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王都編
32(マリオン視点あり)
しおりを挟む「あなたは、研究所で私に精霊も人間も粗末に扱っていると言っていたわよね」
いきなり話を振られた。
しかもなぜか喧嘩腰だ。
売られた喧嘩をわざわざ買う気は無いが、サラははっきりと答えた。
「言った。だが、その考えは今も変わらない」
マリオンは不意に視線を逸らし、枯れてしまった薔薇を眺めている。
「……そう。王族にとって、民も精霊もかけがえのない存在だとは思っているわ。でもね、自分に力がなかったら、自分自身やその大切な人は一体誰が守ってくれるのかしらね?」
「……」
私は守れるように自分に力をつけた。
それは騎士になるという選択肢があったからだ。
でも、もともと祈祷師としての道しか与えられていなかったら?
祈祷師である場合、光の力が強いというのは、もはや才能なのかもしれない。
それは自分自身もそうだし、もともと光脈を使えなかった母もそうだ。
もし、努力をしたとしても、誰かを守るための力を与えられなかったら?
諦めたくはないのに才能がないと突きつけられたら?
その時はどうもがけばよいのか?
未来をどう生きていけばいいのか?
あの研究は、マリオン自体が祈祷師である事を最大限に生かし、力を得るためにはどうすればいいのかを模索した結論だったのだ、とマリオンは暗に言っていた。
「……前を見続けることが正しいとは限らない。綺麗ごとを言うだけが正義じゃない。人を守るためにはそれなりの犠牲が必要なのは承知の上。でも、力を得た騎士や精霊たちはこれから多くの人を守るでしょう。それはあの研究の成果よ。……けれど、あの研究は自分が推し進めていることであり、実験内容自体は称えられる事ではないかもしれない。だからもし罪を問われれば、私は背負う覚悟があるわ」
訥々とマリオンが語る。
「でもね、人にはそれぞれに考えがあり、想いがあり、生き方もあり、守り方もある。結局はただそれが違うだけなのよ。根本的なこの世界を守りたいという想いは他の騎士や祈祷師たちとは変わらないわ。……でも、あなたを実験台にしようとしたことは、謝るわ」
マリオンがサラへ視線を遣った。
少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべているが、「……それはもういい」とサラが首を振れば、マリオンは無表情になった。
「そう……。あなたは強いのね。エスティと同じね……」
再びマリオンは枯れてしまった薔薇へ視線を向ける。
暫く眺めていたが、マリオンはサラの方を見遣り、小さく笑った。
「あなたが騎士でいることは現王から聞いているわ。……元気でやりなさい」
そう言ってマリオンは宮殿内へ戻っていく。
その後姿を見ていたが、一体何が言いたかったのだろうか、とサラは首を捻って再び歩き出した。
✯✯✯
マリオンは中庭を通り過ぎてゆくサラの背を見つめていた。
そして思い起こすようにゆっくりと息をすう。
あの子はお転婆だった。
人一倍元気だった。
でも、何もかも上手にできなかったから、いつもお母様に怒られていた。
だから、私がしっかりしなきゃって思っていたわ。
私がしっかり光の力を使えるようになって、祈祷も浄化もできるようになって、出来ない彼女を私が守らなければ、そう思っていた。
だからよく一緒に行動して彼女の手を握っていた。
……とてもとても小さい手だった。
マリオンの横顔にふと影が落ちる。
でも、急に光の力が使えるようになって、私の手から離れてしまった。
誰よりも力が強くなって、色んなところへ一人で祈祷と浄化をしに行くようになった。
私の光の力は平均的で弱くはないけれどそれほど強くもなかった。
祈祷師は基本、複数人で各地へ赴く。
だから一人で行く彼女は複数人で行く私とは光の力の差は歴然だった。
私は一人ではスカルを浄化して元に戻すことが難しく、黙って人が殺されるのを見ているばかりで、誰も私の力では救えなかった。
どうすれば力を手にできるのだろうと悩んだ。
書物を読み漁ったり、各地へ率先して行った。
でも力は相変わらずで、答えは見つからなかった。
エスティレーナは自慢の妹であり、そして同時に彼女の光の力の強さに嫉妬していた。
でも。
大好きだった。
どうしようもないくらい大好きだった。
急にいなくなってしまったけれど。どこかへ行くのなら、何か一言でも言ってくれればよかったのに。
行く先も知っていれば、彼女を何らかの形で守れただろうに。
でも、彼女は強い。
だから、私の力など必要なかっただろう。
むしろ足手まといになったかもしれなかった。
それに、彼女は私にそこまで心を開いてくれていなかっただろうし。
彼女が消えたその後で、騎士の間から最近スカルが増えたと耳に挟んだ。
暗にお前たちの光の力が弱いからだと言われているようで、私は切に力を求めた。
そして、あの研究内容を閃いたのだ。
サラ、あなたは強いわ。
だから、まっすぐ前を見つめていけるのね。
私にとってすごく眩しい。
エスティレーナのように世界を駆け巡り、人々を救える。
それは私の望んでいた姿。そうなりたいと夢に描いた姿。
でも、手には入らない姿。
私は、失わないように、誰かを守れるほどの力が欲しい。
そして誰かに頼られる存在でいたい。
自分を見失わないように、壊れていかないように、必死にそう願うことしかできない。
マリオンは消えてしまったサラの後ろ姿から視線を逸らし、ゆっくりと歩き出した。
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