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北都市編 前編
16
しおりを挟むサラたちの戦闘が終わった頃、ようやく救護班が到着した。
リリナやザグジー、そして負傷した騎士たちはメルボスティの病院に運ばれた。
現場の安全を確認後、祈祷師も到着し、命の木の浄化作業が始まった。
ウィルソンは一人、メルボスティの病院の中庭にあるベンチに腰かけていた。ぼんやりと空を見上げる彼は心ここにあらずだ。
「なあ」
鋭い声に、ウィルソンはびくりと体を震わせ、ゆっくりと声のする方へ顔を向けた。その人物を目に留めて、困ったように、そして申し訳なさそうに、笑った。
「サラちゃん……」
サラはどかりとウィルソンの隣に腰かけた。
「なあ……」
「……何?」
「……命の木で、あんたはおかしかった。あれは……一体何なんだ? それにアルが、あんたの体の中にもう一体精霊がいると言ったが、それは本当なのか?」
驚くように目を見開いたウィルソンはサラの問いかけから逃げるように視線を落した。
沈黙して数十秒。何かを言いかけては躊躇って口を閉じることを繰り返している。
そんな陰っている横顔から、サラは視線を空へ向けた。
憎いほど穏やかに進む雲が目に留まる。
サラは小さく息を吐いた。
サラが問うた内容は彼自身に関係することだ。
答えたくないということは、恐らく誰にも言いたくないことなのだろう。
それは誰しもあることで、別にウィルソンを糾弾したいわけじゃなかった。
「……ごめん」
ウィルソンが紡いだ言葉はそれだけだった。
それ以外、彼は何も語らないかのように、きゅ、と口を一文字に結んでいる。ウィルソンが言わなければ、サラは知る術がない。
サラは諦めたようにはあ、と深いため息をついて、席を立った。
「私はあんたの体に何が起きているのか知らない。だから、また次にあの状態になってしまった時、私はあんたをどうすることもできない。他のみんなだってそうだ。今回は元に戻ったが、次もきちんと元に戻るのかはわからない」
「……」
ウィルソンは何も答えない。だが、サラは続けた。
「誰しも言いたくないことはあるだろうが……少しは周りを頼ってもいいんじゃないのか。まあ、頼ったとしても現状はどうすることもできないだろうけどな」
はっとウィルソンが顔を上げた。
「ありがとう……」
弱った笑みを浮かべるウィルソンは少しだけ、泣きそうだった。
「いや、別に」
そう答えて、サラは自分自身を見つめた。
そうだ。
私も人を頼ってこなかった。
けれど、反対の立場になれば、それが水臭いと感じてしまうのだ。
ウィルソンに過去、「仲間を頼れ」と言われたが、彼もその時そう思ったのかもしれない。
自分は今までそんなことまで考えが及ばなかったし、他人のことなど正直どうでもよかった。だから他人を――仲間を知ろうともしなかったのだ。
自分で気が付いて、つい笑ってしまいそうだ。
いつの間に、こんなにも他人に干渉するようになったのだろうか、と。
たくさんの人と関わるごとに変化してゆく自分自身に本当に驚く。
「……でも、サラちゃんがそれを言う日が来るとは思わなかったな」
「うるさい」
サラはおかしくなって笑った。
まあ、いい。自分から話してくれるまで、こちらは待つしかないのだから。
サラはゆっくり歩きだした。ウィルソンが小さく微笑んでいることを、サラは知らない。
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