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守護精編
26
しおりを挟むサラを見上げた瞳は虚ろだ。
顔は青白く、生きているのか疑わしくなる。
先ほどまでは人形のようだったが、これではまるで死体のようだ。
このままここにいるのはまずい気がする、とサラは直感した。
「希望を見出せない? なぜ?」
「精霊も、人間も、どうでも、いいの」
暗い瞳で語る。
「この世界が、生きても、死んでも、自分が、生きても、死んでも、興味、ない」
だから、とオリヴィアはゆっくりとしゃがむ。
「ここに、いる」
オルゴールを見つめながら。
「……」
サラはじっと小さくうずくまった守護精を見つめていた。
一体どうすればいいんだ。
あ、そうですか、と放っておくのはまずいし、かといって強引に引きずり回すのもどうかと思うし。
すると、ふと手にしっかりと握られているオルゴールに目がいった。
「そのオルゴールは大切なのか?」
「どうして?」
「ずっと持っているから」
「大切、なのかな」
「世界が消えても、自分が消えても、それは失くしてもいいものか?」
「……いやだ」
サラは小さく笑う。
「じゃあ、ここから出ないとな」
「どうして?」
「あんたは守護精だろ。仮に聖域が潰されたら、あんたは消えるんじゃないのか? 仕組みは知らないが。あんたが消えたらそのオルゴールは誰が大切に持っておくんだ?」
手に持っているオルゴールが絵の一部ではないことは確かだ。
オルゴールをこの絵の中に持って来たのであれば、持って出られるはずだろう。
するとオリヴィアがぎゅ、とオルゴールを抱きしめた。
サラは大切なものを失くさないように抱きしめるオリヴィアの姿に、胸が痛んだ。
かつて、大切なものを失って、膝を抱えていた自分と少しだけ重なって見えたのだ。
「なあ、オリヴィア。私は別にあの提案に賛成しなくてもいいと思う。できるならば私は賛成して欲しいがな」
オリヴィアが不意に顔を上げる。
「人間も、守護精も、考えること思うことはみな違う。それに未来が見えなくてもいい。この世界が消えてもいいと思ってもいい。守護精だから世界平和を望まなければならないという決まりなんてないからな。……でも」
サラは手を伸ばした。
その手をしばらく眺めた後にゆっくりとオリヴィアが伸ばす。
サラはしっかりとその手を握った。
「希望って言うのは、いつのときも、あんたを照らしてくれる。たとえ自分を自分が見捨てても、だ」
サラが引っ張れば、オリヴィアは立ち上がった。
絶望を貼り付けた躯でも、呆然と座っている人形でもない。
ただ少しだけ悲しみが滲んでいる守護精、なのだ。
オリヴィアがゆっくりと息を吸う。
「そう、なのかな……」
「きっとそうだ。オリヴィア、目を、閉じろ」
「なぜ?」
「希望は、眩しいからだ」
よくわからない、というようにこちらを見上げてくるが、サラは早く目を閉じるように促す。
ゆっくりとオリヴィアが目を閉じた直後、サラは思い切ってオルゴールへ剣を突き立てた。
「はあ!」
オリヴィアが大事そうに持っているのを見たときに、オルゴールが不意に歪んでみえたのだ。
そこでこのオルゴールには外へ出るヒントが何かあるかもしれないと思ったからだ。
するとオルゴール自身が結界のようなもので自身を守ったが、そんな薄っぺらいものでは光は防ぎきれなかったのか、結界は破れ、オルゴールに宿っていた影のようなものが光に掻き消されるようにして消えた。
ビンゴだ。
するとサラとオリヴィアを中心に光りがあふれ出し、この絵で描いたような世界が光りに包まれた。
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