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守護精編
6(都市長会議)
しおりを挟む伝言主のレレノアとは一体誰だと、みな首を捻る。
すると彼らの疑問を代表して、エドモンドが精霊に問うた。
「ちょっと待ってくれないか。君は一体誰で、そのレレノアという人物も一体誰なのだ?」
「失礼した。私はレレノア様の使いの精霊、ウォルティオ。というかご存じないか? レレノア様の存在を」
「すまないが、知らないな」
「……そうか。あのお方は滅多に外界と接しません故、それは致し方あるまいか。レレノア様は北の聖域の守護精であるお方。そのお方から人間の長へ少々文句を……ゴホン。意見を述べさせていただきたいということで参上した」
「聞いたことあるな、その守護精という存在は。で、その意見とは」
「ばっきゃやろう! このクソ人間どもが!!……ゴホン。失礼心の声が。改めて伝言を。『人間と共に私は闇と闘います。しかし、人間たちが私たち精霊の命を歪めるというのであれば、話は変わります。人間の体に精石を埋め込み、人間と精霊、どちらとも命を賭して戦うこと。それは、この世界の悲しみを象徴することだと以前から思っていました。けれど、それは神ウィンテール様の意向でありますから、私は黙って見守っておりました。しかし今回、それ以上の命を削っていると、そして精霊であることを歪めていると、そういう一件を目にしました。もし今後もさらに精霊の命を削り、歪める行為を人間側がするのであれば、私たちは人間側に力を貸しません』とのこと」
一体どういうことか、そしてなぜこんなことになってしまったのか、とざわつく中。
「それはエクサイトのことかな」
モリスが無表情で問うた。
「恐らく。あなた方が人間という核を殺し精霊を器にはめ、光の力を倍増させるという行為は、一見すれば力は格段に跳ね上がり、闇をも切り裂く刃となるだろうことは想像に難くないと存じ上げる。けれど、それでは精霊たちの命は極端に短くなるのはご存知か。それに精霊は何も単体だけの力だけではなく、相互に作用し合い力を補い合うことも場合によってはあり、精霊の命が短くなればなるほど干渉し合い、他の精霊たちも余計に命が削れるという結果に至ってしまう。精石は精霊が亡くなった後に新たに生み出さるが、最低でも三年はかかってしまうことも承知の上か。長い場合は十年以上もかかる場合もあり、いたずらに精霊の命が短くなってしまえば、この世界からいずれ精霊が消えてしまうと存じ上げる。あなた方がなされたことは、それを考慮に入れた上でなされたことなのか甚だ疑問を感じる次第である」
ウォルティオは鋭い視線でモリスを見つめる。
モリスはふむ、とあごを撫でながら思考した。
「確かに彼の発言は一理ありますな。エクサイトの運用は私たち人間側の都合のいいように精霊を改造していると言われればあながち間違いではないですからな。しかし人間も人間側での犠牲も払っているので、精霊だけの負担ではないと思っていたのは事実。確かに精霊がお互いに共鳴することは知っていましたが、他の精霊の命を削ることは知らなかったですな。そこは我々の研究不足、そして考えの至らなかった我々の責任と言ってもいいでしょう。そのような状況が起こりえるという可能性があるのであれば、この研究は一旦停止を考えてもいいでしょうな」
モリスの発言に、エドモンドが「しかし」と口を挟む。
「彼らのおかげで闇と闘えているのも事実。騎士も闇の勢力によって多く減少している。闇は日に日に力を増してきている。精霊たちが消える前に、このままでは闇に呑み込まれてしまう危険性もあるだろう」
エドモンドの意見に、ウォルティオが「それは、我々精霊の光の力が弱いとおっしゃっているのか?」と怒りを露にする。
「そうは言っていない」
「では一体何を?」
「確かにエクサイトは人間と精霊双方にマイナス面があるとはわかっている。しかしそれを停止する前に、闇に打ち勝つための別の策を練らねばならないと言っているのだ。エクサイトは人間の知恵を詰めた成果である。けれど精霊側に今後も大いに悪影響を与えてしまうのならば、エクサイトの研究は危険であると判断し、中止の号令をかける。けれどそれを失った場合、戦力が落ちることは想像できる。確かに人間だけでは闇には適わず、精霊たちの力を借りなければならないことは承知の上だ。だから我らは多くの策を成して闇と戦っているわけだが、そちら側がこちらの策の取り下げを要求するのであれば、そちら側が他の案を提示するのが筋というものではないのか。つまり精霊と人間が力を合わせて闇に打ち勝つためには、両者が知恵を出し合わなければならないということだ」
「なるほど」
ウォルティオはふむ、と目を細めるが、「それには条件があります」と食い下がってきた。
「人間側に何らかの策を提示するということを、レレノア様には申し上げる。けれど、それはまずこちら側の要求をあなた方が呑んだ上で、だ」
一歩も譲らないウォルティオに、エドモンドは深いため息をついて「わかった」と要求を呑んだ。
「では、その旨をレレノア様に申し伝える」
颯爽と飛び立ったウォルティオの背を見つめたエドモンドがため息をつく。
「どのような策が来るのか心して待つか。それと同時に我々も次なる策を考えねば、闇にはいずれ侵食されてしまうだろう。まずは闇の力の増加を招いている闇の使者を倒すことを目的とする。上官を収集し、闇の使者を殲滅する手はずを整える。各地に散っている上官を直ちにここへ集結させよ。会議は数日後に再び開催することとする」
「はっ」
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