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故郷編
7(敵視点あり)
しおりを挟む「ああ……思い出すなあ。あの時もちょうどこんな浮ついた祭りの最中だったよね」
はああ、と深いため息をついて、ちらりと横目で見遣る。
祈祷師である少女――マリアと、彼女を守るようにして抱きしめる少年――カイ。
二人が小さくなって身を寄せ合っていた。
「祈祷師だっけ? 餌はその女だけでよかったのに……邪魔者が付いてきちゃったね」
どうしようかな、と嗜虐的に笑う。
「この子には……ふ、触れさせない……!」
カイは恐怖を押し殺すように、彼女の体を力強く抱きしめる。
恐怖を少しでも和らげられるように。
その姿を見てグラヴァンは「ふーん」と目を細める。
「かっこいいねえ。でも、声が震えているよ? 虚勢を張っている感じが、いいねえ。すごくいい。ふふふふ……」
「でも」と急に言葉の温度が下がる。
人質である二人は、カタカタ震えだした。
「そうやって身を寄せ合うんだよね。人間って……。恐怖は分かち合うことなんて出来ないのにね」
グラヴァンはゆっくりと近づく。
その手には漆黒の剣を握って。
「や、やめろ……!」
「片方を目の前で苦しめたら、最高にいい悲鳴を聞けるだろうねえ。くふふ……」
君たちは餌だ。
『彼女』をおびき寄せるための。
『彼女』がこの街にいることは知っている。
祈祷師はこの世界に大切な存在なんだろう?
だったら、来る。
他人を見捨てることもできないもんねえ。
でも、『彼女』がなかなかここへ来なかったら、私もお腹が減るよね。
少しなら、味見してもいいよね。
ふふふ。
「さあ、どうしようかな……?」
怯える人間に一歩づつ近寄る。
じっくりと、私を楽しませておくれ――……。
✯✯✯
賑やかな祭りを背後に、二人は森へ。
サラは何度も通ったことのある、なじみ深い道を駆けた。
道とは言えないだろう獣道だったが、足を取られることもなく、二人とも猛スピードで駆けてゆく。
「ねえ、聞いてもいいかな」
「……何だ」
「……君は、王族に対して敬語は使わないタイプの人間なんだね」
「……」
指摘されたサラは、口を噤む。
王族に対して敬意を払うのは当たり前だが、サラはそんな態度をとらない。
不敬罪で問われてもしかたないかもしれないが、誰に対しても自分を貫くというのがポリシーである。
正直に言うと、関わりたくないし、恭しい態度を取るなど、面倒くさいだけなのだが。
サラが黙っていれば、シリウスが「君は面白い人間だよね」と小さく笑った。
「どうも」
その後はお互い無言のまま進んでいく。
もう少しで目的地へ着くという時、シリウスの足が止まった。
「……君はこの先にある場所を知っているのかい?」
いったい何を言っているのだろうか。
真意がよく分からないし、今立ち止まって話をしている場合じゃない。
早く行かなければカイと祈祷師が殺されるかもしれない。
自分とのその場所との関係をあまり知られたくはなかったが、サラは仕方なく答えた。
「知っている。私の家だ」
すると衝撃を受けたような表情を浮かべたシリウスは、消え入りそうな声で「もしかして」と呟く。
「君は……ルナの妹なのか?」
「は?」
サラも驚きが隠せなかった。
どうして、王族であるこの人物が、姉の名を知っているのだろうか。
姉とはどんな関りがあったのだろうか。
「……そうだが、なぜ、王族であるあんたが、姉を知っているんだ?」
「……知り合い、なんだ」
「知り合い? 聞いたことないぞ?」
「あー……君たちとは……随分昔に会ったことがある程度なんだ。君は覚えていないかもしれないけれどね」
シリウスの言う通り、サラは全く覚えていなかった。
そもそもサラたちはあの家から街へ行くぐらいしか外出をしていない。
他の都市へ行くなどしたことがないのに。
こいつ、一体どこで姉さんと会ったんだ?
「彼女とは……」
何かを押し殺すように目を伏せたシリウスの表情が、不意に作り笑顔になり替わる。
「この話はやめよう。早くマリアと少年を助けに行かないとね」
そう言って話を切ったシリウスは再び地を駆けた。
なんなんだ、一体。
今日は母の名と同じ人物に出会うし、姉を知っている人物にも会うなんて。
それに、あの王族は、姉の何を知っているんだ?
考えを巡らせていれば、サラははっと、何かに気が付く。
姉さんは、何かを知っていた?
もしかして、私に隠していることがある?
そういえば、姉さんがスカルに襲われる直前に私に何かを伝えようとしていた?
一体、何を伝えようとしていたんだ?
いや、だめだ。
今は考えるな。
サラは頭を振る。
カイと祈祷師の少女を助けるのが先だ。
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