傷の治りが早くなっている。
もはや出血は止まっていた。光脈を上手く使えているからだろうか。
よく分からないが、傷の治りが早いのはありがたい。
一応縛っておこう、と団服を裂いて包帯のように巻いていれば。
「わかったわ、愛!! 私、感動したの!!」
いきなり真横に現れた守護精に、サラは「はあ」という気の抜けた反応しか出来なかった。
「愛って、誰かを大切に思う気持ちなのね? だから、胸の中にあるのね!! あなたの言葉を聞いて、そしてあなたたちの戦いを見てやっとわかったのよ。誰かを守るために戦う、それがまさしく愛なのね!! 素敵!!」
「……聞いていたのか」
物凄く興奮している守護精。距離が近い。
鼻息がかかるためもう少し離れて欲しい。
まあでも勝手に理解してくれたので、よしとしよう。
「じゃあ、精霊たちの進化に関して承諾してくれるか?」
サラの問いにユーフェミアは鷹揚に頷いた。
「ええ。もちろんよ。それが、私たちがあなた方に示す愛の形だものね」
バチン、とウィンクをこちらに飛ばしてくるが、なんだかちょっとよくわからない。
「そうだな」と適当に相槌を打っておいて、サラは聖域を後にした。
なんか今回はいろいろハードだったな、と首を鳴らす。
そして次なる都市へ行こうと歩み出した時。
「あなたがサラさんですね?」
いきなり目の前に何かが現れた。
巨大な体だ。引き締まった体には無駄な贅肉が無い。
そう、美しい鬣をなびかせて堂々と立っている姿は神々しさをも感じさせる。
目の前に立っていたのは、輝くばかりの美しい白い馬だった。
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