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故郷編
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しおりを挟む祈祷祭は無事に再開された。
日が落ちて、街中が蝋燭の淡い光で満たされる中。
サラは一人、二本の蝋燭を持って、壊れた家の前に立っていた。
「なんじゃ。こんなところにおったのか」
「ああ……エスティか」
「お主、何を願うんじゃ?」
「教えない」
「何じゃと!? 見せてみよ!」
「嫌だ。エスティが見せろ」
「嫌じゃ! こら! やめんか! って……うおっ!?」
サラとエスティがお互いにお互いの蝋燭を取り合おうとしていたら、エスティが石に躓いて、サラにごん、とぶつかった。
二人とももつれるようにして地面に倒れ込む。
「痛い……」
「ぶははははは!」
「……おい、何をそんなにも笑っているんだ」
エスティは一人腹を抱えて笑っている。
特に何も面白いことなど起きていないのに、笑いこけている。
おかしいんじゃないのか、コイツ。
いや、待てよ。
そういえば、会った時からおかしかった。
「いや……楽しいのお」
「はあ?」
ひとりしきり笑ったエスティが、ごろんとサラの横に仰向けに並んだ。
「何もかもが、我にとっては新鮮で面白いのじゃ」
「はあ……」
「まあ、よくわからなくてよい!……ところで、その蝋燭はなんか古いのお…」
「ああ…そこで見つけたんだ」
「どういう意味じゃ??」
「過去に無くした蝋燭が家の庭に落ちていたんだ。それを見つけた」
「ふーん。そうか……。見つかってよかったの。よし、サラよ、蝋燭流しをするぞ!」
「そうだな」
サラは蝋燭をきゅ、と握って起き上がる。
祈祷祭では夜になったら、願いを彫った蝋燭に明かりを灯し川に流す。
願いが星となり、それが人々を照らす希望となるように、と思いを込めて。
サラは家の横を流れる川を沿って少しだけ下流に降りて行く。
街へ繋がる川には。
数多の蝋燭が川を流れていた。
その様子は、まるで川が星空になったかのようだった。
サラも、自身の蝋燭がその一つになるように。
先ほど買ったガラス細工に入れてそっと流した。
それは、八年前、サラがあのときに願うはずだった『願い』。
『みんながえがおでいられますように――サラ』
そして、もう一つは。
『みんなが幸せでいられますように――ルナ』
姉さんが、あの時に願うはずだった『願い』。
無かったことにはさせない。
この願いを希望に。
そして、現実に。
絶対にするのだ。
どうか、この光が、みんなの希望となりますように。
どうか、姉さんを助けられますように。
どうか、誰一人として哀しい思いをしなくて済みますように。
どうか、この世界が光に包まれますように。
どうか、みんなが笑顔になれますように。
――姉さん。
サラは拳を握る。
今、北が狙われている。
狙っているのは、闇の使者だろう。
グラヴァンは曖昧な事しか言わなかった。
奴らから、何か引き出せれば。
何か真相がつかめるかもしれない。
それに、北は最先端の研究機関がある。
そこで求める情報が手に入るかもしれない。
「北、か」
私は、じっと流れゆく淡い光を眺めていた。
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