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王都編

10(ウィンテール過去)

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 風の強い日だった。

 いつも窓を開けていたが、部屋の中にある温室の植物たちに強風が当たってはと思い、今日は締めていた。

 ガタガタと風が窓を揺らす。

 そう、我は窓が揺れているのは風のせいだと思っていたのだが。

 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!

 次第に激しくなる音に不思議に思った我は、窓へ近寄った。

 すると。

 窓の外に小さな女の子が鬼の形相で窓を激しく叩いていたのだ。

「だ、誰じゃ!?」

 窓を開け、その少女を部屋へ入れてやる。

「助かったー! 危うく死ぬところだったわ! ありがとう!」

 少女の頭は風のせいでぐしゃぐしゃ、服もどこを歩いたらそうなるのかと思うぐらいほつれていた。

 ちらりと見える足に傷があったが、本当にどんな生活をしているんだか。

 王族なのだろうが、これほどまで元気過ぎる少女を目にしたことがなかったウィンテールは少々呆けていた。

 すると、知らない間に少女の姿が消えている。

「どこへ行ったのじゃ?」

 探し回っていたらなんと、ウィンテールのいつも座っている椅子に腰かけてお菓子を貪っているではないか。

「こら! 何をしておるのじゃ! それは我のお菓子じゃ!」

「え? あなたのお菓子なの? これ、美味しいわね!」

「そうじゃろう! このお菓子は西都市から取り寄せてもらった――って、そんなことはどうでもいいのじゃ! そこから降りんかい! それに、お主は一体誰じゃ!」

「あ、ごめんなさい」

 しょぼん、としょげる少女に少々きつく言いすぎたかと思ったが、そんな心配はいらなかった。

 椅子から降りようとはせず、中央から少しズレてウィンテールが座れるぐらいの場所を空けた。

「この椅子大きいから二人で座われると思うわ。だったら私は降りる必要ないわよね?」

 なんだこの図々しい子どもは!

 けれど怒る気力もなく、疲れたウィンテールは横にちょこんと座った。

「……好きにすればいい」

「ありがとう!」

 笑えばかなり可愛らしい。

 それによく感謝をする子だと思った。

 礼儀というものはないが。

 むしゃむしゃお菓子を頬張る少女に、ウィンテールは「で、お主の名前は?」と問う。

「あ、私の名前はエスティレーナ! エスティって呼んで! あなたは?」

「我は光の神――ウィンテールじゃ」

「ウィンって呼ぶね! これから私たち友達ね! よろしくね、ウィン!」

「は、はあ……」

 それがエスティレーナとの出会いだった。

 彼女は毎日毎日窓からやってきて、小一時間たくさん話をして帰ってゆく。

 我はとてもその時間が楽しくて、とても好きだった。

 我はいつしか彼女が来るのを心待ちにしていた。

 でも、我は不意に思った。

 なぜ彼女はあの時窓から入ってきたのか。

 しかもボロボロになりながら。

 何かから逃げていたのだろうか。

 スカルか?

 でも外には騎士が巡回しているはずだし、王都は我が守っているため最もスカルからは安全な場所なのだ。

 では、一体何から。

 それに今でも時々ボロボロになった姿で元気に現れることがある。

 我は不思議に思っていたのだ。

 だから我は彼女に聞くことにした。

「のう、エスティ」

「何?」

「お主、なぜそんなにもボロボロなのじゃ? 髪の毛はボサボサじゃし、腕や足は傷だらけじゃ。……お主、何かから逃げているのか?」

 椅子に座ってお菓子を頬張る彼女の手が止まった。
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