騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

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王都編

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 グライデンに直接意見しようと王の部屋へ行く途中で、地震のような揺れを感じたサラは身構えた。

 窓からいきなり侵入してきた植物が、宮殿中を覆いつくしてゆく。

 なんだ、これは。

 すると途端に黒い薔薇が咲き乱れ、そこから甘く何もかもを腐敗させる臭いを発している。

 宮殿中を闇に染め、王族を一網打尽にする作戦なのだろうか。

「アル!」

 サラは剣を手に、目の前の進路を塞ぐ植物を切り伏せてゆく。

 けれど切っても切っても増殖してゆくせいで、前に進めない。

 これは一体、どこから生えてきているんだ?

「これは根を叩かなければ意味がないだろう。根を探せ」

 突然背後に現れたグライデン。

 サラの前へ移動すると、ズン、と一振りして、剣から強烈な光を放つ。

 その放たれた光が植物を一瞬にして一掃した。

 塞がれていた通路が遠くの方まで開通している。

 それでも、切れたところからじわじわと増殖しているため、再び塞がれる前に移動したいところだ。

「然るべき行動をとれ」

 騎士として。

 王族として。

 そんな建前みたいなものは、この際どうでもいい。

 この世界を守るために、祈祷師を守れ、と。

 闇を叩け、と。

「言われなくても」

 サラは駆け出した。

 再び増殖してきた植物を目にもとまらぬ剣さばきで木っ端微塵に切り落とす。

 けれど行く手を阻もうとする植物の成長するスピードが段々速くなってくる。

 もしかして、根に近い場所に近づいているということなのかもしれない。

 サラは邪魔な植物を斬撃で切り落とし、行く手を塞がれる前に体を滑り込ませて先へ急ぐ。

 伸びてくる植物を辿って行きついた場所は、広い庭園だった。

 そこにはいつの間にか捉えられた祈祷師たちがうずくまっている。

 彼女たちを逃がさないように、蔓薔薇が檻を形成していた。

 その下から文字通り根を張るように蔓薔薇が這っている。

 どうやらその蔓が宮殿中を覆っていたらしい。

 その中にはアンジェリカの姿もあり、みな、ぐったりとしていた。

「アンジェリカ!」

「だめだよー?」

「近寄っちゃだめー!」

 音もなく目の前に現れた少女たちが、踊るようにしてサラに向かって剣を振り抜く。

「チッ」

 サラの首に刃が吸い込まれる直後、サラの腕が反射的に動き、剣がきらりと月明かりを反射した。

 鋭い音が響き、火花が飛び散る。

 少女たちは弾かれても体勢を整えて、追撃を打ち込んできた。

 同時に振り下ろされる剣をサラは迎え撃つ。

 ぶつかり合った点で時が止まったように三人の動きが止まった。

「あんたらも闇の使者か」

「私、レヴィアン」

「私、ヴィヴィアン」

 自己紹介がてら二人は力の限り押してきたが、サラは一気に弾き返す。

 かなりの力で飛ばされたレヴィアンとヴィヴィアンは、くるくると体勢を整えるように着地し、再び踏み込んできた。

 けれどサラは代わる代わる攻撃してくる少女たちをいとも簡単に弾き返す。

 ただ剣を振り下ろしているようで、攻撃が単純なのだ。

 本気で戦っているというよりも、遊んでいるようだ。

 攻撃自体も軽いし、楽しそうに笑っているのが何よりの証拠。

 時間稼ぎか。一体何の? 

 サラはちらりと祈祷師たちへ視線を滑らせる。

 もしかして、祈祷師をスカル化させるために時間が必要なのだろうか。

 だとしたら、早々に救うべきだが、こいつらが邪魔だ。

 いきなり真横から殺気が放たれて、意識が二人に戻る。

 サラはヴィヴィアンから横凪にされる剣を受け止め弾くが、背後から切り伏せようとするレヴィアンから閃く剣尖を避けきれず、腕を掻っ切ってしまった。ぴ、と鮮血が飛び散る。

「ねえ、質問ー!」

「敵ってだあれ?」

「は?」

 何わけのわからないことを言っているんだ、と眉間に皴を寄せた直後、地面から突如何かが複数出てきた。

 いや、正確にいえば蔓薔薇から出てきたのだ。

 いくつもの黒い物体が形を成してゆく。

 それは、サラとそっくりなクローン。

 これは、一体……?

「正解は」

「お前だー!」
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