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守護精編
8(レレノア視点・都市長会議)
しおりを挟む蒼く透明な世界。
木々がひっそりと息をする。
命の木に舞い降りる鳥もまた青い。
「ウォルティオ。どうでしたか」
ウォルティオはエドモンドたちから聞いた事を詳細に伝える。
「そうですか……でも、それもそうです、ね」
レレノアはゆっくりと瞳を閉じる。人間は私たち精霊の逆鱗に触れた。
でも、その感情の波は今、凪いでいる。
感情だけでは物事は上手く進まないことは知っている。
だから冷静に思考を巡らせるのだ。我々が提示できる策、とは。
しばらく逡巡したレレノアが目を開けた。
「わかりました。では、人間の長にこう伝えてください」
その内容を聞いたウォルティオは、本当によろしいのかと確認のため問うたが、レレノアの意思は変わらない。
静かに頷くのみ。
「かしこまりました。では、そうお伝えしてまいります」
「ええ。気をつけて」
レレノアは飛び立つウォルティオの背ををながめ、小さくため息をつく。
不変など、この世には無い。
永遠、もないのだ。
変わらなければ淘汰される。
弱者は強者に負ける。
それは自然の摂理。
でも、私たちは弱者へ手を差し伸べていける存在でありたい。
それは人間も精霊も同じと思っている。
でも、強者になるために、命を歪ませることなどあってはならない。
それは何千年と前からのこの世界の礎を揺るがすこととなるだろう。
この自然界と共にあらねば、闇ではなく世界の秩序の乱れによって精霊も人間も滅びてしまうだろうから、許されることではないのだ。
闇という同じ敵に向かってゆくのなら、志は同じはずである。
私たちはこの世界の傍らで、傍観者よろしく鎮座しているわけにはいかないのだ。
私の考えた策は今まさに精霊たちの未来をも左右するものかもしれない。
けれどそれは未知のことであり、『判断』は私だけではできない。
この世界が光に包まれることを、私は祈りたい。
レレノアはゆっくりと息を吐いた。
✯✯✯
「全員揃ったな。では都市長会議を始める」
各都市長、五名の上官騎士、そしてエドモンドを含め王族騎士は二名。
それぞれの顔ぶれを眺めたところで、エドモンドが本題を切り出す。
「今回上官に集まってもらったのは他でもない、闇の勢力が拡大されてきているからだ。まずは闇の力の増加を招いている闇の使者を倒すことを目的とする」
「最近話題の闇の使者ね。でも、私はまだ遭遇したことないわ」とブリジットが首を傾げる。
「上官騎士の中で遭遇したのは私ぐらいか」とグリゼルダが腕を組んだ。
「闇の使者はどのような敵なんですか?」とカーティスがおずおずと質問する。
エドモンドが現時点で分かっている闇の使者の関することを説明する。
彼らはかなりの力を有していること、一人ではなく複数いること、数多のスカルを操れること、そして彼ら自体、何らかの特殊能力を持っていること、人間をスカルに出来ること、それは騎士も例外ではないこと等々。
「彼らの真の目的は定かではないが以前の都市長会議にて、おそらくは命の木の陥落に準じて他の聖域も共につぶすこと、そして世界を闇に包むことではないのかということが我らの見解である。だがしかし、闇の使者はかなり手強い。それなりの力がなければ太刀打ちできない。一般騎士ではこちらの戦力を削ぐという結果になってしまうため、上官騎士に闇の使者を殲滅してもらいたいのだ」
「なるほどな」とジャイルズが腕を組む。
「それで前王も闇の使者との戦闘で命を落とした、ということか。それは相当厄介な敵だな。だが俺たちはその闇の使者に遭遇していない。殲滅するのはいいが、その闇の使者の出現現場にはどうやって行けばいいんだ?」
その質問にモリスが答える。
「闇の使者は闇エネルギーが非常に高いことがわかってきております。現在北都市の研究所では世界をモニタリングし、闇エネルギーの計測をしているので高闇エネルギー体が出現次第、情報をそちらへ回すということは可能です」
「では特務の方へ連絡をくれればいいんじゃない? 私たちは特務の所属だと思うし。そうすればフレデリックさんが私たちに連絡を飛ばしてくれるでしょ。ね、フレデリックさん?」
ブリジットがかわいくフレデリックに首を捻る。
それを見たジェイソンが「可愛いなあ」と頬を緩めた。
「そうですね。それが一番いいかもしれません。上官騎士たちには各地へ散ってもらって、闇の使者が出た段階で一番近いところにいる上官騎士に指令を飛ばすようにしましょうか」
「では、その手はずで。集まってくれてありがとう。上官騎士たちは解散し、早急に各自各地へ赴くように。闇の使者だけでなくスカル殲滅も今まで同様に行うこと。以上」
上官騎士が立ち上がり、敬礼する。
そして一番にキャサリンが部屋から出て行った。
「アントニオ、マジでやる気だな」とバートルが笑う。
「いや、いち早く洋服屋に行きたいんだろう」とフレデリックが肩を竦めた。
「洋服屋に行って一体どうするんだ?」とガレッドが首を捻る。
「まあまあ、女の子だからねえ」とジェイソン。
「性別は男だと記憶していますが……。そもそもなぜ女装を?」とダイナが首を捻る。
「心は女の子だからじゃないの?」とジェイソンも不思議そうに首を傾げた。
「静粛に。では、会議を続行する」
エドモンドが声高らかに発言すれば、会議室は鎮まりかえった。
その時を見計らったかのようにちょうど青い鳥――ウォルティオが姿を見せた。
エドモンドが窓を開ければ、お辞儀をしてゆっくりと入ってくる。
バサリと羽音を鳴らして机の上に舞い降り、都市長たちの方を振り向いた。
都市長を捕らえるその瞳は前回同様鋭い。
「レレノア様から、新しい策をお伝えしたく参上した。心して聞くように」
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