騎士ですが正直任務は放棄したいです

ななこ

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中央都市編

7(リリナ視点)

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 ああ、どうして。

 こんな時にあんな嫌な思い出を思い出さないといけないの。

 走馬灯のように駆け巡った嫌な思い出に、リリナは顔をしかめた。

 あの時、最後の最後に、力を振り絞ったスカルがなりふり構わず斬撃を打ってきた。

 まだ息があると気が付いていたのはアイリスだけだったのだ。

 私は、そんなことにも気づけなくて、倒せたことに満足していた。

 だから反応が遅れて、彼女が死んで、他のメンバーも深手を負った。

 スカルはその後消失し、私たちの心に深い傷を残して、試験は終わったのだ。

 思い出が、刃物のように私の心に突き刺さる。

 吐きそうだった。

「私は……」

 私は……自分の力に慢心していた。

 自分の欲のために、みんなを巻き込み、アイリスを犠牲にしてしまった。

 私は、誰かを守るために戦っていたわけじゃない。

 自分の欲のために戦っていた。

 優等生のふりをして、常に一番を取るために、ずっと戦っていたんだ。

 彼女は、きっと私のそんなところが嫌いだったのだろう。

 嫌いな私を庇った彼女こそが、騎士だった。

 目を背け続けて来た過去。

 ああ。

 今、やっとわかった。

 私は、いつも正しい選択をしていたと思っていた。

 でも、それは正しいと思い込んでいた選択だったのだ。

「ゴホッ……ゴホッ……」

 斬られた痛みで、うまく息ができない。

 視界がぼんやりとしていたが、なんとか焦点をスカルの方へ合わせた。

 一人の騎士が目の前で凄まじい速さでスカルに斬り込んでゆくのが見えた。

 気迫と攻撃に押され気味のスカルは、なすすべなく防戦一方だ。

 サラ先輩……。

 先輩、私は……どうしたら……いいんですか?

 私は、スカルと、どう戦えばいいんですか。

 どう戦えば、正解なんですか……?

 わかりません……。

 教えてください……。

 どうして、そんなにも強いんですか。

 どうして私は、こんなにも惨めなんですか。

 何度も何度も自問自答してきた問いが、頭の中でぐるぐる回る。

 じんわりと視界が滲んできた。

 サラとスカルの攻防は熾烈だった。

 隙を突いたサラが脇へ刺突。

 そのまま剣を思いっきり横へ動かし胴を断裂してゆく。

 途中で剣を掴んだスカルに、サラは強烈な蹴りを腹へ入れ、後方へ吹っ飛ばした。

 ゴオオン、と衝撃音と共にスカルを中心に円環状に建物の壁がへこんだ。

 スカルが動かなかくなったのを確認し、サラは急いでこちらへ駆けて来た。

「おい! 大丈夫か!? というかあんたは一体何をやっているんだ! あのまま剣を私の手に剣を戻そうとしていたんだぞ!? そもそもあの状態で庇う必要なんてないだろ! 死にたいのか!?」

 ものすごい剣幕で怒鳴られて、リリナは痛みを忘れて呆気に取られていた。

「え……あ」

「まあ、いい。傷を見せろ。応急処置をする」

 うつぶせに倒れていたリリナをサラはゆっくりと仰向けにし、傷の程度を確認し始めた。

 リリナはそれほど自分が深手を負っているとは思えなかった。

 前身を斬られてはいるが、血の出血量からしてそれほど傷は深くないと思ったのだ。

 サラが団服を脱いで自身の剣で切り、止血するように巻く。

「せ、先輩……先輩も肩から血が……それに、団服が……」

「私の傷の心配よりも自分の傷の心配をしろ。それに、団服ぐらい後でまた支給してもらうからいい。おい、猫。ちゃんとそばにいてやれよ」

「わ、分かってるよ!」

 ラルクが猫の姿に戻る。

 サラにぴしゃりと言われ、ぶるぶると体を震わせていた。

 よほどサラが怖いのだろうか。

 怖くないよ。むしろ優しいのに。

 リリナはそっと頭を撫でた。

 すると安堵したように、リリナにそっと寄り添う。

 精霊がそばに寄り添ってくれていると、自身の治癒能力が上がる。すぐにすぐとは言わないが、なるべく早く血が止まればいい。

「ごめんね……」

「謝るなよリリナ……。早く傷を治そうぜ……?」

「うん……ありがとう」

 サラの応急処置は手際が良く、すぐに済んだ。

 慣れているのだろう。きっと傷を負った騎士にこうやって応急処置をしてきたのかもしれない。

 リリナは、応急処置を終えたサラへ視線を向けた。

 サラの全身からは緊張感が漂っているのに気が付いた。

 きっと建物に埋まったスカルがまだ絶命していないのかもしれない。

 それに他のスカルの気配も感じながら、リリナの処置に当たってくれているのだろう。

 誰かを守りながら、戦う。

 そんな姿に尊敬の念を抱く。

 この人……すごい……。

 それに比べて私は……先輩たちの手を煩わせてばかり。

 一番を取るために頑張ってきたけど。

 やっぱり、私は、出来ない子なんだ……。

 再び視界がじんわりと歪む。

 気づかれないようにサラから視線を外した。

 すると、小さなため息とともに言葉が降ってきた。

「あんた……どうしてあんな行動に出たんだ? 私を守ろうとしてくれたのは……まあ、感謝するが」

 あんな行動普通取らないだろ、と呆れている。

「私は……」

 どうしてだろう。

 どうして、サラ先輩を庇うような行為をしたのだろう。

 その答えは、明白だった。
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