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北都市編 後編

15(エリック視点)

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「私たちの場合は融合された人間はこの世にはいないの。私たちは、祈りを、希望を、輝く強い意志を、受けることができない。……だから、命が短い」

 フランが、ひび割れた天井を眺める。

「僕たち精霊は精石から生まれるんだよなー。でも、その精石の時は眠っていて、外の状況なんてわからないっしょ? もし、一つの精石が失われても、命の木があれば、その木が長い年月をかけて、再び精石を生み出すんすよね。同じ精霊が生まれることは稀だし、記憶を持っているやつなんてほとんどいない。でも、精霊はあるべき自分の姿を知っているんすよ」

「それを歪められた私たちは、どうすることもできないし、元に戻ることもできないの……」

 絶望的な黒い影を宿す彼らの瞳に、一層悲しみが宿る。

「でも、人間は繰り返す。また人間と精霊を掛け合わせて、短命で光の力の強い存在を生み出し続ける……。私たちは相当な光エネルギーを凝縮して、何度も打つことができるんだあ……。自分たちの命を削ってねえ」

 本当は、普通に生きたいのに。

 でもそれを望むことは許されていない。

 だから、どこかで生きることを諦めている。

 生に貪欲になったら自分たちがつらいだけ。

 定められた運命というのは残酷で。

 どうして自分の運命は自分で決められないのだろう。

 どうして、こんなにももがき苦しまなければならないのだろう。

 と、いつも、その疑問が頭を支配するのだ。

 でも、結局は考えても無駄なのだ。

 沈黙が研究所内に重くのしかかった。

 サラは小さく息を吐いた。

「なら、違う生き方を探せばいい」

 きっぱり言い放たれた言葉がやけに大きく響いた。

「え?」

「運命に身を委ねるだけじゃなく、足掻けばいいじゃないか。縛られている状況は確かに苦痛だろう。それに、今の生き方を教えられたのかもしれない。でも、一体自分の運命は誰が決めた? その道しかないと、誰が決めた?」

 サラに視線が集まる。

 人間の言葉なんかに耳を傾ける気はさらさらなかったのに。

 なぜか、聞いてしまう。

「生き方を決めるのは他人なんかじゃない。自分たちだろう」

 ずん、と胸の奥に重く響いた。

「不運を嘆くだけでは現状は改善されない。新しい命、短い命なら、今を精一杯生きればいいだろ。自分の思うように生きればいいじゃないか。誰かのせいにすることは楽かもしれないし、誰かの命令に従って生きるのも楽かもしれない。ただ、それは自分たちの意思を無視し、そして現状から逃げているだけだ。運命になんて、抵抗すればいい。選択肢を潰しているのはあんたら自分自身だろ」

「分かったような口聞くなよ……」

 エリックは拳を握った。

「自由になるために色んなことを試したさ。でも、無理だったんだよ!」

「……そうか、そうだな。あんたらの努力は否定なんてしない。でもな、諦めたらそこで終わりだ。今までやってきた全部の努力が無駄になるぞ」

「でも、じゃあどうしたらいいのぉ……? 自分の生き方ってどうやって決めたらいいのお……?」

 ケリーが恐る恐るというように尋ねるも、サラは「何を言っているんだ?」という感じで言い放つ。

「知らない。それは自分で考えろ」

「教えてくれないんかい!」

 フランがブフッと吹き出した。

「それに、いいことに、今ここには私以外誰もいない」

「ん? それってどういう意味なのお?」

「監視している奴はいないってことだ。自由に生きたらいいだろう? あんたらの人生はあんたらのモノだろ」

「……」

 エリックは目を閉じた。

 今まで、命令ばかりで、自分たちの意思は尊重されなかった。

 生きていても、死んでいるのと同じだった。

 着々と死を待つだけの、ただの存在。

 でも。

「自分で考えろ、か」

 ふ、と笑みがこぼれる。

 過去、エクサイトの卵として多くの精霊が犠牲になった。

 それを目の当たりにしながら。

 自分たち四人はそれぞれ手を握って、離れ離れにならないように、生きると誓った。

 そうだ。

 今度は自分たちのために、生きよう。

 これ以上、誰かのせいで運命を定められないように。

 自分たちで、運命を切り開くのだ。

 目を開けたエリックには、先ほどとは違う景色が見えていた。
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